株式分割とは、企業の財務に関する言葉の1つである。反対の概念は株式併合である。
概要
定義
株式分割とは、発行済み株式をいくつかに分割し、発行済み株式総数を増やすことをいう。
分割比率1:3の株式分割なら、100株保有の株主は300株保有の株主になり、企業が保有する自己株式200株が600株になる。
性質その1 すべての株式が増え、自己株式も増える
株式分割は、同じ種類の株式のすべてを分割するものである。単一の株式を発行する会社ならすべての株式を分割する。種類株式発行会社(複数の種類の株式を発行する会社)なら会社が「Aという種類の株式を分割し、Bという種類の株式を分割しない」と決定することができる(会社法第183条第2項第3号)。
単一の株式を発行する会社で株式分割するのなら、持ち株比率に応じてすべての株主に対して無償で株式を譲渡し、企業が保有する自己株式についても無償で株式を増やす。
種類株式発行会社で「Aという種類の株式を分割し、それ以外の種類の株式を分割しない」と定めて株式分割するのなら、Aという種類の株式を持つすべての株主に対してA株保有比率に応じて無償で「Aという種類の株式」を譲渡し、企業が保有する自己株式の中にAという種類の株式があるのなら無償で「Aという種類の株式」を増やす。
株式分割によく似たものとして株式無償割当てというものがある(会社法第185条)。持ち株比率に応じてすべての株主に対して無償で株式を譲渡するものであるが、自己株式が一定のままである(会社法第186条第2項)。それどころか、自己株式を株主に渡して自己株式を減少させることもできる。また、株式無償割当ては、Aという種類の株式を持つ株主に対し、Aという種類の株式だけではなくBという種類の株式を譲渡することができる。
株式分割や「株主に対する株式無償割当て」によく似たものとして株主割当増資というものがある。持ち株比率に応じてすべての株主に対して有償で株式を譲渡することを提案し、それに応じた株主から財産の払い込みを受ける。自己株式が一定でありつづけるか、会社が自己株式を株主に渡して自己株式が減少するか、どちらかになる。また、株主割当増資は、Aという種類の株式を持つ株主に対し、Aという種類の株式だけではなくBという種類の株式を譲渡することができる。
以上のことをまとめると次の表のようになる。
単一の株式を発行する会社における株式分割 | 種類株式発行会社における株式分割 | 株式無償割当て | 株主割当増資 | |
すべての株主が持ち株比率に応じて株式を取得できるか | 取得できる | 会社が定めた種類の株式を持つ株主全員が、その種類の株式の保有比率に応じて取得できる | 取得できる | 資金と意思さえあれば取得できる |
企業が保有する自己株式が増えるか | 増える | 自己株式の中に会社が定めた種類の株式があるのなら、増える | 増えない。減ることもある | 増えない。減ることもある |
株主がどのような種類の株式を取得するか | 既存の株式と同じ種類の株式を無償で取得する | 既存の株式と同じ種類の株式を無償で取得する | 既存の株式と同じかまたは異なる種類の株式を無償で取得する | 資金と意思さえあれば、既存の株式と同じかまたは異なる種類の株式を有償で取得できる |
企業が出資を受けるか | 受けない | 受けない | 受けない | 資金と意思がある株主から出資を受ける |
性質その2 分割比率のぶんだけ株価が下がる
株式分割が行われると発行済み株式の総数が増えるので、株式の希薄化が生じ、EPS(1株あたり税引後当期純利益)が分割比率のぶんだけ小さくなり、ほとんどの場合において株価も分割比率のぶんだけ下落する。分割比率1:3の株式分割なら発行済み株式の総数が3倍になるのでEPSが1/3になり、ほとんどの場合において株価も1/3になる。
分割比率1:Aの株式分割が行われたとき、既存株主はA倍の数の株式を保有することになるが株価が1/A倍になるので「その株式を保有することで得られる資産金額」が変化しない。
性質その3 増配の代わりとして行われることがある
分割比率1:Aの株式分割が行われたとき、既存株主はA倍の数の株式を保有することになる。そうしたうえで企業が「1株あたりの配当金を維持する」と宣言したら、その場合は既存株主が受け取る配当金額がA倍になる。
本来なら企業は「1株あたりの配当金額をA倍に増額する」と宣言して増配するのが普通であるが、株式分割を併用した実質的な増配という手段を使うことがある。
長所
株式分割をすると発行済み株式の総数が増え、1株あたりの株価が下がり、少額で株式を購入できるようになる。すると小規模な個人投資家も株式を購入できるようになり、企業が資金を調達しやすくなる。
株式分割を行ったあとに公募増資をすると大きな金額の資金調達になることが期待できる。
