星新一(ほし しんいち)は日本の小説家。「ショートショートの神様」とも呼ばれ、小松左京、筒井康隆と並んで日本SFの御三家と称される。
経歴
1926年東京都に生まれる。本名は星親一。祖父は解剖学者の小金井良精、父は星製薬創業者・星一(ほし はじめ)。森鴎外は母方の大叔父にあたる。当時の星製薬は東洋一の製薬会社とも言われた大企業で、その御曹司であった。
戦争を経て、戦後に東京大学農学部を卒業。大学院在学中に父が急死し、急遽星製薬を継ぐことになる。しかし既に星製薬は深刻な経営悪化状態にあり、傾いた会社を建て直すだけの経営者としての才覚はなく、結局会社を手放すことになる。
同時期、レイ・ブラッドベリの連作長篇『火星年代記』に感銘を受けSFに興味を持ち、空飛ぶ円盤研究会に参加。1957年、同研究会のメンバーだった柴野拓美、矢野徹らと共にSF専門同人誌『宇宙塵』を刊行。これに発表した「セキストラ」が、江戸川乱歩が編集長を務めていた雑誌『宝石』に転載され作家デビューした。
まだ「SF」という言葉自体一般に知られていなかった中、星の書く簡潔で小粋な短編は高い人気を博し、「ショートショート」という言葉が紹介されると、SF・ショートショートの第一人者と見なされるようになった。子供から大人まで広く読まれた彼の作品は、日本にSFというジャンルを定着させる上で非常に大きな貢献を果たした。1968年には『妄想銀行』およびそれまでの業績で日本推理作家協会賞を受賞。
1983年、ショートショート1001編を達成。1001編目がどの作品か特定されないよう、達成時は付き合いのあった各誌に別々の作品を同時に発表した。以降は作品発表数を大きく減らし、既存の作品から時事風俗表現を削る改稿作業を続けた。
1997年、間質性肺炎により死去。没後、日本SF大賞特別賞が贈られた。ちなみに星雲賞は一度も受賞していない(本人は欲しがっていたらしい)。
作風・人物
SF、ファンタジーの他にも幻想・奇想小説、ホラー、エッセイ、ノンフィクション等ジャンルの垣根を越えて様々な作品を執筆、また海外作品の翻訳も行っている。
徹底的に固有名詞・事実風俗を廃す傾向にあり、時代や地域に関係なく読める。このことは星の作品が20ヶ国語以上にも訳されていることからも窺える。他にも「殺人やセックスを描写しない」「前衛的な手法を用いない」という制約を自身に課していたという。
1,000編以上に及ぶ短編小説を発表しており、これらをまとめた短編集が数多く出版されている。短い時間に気軽に読めるほか、非常に簡潔な作風であるために幅広い年代に人気がある。ワンコイン、五百円玉を持って書店で文庫版を1冊買ってくるだけで、かなり満足できるはずである。
星以前からSF小説自体はもちろん書かれていたが、ジャンルの中核となる同人誌の創刊に関わり、その作品でSFの普及に大きく貢献したことから、「日本SFの歴史は星新一のデビューから本格的に始まった」というのが一般的な見方である。そういう意味でミステリーにおける江戸川乱歩の立ち位置に近い。
なお、ショートショート1001編という数字が有名だが、1001編達成後にも作品を発表しており、生前は短編集未収録にしていた作品もあるため、星新一公式サイトによると実際の作品数は1138編あるようだ。
フレドリック・ブラウンの長篇の最高傑作に星は『火星人ゴーホーム』を挙げ、筒井康隆は『発狂した宇宙』を採る。筒井はこのことにブラックユーモアが好きな人とシュールなドタバタ劇が好きな人とに分かれるのではと述べている。
表紙・挿絵
下記のようにたくさんの文庫本短編集が出版されているが、新潮文庫から出ている書籍の表紙や挿絵の多くは真鍋博が手がけている。
彼らの絵柄も簡潔な作風であり、星新一の文章にマッチしていると言えるのではないだろうか。タイトルが活字の本が真鍋、描き文字の本が和田。
また角川文庫で出ている作品は、現在は片山若子が表紙・挿絵を担当している。
主な著書
どれが短編集でどれが長編なの? どれを読めばいいの? という方向けの簡単なリスト。読む本を選ぶ際の参考にどうぞ。「絶版」表記のないものは全て新刊書店で入手可能。またほとんどが電子書籍でも読める。以下のリスト以外にも児童書版や全集、傑作選などがある。
短編集・ショートショート集
原則として初刊の刊行順。以下を揃えればほぼ全作品が読める(はず)。
- ボッコちゃん(新潮文庫) - 有名作品が多数入っているので入門にオススメ。
- ようこそ地球さん(新潮文庫)
- 悪魔のいる天国(新潮文庫)
- ボンボンと悪夢(新潮文庫)
- 宇宙のあいさつ(新潮文庫)
- 妖精配給会社(新潮文庫)
- おせっかいな神々(新潮文庫)
- ノックの音が(新潮文庫) - 全作品が「ノックの音がした。」という書き出しで始まる連作集。
- エヌ氏の遊園地(新潮文庫)
- きまぐれロボット(角川文庫)
- 妄想銀行(新潮文庫) - 本書(とそれまでの業績)で第21回日本推理作家協会賞を受賞。
- 盗賊会社(新潮文庫)
- マイ国家(新潮文庫)
- 午後の恐竜(新潮文庫)
- 白い服の男(新潮文庫)
