松浦光 / 松浦孫八郎(?~?)とは、戦国時代の武将である。
なお、天野忠幸などはまだ永禄期の松浦孫八郎と元亀・天正期の松浦光を同一人物視していないが、平井上総や嶋中佳輝等によっておおむね同一人物視されるようになったため、この記事でも同一人物として扱う。
概要
一応は九条稙通の養女と十河一存の間に生まれた、三好義継の弟とされる人物。松浦守亡き後松浦氏に養子入りさせられ、永禄の変の後に松浦虎と争いながら三好義継・松永久秀と共に新生足利義昭幕府に参画するが、その後詳細は不明だが消えてしまう。
万満の松浦氏養子入り
天文年間末頃、三好長慶・遊佐長教・内藤国貞・松浦守の細川氏綱を支える4人の守護代の一人であったうち、松浦守がおそらく寿命で亡くなったことにすべてが始まる。永禄元年(1558年)、三好長慶の弟である十河一存が、岸和田氏がそれまで受け継いできた岸和田城に入った。これは『浄心院快栄書状』等で裏付けが取れる。
それと前後して、九条家文書によると、岸和田周防守(山中吾郎説)、あるいは松浦周防守盛(廣田浩治説)に養子入りさせられ、松浦万満という幼主が松浦氏の当主となった。
この、松浦万満は、馬部隆弘によって、十河一存の息子であることが推定されている。よって、以後十河一存は、松浦万満を梃子に、讃岐のみならず、和泉にも基盤を持っていくのである。
ただし、和泉の支配権を誰が担ったかは、まだ見解の一致を見ていない、天野忠幸は松浦氏が一次支配者で、その上位者に十河一存がいたとするが、山中吾郎は松浦氏が一次支配者で十河一存が堺支配にかかわったまでは認めつつも、十河一存の和泉支配に関する文書が全くなく、判断を留保している。
とはいえ、十河一存は南部の根来寺とすぐに対立し、『法隆寺文書』によると永禄2~3年頃(1559年~1560年)九条家の日根荘、法隆寺の珍南荘からの年貢収納が十河一存によって違乱が行われたとして、法隆寺の印清が松浦氏の「四人之者」の一人である寺田弘家と交渉を行った。そして、結局、十河一存や松浦家中に多額の礼銭を払って、解決させたようである。
というわけで、和泉は和泉松浦氏が引き続き支配しつつも、十河一存が三好長慶の政権の中で管轄者としてになっていたのだが、永禄4年(1561年)4月、唐突に十河一存が死んだ。
永禄の変と松浦孫八郎
十河一存の死後、対畠山氏の最前線である和泉をどうするのか、当然三好長慶の中でも苦慮する状況となった。三好長慶は、永禄4年5月6日に三好義継(当時は孫六郎)・松浦万満の両名の後ろ盾になる書状を松浦氏家中等に送り、一方で河内の三好実休が上位権力となった。
ところが、永禄5年(1562年)3月、久米田の戦いでその三好実休が戦死する。『厳助往生記』3月6日の記事には岸和田城が落ちてないことを強調しているように、三好政権にとっては、松浦氏のいる和泉は依然として畠山高政らに対抗する最前線だったのである。なお、『大館記書案』によると河内教興寺の戦いで松浦氏の一部が畠山高政方にいたようであり、既に松浦氏はなんだかきな臭い状況に陥りつつあった。
この後、『長享年後畿内兵乱記』や『畠山記』によると、和泉は安宅冬康が支配したとされるが、永禄7年(1564年)に謀殺されたように、彼の活動を示す史料は全くない。かくして、三好氏の和泉に対する関与は縮小していく中で、三好長慶は死んだ。
そして、三好義継・松永久通らが、足利義輝を殺す永禄の変が勃発すると、松永久秀が足利義昭脱出や内藤宗勝の戦死などで次第に排除され、ついに三好三人衆の成立と彼らのクーデターで、三好政権は松永久秀と三好三人衆の陣営に分裂する。
そこで、松浦氏は、『九条家文書』2131号によると、松浦孫八郎が早速松永久秀に味方し、足利義昭方であった畠山氏配下の遊佐信教や安見宗房から所領を得ている。ただし、三好義継の弟・松浦孫八郎は、仇敵である畠山氏から知行を受け取るのを消極的だったが、やむを得ず受け取ったようである。
また、この書状から「四人之者」が松浦家中を差配していたことがわかるのだが、『大和古文書聚英』収録の「伊藤磯十郎氏所蔵文書」によると、このメンバーは富上宗俊、寺田弘家、長曽祢貞、松浦俊の4人である。
如仰田楽禄物議、国ヶ給人衆種々雖存分被申候、達而令異見如先々申定候、但過法于水損之時者、諸社へ御神役被応可被相談分ニ相究申候、将亦当日喧嘩口論等之儀、孫八郎制札相調可参候、恐々謹言、
寺越入知(花押)
存庁衆御中
御返報
――『伊藤磯十郎氏所蔵文書』