ちなみに、株価が高すぎて小規模な個人投資家が手を出しにくい株式のことを値嵩株(値がさ株)といい、株価が普通の金額である株式を中位株といい、株価が安い株式を低位株という。「株式分割は値嵩株を中位株や低位株に変化させるために行われる」と表現できる。
短所その1 株式の流動性が高まりすぎて値動きが激しくなる
株式分割をすると発行済み株式の総数が増え、1株あたりの株価が下がり、少額で株式を購入できるようになる。すると小規模な個人投資家も株式を購入できるようになり、株式の流動性が高まって売買が活発になる。そうなると株価が大きく値動きしやすくなり、株価が不安定になりやすくなる。
短所その2 分割比率が少数倍の株式分割になると単元未満株が発生する
分割比率が少数倍の株式分割になると、単元未満株を保有する株主が増える。単元未満株には株主総会における議決権が付かない。
単元未満株を抱えた株主は会社に対して単元未満株の買い取りを請求できるし、単元未満株でも配当を受けることができるので単元未満株を抱えたままにすることもある。しかし、いずれにせよ議決権比率の低下を防ぐことができず、他の株主との格差が広がってしまう。
100株が1単元の企業があり、100株と1議決権を保有するAと、1,000株と10議決権を保有するBのみが株主であるとする。議決権比率はAが9.09%でBが90.91%である。
その企業において1:1.1の株式分割をすると、Aが110株と1議決権を保有して議決権比率8.33%になるのに対し、Bが1,100株と11議決権を保有して議決権比率91.67%になる。
短所その3 分割比率が少数倍の株式分割になると端数が発生する
1株1議決権の企業において1株保有株主と4株保有株主と6株保有株主と10株保有株主がいるとする。その企業で1:1.1の株式分割をすると、次の表のような処置が施される。
株式分割前 | 1:1.1の株式分割後 | |
株主A | 1株保有、議決権比率4.76% | 1株保有し、「1株を競売にかけて得られた代金」の0.1/1.1倍を得て、議決権比率4.35%になる |
株主B | 4株保有、議決権比率19.05% | 4株保有し、「1株を競売にかけて得られた代金」の0.4/1.1倍を得て、議決権比率17.39%になる |
株主C | 6株保有、議決権比率28.57% | 6株保有し、「1株を競売にかけて得られた代金」の0.6/1.1倍を得て、議決権比率26.09%になる |
株主D | 10株保有、議決権比率47.62% | 11株保有して、議決権比率47.82%になる |
株主E | 1株保有して、議決権比率4.35%になる(競売で1株を購入した) |
1株を保有する株主は「1.1株を保有する株主」にならず、端数を切り捨てられて1株を保有する株主のままになる。一方で10株を保有する株主は11株を保有する株主になる。
株主Aの端数は0.1株で株主Bの端数は0.4で株主Cの端数は0.6である。端数が出た株主の端数の合計は1.1株である。この1.1株の端数を切り捨てて1株として、その1株を競売にかけ、代金を得る。得られた代金を端数の比率によって株主Aと株主Bと株主Cに分配する(会社法第235条)。場合によっては、競売で株式1つを獲得した株主Eが出現することになる。
分割比率が少数倍の株式分割をすると、端数の合計となる株式を競売にかけるなどの面倒な事務的処理が発生してしまう。また、端数が発生する株主の議決権比率が下がってしまう。
必要な手続き
株式分割をするには、取締役会を設置しない会社なら株主総会の普通決議が必要であり、取締役会を設置する会社なら取締役会の決議だけを必要とする(会社法第183条)。
複数の種類の株式を発行している会社(種類株式発行会社)において、株式分割で発行済株式総数が発行可能株式総数を超える際は、株主総会の特別決議によって定款を変更して発行可能株式総数を増やすことが必要となる(会社法第466条)。
単一の種類の株式だけを発行している会社において、「株式分割の日の発行可能株式総数」を「株式分割の前日の発行可能株式総数」で割ったときの数字が株式分割の倍数以下という内容の定款変更をする際は、取締役会の決議だけが必要になる(会社法第184条第2項)。
単一の種類の株式だけを発行している会社において、「株式分割の日の発行可能株式総数」を「株式分割の前日の発行可能株式総数」で割ったときの数字が株式分割の倍数を超えるという内容の定款変更をする際は、株主総会の特別決議が必要になる(会社法第184条第2項、第466条)。
単一の種類の株式だけを発行している会社において株式分割が1:2で行われ、株式分割の前日の発行可能株式総数が1万株である場合、「株式分割の日の発行可能株式総数が2万株である」という定款変更なら取締役会の決議だけが必要になり、「株式分割の日の発行可能株式総数が2万1千株である」という定款変更なら株主総会の特別決議が必要になる。
関連項目
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