欧州車とは、ヨーロッパ大陸で製造される自動車の総称である。ヨーロッパ車と言われる事も多い。
欧州車の範囲
言葉の原義に照らし合わせれば、ヨーロッパ大陸で作られる車になるが、日本においては正規輸入されているドイツ車やフランス車、イタリア車などと言った具合にある程度範囲が限定されてしまう。
日本においてはイメージ戦略上、日系メーカーでありながら敢えて欧州製を強調して販売するケースがある(トヨタ・アベンシス、スズキ・スプラッシュなど)
欧州車の特徴
国によって、大きく車の性格が異なってきてしまうので一概にこうであるとは言えないのが特徴である。この項目では日本国外の事情も織り交ぜて説明する。
一般的には固い足回りがあげられる。これはドイツのアウトバーンの存在があり、長距離の運転においても安定して走行出来るようにする為である。ヨーロッパはアウトバーン以外にも様々な高速道路があり、国を跨いだものも珍しくない為である。その中でプジョーは例外的に猫足と言われるほどにしなやかなものとなっている。石畳の多いフランスでは固い足回りは不快以外の何物でもない為であり、同じようにシトロエンもハイドロニューマチックという非常に特殊な足回りを採用するなどである。
日本ではあまりピンと来ないかもしれないが、ディーゼル車が主流である点も大きい。国によってはシェアがガソリン車とトントン、もしくはそれ以上である程であり、日本車でもラインナップにない車種でもディーゼルが存在するほどである。これは排ガス規制においては日本やアメリカがNOxの量を重視してたのに対してヨーロッパではCO2の量を重視していた為である。その為、ガソリン車に比べてCO2量の少ないディーゼル車は優遇されていたが、経済性の高さや近年の高性能化でガソリン車を凌駕するほどの性能を得た事で非常に高い人気を誇る。
ディーゼルとセットでマニュアルトランスミッション率が高い事も特筆される。単純に経済性の面もあるがヨーロッパ車のエンジンは車格に対して排気量が低い場合があり、少ない排気量でパワーを最大限発揮させる必要のある場面ではパワーロスや運転者の意図とは異なる変速が行われる事のあるオートマを敬遠する場面が多い。また、オートマも独自の変化を遂げており、日本車やアメ車がトルコン式がほぼすべてであるのに対して、マニュアルのギアボックスをベースにした「セミオートマチック」が多い。
日本に導入される小型車は1400ccや1600ccといった中途半端に見える排気量があるが、これは当地の税金制度に合わせたものであり、前者はともかく、後者の場合は日本ではたった100ccで2000cc分の税金となってしまう。
日本における欧州車
1980年代以降、現在に至るまで日本車が影響を受ける車として欧州車、特にドイツ車があげられる。例としてドアミラーに取り付けられるウィンカーの走りはメルセデス・ベンツである。それまで、アメ車に倣った部分の多かった高級車はベンツやBMWのようなコンセプトを倣ったものが増え、足回りも引き締められた。
古くはフォルクワーゲン・ビートル(タイプ1)が知られた。この車は空冷であり、まだ日本の自動車の黎明期であった1960年代における自動車は暖気運転が必須であった。その為、一刻一秒を争う医者、特に開業医にとって、いち早く患者の元へ向かえるビートルはおあつらえ向きであり、「医者の車」というあだ名があったほどである。また、スーパーカーブームによって、フェラーリやランボルギーニが広く紹介され、一大ムーブメントとなった。
とはいえ、1980年代半ばぐらいまでは輸入車と言えばアメ車な時代であり、ヨーロッパ車は好き者であったり、ちょっと変わった物に乗りたい人以外にとってはビートルなどの車種を除けばまだまだ知名度は高くなかった。しかし、1980年代以降、それまでヤナセのようなインポーターからの輸入から、日本法人設立による直接的な輸入に切り替えるなど、欧州車メーカーが攻勢に転じてくると、徐々にブランドの知名度が浸透していった。時折りしもバブル経済、高級車はメルセデス・ベンツやロールスロイスがキャデラックなどのアメリカ製高級車にとって代わって街中を走るようになった。特に六本木界隈ではBMW3シリーズ(当時)が六本木カローラ、メルセデス・ベンツ190Eが小ベンツと言われた具合に、若干の茶化したイメージがありながらもその存在感は広く知られてきた。その後、バブルは弾けたがその後、小型車が導入されるとこれまた円高の影響で安価に手に入れられるようになった。
現在は一頃の熱気は落ち着いているが、近年は個性的な車種やブランド力から根強い需要が存在し、その中でも売り上げを伸ばしているケースが存在する。
欧州の商用車
商用車は日本と同じように、バンベースの小型貨物車から、車両総重量・20t超又は車両連結総重量40~44tの大型車まで幅広くある。どんな商用車を作るかはメーカーによって違いはあるが、軽量なものは乗用車を製造するメーカー及びブランドが、重量が大きいものは専業メーカー・ブランドが製造する傾向にあるのも日本と似ている。
