『機動戦士ムーンガンダム』とは、福井晴敏原作、虎哉孝征作画の『ガンダムエース』にて連載されている漫画である。
概要
『機動戦士ガンダムUC』に続く、福井晴敏が原作を務めているガンダム作品である。
元々は『UC』企画提出前に「MOONガンダム」という初期案があり、よくある外伝物としてこれを原作として提出したところ「もう少し全体を鷲掴み出来るような作品」を要求され、『UC』の企画を新たに立ち上げたという経緯がある。UC完結後にその初期案をベースにもう一度作品にしようと立ち上がったのが本作となる。
福井は『ZZ』に於けるムーン・ムーン回やタイガーバウム回を「捨て回」と表現した上で「詳細な設定を取り寄せたところ、シャングリラ/ムーン・ムーン/タイガーバウムと言った独立型コロニーには数多くの細かい設定やコンセプトアートが残されており、これを作成した富野監督はただの捨て回にするつもりは無かった筈。特にムーン・ムーンは後に生まれた『∀ガンダム』の雛形ではないかと想像する」「複雑化していった宇宙世紀を、忘れられたコロニー生まれで何も知らない主人公ユッタを通して、もう一度1から描いていく」といった着想からムーン・ムーンを舞台としている。
曰く「多くのガンダムは戦争の悲惨さを描く事が多いが社会の悲惨さを描く事が少ない為、ムーン・ムーンを通してそこもクローズアップしていく」ように描いており、コロニーを維持するための犯罪・反社会的要素や宗教・民族の対立等が多数盛り込まれている。
メカニックデザインは『Gのレコンギスタ』でメインを務めた形部一平、作画も担当している虎哉孝征によって描かれている。形部はGのレコンギスタを視聴した際に「宇宙世紀に慣れてるメカデザイナーではなく独自のラインを推していきたい」としてこの人しかいないとアピールし、自身の小説・原作の仕事で何度も手を組んだ虎哉に依頼して本企画がスタートした。
2021年11月、ソーシャルゲーム「機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE」内でストーリーの一環でアニメーションが制作される事が発表。「ガンダムUC」や「閃光のハサウェイ」を手掛けるサンライズ第一スタジオが制作を務める。
あらすじ
U.C.0092。忘れられたコロニー「ムーン・ムーン」に住むユッタ・カーシムは、コロニーに漂着した謎のガンダムヘッドに興味を示し干渉した結果、15歳ながらもコロニー修理のために外に派遣される使者に選ばれる。
ムーン・ムーンの外ではロンド・ベルの「ラー・ギルス」とネオ・ジオンの「アタラント3」が戦闘を繰り広げており、アタラント3に搭乗していたジオンの姫ミネバ・ラオ・ザビが宇宙に投げ出されてしまう。
戦闘に巻き込まれたユッタはガンダムヘッドを通し、己の死を願ったミネバと共鳴、彼女を救い出す。
コロニー修復を条件に入港したアタラント3は光族と小競り合いしながらも交流していたが、「ミネバの存在が外に漏れるのを防ぐ」という名目に、ネオ・ジオンのリュース・クランゲル少佐が「シュランゲ隊」を派遣、味方やコロニーを巻き添えに証拠隠滅を図った。
敵対していたネオ・ジオン含め殆どが機能停止に追い込まれ、コロニーを傷付けるわけにも行かず苦戦を強いる連邦のサフィラ・ガードナー中尉。膠着した両者の元にムーン・ムーンを守る為に一つの機体が姿を現す。豪雨を晴らしながら現れたそれは、ユッタ・カーシムの駆る「三日月を背負った巨人」だった──
キャラクター
主要キャラクター
CVはゲーム「機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE」内アニメキャストより
- ユッタ・カーシム cv.古谷亜南
- 本作の主人公。15歳。機械技術に触れる事を禁忌としている光族の民でありながら機械技術に興味を持つ明るい少年。
ムーン・ムーンに漂着したガンダムヘッドとサイコミュを通し繋がってしまった事で、宇宙に漂流して死を覚悟するミネバと共鳴してしまう。ミネバと感情を共有してしまい、ミネバが嬉しく無ければ自分も嬉しくないと思い、彼女が笑顔になれるように行動する。 - ムーン・ムーンを守りミネバを救出するためにムーンガンダムを駆り出撃する。
- ミネバ・ラオ・ザビ cv.宮下早紀
- 本作のヒロイン。13歳。『Ζガンダム』で見せたような幼い面は鳴りを潜めているが、後に『UC』で見せるような勝気な性格は全く見られず御淑やかなキャラとして描かれている。ジオンの姫としての責務を果たそうとするが「自分の言葉で喋っていない」等と評される。