ところが、永禄9年(1566年)2月に松永久秀・畠山高政らは三好義継・三好三人衆に大敗し、8月に松浦孫八郎は畠山氏・三好氏の和睦を結んだ。なお、この時松浦孫八郎は敗者にも拘らず、知行を要求する強気な姿勢であり、畠山氏・三好氏の間を取り持つキープレイヤーの一人としてふるまえる立場だったのである。この結果、12月には松浦孫八郎は三好三人衆・畠山氏双方から知行を得ている。
一方、この結果、三好三人衆方の松浦氏の当主は、松浦孫五郎虎という人物になった。この人物は永禄6年(1563年)頃から、三好政権側の松浦孫八郎に対抗する存在であり、日根野氏を互いに取り込もうとするなど、もともと対立する存在であった。ただし、三好政権の反乱勢力だった彼が、ふんわり三好三人衆側についた経緯については不明。また、松浦虎は松浦守の官途である肥前守を名乗っていたり、そもそも和泉松浦氏は五郎が多い等、なんか明らかに松浦盛・松浦守の後継者っぽいふるまいをしているが、系譜は全く不明。
ところが状況が一変する。永禄10年(1567年)に三好義継が三好三人衆を離反し松永久秀についたのである。松浦虎は三好義継から三好三人衆に鞍替えした結果、三好義継は弟・松浦孫八郎を起用し、永禄11年(1568年)に三好義継・九条稙通が畠山秋高と結び、細川晴宣の子・細川刑部大輔を和泉守護に推戴。一方で、この細川刑部大輔は松浦孫八郎に全権を委任することを確約され、完全にお飾りの存在であった。
結果、松浦虎と松浦孫八郎・細川刑部大輔の戦線が和泉に構築されるのだが、前述の「伊藤磯十郎氏所蔵文書」がこの年のものであるらしく、松浦虎は全く対抗できないまま、足利義昭・織田信長の上洛となり、時間切れとなったようである。なお、松浦虎は、『多聞院日記』永禄11年12月28日により戦死したことがわかる。
足利義昭政権の松浦孫八郎
こうして足利義昭幕府が成立したのだが、和泉についてはよくわかっておらず、書状も特に残っていない。
ここで、松浦氏は織田信長から押領を停止させられたということで、信長の下位権力扱いされることもある。しかし、この時代は足利義昭・織田信長の二重政権であり、佐久間信盛は今井宗久の頼みに対し公儀としてふるまい、かつこの結果がうまくいっていないなど織田権力に拘束されていないようである。
一方、永禄12年(1569年)には「四人之者」である富上宗俊が松永久秀に殺害されるなど、三好三人衆に結ぼうとする動きが家中にあったようだ。この後、松浦氏は、寺田弘家・長曽祢貞を中心とした軍勢が、松永久秀・三好義継・畠山秋高の率いる大和の反幕府勢力への戦いに投入されていた。
一方、『土佐文書』等によると、この頃もまだ、松浦氏は三好義継などの三好政権を上位権力としていたようである。このことに関しては『二条宴乗記』に織田信長の上洛命令では、後世松浦孫五郎と間違われて記載されつつも、三好義継は松永久秀や松永久通、松浦孫八郎などの上位権力であることが記されている。
つまり、松浦孫八郎は、足利義昭・織田信長の連立政権の中で、三好義継の下位に属する和泉の管轄者として扱われていたようなのである。
ところが、浅井長政や朝倉義景が、三好三人衆や六角承禎らにつき、元亀の争乱が起きる。ここで当初は三好氏は足利義昭・織田信長の陣営にいたのだが、元亀元年(1570年)12月に織田信長と三好三人衆が和睦すると、三好三人衆と松永久秀陣営の再結合が起きるのである。
そして、松永久秀は、元亀2年(1571年)5月に安見右近を殺し、三好義継と共に足利義昭方を離反する。ところが、『広島大学所蔵猪熊文書』によると沼間任世の派遣や松浦肥前守の連絡を三好義継・松永久秀が突っぱねたようであり、『尋憲記』元亀2年7月27日によると、松浦氏は三好義継と戦っていた畠山秋高の陣営についたようなのだ。
つまり、松浦氏は、三好義継に意見を退けられたから離反したのか、離れていたから突っぱねられたのか、因果関係は不明だが、和泉ごと足利義昭方についたのである。『田代文書』等ではこの事態に篠原長房らが、和泉の調略に乗り出していることがわかる。
織田信長と松浦光
こうした結果、松浦肥前守という人物が、織田信長についた。『織田信長文書』613号(なお、この書状は従来天正3年(1575年)とされた来たが、嶋中佳輝に内容から元亀2年(1571年)でしょとされるのでそれに従う)によると、細川信良に疑われつつも、織田信長から対三好氏に松浦肥前守は期待されているのである。
