日本学術会議(英: SCJ, Science Council of Japan)とは、日本学術会議法に則り設立された、内閣府の「特別の機関」の一つである。
概要
同会議は、大正9年(1920年)8月の学術研究会議官制の公布を以て設立された学術研究会議を前身とし、昭和23年(1948年)7月の日本学術会議法の公布を以て翌年1月に設立された。
同会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、日本の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与すること(同法前文)、並びに科学者の内外に対する国の代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させること(同法第2条)を主な活動目的としている。
同会議は、内閣総理大臣の所轄の下に置かれ活動経費は国庫の負担(同法第1条)だが、独立性は保障されている(同法第3条)。
日本学術会議任命見送り問題
令和2年(2020年)10月1日、菅義偉内閣総理大臣は、第25期日本学術会議新規会員候補105人のうち、松宮孝明立命館大学教授、小沢隆一東京慈恵医大学教授、岡田正則早稲田大学教授、宇野重規東京大学教授、加藤陽子東京大学教授、芦名定道京都大学教授の6人の任命を見送った[1]。
同問題は、論者によって後述の「法解釈」「学問の自由」「組織体質」とに大別される。
法解釈
日本学術会議法第7条第2項の規定では、同会議側が推薦した新規会員候補を内閣総理大臣が任命することになっている。
日本学術会議法
〔略〕
第三章 組織
この場合、任命権者である内閣総理大臣に任命拒否権は存在するのか……?この点について、主に2つの対立主張が存在する。
ひとつは、形式的任命権のみを認め、任命拒否権は無いとする立場。その類例として、日本国憲法第6条の規定がある。
〔略〕
第一章 天皇
〔略〕
更に、昭和58年(1983年)の国会答弁で中曽根康弘内閣総理大臣(当時)は、「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と明言している[2]。
一方、内閣は形式的任命権のみではなく、任命権拒否権を保有するとの立場もある。上記憲法6条は、その前に憲法3条と4条が記されている。
〔略〕
第一章 天皇
〔略〕
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
○2 (略)
天皇が国政に関する権能を有しないのとは対照的に、内閣は内閣法にて行政権の責任を負うことが明記されている。
内閣法
この違いにより、日本学術会議からの推薦に対する内閣の選考・拒否権を認め、実質的任命権を保有するとの法解釈をする立場がある。
法解釈変更に関する加藤官房長官の説明については、昭和58年法改正に付随する法解釈に対する変更は行わず、あくまで平成16年法改正を行った現行法に独立して法解釈を実施したものであり、過去の法解釈を変更したものではないという説明がなされる。
ただ、この説明は多分に法運用に関連したテクニカルな主張であり、一般常識からの素朴な解釈とは齟齬のある説明に見える。
学問の自由
昭和8年(1933年)に当時の文部省が著書『刑法読本』の内容が危険思想であると判断し京都帝国大学の滝川幸辰教授を免職させた「滝川事件」や、昭和10年(1935年)に大日本帝国憲法の解釈学説『天皇機関説』が不敬であるとして東京帝国大学の美濃部達吉名誉教授が攻撃された「天皇機関説事件」等、「学問の自由」が蹂躙されて行った歴史に照らされる形で、同問題が捉えられている[3]。
一方、他ならぬ日本学術会議自身が学問の自由を侵害している、という主張も存在する。
防衛装備庁が実施している「安全保障技術研究推進制度」に対して、日本学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表した。
コレが発端となったか、声明発表後の制度利用を申請する大学は約1/6まで減少した[4]との報道もされている。
組織体質
同会議の組織体質が巷で注目され出すと、真偽不明の情報を含め、次の様な声がSNSを中心に拡がりを見せた。
- 税金の無駄遣い
- 任命拒否された人が特定秘密保護法、安保法制、米軍普天間基地の辺野古移設反対論者
- 燃費向上研究に「軍事研究」のレッテル貼って禁止し学問の自由を自ら否定
- 中国科学技術協会と相互協力する覚書を締結
- 千人計画に積極的協力
- 復興増税の旗振り
- 消費税増税提言
- レジ袋有料化提言
- 元会員は上級国民待遇。その一人が飯塚幸三被告
- 会員OBは日本学士院会員になり、死ぬまで250万円の年金をもらえる
etc...故に、菅義偉内閣総理大臣の任命拒否行為を概ね支持するといった論調である。中には更に踏み込んで、日本学術会議法改正、日本学術会議法廃止を訴える者も居る。
これらの拡散された情報の中には不正確なものも少なくなく、ニュースサイトや新聞社などがファクトチェックを行ったところ明確に誤りであったり、根拠不明であったりする情報も混じっていることが確認されている。
- 【ファクトチェック】レジ袋有料化は日本学術会議が提言したせい?→政府の海外への環境対策アピールでした | BUZZAP!(バザップ!)
- 「学術会議で6年働けば、学士院で死ぬまで年金250万円」は誤り。フジテレビで放送、ネットで拡散 | BuzzFeed - バズフィードジャパン
- 日本学術会議が「中国の軍事研究に参加」「千人計画に協力」は根拠不明。「反日組織」と拡散したが… | BuzzFeed - バズフィードジャパン
- 日本学術会議、答申が出ていないため「活動が見えていない」はミスリード。2008年以降、321の提言を提出 | BuzzFeed - バズフィードジャパン
- アメリカ、イギリスの「学者団体には税金は投入されていない」は誤り。日本学術会議をめぐり、橋下徹氏の発言が拡散 | BuzzFeed - バズフィードジャパン
- 日本学術会議幹部が「北大総長室に押しかけ研究を辞退させた」は誤り。記事は訂正、しかし誤情報が拡散 | BuzzFeed - バズフィードジャパン
- 「学術会議が科研費4兆円を再配分」は誤り。「4兆あれば科学立国できる」ネットは嘆き | ハフポスト
- [FactCheck] 「防大卒業生が大学院に行きたくとも東大など各大学は断る」は誤り 櫻井氏の発言が拡散 | InFact / インファクト
他方、そもそも組織体質の問題は、今回の任命見送り問題とは峻別して考えるべきだという声もある。その中で、安倍政権の内閣官房参与を務めていた京都大学大学院の藤井聡教授は、「学術会議は嫌いだが菅総理を許してはいけない」と主張した。
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ただし、現状の日本学術会議が無謬完璧な組織であるかは議論の余地があり、本当に学者の代表機関として正しいあり方なのか、引き続き注目が必要と思われる。[5]
関連動画
関連リンク
- 日本学術会議法(昭和23年法律第121号): e-Gov
- 日本学術会議 公式サイト
- 日本学術会議広報(@scj_info): Twitter
- ハッシュタグ #日本学術会議法: Twitter
- ハッシュタグ #日本学術会議法に則り: Twitter
- ハッシュタグ #日本学術会議法改正: Twitter
- ハッシュタグ #日本学術会議法廃止: Twitter
関連項目
脚注
- *日本学術会議任命見送りに三浦瑠麗氏「禍根を残す」 井上信治大臣・平井卓也大臣はコメントせず: ニコニコニュース
- *日本学術会議めぐる政府の説明は「チャーハン論法」? 「ご飯論法」の上西教授が批判: ニコニコニュース
- *日本学術会議任命拒否 「学問の自由」への介入だ: 熊本日日新聞
- *防衛省資金、大学応募6分の1以下に 学術会議「禁止」影響か: 産経ニュース
- *日本学術会議のガン、「一票の重み」を是正せよ: ニコニコニュース
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