火星の方から来たらしく、過去に何らかの悔いを残しており、自身の命について投げやりな事が多い。 - 宇宙に投げ出されてしまい死んでしまっても構わないと思った直後に、ユッタとニュータイプ同士の邂逅を果たす。
- リナート・リヒト
- ムーン・ムーンの文化遺産を守るリヒト家の長男。光族の長の妹であり『ΖΖ』で死を遂げた「ラサラ・ムーン」とはかつて幼馴染だったため、機械技術ひいてはガンダムにあまり良い感情を持たない。リヒト家の人間として、ムーン・ムーンの「闇」を知る数少ない人物。
- 原作の福井曰く「裏主人公」にあたる存在。ムーン・ムーンをネオジオンに占拠されてからは、反乱軍としてガザGを奪取し乗りこなす。
- アゴス・ラガート cv.畠中祐
- ネオ・ジオン「アタラント3」に所属する強化人間の青年。『Ζ』時代の強化人間のような精神異常をきたしていない心優しい青年だが、後の『CCA』の「ギュネイ・ガス」のようなサイコミュ能力は発揮出来ず、「不良品」等と呼ばれる。
- バルギルのパイロットであり、同じ機体に乗るユッタの良き理解者となる。
- サフィラ・ガードナー cv.沢城みゆき
- シャア捜索の為にラサ司令部からロンド・ベルに派遣された女性。飄々とした大人の女性だがかつて『ΖΖ』でコロニーを落とされたダブリンの被害者であり、心の内にとある復讐心を秘めて激情を表す事もある。
- ダブリンで活躍した「ジュドー・アーシタ」の愛機ΖΖガンダムの系列機シータプラスに搭乗する。シータプラスを放棄した後に、アムロ・レイよりリガズィードを受領してラー・ギルスとユッタを護衛する。
- サラサ・ムーン cv.熊谷海麗
- 『ΖΖ』にも登場したムーン・ムーンを支配する光族の長。妹ラサラとの別れを経て傀儡政治と化していた過去とは違い一族の長としての資質・責任と民を思う優しさを兼ね備えている。
- 先代の父によって全く触れられずに育ったムーン・ムーンの「闇」について知る事になる。
- レイメル
- ムーン・ムーンの「闇」を司るアルツトのリーダー。ネオ・ジオンのリュース少佐と手を組み何かを企んでいる。
- リュース・クランゲル cv.坂本真綾
- ネオ・ジオン少佐である少年。その無邪気な性格や外見とは裏腹に残忍な性格をしており、ミネバの存在が漏れないようにロンド・ベルや味方ごとムーン・ムーンを潰そうとしたり、任務失敗した部下を処刑したりと過激な反面、同年齢に見えるユッタに友人のように接したりする。
- ゲーマルクの系列であるニュータイプ専用機ダグ・ドールに搭乗する。
- 原作の福井曰く「この漫画では数少ない表裏の無い性格をしているサイコパス」と評される。
サブキャラクター
- カレル・カーシム cv.麻生智久
- ユッタの祖父であり元ジオンの人間。ジオン・ズム・ダイクンの同志であったがその理念の違いから彼の元を離れ、UC.0052にムーン・ムーンに落ち延びた。
その為他の人間に比べれば機械に精通しており、機械関連で何か困った事があれば「お爺」の愛称で頼られる。 - 息子クレトや光族の先代長エルドを外の医療技術なら救えた病を掟に従い見殺しにした。
- サキ・メントー
- ユッタの幼馴染。ユッタが機械いじりをする事を快く思ってないが、彼に好意を向けそれらの禁忌も受け入れる努力をする。しかし当のユッタがミネバに夢中になり、激しい嫉妬心を覗かせる。
- リセ・ジェナロ
- ネオ・ジオンの偽装貨物船「アタラント3」の艦長。船のクルーからは「オフクロさん」と呼ばれる男気溢れる女艦長。幼いながらも時代に翻弄されるミネバを哀れに思い、自分たちに攻撃を加えた上司リュース少佐を快く思っていない。
- イリア・パゾム
- 元ハマーン直属のネオ・ジオン女士官。グレミー反乱に伴うネオ・ジオン紛争終結の戦いから3Dと共に戦線を離脱し、リュースの部隊と合流していた。
現在はリュースの部下となり専用の指揮官用ザクⅣを駆ってムーン・ムーンを制圧する。 - アムロ・レイ cv.古谷徹
- 一年戦争の伝説的なパイロットでロンド・ベルの一員。シャアの行方を追い続けている。
- ΖガンダムやΖΖガンダムの行方が分からない上に他ガンダムタイプの受領を許可されない為、自分が設計したガンダム「νガンダム」の設計に着手する。
- シャア・アズナブル
- ネオ・ジオン総帥。地球で後の紛争の為の準備をしている。U.C.0092に地球を捜索していたアムロとは入れ違いになったようだ。
MS
ネオ・ジオン
- AMS-123X-X ムーンガンダム
- AMS-123X バルギル
- AMX-015-4S ダグ・ドール
- AMA-103 メドゥッサ