『尋憲記』元亀4年(1573年)1月1日等では、以後も信長衆とみなされた松浦肥前守は、『織田信長文書』370号によると三好義継方の十河氏を調略し、河内半国を最低でも与えると約束したことを織田信長が柴田勝家に伝えている。
なお、ここまで長い間実名を書かずに来たが、『拾遺泉州志』収録の「かりそめのひとりごと」松浦光起請文写で、ようやくこの松浦肥前守が松浦光であることがわかる。なお、この書状は元亀3年(1572年)11月17日のもので、実はこの人物が松浦光であることはここで初めて確定するのだが、多分松浦孫八郎としてきたころから松浦光ではあったのだろう。
かくして、元亀4年(1573年)の足利義昭追放をもって織田信長が畿内の権力となったのだが、この時期も松浦光は相変わらず岸和田城を拠点に和泉の権力であったようである。ここで松浦光は、「泉州岸和田庄屋所蔵文書」によると、天正3年(1575年)の2月から4月にかけて、岸和田池造立にかかわっているようである。
そして、『板原家文書』で根来寺と松浦光の対立が話題となっていたり、『織田信長文書』補遺94号で松浦氏と根来寺に織田信長が和泉の一揆の寺院の破却を命じていたりと、天正3年5月までは松浦光の活動が確認できる。のだが、この後消息不明となる。なお、『泉邦四県石高寺社旧跡幷地侍伝』によると、松浦光は寺田生家・松浦家兄弟に殺されたらしいのだが、事実かは不明。
この後、「富田仙助氏所蔵文書」(『織田信長文書』649号)によると織田信長は松浦氏を解体せずに、松浦氏として用い続けることにしたようで、沼間任世、寺田生家、松浦家の3人が「四人之者」の系譜をひく松浦光の遺臣として、引き続き和泉国支配を管轄したようである。
その後の和泉松浦氏
その後、和泉松浦氏は寺田生家の弟である松浦安大夫という人物が継承したことになると俗に言われるが、だいたい似たような存在である若江三人衆と同様に、家中を任されていた家臣団筆頭たちが豊臣期に大名に昇格しただけな気もする。この松浦安大夫は俗説では松浦宗清とされるが、「富田仙助氏所蔵文書」、『真田家文書』からほぼ確実に松浦家のことである。
松浦家は、『信長公記』等によると本願寺攻めなどに携わり、木津川口の戦いの惨敗でも生き延びている。この後、天正6年(1578年)には佐久間信盛によって兄・寺田生家と共に命令を受けており、和泉衆は佐久間信盛の与力として活動していたのである。
ところが、天正8年(1580年)に佐久間信盛が追放され、以後織田信長の直属になったか、蜂屋頼隆の配下になったかは定かではない。ただし、馬ぞろえの時に蜂屋頼隆の下にいたことは確からしく、『天正九年松尾寺破滅記』によると、天正9年(1581年)に寺田生家とともに松尾寺を破却した模様。
以後、彼の事績は未だに活字化されていない『武家閑談』でしかよくわからなくなるので、ほぼ孫引きになるのを承知してほしい。本能寺の変後、松浦家は秀吉に仕え、中村一氏の配下になる。ここで、小牧長久手の戦いにおける根来寺・雑賀衆の蜂起を黒田官兵衛とともに撃退したことが、『真鍋真入斎書付』からわかる。
以後、『聚楽武鑑』等によると、伊勢国の井生川口の一万石の大名になったとされ、関ヶ原の戦いで西軍となり、『奥南旧指録』では宮部長煕、岸田忠氏、石川貞清と共に南部利直に預けられ病死したとされ、もしくは『武家閑談』では佐竹義宣に預けられて後に家老と一緒に殺されたという二つの異なる伝承が残っている。
なお、兄の寺田生家は四国攻めの勝瑞城攻撃で戦死しており、沼間任世は天正年間中に既に活動が見えなくなる(息子の沼間義清らは先述の木津川口の戦いで戦死)、俗に松浦宗清のいとことも言われる松浦安兵衛→松浦伊予守(俗説では松浦秀任)も大名になっていたが、大津城攻めの時に戦死しているため、和泉松浦氏の痕跡は、関ヶ原の戦いくらいまでに完全に消えてしまったようであった。
とはいえ、ここで松浦盛→松浦守→松浦光の系譜に属する存在は消えてしまったのだが、『泉州史料』に入っている星野恒の『和泉国三拾六士及在役士伝』によると、有馬豊氏の配下に岸和田の松浦孫大夫という人物がいたらしく、大坂の陣で豊臣秀頼方に加わり籠城したとの事。この人物は、『鳥取藩政史料』等によれば、結局池田忠雄に仕え、松浦作右衛門俊重・北村与三右衛門・北村権兵衛の3人の息子が跡を継ぎ、両北村家は因幡池田氏の家臣として続いていったということである。
関連項目
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