新自由主義とは、思想・信条の一類型である。国家意識の無い国際主義思想。一部の人たちが富を独占するのが特徴。再配分とは対極にある[1]。
概要
政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方。規制や過度な社会保障・福祉・富の再分配は政府の肥大化をまねき、企業や個人の自由な経済活動を妨げると批判。市場での自由競争により、富が増大し、社会全体に行き渡るとする。資本主義下の自由競争秩序を重んじる。時代によって、呼称が変遷することもあり、ネオリベラリズムと呼ばれることもある。
日本ではリフレ派の経済政策を新自由主義とカテゴライズする人もいる。
歴史的背景
第二次世界大戦後、先進国で目指されたのは、二度の世界大戦とその間に起きた大恐慌を再び繰り返さないようにするべく、国際的国内的な政治的平和と経済的安定化を確保するような秩序の構築だった。この秩序を可能にする政治経済体制として多くの国々に合意されたものを、国際政治学者のジョン・ラギーは「埋め込まれた自由主義」と定義した。すなわち、市場を自由放任にすると不況や失業が生じるので、「調整的、緩衝的、規制的な諸制度の中に」これを「埋め込む」。つまり、国際的には「自由貿易体制によって国際経済の開放性を高め」つつ、他方で、国内的には「政府が国際競争に脆弱な国内の社会集団を保護する」福祉国家的政策を勧めた。ケインズ主義はこれに含まれる。
この「埋め込まれた自由主義」は、戦後の先進諸国の経済成長があった間はうまく機能してきたが、1960年代末頃から機能しなくなった。国際経済的には世界的規模のスタグフレーション、各国の国内経済的には、財政危機が起き、1971年にブレトン・ウッズ体制の崩壊、1973年にオイルショックが起きたことが原因としてある。
こうした深刻な危機に直面する中でいくつかの対案が出されたが、結局、国家によるコントロールをより徹底させるべきだとする陣営と、市場の自由を再開させるべきだとする陣営に分かれることになり、自由市場側が先進国の政治の中で影響力を持つようになった。これが新自由主義と呼ばれるものである。
理論の柱
新自由主義は「埋め込まれた自由主義」から自由主義を解き放つことを主張する。すなわち、社会民主主義的福祉国家政策=大きな政府によって膨らんだ財政赤字を削減するための口実として小さな政府が謳われる。ここから国営事業、公営事業の民営化が進められた。また、国家による市場介入ではなく、市場を自由放任にすることが国民に公平と繁栄をもたらすという市場原理主義が求められた。この考えから市場の自由を妨げる様々な領域での規制を緩和していくことが目指された。
理論の実践
新自由主義的国家編成の最初の実験が行われたのは、1973年のチリである。民主的に選ばれた左翼社会主義政権が、アメリカのCIAとキッシンジャー国務長官によって支援されたピノチェト将軍によるクーデターで転覆させられたあと、ミルトン・フリードマンア拠点としていたシカゴ大学から送られた経済学者たちによってピノチェト軍事政権下で新自由主義政策が、推進された。チリ経済は短期的には復興を見せたが、大半は国家の支配層と外国の投資家に利益をもたらしただけだった。
しかし、この実験を成功とみなした陣営が、1979年以降、イギリスのサッチャー政権とアメリカのレーガン政権下で新自由主義政策を推進した。その後、アメリカで1990年代に加速された金融化が世界中に広がり、アメリカへと利益を還流させた。結果、アメリカ経済は好況を呈するようになる。
こうしてアメリカの新自由主義が様々な経済問題の解決策であるかのように振る舞うことが政治的に説得力を持つようになり、1990年代のワシントン・コンセンサス、WTOの創設で新自由主義は確立するようになる。更に、1990年代には発展途上国だけでなく、日本やヨーロッパも新自由主義的な道を選択するよう経済学や政治の場で主張されるようになる。
トリクルダウン
新自由主義理論の一つの理論的根拠として、トリクルダウン理論がある。トリクルダウンとは、社会民主主義的福祉国家のように、国家の財政を公共事業や福祉などを通じて貧困層や弱者に直接配分するよりは、大企業や富裕層の経済活動を活性化させることによって、富が貧困層や弱者へと「したたり落ちる」のを待つ方が有効であり、その方が国民全体の利益になるという考え方である。
