東武8000系とは、東武鉄道が保有する通勤形電車である。派生形式として、800系と850系が存在する。
概要
東武鉄道が東武2000系に続き、世に送り出した新性能通勤電車。
路線長が私鉄では段違いに長い東武鉄道が、いかに汎用性・低廉性・走行性能を満たすかを熟慮して設計されている。これらの特徴の中でも、走行性能・低廉性では他社の追随を許さない正に傑作と言える。
性能面での特徴
まず、オールM車全盛期だった時代にいち早く経済性を見直したのがこの8000系だ。
どのような組成でも、必ずMT比が1:1となるように、4両で1ユニット、2両で端子電圧を変える事によって1Mでも走行性能を満たすと言うという今では常識だが当時では画期的な機軸が採用されている。(基本的に直流電動機の2両編成は101系や115系のように2Mが基本)
また、この10両ならば5M5Tとなる為に、1963年当時としては破格の出力130kw毎時のカルダン駆動モーターを採用している。乗り心地の向上と、粘着性向上の為に、カム進段が非常に細かい抵抗制御(通常直並列24段だが、倍以上の60段弱)を行い、2017年現在でも高水準の滑らかな加速を可能としている。
ちなみにこの主電動機をオールMにした場合、滑走無しで4.5km/h/sの威力が有る事を明記しておく。
更に、車両を大幅に軽量化し、軌道へのダメージ軽減、走行性能への寄与に貢献している。
この時代に20m車のT車が20t台というのは・・・他には多分無いんじゃないかな?M車ですら34~36t程度である。
これだけ軽いと、金属バネが沈まないので、自ずと空気バネが必要となるが、そこにも一工夫。
なんと、軸箱と台枠を繋ぐ機構に板バネを採用したのだ(いわゆるミンデンバネ)。摺動部分が全く無いので(ペデスタルは上下動する場所と軸箱がこすれあうために交換が必須)、ランニングコストが非常に低い。 他にも車体が軽いので住友金属匠謹製の重厚な台車が活きて重心が低くなり、走行安定性がすこぶる良い。ミンデン台車はそれ自体が非常に高価だが、使用年数を考えれば賢い選択である(2017年時点で50年物もあるくらい)。
これらの技術の結晶から、1963年当時にして、MT比1:1の車両(ここが大事)が起動加速度2.5km/h/s(冷房化で2.23化)、最高速度110km/h(弱め界磁35%でこれはチート)というインチキ臭い性能を手に入れることになった。
尚、駅間距離が非常に長い東武線においては、強力な起動加速度、強力な常用ブレーキの高減速は全く要らない為に、発電ブレーキの装備を省略している。が、前述の軽量車体と、雨天時対策と思われる特製のレジン樹脂ブレーキシューを装備するために、下手な回生車よりよっぽど止まる車両になっている。
その高性能故に、フラットが出来やすいのはご愛嬌。空制が効きにくい電車は、ロック状態にもならないので、フラットが出来にくい。整備する立場からすれば、車輪転削や交換で神経を使う事にはなるけれど、滑走防止弁でも無い限り回生車でもフラットは普通に出来るので、特に目くじらを立てるほどの事でもない。(ちなみに非常ブレーキは他社のどの車両でも全て空制のみである。電空併用の場合は必ずブレーキ抵抗器による発電ブレーキのみ。回生ブレーキは信頼性が無い為に、非常ブレーキにおいては使ってはいけない。
汎用性等が完成度の高い設計であったために、様々な特性を発揮した。
東武6050系・東武1800系・東武300系・350系は全てこの8000系の走り装置がベースである。
合理的な発想とその効果
これだけの性能を持った車両をどうすんだよ?と他社ならキチガイ扱いされる処だが、そこは東武。伊達に500km弱の営業キロを誇っていない。本線・東上線の通勤輸送は勿論だが、東上線は小川町・寄居まで、本線は伊勢崎・東武日光・東武宇都宮の近郊輸送も兼ねているわけである。都内は流石の東武も駅間が1.0km~2.0km程度なので、強力な定加速領域を活かした走行、郊外になると伊勢崎線は3.0~5.0km、日光線に至っては6.0km~8.0kmの駅間になるので、その高速性を活かした走行、と非常に柔軟な運用を可能としている。ちなみに国鉄の113系や415系等(MMユニット方式採用車)は都市部においての駅間が短い区間は普通列車でも途中駅を通過扱いとし、加速の悪さからくるダイヤ乱れを防ぐ策をとっていた。というよりこれが標準で、8000系がローカル地帯の速達性向上と都市部での大量輸送を同時にそつなくこなせる画期的な車両という証明でもあるのだ。他社はM車を増やしまくって性能をカバーすることで、高速性と加速力を両立させていた事を考えると、まさに戦略通りの結果であろう。
支線に行けば2両で走れるし、最大10両での運用も出来る。こんな使い勝手の良い電車はそうそう無い。
