機関車とは、動力を持たない客車・貨車などを牽引するための動力機関を持った鉄道車両で、乗客や荷物を載せる設備は無い。
機関車を使った方式は電車・気動車と対する概念として「動力集中方式」と呼ばれる(電車・気動車は動力分散方式と呼ばれる)
また、人に対して『機関車』を用いる場合は、引っ張ってくれるもの、力強いことなどの意で使われる。
概要
機関車の種類は、動力源によって以下のように分類することもある。
- 蒸気機関車(Steam Locomotive:SL)
- おもに石炭を燃焼し、ボイラーで水を蒸気に変え、ピストン運動から回転運動を得ることで出力を得る。一般に「機関車」という場合、この蒸気機関車をさすことが多い。炭水車の有無、動輪の配置などからさらに細分化される。日本初の鉄道が開通して間もない頃には「陸蒸気」とも呼ばれた。
- ディーゼル機関車(Diesel Locomotive:DL)
- ディーゼルエンジンを動力源とする。日本においては長らくトルクコンバーターを使って車軸に動力を伝える「液体式」と呼ばれる方式の機関車が主流であったが、近年はディーゼルエンジンから発電機を通してモーターを駆動する「電気式」と呼ばれる方式に置き換わってきている。「電気式」は「液体式」に比べて比較的静かなのが特徴である。
- 電気機関車(Electric Locomotive:EL)
- 架線より電気を取り込み、電流、電圧を制御しながらモーターを駆動させることによって走行する。(蓄電池駆動も存在する。)使用できる電気の種類により、直流、交流、交直流に分類される。
上記それぞれの機関車は、マニアの前では決して「電車」と呼んではいけない。(電車とは乗客が乗れる、荷物を載せられる設備を持つ車両自体に電動機が取り付けられていて、電気で動く鉄道車両のことを言う。)
なお近年では動力車操縦者運転免許の都合上、キヤ143形気動車の様に乗客が乗れず客車・貨車も引っ張るのに単なる気動車・電車の車両も登場している。
人に対して用いる場合は、鉄道の機関車にたとえた、グイグイ引っ張る様を形容として用いるが、死語なのかもしれない。
また、『暴走』を前に付けて、勝手に突っ走るヤツのことを言うこともある。
性能等について
機関車列車における動力集中方式と気動車・電車列車における動力分散方式との比較は以下のとおり。
現在では長所に比べ短所が目立つため動力集中方式は貨物列車や寝台列車などを除き淘汰されつつあり、特に日本では顕著である。
最後に残った定期客車列車であるはまなす、また臨時寝台特急としてカシオペアも運行されていたがこれらも北海道新幹線開業後は廃止が予定されており、ななつ星などの一部の観光列車や動態保存や特殊事情による存続列車を除き日本では動力集中方式の客車列車が全滅することになる。
また、新幹線開業時に救援用に存在したディーゼル機関車も既に廃車から20年以上経過しており、速達性を目的とした機関車在来線特急も電車気動車に置き換えられてから長い時間が経っているため機関車牽引の高速列車技術は既にロストテクノロジーと化している可能性が高い。
長所
長大編成の時は安い
古い試算では気動車編成の場合は5両、交流電化の場合は10両、直流電化の場合は12両以上の場合コスト的に有利とされている。
これによれば地方のラッシュ時などに一部残っている6両編成以上の気動車や多くの気動車特急はコスト的に不利ということになる、また首都圏のJR東日本などを中心に存在している15両編成の電車は多くコスト的に不利という結果となる。
しかしながら、現在では動力分散方式の技術進歩のほうが速いため、これでは動力分散方式の方が有利とされている。
更に後述の短所の影響が非常に大きいため日本で動力集中方式が旅客列車として顧みられる可能性は限りなく低い。
牽引力などの観点から有効積載量に有利
モーターなどを載せ無くてはならない動力分散方式と比べ、大量輸送が可能であり、これが貨物列車として現在でも動力集中方式が広く用いられている原因である。
また、同様の理由で2階建て(ここでは物理的な意味であり、多層建て列車という意味ではない)車両を導入することも比較的有利である。
機関車付替えをすれば柔軟な運用が可能
電化区間と非電化区間の直通や電化区間での電化方式の違いなども、機関車付け替えで可能になるため、国際列車に有利とされる。
ただし、他の国と物理的に線路で繋がっていない日本ではこの長所は殆ど役に立たず、電化方式の違いは羽越本線のように気動車を使ったり、交直流電車を使うのが普通である。
機関車付け替えは機関車側で見ても有利で、国鉄時代は夜通しで貨物を引いて貨物駅に着いた後、貨車を切り離し客車に繋げかえ、朝ラッシュの通勤通学輸送を担当することもあり、効率的な機関車運用が出来ていた(貨物が遅れると客車を引っ張る機関車が居なくなり、遅延や運休になるリスクも付いて回るが)。
