新日本建設に関する詔書は、第二次世界大戦終結の翌年の元日に渙発された詔書である。前年の降伏により意気消沈の日本国民に向けた年始のメッセージで、日本民主主義の起点である明治五箇条の御誓文を示し、これに基づいて「新日本の建設」という大業を共に成し遂げようと奮起を促す内容となっている。
名称
渙発当初の名称は新年ニ當リ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス國民ハ朕ト心ヲ一ニシテ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ(官報目録)または新年ヲ迎フルニ際シ明治天皇ノ五箇條ノ御誓文ノ御趣旨ニ則リ官民擧ゲテ平和主義ニ徹シ、新日本ノ建設方(法令全書)である。略称としては
- 新日本建設に関する詔書(国立公文書館[1] )
- 新日本建設の大詔(中部日本新聞 1946[2] )
- 年頭、国運振興の詔書(朝日新聞 1946[3])
- 終戦翌年頭ニ於ケル詔書(文部省 1981[4] )
等がある。昭和天皇自ら現御神であることを否定したと解釈される一文(「天皇ヲ以テ現御神トシ…トノ架空ナル觀念」)を人間宣言[5]と呼称し、あるいは詔書自体の通称としても流用する報道機関や書籍もある。
現御神ではない=人間宣言?
後掲原文を読めばわかるが、本詔勅では、現御神であることを否定したのであって、神の末裔(神裔)であることを否定したわけではない。「現御神」とは神々の一種であって、旧来天皇は神々の恩恵を受け継いで日本に豊穣をもたらす神裔(アマテラスの血統)であり、神そのものを兼ねてはいなかった。これが戦前昭和の『国体の本義』(文部省)などにより、天皇も神であると解釈されるようになっていた。そこに本詔書が渙発され、天皇は神ではなくなり、ただの神裔に戻ったのである。天皇は引き続き神裔の位置付けであり続けている。[6] [7]
原文[8]
ここに新年を迎う。顧みれば明治天皇明治の初国是として五箇条の御誓文を下したまえり。いわく、
- 一、広く会議を興し万機公論に決すべし
- 一、上下心を一にしてさかんに経綸を行うべし
- 一、官武一途庶民に至るまで各その志を遂げ人心をしてあぐまざらしめんことを要す
- 一、旧来の陋習を破り天地の公道にもとづくべし
- 一、知識を世界に求め大いに皇基を振起すべし
叡旨公明正大、また何をか加えん。朕はここに誓を新にして国運を開かんと欲す。すべからくこの御趣旨にのっとり、旧来の陋習を去り、民意を暢達し、官民拳げて平和主義に徹し、教養豊かに文化を築き、もって民生の向上を図り、新日本を建設すべし。
大小都市のこうむりたる戦禍、罹災者の難苦、産業の停頓、食糧の不足、失業者増加の趨勢等は真に心を痛ましむるものあり。しかりといえども、我国民が現在の試煉に直面し、かつ徹頭徹尾文明を平和に求むるの決意固く、よくその結束を全うせば、独り我国のみならず全人類のために、輝かしき前途の展開せらるることを疑わず。
夫れ家を愛する心と国を愛する心とは我国において特に熱烈なるを見る。今や実にこの心を拡充し、人類愛の完成に向い、献身的努力を効すべきのときなり。
おもうに長きにわたれる戦争の敗北に終りたる結果、我国民はややもすれば焦躁に流れ、失意の淵に沈淪せんとするの傾きあり。詭激の風漸く長じて道義の念すこぶる衰え、ために思想混乱の兆あるはまことに深憂に堪えず。
しかれども朕はなんじら国民と共にあり、常に利害を同じうし休戚を分たんと欲す。朕となんじら国民との間の紐帯は、終始相互の信頼と敬愛とによりて結ばれ、単なる神話と伝説とによりて生ぜるものにあらず。天皇をもって現御神(あきつみかみ)とし、かつ日本国民をもって他の民族に優越せる民族にして、ひいて世界を支配すべき運命を有すとの架空なる観念にもとづくものにもあらず。 朕の政府は国民の試煉と苦難とを緩和せんがため、あらゆる施策と経営とに万全の方途を講ずべし。同時に朕は我国民が時難に決起し、当面の困苦克服のために、また産業および文運振興のために勇往せんことを希念す。我国民がその公民生活において団結し、相倚り相たすけ、寛容相許すの気風を作興するにおいては、能く我至高の伝統に恥ぢざる真価を発揮するに至らん。かくの如きは実に我国民が人類の福祉と向上とのため、絶大なる貢献をなすゆえんなるを疑わざるなり。
一年の計は年頭にあり、朕は朕の信頼する国民が朕とその心を一にして、自ら奮い自ら励まし、もってこの大業を成就せんことをこいねがう。
御名御璽
- 内閣総理大臣兼第一復員大臣第二復員大臣 男爵 幣原喜重郞
- 司法大臣 岩田宙造
- 農林大臣 松村謙三
- 文部大臣 前田多門
- 外務大臣 吉田茂
- 内務大臣 堀切善次郞
- 国務大臣 松本烝治
- 厚生大臣 芦田均
- 国務大臣 次田大三郞
- 大蔵大臣 子爵 澁澤敬三
- 運輸大臣 田中武雄
- 商工大臣 小笠原三九郞
- 国務大臣 小林一三
関連項目
- 国体の本義
脚注
- *アジア歴史資料センター. 御署名原本・昭和二十一年・詔書一月一日・新日本建設ニ関スル詔書. 国立公文書館, A04017784700.
- *新日本建設の大詔渙発 五箇条の精神で奮起 君民の紐帯は相互信頼. 中部日本新聞, 1946-01-01.
- *年頭、国運振興の詔書煥発 平和に徹し民生向上 思想の混乱を御軫念. 朝日新聞, 1946-01-01.
- *文部省学制百年史編集委員会. 一 詔書・勅語・教育法規等 - 詔書・勅語 - 終戦翌年頭ニ於ケル詔書(昭和二十一年一月一日). 学制百年史 資料編. 帝国地方行政学会, 1981-09-05.
- *毎日新聞記者 藤樫準二. 陛下の"人間"宣言 : 旋風裡の天皇を描く. 同和書房, 1946-09-10, JP番号 46005871.
- *木下道雄. 側近日誌. 文芸春秋, 1990-06. ISBN 4163442103.
- *木下道雄. 新編宮中見聞録 : 昭和天皇にお仕えして. 日本教文社, 1998-01. ISBN 4531063112.
- *旧字旧仮名は新字新仮名、難読漢字は仮名とした(意味が通じなくなるものを除く)。詔書原文はアジア歴史資料センターのサイトにて画像で見ることができる。
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