日本における推理小説の生みの親、江戸川乱歩によって送り出された。日本を代表する名探偵の1人。
概要
1925年1月に発表された乱歩作品の6作目「D坂の殺人事件」で初登場。乱歩自身はこれまでの作品同様明智の出番はこの作品だけにするつもりだったが、「D坂」はもとより探偵役の明智も大評判となり、次回作の「心理試験」にも登場させ、以降乱歩作品のみならず、日本を代表する名探偵となっていった。今では後の時代に登場する横溝正史の金田一耕助、高木彬光の神津恭介と共に「日本三大名探偵」と呼ばれている。3人の探偵の中では唯一戦前から活躍する探偵でもある。
登場初期は江戸川乱歩がまだ「本格もの」の作品を作るために試行錯誤していた時期であり、明智は作者が提示した謎を解く文字通りの探偵役としての描写が中心だった。しかし1926年末の「一寸法師」を始めとして乱歩が「変格もの」と呼ばれるジャンルで活躍し始めてくると、犯人と向き合う人間として明智の人物描写にも力が入るようになっていき、様々な掘り下げが行われていった。「一寸法師」は代役として急遽書くことになった作品であり、乱歩自身はその完成度に納得がいっていなかったというが、読者からは大きな反響があり、時系列が続く「蜘蛛男」、「魔術師」、「吸血鬼」では人間離れした能力を持つ犯人との対決が描かれ、それに合わせて明智自身も推理の他に格闘戦や射撃、変装など様々な特技を見せるようになっていった。他にも「黒蜥蜴」では女盗賊とのロマンス、「黄金仮面」ではフランスの怪盗アルセーヌ・ルパンとの対決、「人間豹」では遂に半人半獣の怪物との戦いが書かれている。
1936年に少年倶楽部から「明智小五郎を探偵役に」というオファーが入ると、乱歩はこれを快諾し、元々探偵助手として既に登場させていた小林少年を主役に「少年探偵団シリーズ」を立ち上げた。明智は主人公達探偵団の後見人として登場する。少年探偵団シリーズの明智小五郎は推理の他にも拳銃を使った銃撃や二十面相顔負けの変装を駆使するなど完璧超人のスーパーヒーローとして描かれ、颯爽と現れ怪人二十面相を始めとする犯人たちを一網打尽にするその姿は当時の少年少女達からは絶大な人気を誇った。今現在の「名探偵明智小五郎」のイメージは専らこの時の姿が基になっていることが多い。
戦後になると明智の活躍の殆どは少年探偵団シリーズに移り、成人向け作品には登場しない時期が長く続いた。1954年になって立て続けに「化人幻戯」、「兇器」、「影男」を発表した後は完全に登場しなくなり、明智の活躍は少年探偵団シリーズでのみ描かれるようになった。最後の登場は1962年の「超人二コラ」で、これが少年探偵団シリーズの最終作、そして江戸川乱歩最後の探偵小説だった。
人物
明智は探偵といえば証拠を集めて犯人に突きつけるという一般的なイメージに反してあまり証拠の有無に拘らず、自身の推理を基に犯人に心理戦を仕掛け、最終的に犯人を自白させて認めさせる方法を取っている。時には犯人を動揺させるために助手の2人を使って犯行を再現してみたり、嘘の情報を与えておびき出したりと大掛かりな罠を張って確信を得たりすることも多い。
犯人視点で書かれた作品では明智は少ない手掛かりから自分へひたひたと迫って来る怪物のように思われていることも多く、推理を披露する場面では悪魔のように見られることも多い。
「D坂の殺人事件」で初登場した際はタバコ屋の2回に間借りしている貧乏な書生として登場する。服装も現在のイメージとは異なり和服姿で、興奮するともじゃもじゃの髪をかき回す癖があった。髪をかき回す癖というと横溝正史の金田一耕助が思い浮かぶが、当時は金田一耕助が初登場する遥か以前の時代だったので、これは当時の「書生」の普遍的なイメージの1つだったのだろう。住んでいる部屋は大量の本で半ば埋まっており、探偵の事務所のような使われ方はしていなかった。
2作目の「心理試験」からは前作の数年後とされ、既に難事件を複数解決した名探偵として登場する。ただ当時の明智は「真実にしか興味はない」として犯人を糾弾したり警察に積極的に通報しようとしたりすることは少なく、事件解決の進捗を警察に共有したりすることもしていない。またこの頃は発表された作品が短・中編だったからかあまり明智自身については掘り下げられなかった。