唯一、ディーゼル機関車や気動車の乗り入れが不可能であり、また函館以北が非電化という事情のあるいわゆる「青函絡み」の列車のみ動力集中方式が必須であるが、北海道新幹線の開業で、最後の定期客車列車であるはまなすは廃止となってしまった。
比較的騒音・振動が少ない
静寂性で有利とされる、これが寝台列車として客車が残っていた理由であるが世界初の本格寝台電車として583系電車が登場してから風向きが変わり、また「最後の寝台特急」サンライズに存在している285系が好評を博したこと、また0系電車から始まる新幹線電車の列車の振動・騒音の少なさが大いに評価され、現在ではほとんど差がないという人も多い。
現にフランスの機関車方式で運転されるTGVの乗車記には「新幹線より揺れる」などという意見も少なくない。
短所
列車重量の不均衡
機関車の重量が極端に重く、逆に客車では軽いという不均衡からバランスが悪く、地盤の軟弱な地域では特に振動が激しくなる。
また、その重量から線路を痛めやすく保線費用の意味で不利となり、下記の短所と合わせ、列車本数の多い場所では決定的にダイヤの邪魔になる。新幹線が動力分散方式を採用した決定的な理由の一つ。
加速性能が悪い
動力を集中するという原理上、機関車でしか加速を出来無いため、モーター車全体で加速が可能である動力分散方式と比べ加速性能、特に起動加速度が非常に悪くなる。
高速鉄道の起動加速度比較を見ても、機関車方式の不利さは際立っており、逆にN700系などでは通勤電車並みの起動加速度を実現している。
減速性能が悪い
電車のように電力で回生ブレーキを有効に用いることが出来ない。空気ブレーキ主体で減速することが多く、エネルギーのムダになる。
また、動力分散方式の場合モーター車全体でブレーキを掛けられるが、動力集中方式の場合後ろから客車に押される格好になるため物理的に減速性能でも不利である。
また、新幹線では300系で付随車に搭載していた渦電流ブレーキのために、付随車の重量が電動車より重くなるという逆転現象が発生。700系で軽量化により同等となったものの、N700系では運転台のある制御車を除き全て電動車となっている。
高速鉄道に不利
TGV登場時は、高速鉄道には動力集中方式が有利と言われていたが現在ではフランスも次期高速鉄道としては動力分散方式を採用するなど高速鉄道における動力集中方式の評価は低い。
300系での逆転現象や線路を痛めやすい高速鉄道においてはなおのこと保線において不利なことが相まって現在の世界の潮流は完全に動力分散方式の電車となっている。
カーブ・勾配に弱い
特に勾配には弱く、古い鉄道が曲がりくねっているのも、蒸気機関車などにとっては短い距離でも急勾配を登るより、長くなってカーブになってもいいから勾配を緩くする方が有利だったからである。
原因としては様々であるが、重量不均衡が主な原因の一つ。
気動車・電車列車の場合、機関車列車と比べて重量の不均衡が少ないため、カーブや勾配にも強い。東海道新幹線のような悪線形の高速鉄道でも285キロ運転が可能な理由である。また加速・減速性能に優れているのと相乗効果で高速を長時間維持できるため、表定速度の面で有利となる。
TGVが対新幹線用のイメージ戦略で最高速度を強調した根本的原因と言われる。新幹線派からはカーブや勾配に弱いため、直線番長と揶揄されることもある。
在来線においては特にカーブ勾配がきつい場所も多く、ダイヤ編成において邪魔になりやすい。
機関車の分だけ編成が長くなる
機関車は重く、大抵客室には使えない(例外はあるが)、そのため機関車の分だけホームを長くしたり、はみ出したりする必要がある、編成定員の面でも不利である。
発車・停車するときの衝撃が大きい
実は機関車列車、特に寝台特急に乗ったことある人ならわかると思われるが、発車するときの衝撃や駅などに停車するときの圧力感は電車より大きい。著者も寝台特急「あけぼの」に乗った時に何度も停車する列車の衝撃に辟易した経験もある。そのため、乗り心地の面で不利である。これは一個の連結器に係る牽引力が大きくなるためである。
運転技術が卓越している機関士ならばこれらを軽減できるものの、熟練技術が必要な上にダイヤ編成において不利になりがちである。
折り返し運転やワンマン運転が出来ない
機関車の動力機のスペースの問題や、機関車が終点についた時、機回しや推進運転の必要性よりこのような短所が存在する。東海道線東京口で80系電車で電車運転を開始した理由の一つでもある。ただし、諸外国では前後に2両機関車をつなげたプッシュプルや客車にも運転台を付けて推進運転を行って克服しているケースもある。
冗長性の面で決定的に不利
動力集中方式の場合、一定の距離で機関車を交換したり、予備の機関車が必要になるが、電車列車の場合、MT比がよほど低くないかぎりは一部のユニットが故障しても別のユニットが生きていればそのまま運転することも可能である。
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