新書(しんしょ)とは、新書判(文庫を縦に長くしたサイズ)で刊行されるノンフィクション・教養書のこと。
勘違いしている人が結構いるが、新刊書籍の略称ではない。
概要
様々な専門分野の入門書や、社会的なトピックに関する解説書、知的啓蒙書、実用的なハウツー本、著名人のエッセイや対談本などが中心の大衆向けノンフィクション・教養書籍である。
値段はだいたい(2024年現在は)1000円前後~1400円程度で、文庫よりちょっと高く単行本より安いという価格帯。厚さは200ページ弱から、厚くても300ページ台が基本(たまにもっと分厚いのもある)。表紙や背表紙のデザインはレーベルごとにほぼ固定された「背景色と文字だけ」のようなシンプルなものが多い。それを補うためか、著者の写真などを配した大型の帯がつくことも多々ある。
専門的な学術分野を扱ったものから、社会問題、雑学、生活の知恵から大衆娯楽・サブカルチャーまで、ありとあらゆる分野を扱う。大手・中堅の比較的手広く本を出している出版社の多くが新書レーベルを持っており、大量の新書が毎月出ている。レーベルごとにカラーの違いがあり、比較的堅い本が多めのところ(岩波新書や中公新書)から、ライトな読み物が中心のレーベル、実用書メインのレーベルや、特定のジャンルに特化したレーベルまでいろいろ。書き下ろしが多いが、新聞・雑誌連載の書籍化や、大学やカルチャーセンターでの講義の書籍化なんてのもある。
あくまで大衆向け書籍であるため、学術系の本も一般読者に向けて平易な入門書として書かれている。そのため、大学の教養課程などでは教科書として使われることも多い。ある専門分野に興味があるけどどの本を読んだらいいかわからないというときは、その分野の入門書・概説書的な新書を一冊買ってきて、そこに参考文献として挙げられている専門書を図書館であたるという方法が有効である。ただ、トンデモ系の学者や、知名度はあるがその分野の学会からは無視されているような著名人の書いたおかしな本も普通にあるので注意。とりあえず岩波新書か中公新書にしておけば変な本に当たる危険性は比較的低い。
2008年から、中央公論新社が1年間に刊行された新書の中から有識者・書店員・編集者などの投票でランキングをつける「新書大賞」を行っている。
なお、同じサイズで刊行されるフィクション(小説)は「ノベルス」と呼ばれ、新書とは明確に区別される(昔は新書レーベルから小説が出ることもあったが、現在はほぼない)。「ノベルス」の記事を参照。
歴史
1939年、岩波書店がイギリスのペリカン・ブックスを参考にして、古典の名作名著の収録が基本だった岩波文庫とは別に、書き下ろしの知識人向け教養書として岩波新書を創刊したがその歴史の始まり。
戦後、1954年に『チャタレイ夫人の恋人』の猥褻裁判で時の人になっていた伊藤整の『女性に関する十二章』(中央公論社)がベストセラーになったのをきっかけに、第一次新書ブームが起こる。
1960年代に入ると中公新書(中央公論社)や講談社現代新書・ブルーバックス(ともに講談社)など現在まで刊行が続く新書レーベルが次々と創刊され、第二次新書ブームが到来。比較的堅めの本を出していた岩波・中公・講談社現代の3レーベルは「教養新書御三家」といわれた。また、光文社がより大衆向けの教養書を出すレーベルとして1954年に創刊したカッパ・ブックスは、60年代に岩田一男『英語に強くなる本』や多湖輝『頭の体操』シリーズなど100万部のミリオンセラーを連発し、新書ブームを牽引した。
1970年代から80年代にかけては、塩月弥栄子『冠婚葬祭入門』(カッパ・ホームス)、五島勉『ノストラダムスの大予言』(ノン・ブック)、江本孟紀『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(KKベストセラーズ)など、実用書やオカルト系、暴露本などがベストセラーになる。教養系では渡部昇一『知的生活の方法』(講談社現代新書)などがヒットした。しかし80年代には文庫ブームに押されて影が薄くなる。
90年代に入ると、野口悠紀雄『「超」整理法』(中公新書)が大ヒット。また、永六輔『大往生』(岩波新書)、大野晋『日本語練習帳』(岩波新書)など、従来の堅めの教養新書から出た軽めの本のベストセラーが相次ぐ。1998年に文春新書(文藝春秋)が創刊されると「ライトな教養読み物」が新書の中心となる流れは決定的なものになり、集英社新書、宝島社新書、光文社新書などが続々と創刊。第三次新書ブームが到来する。
しかし第三次新書ブームは粗製濫造のアタリショック状態になり、勢いはすぐにしぼむ……かと思われたところに、2003年、新潮社が新潮新書を創刊。そこから養老孟司『バカの壁』という怪物が登場、400万部という記録的大ベストセラーになってしぼみかけた新書ブームは再燃。その後も新潮新書は藤原正彦『国家の品格』、竹内一郎『人は見た目が9割』などタイトルの巧さで大ベストセラーを連発。他社でも樋口裕一『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)や山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)など、思わず手に取りたくなるタイトルが2000年代の新書ブームのトレンドとなった。