商用車を製造する会社で最も大きいのはダイムラー(独)であり、同社は世界規模でも最大の商用車メーカーになっている。それ故に、傘下のメルセデス・ベンツは小型貨物から大型トラックやバスに至るまで、欧州で最も多く見られる商用車ブランドである。他にボルボグループ(瑞)に属するボルボ・トラックス及びバス(瑞)とルノー・トラックス(仏)、パッカーグループ(米)のDAF(蘭)、フォルクスワーゲングループ(独)のMAN(独)とスカニア(瑞)、フィアット(伊)のIVECO(伊)、タトラ(捷)などのメーカーが鎬を削っている。
特徴
ヨーロッパの小型・軽量の商用車に特徴的な事は貨物バンに関してはフルゴネットと言われる形態が存在している事である。前半分は乗用車のものと同じであり、後半分は屋根の高いバンボディを採用している。また、駆動方式も小型以上にあってもFR方式を採用する日本車やアメ車と違い、FF方式が多く採用されている。
大型車で特徴的なのは、一つはスリーパーなど生活空間としての装備が充実していること。理由は、長距離輸送にあっては一回の運送(航海)が長期間に及ぶことが少なくないためである。それ故に、長距離輸送で多用されるセミトラクタを中心に、スリーパーの快適性や様々な小物を収納する収容力の向上に、どのメーカーも力を入れている。大型車におけるもう一つの特徴は、セミトラクタのシャシーレイアウトが豊富なこと。日本でも見られる総二軸・駆動一軸の4x2、総三軸・駆動二軸の6x4はもちろんあるがそれだけではない。総三軸・駆動一軸の6x2、総三軸・駆動一軸・リフトアクスル一軸の6x2/4などがある。これに加えてリジッドシャシー(単車)も色々とあるので、シャシーバリエーションはかなりのものになる。
セミトラクタのシャシーが豊富に用意される背景は、ヨーロッパではEU域内でも規制がバラバラであること、そして長距離輸送でセミトラクタ・セミトレーラが多用されることがあげられる。つまり国境を超えた輸送でセミトラクタ・トレーラは多用されているのだが、行く先々の規制がバラバラということなのだ。EU指令という規制のガイドラインはあるものの、必ずしもEU加盟国がこの通りの規制をかけているわけではない。
一例だが、規制がどうなっているかをご覧頂こう。
ドイツ | フランス | イギリス | スウェーデン | ノルウェー (非EU国) |
フィンランド | オランダ | |
全高 (m) |
4.0 | なし | なし | なし | なし | 4.2 | 4.0 |
全幅 (m) |
2.55 | 2.55 | 2.55 | 2.55 | 2.55 | 2.6 | 2.55 |
単体全長 (m) |
12 | 12 | 12 | 24 | 12 | 12 | 12 |
セミトレーラ 連結全長 (m) |
16.5 | 16.5 | 16.5 | 24 | 17.5 | 16.5 | 16.5 |
ロードトレイン フルトレーラ 連結全長 (m) |
18.75 | 18.75 | 18.75 | 25.25 | 19.5 | 25.25 | 18.75 |
2軸トラクター 車両総重量 (t) |
18 | 19 | 18 | 18 | 19.5 | 18 | 21.5 |
3軸トラクター 車両総重量 (t) |
26 | 26 | 26 | 26 | 26 / 29.5 | 26 | 33 |
非駆動軸重 (t) |
10 | 13 / 12 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 |
駆動軸重 (t) |
11.5 | 13 / 12 | 11.5 / 10.5 | 11.5 | 11.5 | 11.5 | 11.5 |
総5軸車 連結総重量 (t) |
40 | 44 | 40 | 48 (一般) 60 (ロードトレイン) |
46 (一般) 56 (ロードトレイン) |
スウェーデン と同じ |
50 |
総6軸車 連結総重量 (t) |
40 | 44 | 44 | 同上 | 47 | 48 | 50 |
海コン車 連結総重量 (t) |
44 | 44 | 44 | - | - | - | - |
という具合である。これがどういうことをもたらすか、フランスからイギリスに荷物を運ぶ場合で考えて見よう。
フランスでは駆動軸重は13t又は12tで、3軸トラクタは低い数値に合わせなければならない。一方のイギリスでは11.5t又は10.5tで、こちらも3軸トラクタは低い方に合わせなければならない。行き先のイギリスに合わせるとなると、2軸トラクタなら駆動軸重11.5t、3軸トラクタなら10.5tに抑えると言うこと。そうであれば、4x2のセミトラクタと3軸セミトレーラの組み合わせで、駆動軸重が最大11.5t以下なるようにすれば良さそうだ…がそうではない。
イギリスではトレーラの車軸を含む総5軸車は、連結総重量(GCW)が40tまでしか認められていないからだ。もし積荷の都合によりGCWが40t超44t以下になるトレーラ連結車であれば、総6軸になるようにするしかない。一般的なバラ積み貨物に使われるセミトレーラは、カーテンサイダーにせよ冷凍バンにせよ3軸。これを4x2のセミトラクタで牽引すると総5軸なので、GCWは40tまでしか認められない。となると積荷に対応してセミトラクタを3軸にする方法があるが、常時3軸のセミトラクタは、フランスで使うには燃料消費量などの関係で無駄も多い。じゃあ積み荷を減らしてGCWを40tに抑えるか?減らして良いって荷主が承諾してくれれば良いのだが・・・。
