概要
簡単な歴史
江戸時代までの日本では、暦として主に太陰太陽暦が使用されて来た。この太陰太陽暦とは、月(天体)の動きを基本とし、それに太陽の動きにも合うよう修正を加えて作られる暦で、暦上の春夏秋冬が人間の感じる季節感に近く、農業を行うにも何かと都合が良いという利点を持っていた。[1]
しかし一方では、月(期間)の長さ、一年の日数が毎年違う、常に天体を観測しながら修正を加えなければ今年が何日になるのかさえ決められないなどの欠点も有り、近代社会においては不安定性の高い暦と見做されるのが常だった。
そのため、江戸時代の諸制度を、西洋を模したものに改めたいと考えていた時の明治政府は、「明治5年12月3日」をイコール「明治6年(1873年)1月1日」に改暦することと決定。これ以後の正月は、太陽暦の一種であるグレゴリオ暦により決められる事と指定された。
この指定からのち、それまで日本で使用されて来た暦は「旧暦」と呼ばれるようになり、旧暦による正月はいつしか「旧正月」と呼ばれ、区別される事となった。
とは言え当然ながら、ある日突然に下された政府からの命令一つで、全ての日本人の考え方、習慣までもがたちまち切り換えられてしまう訳も無かった。
グレゴリオ暦が採用されて70年以上を経た昭和、戦後の時代になっても、まだ多くの日本人が旧正月を祝うことに拘っていた様子を、当時の創作作品(例えば[サザエさん]など)や様々な記録の中に見ることが出来る。
その後の日本は、脱亜入欧論を土台とした国造りの実績に加え、戦後に占領国として政府の上に君臨したアメリカの強い影響にさらされることとなった。政治、経済、安全保障から教育、文化、食習慣に至るまで、なんでもアメリカ、アメリカと手本とせずにはいられないそんな潮流の中、欧米とつながりを持たない旧正月の習慣は、次第に日本人の脳裏からも失われた存在となっていった。
そして忘却の流れは変わることなく、そのまま現在に至っている。
現代の旧正月
現在の日本では旧暦そのものがほとんど使われておらず、旧正月もまた、ほとんどの人々から意識されること無く過ごされている。しかしそんな現代の日本においても、旧正月が重要な意味をもって語られる場所が存在している。
それは神社である。
これはもともと神社の祭日(縁日)が旧暦によって規定されていたこと、元日が古い神道においては特別な日と見做されていたなどのためで、たとえ現代であろうと正しく古式を受け継ごうとするなら、もともとの元日である旧正月がいつなのか? どうしても知る必要が出て来るからである。
特に神武天皇を祀る社については、天皇の即位日が当時の正月、つまり現在の旧正月の一日だったとされているため、本来は無視することが出来ないのである。
これは神社に限らず、一部の仏閣においても同様であり、また古くから神社、仏閣とのつながりが強かった日本各地の祭りについても、同様に旧正月を重視する傾向が強く見られる。
もちろん現代では、神社などにおいても普通にグレゴリオ暦が使われ、それに沿って祭日が決められる場合が多い。そのため旧暦、旧正月の持つ意味合いは、以前と比べると非常に軽くなって来ていると言われる。しかし特に由緒のある一部の宗教施設、祭りなどにおいては、21世紀現在においても未だ古式を尊び、旧暦そして旧正月にできるだけ沿う形で催しなどを行う例もみられる。
またこれらとは別に、保守主義を標榜する人々、特に民族主義的な考えを持つ人々の中には、ヨーロッパ・キリスト教国により制定されたグレゴリオ歴より、日本製の暦に基づく旧正月の方に、より心情的な支持を寄せることもあるとされる。
ちなみに平成三十年の旧正月一日は、グレゴリオ暦2月16日である。
海外の旧正月
年度によっても異なるが、新暦の正月と比較すると、最短でも20日、最長50日ほど遅れて始まる場合が多い。
既に廃れてしまった日本とは違い、中国では一般的に「春節」と呼ばれ、中国の国内、およびその周辺の国家・地域(香港・マカオ・台湾・韓国・ベトナム)において現在も盛大に祝われている。グレゴリオ暦(「新暦」などとも呼ばれる)の正月よりも重要な祝祭日と見做され、複数の国において休日にも指定されているほどである。
日本国内においても春節の時期になると、中華街などでは盛大なイベントの開かれるのが常である。
またヨーロッパ、特にスラブ圏の国々では、かつてグレゴリオ暦ではなく、ユリウス暦という別の太陽暦が使われていた。その関係から、一部の宗教施設などでは、ユリウス暦に準じた正月を現在も引き続き行っている。それについても、やはり旧正月と呼ばれる場合がある。
関連動画
現代ではほぼ廃れたと言ってよい祭日であるため、「旧正月」がかつて日本における最も重要な日の一つであったことを知る人はかなり少なくなっている。ここニコニコ動画においても、日本における旧正月に触れた動画、静画はほとんど見かける事が無い。
関連静画
関連項目
脚注
- *太陰太陽暦:太陽と月の動きだけを元に暦を作ると、暦上の季節と体感上の季節がズレてしまいます。そのため太陰太陽暦の場合は、体感に合うようにこのズレを修正するルールが決められており、修正を終えて始めてその年の分が完成したとされていました。
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