2010年代に入ってからは、格差社会や韓国・中国問題など、社会的・時事的なトピックに関する本がベストセラーになることが多い。
主な新書レーベル(2024年現在、現役のもの)
- 岩波新書(岩波書店) - 1938年創刊。新書の元祖。
- 中公新書(中央公論新社) - 1962年創刊。岩波と並ぶ教養新書の雄。
- ブルーバックス(講談社) - 1963年創刊。自然科学専門の新書。
- 青春新書PLAY BOOKS(青春出版社) - 1963年創刊。元々は「青春新書」の派生レーベル。
- 講談社現代新書(講談社) - 1964年創刊。岩波・中公とともに御三家と呼ばれた。
- 岩波ジュニア新書(岩波書店) - 1979年創刊。10代読者を対象にした入門書新書。
- ちくま新書(筑摩書房) - 1994年創刊。
- PHP新書(PHP研究所) - 1996年創刊。
- KAWADE夢新書(河出書房新社) - 1996年創刊。
- 文春新書(文藝春秋) - 1998年創刊。
- 集英社新書(集英社) - 1999年創刊。
- 平凡社新書(平凡社) - 1999年創刊。
- 宝島社新書(宝島社) - 1999年創刊。
- 講談社+α新書(講談社) - 2000年創刊。
- 光文社新書(光文社) - 2001年創刊。カッパ・ブックス(2005年終了)とは完全に別レーベル扱い。
- 中公新書ラクレ(中央公論新社) - 2001年創刊。中公新書より軽めの本を出す。
- NHK出版新書(NHK出版) - 2001年創刊。旧名「生活人新書」。
- 青春新書INTELLIGENCE(青春出版社) - 2001年創刊。
- ベスト新書(ベストセラーズ) - 2001年創刊。
- 新潮新書(新潮社) - 2003年創刊。大ベストセラーの仕掛け人。
- 祥伝社新書(祥伝社) - 2005年創刊。1970年-2004年に刊行されていた「ノン・ブック」が前身。
- ちくまプリマー新書(筑摩書房) - 2005年創刊。ヤングアダルト向け新書。
- ロング新書(ロングセラーズ) - 2005年創刊。
- 朝日新書(朝日新聞出版) - 2006年創刊。
- SB新書(SBクリエイティブ) - 2006年創刊。旧名「ソフトバンク新書」。
- 幻冬舎新書(幻冬舎) - 2006年創刊。
- PHPビジネス新書(PHP研究所) - 2006年創刊。ビジネス本専門新書。
- マイナビ新書(マイナビ出版) - 2006年創刊。旧名「MYCOM新書」「マイコミ新書」。
- 扶桑社新書(扶桑社) - 2007年創刊。
- じっぴコンパクト新書(実業之日本社) - 2007年創刊。
- 小学館新書(小学館) - 2008年創刊。旧名「小学館101新書」。
- 日経プレミアシリーズ(日本経済新聞出版社) - 2008年創刊。
- ワニブックスPLUS新書(ワニブックス) - 2009年創刊。
- 幻冬舎ルネッサンス新書(幻冬舎ルネッサンス新社) - 2009年創刊。自費出版系。
- 交通新聞社新書(交通新聞社) - 2009年創刊。鉄道・航空・バスなど交通関連書籍専門の新書。
- 星海社新書(星海社) - 2011年創刊。
- ポプラ新書(ポプラ社) - 2013年創刊。
- ヤマケイ新書(山と渓谷社) - 2014年創刊。登山・アウトドア関連専門の新書。
- 角川新書(角川書店) - 2015年創刊。角川oneテーマ21、アスキー新書などを統合したレーベル。
- インターナショナル新書(集英社インターナショナル) - 2017年創刊。
- 河出新書(河出書房新社) - 2018年創刊。
- 早稲田新書(早稲田大学出版部) - 2020年創刊。
- ニュートン新書(ニュートンプレス) - 2021年創刊。科学専門新書。普通の新書よりだいぶお高い。
- リベラル新書(リベラル社) - 2022年創刊。
- ハヤカワ新書(早川書房) - 2023年創刊。
- ニュートン超図解新書(ニュートンプレス) - 2023年創刊。同名シリーズの新書再刊レーベル。
- Hanada新書(飛鳥新社) - 2024年創刊。
大百科に記事のある新書
- ノストラダムスの大予言―迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日(五島勉、ノン・ブック、1984年)
- とてつもない日本(新潮新書)(麻生太郎、新潮新書、2007年)
- 最高学府はバカだらけ―全入時代の大学「崖っぷち」事情(石渡嶺司、光文社新書、2007年)
- 坂本龍馬(岩波新書)(松浦玲、岩波新書、2008年)
- 機関車トーマスと英国鉄道遺産(秋山岳志、集英社新書、2010年)
- 日本はなぜ世界で一番人気があるのか(竹田恒泰、PHP新書、2010年)
- 声優魂(書籍)(大塚明夫、星海社新書、2015年)
- 大放言(百田尚樹、新潮新書、2015年)
- バッタを倒しにアフリカへ(前野ウルド浩太郎、光文社新書、2017年)
- 逃げる力(百田尚樹、PHP新書、2018年)
関連リンク
関連項目
- 書籍 / 文庫
- 教養
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