そんな風にお悩みのあなた、もう大丈夫です!。リフトアクスル付きの6x2/4のような車両があなたのお役に立ちます!。仮にGCWが40~44tだったとして、イギリスではアクスルを降ろして総6軸で走り、フランスではアクスルを上げて総5軸で走れば良い。イギリス国内だけの輸送に限っても、GCWが40tを超えるか否かでアクスルを上げ下げすれば良いのである。また大陸からイギリスに行く機会がない、行くとしても積載重量を抑制できるのであれば、4x2でも多くの場合は問題ないだろう。
しかも上記は飽くまで一例であって、欧州各国は本当にバラバラの規制を課している。EU指令は「これさえ守っておけば、大体どの国でも行ける」というものに過ぎない。加えて、北欧国は独自の協定で西欧では走れないようなロードトレインを走らせまくっている上に、北欧内でも規制値に違いがあるのだ。
というわけで。規制がバラバラであるが故に様々な軸配置のシャシー用意することで、お客様それぞれに事情に合わせた最適なソリューションを提供しているのである。ちなみに上記の事情から、イギリスでは6x2/4のセミトラクタがやたら多い。大陸側だと4x2のセミトラクタも多用されている。
トレーラー(被けん引車)、トラクターの記事も参照のこと。
日本での販売
数は少ないが、商用車も日本で販売される。そして、日本の自動車業界に変革をもたらしている。
ドイツ・ネオプラン社のバスは日本のバス業界に一大変革をもたらしたほどであり、それまでのモノコック構造からシャーシにボディを乗せるスケルトン構造に転換させた。それまでのもっさりしたデザインからさっぱりしたスタイルで数多くのヨーロッパのバスが一時期輸入されることとなった。現在では輸入自体が非常に少なくなっているが、日系メーカーには存在しない車種、例えば連節バスを導入する際はかつてはボルボ製、現在はネオプラン製やメルセデス・ベンツ製を導入するケースが増えている。
トラックの販売は現在では、ボルボとスカニア、あとウニモグが販売されている。かつてはメルセデス・ベンツのアクトロスも売られていたが、現在では販売されていない。ダイムラーグループの販売再編計画により、日本市場では三菱ふそうトラック・バスに集約されたからだ。その上で、ふそうの車両にダイムラーのエンジンや変速機を採用し、性能の向上と日本市場への最適化が図られている。
ブランド戦略
特に高級車に顕著であるが、日本ではブランド戦略が大きなカギを握っている。
日本人に存在する漠然としたヨーロッパへの憧れやその車の持つブランドを販売側でも無視する事が出来ず、本来ならば必要のないはずの左ハンドル車をあえて販売する施策や上級グレード限定のラインナップを行っている点からも垣間見える。ヤナセがインポーターの時代にあっては安易な値引きを行わない事が知られていた。
メルセデス・ベンツを例にとっても、日本では高級車メーカーとして知られるメルセデス・ベンツはドイツ国内では乗用車以外にも路線バスやトラック、バンなどを販売する総合自動車メーカーであり、日本で例えれば(トヨタ+レクサス+日野自動車)÷3なメーカーである。また、Eクラスもタクシーなどの営業車用途に使われるスッピングレードもある程である。イメージ戦略上はこの部分はマイナスになるので、あまり大々的になる事はない。また、本国や北米向けと比べても価格に上乗せされているのではと言う説もある。これも舶来物だからしょうがないと言う理屈もあるが、ブランド力から来る代え難い優越感があり、それが上乗せされていると思えば、というのもある。もっとも、「最善か無か」と言われるほどの設計思想があり、その実用性や高級車に求められる基準を問題なく満たしている点は言うまでもない。
自動車文化
歴史の教科書にもキニョーの蒸気自動車が世界最初の自動車&世界最初の交通事故を起こした事が知られるように自動車の起こりはヨーロッパである。また、馬車文化から自動車にスライドしたものが多い。
また社会階層がはっきりとしていた為、高級車は贅を尽くしたものとなっている一方、労働者階層も事情に合わせた車が多く存在した。一番有名なのは天下の名脇役ことリライアント・ロビンである。今でも時々ロット生産されるこの車は多忙で免許取得のいとまがない労働者階層にとって、バイクの免許で運転できる事や税金優遇などの理由で根強い人気を博した。
社会階層によってハッキリ車のありようが変わってくる点がミソである。
欧州車と言われるメーカー
- ドイツ
メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディ、オペル、ポルシェ - イタリア
フェラーリ、ランボルギーニ、アルファロメオ、フィアット、ランチア - フランス
プジョー、シトロエン、ルノー - イギリス
ロールスロイス、ローバー、ヴォクスホール、ジャガー - スウェーデン
ボルボ、サーブ、スカニア
近年は攻めの姿勢が顕著であり、メルセデス・ベンツはアメリカのクライスラー社との合併やルノーが経営の悪化した日産自動車や韓国のサムスン自動車との提携をしたりなど、その存在感が大きくなっている。
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
- 2
- 0pt