先述の通り、近郊輸送も行う為に、椅子については奥行きが深く、クッション性に優れた物を採用している。座り心地は言うに及ばず今でも関東最高峰だろう。特にこれから両毛線にもE231系が入ってくる時代が来るだろうと思われるが、佐野や伊勢崎で東武線へ乗り換えれば、8000系のソファーのような椅子が待ってくれていると思うと、ちょっと幸せを感じるかもしれない。ちなみに修繕工事によってスタイリッシュになった8000系だが、この修繕工事が他社の改造工事のモデルになったのは言うまでも無い。また、各社の車両がかまぼこ天井主流だった時代に、平天井を採用したのも8000系である。地味なところでは色々先駆者なのである。
その修繕工事は最終的にはバリアフリー対策(車内案内表示器・車椅子スペース設置等)までなされる事に。どこまで進化するのかと。
余談
そんな8000系にも弱点はある。
「長い下り坂に弱い」
空制のみ・・・速度節制目的での運転を行うには、必然的にシューを当てっぱなしの走行となる為に、熱ダレするのである。尤も、今では日光線勾配区間に行くわけでは無いが。野岩鉄道が大盛況だった頃は臨時快速として日光鬼怒川はおろか、福島の会津高原まで8000系が乗り入れていた。長距離運行であるが、トイレが無かった事が不評で長続きはしなかった。
最後まで残っていた長距離運用は、夕刻の東武日光東武宇都宮行の準急(今の区間急行)。抑速装備と電気連結器がある東武10000系列も全て登場済であった時代だが、どういうわけか8000系でほぼ運用されていた。
製造両数の多さ(712輌)から「私鉄の103系」と揶揄される事があるが、着目すべきはどちらも経済性を重要視している事だろう。そりゃ首都圏で長大路線持ってたら製造両数が増えるのは当たり前である。そしてその103系より遥かに会社の資産としての輸送力、汎用性を考え練りこまれた車両、それが東武8000系である。
2017年現在、廃車がかなり進行しており、最後の幹線での牙城であった野田線に於いても60000系よりも貴重な存在になっている。支線やワンマン運転区間においてはまだまだ活躍が期待出来るが、ツーマンでの幹線での勇姿はそう遠くない未来、見ることはできなくなりそうだ。
走行シーンこそ見ることが出来なくなったとはいえ、東上線のスジは8000系の性能曲線が基本となっているのだが、見る人が見れば多分わかると思うが、実は案外速い。昭和38年の電車が都市路線で表定速度60km/h以上を叩き出す事がどれだけ変態か。性能曲線が変わる前(とはいっても越生線の8000系が廃車になるまではまずない)にちょっぴり思いを馳せて頂ければ当時の8000系の設計者も喜んでくれるであろう。
コンプレッサーは多彩です。
この東武8000系、実はたった1形式で4種類もの異なる電動空気圧縮機(コンプレッサー/CP)を採用しているというとんでもない車両である。
たった1形式でCPのバリエーションが4種もある電車ってのは・・・ちょっと他に無いんじゃないか?
まずトップバッターは恐らく基本となるC-2000N。
可撓継手でモーターの動力を伝達する、大容量の二段圧縮式CP。
8000系の床下で「ドルルルルルルルル」と豪快な音を立てて稼働します。
お次は私鉄車両に於けるCPのベストセラー、HB-2000系列。
C-2000Nと音が微妙に違います。
そして最新鋭のHS-20。
随分とコンパクトな見た目になってしまいましたけど、これでも前述の2機種と同じ量の毎分2100Lの圧縮空気を吐き出す能力を秘めています。でも音が「トルルルルルルルルル…」と寂しいものになってしまいました。
最後は2R車に時々積まれている、旧式のD-3-FR。
モーターからの動力伝達は歯車で行うという古い形の機種だけど、圧縮空気を吐き出す量は毎分990Lのお手頃容量なので、短編成では使い勝手がいいCPです。
あの「コァーン、トクトクトクトクトク…」という動作音で、懐かしさのあまりむせび泣いた鉄道ファンも星の数ほど居るのでは?
さらに後継の30000系や50000系列には動作音の静かなスクリュー式CPが積まれていたり、6050系には超レアモノのDH-25が積まれていたり、乗り入れてくる東京メトロの8000系や03系にはC-2000L系列のCPが積まれていたり…
東武はCP博物館でもあります。
最後に残ったオリジナルフェイスの8000系・8111F
8000系は修繕工事によって、ほとんどの編成の顔が6050系に準じた顔に改造されている。その中でも修繕はされたものの、顔の改造をまぬがれた8000系11号車(8111F)は、最終的に最後のオリジナルフェイスの8000系として残り、その貴重さを認められ、現在、動態保存されている。
詳しくは別記事で解説→東武8000系8111F
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
- 東武鉄道
- 東武30000系
- 東武50000系
- 鉄道車両一覧
- 東武8000系8111F
- 私鉄版103系
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