桂枝雀(かつらしじゃく)とは、上方落語の噺家である。その天才的な笑いのセンスから、『浪速の爆笑王』とも言われ、お茶の間に広く愛された。本名は前田達(まえだとおる)。厳密には桂枝雀とは噺家の名跡であるが、一般には二代目桂枝雀を指す。弟子に三代目桂南光、桂雀々などがいる。
概要
芸風を一言で言うと「緊張と緩和」である。とにかく饒舌で話しぶりにメリハリがあり、豪快なリアクションを振る舞いながらも、中身は非常に計算された緻密なものであった。また、普段は仏教学や心理学の書を読み漁るなど、博学多識であった。
高校時代は苦しい家計を助けるため、アルバイトをしながらその片手間に勉強をして、神戸大学文学部に入学するも、大学がどんな所かだいたい分かったと言ってわずか1年で中途退学、桂米朝の門を叩き、噺家となる。
そこから何度も自分の芸に悩んでは、新たな芸風を確立していき、桂枝雀襲名後(それまでは桂小米という名であった)は独演会も常に満席となるなど、師匠に匹敵するほどの人気を博す。だが、それでも常に自分の笑いや落語を求める余り、時折鬱に陥ってしまい、それを周囲に打ち明けても理解してくれる人もいなく、孤独感に嘖まれ、とうとう首を吊り、弟子(桂雀々)に発見されるも、意識が戻らぬままその1か月後に59歳の生涯を閉じた。
そんな、あくまで知的で、笑いの求道者であった一面から、「自分の笑いの原点であり、心の師匠」と評する松本人志を初め、千原ジュニアや月亭方正(落語家に転身したきっかけが、桂枝雀の『高津の富』を観賞したこと)など高く評価している芸能人も多い。
笑いの研究
桂枝雀の求道者らしき一面として、古典落語を、体系的にサゲ(落ちのこと)の種類を4種類に分類したことは有名。これは、「ドンデン」「謎解き」「へん」「合わせ」と呼ばれるもので、「ドンデン」と「謎解き」、「へん」と「合わせ」は対になっている。理屈を考えれば、落語だけでなく、コメディや漫画などでもけっこう使われていたりする技法である。
- ドンデン
物事が一旦落ち着いたかと思えば、最後に予想外の結末が待っていたという展開。いわゆる、どんでん返しである。有名な噺では『愛宕山』、『看板のピン』、『火焰太鼓』など。 - 謎解き
物事が謎や矛盾に満ちた状態から、一挙に解決に至る展開。無論、その解決に至る方法は、「その発想はなかった」ようなウィットに富んだものである。有名な噺では、『皿屋敷』や『猫の皿』、『寝床』など。 - へん
へんとは「変」のことであり、既に嫌な予感しかしない状態から、更に大変な事態を迎える展開。有名な噺では『池田の猪買い』、『千両みかん』、『次の御用日』など。 - 合わせ
合わせとは、噺が期待通りの展開で落ちる、いわゆるお約束で終わる展開。ダジャレなどの言葉遊びの地口落ちやパロディもこれに分類される。有名な噺では『四段目』、『質屋蔵』、『転失気』など。
ちなみに、この理論に対し、師匠の桂米朝は「勝手に言わせとけ」と冷たい反応だったそうである(米朝自身、枝雀のことを自分を超える逸材と評価していたが、理論的、体系的な分析には関心が薄かったようである)。
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