- ひとにぎりの未来(新潮文庫)
- おみそれ社会(新潮文庫)
- だれかさんの悪夢(新潮文庫)
- 未来いそっぷ(新潮文庫)
- なりそこない王子(新潮文庫)
- さまざまな迷路(新潮文庫)
- ちぐはぐな部品(角川文庫)
- おかしな先祖(角川文庫)
- 殿さまの日(新潮文庫) - 時代・歴史小説集。新潮文庫の短編集では唯一の絶版。
- 城のなかの人(角川文庫) - 時代・歴史小説集。こっちは入手可。『殿さまの日』とあわせた2冊の収録作はポプラ文庫の「星新一時代小説集」全3巻(入手可)にも収録されている。
- かぼちゃの馬車(新潮文庫)
- ごたごた気流(角川文庫)
- 夜のかくれんぼ(新潮文庫)
- おのぞみの結末(新潮文庫)
- たくさんのタブー(新潮文庫)
- どこかの事件(新潮文庫)
- 安全のカード(新潮文庫)
- ご依頼の件(新潮文庫)
- 地球から来た男(角川文庫)
- ありふれた手法(新潮文庫)
- 凶夢など30(新潮文庫)
- どんぐり民話館(新潮文庫) - ショートショート1001編を達成。
- これからの出来事(新潮文庫)
- つねならぬ話(新潮文庫)
- 天国からの道(新潮文庫) - 没後に出た未収録作品集(の前半)。
- ふしぎな夢(新潮文庫) - 没後に出た未収録作品集(の後半)。
- つぎはぎプラネット(新潮文庫) - 2013年に出た最後の未収録作品集。巻末に「星新一ショートショート全作品読破認定証」がついているので、最後に読むのがオススメ。
長編・中編集・連作短編集・戯曲
- 気まぐれ指数(新潮文庫) - 長編
- 夢魔の標的(新潮文庫) - 長編
- 宇宙の声(角川文庫) - ジュヴナイル中編集
- ほら男爵 現代の冒険(新潮文庫) - 連作短編集
- 声の網(角川文庫) - 連作短編集
- ブランコのむこうで(新潮文庫) - 長編
- にぎやかな部屋 (新潮文庫) - 戯曲
エッセイ
- 進化した猿たち The Best(新潮文庫) - アメリカの1コマ漫画を分類した本。同題で3分冊だったものの抜粋版。全部読みたい場合は3分冊版(新潮文庫版とハヤカワ文庫版がある)を古書店で探そう。
- きまぐれ星のメモ(角川文庫)
- きまぐれ博物誌(角川文庫)
- きまぐれ暦(新潮文庫) - 絶版。
- きまぐれ体験紀行(角川文庫)
- できそこない博物館(新潮文庫) - 作品にならなかった創作メモを公開した本。
- きまぐれフレンドシップ (新潮文庫) - 全2冊の書評集。絶版。
- あれこれ好奇心(角川文庫) - 絶版。
- きまぐれエトセトラ(角川文庫) - 絶版。
- きまぐれ学問所(角川文庫) - 絶版。
- きまぐれ遊歩道(新潮文庫) - 絶版。
ノンフィクション
- 人民は弱し 官吏は強し(新潮文庫) - 父・星一の評伝。
- 祖父・小金井良精の記(河出文庫) - 祖父の評伝(上下巻)。絶版。
- 明治・父・アメリカ(新潮文庫) - 『人民は弱し 官吏は強し』の姉妹編。
- 明治の人物誌(新潮文庫) - 評伝集。
- 夜明けあと(新潮文庫) - 明治時代の出来事をまとめた本。絶版。
訳書(現在入手可能なもの)
- さあ、気ちがいになりなさい(フレドリック・ブラウン、ハヤカワ文庫SF) - 翻訳。ただし実際には名義貸しに近く、主に訳したのは早川書房の編集者だった森優らしい。
- 竹取物語(角川文庫) - 現代語訳
- 闘技場 フレドリック・ブラウン コレクション(福音館書店) - 翻訳
世にも奇妙な物語
フジテレビのドラマ番組「世にも奇妙な物語」シリーズでも星新一原作の作品のいくつかがドラマ化されている。
- 「人形」(1992年)主演:杉本哲太、桜金造 ・・・ 原作「ノックの音が「人形」」
- 「ネチラタ事件」(1992年)主演:細川俊之、鶴田真由 ・・・ 原作「ネチラタ事件」
- 「穴」(1992年)主演:いかりや長介 ・・・ 原作「おーい、でてこーい」
- 「ブルギさん」(1995年)主演:田原俊彦 ・・・ 原作「もてなし」
- 「夢のつづき」(1995年)主演:片岡鶴太郎、あめくみちこ ・・・ 原作「はやる店」
- 「殺し屋ですのよ」(2004年)主演:観月ありさ、大倉孝二・・・ 原作「殺し屋ですのよ」
ニコニコ動画
NHK製作で、いくつかの短編を様々なクリエーターが1話3分でアニメ化したオムニバスアニメ「星新一ショートショート」が一時期アップロードされていたが、現在はもちろん削除されている。
『朗読してみた』動画では、マイナーな動画ジャンルながらも人気が高く、よく題材に用いられる。ソロでの朗読から複数での読み合わせまで、彼の短編が様々な形で朗読されている。
関連動画
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伝記
星新一に関する伝記・研究書。第28回日本SF大賞・第39回星雲賞ノンフィクション部門受賞。
作品
他数多く著作がある。
関連項目
関連外部リンク
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