- AMX-104L アルス・ジャジャ
- AMX-117RG/LG ガズアル・グラウ/ガズエル・グラウ/ガズ・グラウBB
- AMX-116 ザクⅣ/指揮官用ザクⅣ
- AMA-X9 ギガッザム
- AMX-020 ガザG
- EMS-13 アッグジン
- AMX-107P サイコバウ
- MSN-04X2 サザビー初期試験型(重力下仕様)
連邦軍
- MSZ-010A1 シータプラス
- RGM-86RF/FA ジムⅢパワード/ブルドック
- RGM-88X ジェダ
- RGC-90XC ジェダキャノン(ジェダブル)
- MSK-008R リック・ディジェ/改
- RGZ-91X リガズィード
その他
用語
ムーン・ムーン
『機動戦士ガンダムZZ』に登場した、コロニー開発計画の最初期に作られた「忘れられたコロニー」。
サイド1が完成した西暦時代にその管理を放棄され、一部の不法移住者等が暮らしていた。UC.0050より遥か前に自然への原始回帰を訴えた一味がその覇権を握り、リゾート施設の一部にする予定だったピラミッド状のオブジェを「神殿」とし、半世紀以上の月日を掛けて独自の文化を作り上げた。100年以上もの間外界の宇宙世紀とは交流を断っていた珍しいコロニー。
UC.0030前後に運用を放棄されたMS・MWの始祖にあたる「キャトル」を、朽ちた機械文明の象徴として「御神体」と称している。
初期コロニー故に外壁も薄く、放射線対策も万全ではないまま老朽化していたため、現存するコロニーの中では疾病率が異常に高い。医療技術等も放棄しているため、それらが原因で他コロニーに比べ平均寿命が短く、一気に原始化が進んだとされる。
一年戦争以前から宇宙の地図から不自然に消され、「意図的に忘れられた」形跡が見つかり、かつて「ブライト・ノア」率いるアーガマが偶然入港した事があるが、それらの記録も連邦上層部の手によって抹消されている。
またジオンからは一年戦争以前、世捨て人が立ち寄るゴミ捨て場のような扱いを受けていた。一年戦争後はその存在も完全に忘れられており、現宇宙世紀のコロニー住民はムーン・ムーンを認識していない。
コロニー内にある施設は全て自然の物に見えるが、神殿や石造りの建物は見てくれだけ合わせた強化プラスチックであり、またコロニー内で使用する松明はホログラフが使われ、祭事等を除いて滅多に自然の炎を使う事は無い。
「機械文明そのものとも言えるコロニーに住みながら機械文明を否定する」という二重規範にメスが入れられ、それを成すための「闇」が物語を追うごとに垣間見えてくる。
光族(ヒカリ族)
『ZZ』にも登場したムーン・ムーンを支配する、機械文明を放棄した一族。ΖΖガンダムにまつわる事件から機械文明に対する考えは変わりつつあるも、当時コロニー内で爆散したR・ジャジャの頭部が処分されずに森の中で放置されている様子が描かれている。
光族は何らかの理由でMSパイロット適性に優れた者が多く、機械に精通していたユッタはともかく忌避していたリナート等、初めてにも関わらず難なくMSを乗りこなしている。
リーダーは当時と同じサラサ・ムーンが務めており、『ZZ』での経験を経て成長した彼女の手腕で歪ながらも穏やかな日々を過ごしていた。
アルツトの民
「機械文明を再び取り戻すべき」としてかつて光族とのムーン・ムーンに於ける覇権争いを繰り広げ、負けた一族の末裔。「子捨ての森」と呼ばれる一画で住民たちに避けられながらも暮らしている。
唯一コロニー外との交易ルートを所持する一族であり、コロニーに異常が見られると避けられている筈の彼等に頼らなければ、光族は生きていけないという歪な関係の上に成り立っている。子捨ての森に光族が捨てた新生児はアルツトの民の一員となる。
光族の長サラサも知らない「闇」を抱えており、リーダーのレイメルとネオジオンが共謀してムーン・ムーンを支配する。
リヒト家
光族の中でも文明の保持を担った家系。人の文明を完全に捨て去り獣とならないように正しい文化芸術を唯一味わう事が出来る。ムーン家とは両輪となり民の模範となっている。
アルツトとの関わりを持つことが許可されている唯一の家系であり、蒐集品と称しアルツトを経由して外の文明を持ち込んでいる。
メディシン
ムーン・ムーンと外部から定期的なコンタクトを取っている謎の人物。ムーン・ムーンで「禁忌」とされてる何かを製造させて輸出させている。
光族の大半は「禁忌」を含めその存在を知らず、アルツトの民が連絡を取り合っている。
関連リンク
関連項目
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