税制の改正に関して言えば、これを根拠に富裕層の税金が軽減され、企業に対しておびただしい数の補助金や優遇税制が提供された。こうして富の配分比率が富裕層よりに変えられた。また、企業の経営方針の見直しが行われ、その延長線上で労働法の改正が行われた。日本では、その経営の特徴と言われた長期雇用と年功序列型賃金が見直され、アメリカ型とされた株主利益重視になった。これにより、リストラや労働者の賃下げをしてでも、株主への配当を優先することが動機づけられた。この労働者の賃金削減のために雇用の流動化が推進され、労働基準法改正、規制緩和が推進された。日本では2008年において労働者全体に占める非正規労働者の割合が三分の一を超えるまでになった。
富裕層への優遇は、投資をめぐる法解釈にも現れている。投資に関して、借り手より貸し手の権利を重視するようになった。例えば、貧しい者がその住居を差し押さえられる事を何とかするよりも、金融機関の保全と債権者への利払いを優先させる。実際、サブプライムローンの焦げ付きから端を発した2008年の金融危機では、多くのローン返済が困難になった貧困者が住居を追い出されたのに対して、アメリカの金融機関のいくつかは国家に救済された。
主な論者による批判
東京大学名誉教授の宇沢弘文は、「新自由主義は、企業の自由が最大限に保証されてはじめて、個人の能力が最大限に発揮され、さまざまな生産要素が効率的に利用できるという一種の信念に基づいており、そのためにすべての資源、生産要素を私有化し、すべてのものを市場を通じて取り引きするような制度をつくるという考え方である。新自由主義は、水や大気、教育や医療、公共的交通機関といった分野については、新しく市場をつくって、自由市場・自由貿易を追求していくものであり、社会的共通資本を根本から否定するものである」と指摘している。
ニューヨーク市立大学名誉教授のデヴィッド・ハーヴェイは、著書『新自由主義―その歴史的展開と現在』で、新自由主義とは国家権力によって特定企業に利益が集中するようなルールをつくることであると指摘し、著書『ネオリベラリズムとは何か』で、ネオリベラリズムとはグローバル化する新自由主義であり、国際格差や階級格差を激化させ、世界システムを危機に陥れようとしていると指摘している。また自由主義は、個人の自由な行為をそれがもたらすかもしれない代償の責任を負う限りにおいて認めるのに対して、新自由主義は、金融機関の場合、損害を被る貸し手を救済し、借り手には強く返済を求める点から、実現された新自由主義を階級権力の再生と定式化する。
ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・E・スティグリッツは、「ネオリベラリズムとは、市場とは自浄作用があり、資源を効率的に配分し、公共の利益にかなうように動くという原理主義的な考え方にもとづくアイデアをごちゃまぜにしたものだ。サッチャー、レーガン、いわゆる「ワシントン・コンセンサス」である民営化の促進にもとづいた市場原理主義である。4半世紀のあいだ、発展途上国のあいだでは争いがあって、負け組は明らかになった。ネオリベラリズムを追求した国々はあきらかに成長の果実を収穫できなかったし、成長したときでも、その成果は不均等に上位層に偏ることになった」と指摘している。また1990年代の資本還流によるアメリカ経済の好景気は、IMFと世界銀行によるものと説明する。つまり、この2つは、発展途上国が求める融資を提供することと引き換えに債権国やアメリカの意向を反映した、構造調整計画を、1980年代から1990年代を通じて実施要求してきた。しかしこの改革は、メキシコ、アジア通貨危機、ロシア、ブラジルの経済危機、アルゼンチンの全面破綻を引き起こした。結果が伴わない場合は、「改革が十分に実行されなかった」と、責任転嫁をしてきたという。
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関連項目
脚注
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読み:シンジユウシュギ
初版作成日: 12/05/18 22:57 ◆ 最終更新日: 17/10/10 13:23
編集内容についての説明/コメント: トリクルダウン、歴史的背景、理論について追加
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