「一寸法師」で明智が長編小説にも登場するようになると、英国紳士のような洋装を着こなし、葉巻やコーヒーを嗜む気障な人物として描かれ、またお茶の水の「開花アパート」に探偵事務所を構えて依頼人を迎えて事件解決に乗り出す現在の明智小五郎のイメージに近くなった。髪型については変わらず「もじゃもじゃ頭」と書かれていたが、小説の挿絵では軒並み綺麗にセットされた状態で、そのイメージで定着した。
「一寸法師」から3年後とされる「蜘蛛男」から「人間豹」にかけては乱歩が本格物から変格物、通俗小説を多く書くようになってくると、明智もそれに合わせて自分で犯人を追いかけていくようになり、小林少年のような助手や波越警部といった警察とも一緒に行動する機会が増えていった。
「魔術師」で出会った文代を助手とし、「吸血鬼」事件解決後に結婚している。
登場作品
戦前から映画、ラジオドラマ、舞台、テレビなど、数多くのメディアで多くの俳優が演じた。特に天知茂の「江戸川乱歩の美女シリーズ」と陣内孝則の「名探偵 明智小五郎」4部作などが有名。最近では2024年に船越英一郎が演じている。映像化に関しては初期の作品に短編が多いこと、代表作の殆どが戦前で描写が難しいこと[1]などから映像化当時の時代に合わせて設定が変更されることが多い。「黒蜥蜴」は多くの劇団によって舞台化されている。
また日本を代表する名探偵として別作者の作品に登場することも多く、西村京太郎の「名探偵シリーズ」ではジュール・メグレ、エルキュール・ポアロ、エラリー・クイーンと共に日本を代表する探偵として登場。芦辺拓の「明智小五郎対金田一耕助」では金田一耕助と共演した。モンキー・パンチの「ルパン三世」では原作の他「黄金仮面」で初代ルパンと戦った縁か同時代を描いたアニメの第6シリーズにも登場している。
本人役として登場する他にもパロディやオマージュとして名前が登場することもある。「名探偵コナン」の毛利小五郎、「探偵オペラミルキィホームズ」の明智小衣、「金田一少年の事件簿」の明智健悟、「ペルソナ5」の明智吾郎など、おもに探偵が関係する作品に使われていることが多い。
江戸川乱歩作品
- D坂の殺人事件(1925年)
- 心理試験(1925年)
- 黒手組(1925年)
- 幽霊(1925年)
- 屋根裏の散歩者(1925年)
- 一寸法師(1926年)
- 蜘蛛男(1929年)
- 何者(1929年)
- 猟奇の巣(1930年)
- 魔術師(1930年)
- 黄金仮面(1930年)
- 吸血鬼(1930年)
- 黒蜥蜴(1934年)
- 人間豹(1934年)
- 怪人二十面相(1936年)
- 少年探偵団(1937年)
- 悪魔の紋章(1937年)
- 妖怪博士(1938年)
- 暗黒星(1939年)
- 大金塊(1939年)
- 地獄の道化師(1939年)
- 青銅の魔人(1949年)
- 虎の牙(1950年)
- 透明怪人(1951年)
- 怪奇四十面相(1952年)
- 宇宙開人(1953年)
- 鉄塔の怪人(1954年)
- 兇器(1954年)
- 化人幻戯(1954年)
- 海底の魔術師(1955年)
- 影男(1955年)
- 灰色の巨人(1955年)
- 黄金の虎(1955年)
- 魔法博士(1956年)
- 黄金豹(1956年)
- 天空の魔人(1956年)
- 妖人ゴング(1957年)
- 魔法人形(1957年)
- サーカスの怪人(1957年)
- まほうやしき(1957年)
- 赤いカブトムシ(1957年)
- 奇面城の秘密(1958年)
- 夜光怪人(1958年)
- 塔上の奇術師(1958年)
- 鉄人Q(1958年)
- ふしぎな人(1958年)
- 仮面の恐怖王(1959年)
- かいじん二十めんそう(1959年)
- 電人M(1960年)
- おれは二十面相だ!!(1960年)
- 怪人と少年探偵(1960年)
- 妖星人R(1961年)
- 超人二コラ(1962年)
名前のみ登場
他作者の作品
小説作品
- 名探偵シリーズ - 西村京太郎(1971年~1976年) 全4作
- 明智小五郎VS金田一耕助 - 芦辺拓(2002年) 全3作
- Ex Calce Liberatus - Matthew Baugh(2005年)
漫画作品
アニメ作品
関連動画
関連静画
関連商品
関連項目
脚注
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兄弟記事
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