歌舞伎(かぶき)とは、日本固有の伝統芸能である。
概要
日本発祥の400年の歴史を持つ伝統芸能。
名前は「傾く(かたむく)」の古い言い方である「傾く(かぶく)」から「カブキ」という名前が定着したと言われている。
もとは戦国時代辺りから流行り出した、派手な衣装を好む者や常識を逸脱したような奇怪な行動を「傾奇(かぶき)」と呼ばれていたのが(また、そのような振る舞いを嗜む者を「かぶき者」と呼んでいた)、やがて1603年にそうした装いを取り入れた(当時としては)斬新極まる踊りを「かぶき踊り」として出雲阿国が北野天満宮で始めたのが、歌舞伎のルーツとされている。
その後、「歌い舞う芸妓」という言葉からかぶきの字も『歌舞妓』と当てられるようになり、やがて遊女歌舞伎が禁止されると「妓」の字は使われなくなり「歌舞伎」という名称が定着していくようになる。江戸時代は双方の名称が混同されて用いられていたが、現在の「歌舞伎」の名称で統一されていくのは明治時代以降からと言われている。
主に音楽・舞踊・科白(決口調)の3つの特徴から成り立つ芸能である。
現在ではテレビや映画で活躍する人気歌舞伎俳優の増加と話題の演目が増えていること、また全編観劇すると7~8時間ぐらい掛かることから、なかなかチケットが取れない&時間に余裕のある人向けの娯楽というイメージが根強い。
一方歌舞伎を上演している松竹側もそんな現状を鑑みているのか、安価かつ1時間程度の一幕だけ見られるお試し版的チケットの販売や映画館でのライブビューイング・過去の名作上映の開催、ネット配信など誰でも歌舞伎を観やすい環境を整備しつつある。
演目の種類
一言に「歌舞伎」と言っても、演目や題材は複数に分けられ、多種多様なジャンルが存在している。
時代物
舞台となっている時代を江戸時代以前に設定した、武士や貴族を主人公とした戦記や伝承を元にした演目。
表現がやや大げさで、一般的にイメージをされる「歌舞伎」らしさがある。
主な演目:「義経千本桜」、「仮名手本忠臣蔵」、「菅原伝授手習鑑」など
世話物
江戸時代の民衆の風俗を描いた演目。時代物が武士・貴人の演目であるのに対して、世話物は鳶や侠客、長屋住まいの庶民などが主役となる演目が多い。
時代物に比べて表現が落ち着いており、写実的になっているのが特徴。
主な演目:「女殺油地獄」、「曽根崎心中」、「め組の喧嘩」、「極付幡隨長兵衛」など
舞踊
一般的に「日本舞踊」と呼ばれるものの多くは歌舞伎舞踊を発端としており、歌舞伎役者は舞踊の流派を持っていたり、流派の祖が歌舞伎役者であったりする。
舞踊の中でも「所作」や、能狂言を元とした「松羽目」と呼ばれる種類に分けられている。
主な演目:「京鹿子娘道成寺」、「鷺娘」、「藤娘」、「勧進帳」、「連獅子」など
新歌舞伎
明治から戦前にかけて、劇場などから独立した劇作家や小説家などにより書き下ろされた作品。それ以前は劇場専属の作家が脚本を書いていた。
演劇の近代化の影響もあり、荒唐無稽を排した写実的なものが多いが、台詞重視になっていて動きが少ない傾向が強いと言われている。
主な演目:「桐一葉」、「頼朝の死」、「番町皿屋敷」など。
新作歌舞伎
戦後以降に書かれた作品。現在でもプロのものから一般公募まで多くの演目が生み出されている。
古典的な演出を取り入れているものから、全く違った現代的な演出を取り入れたものまで幅広い。歌舞伎俳優以外の役者が出演する演目があったり、最近は漫画が原作の演目も話題となっている。
三代目市川猿之助が始めたスーパー歌舞伎は、新作歌舞伎の一種である。
主な演目:「ヤマトタケル」「野田版 研辰の討たれ」「風の谷のナウシカ」など
歌舞伎に関連する言葉
- 差金 (意味:見えない場所から人を唆して、思い通りに操ること)
差し金とは、歌舞伎の舞台にて、鳥や蝶などの小動物を舞台上で操るために黒塗りの竿の先に針金を付けた小道具である。若しくは、浄瑠璃人形の手や首を操作するのに用いる細い棒も同様の名前で呼ばれる。
- 黒幕 (意味:表に出る事無く、裏から計画したり思い通りに指示する人物)
歌舞伎や浄瑠璃人形の舞台において、夜の場面を現すためや舞台(場面)を転換する際には黒い幕を張っていた。その幕の影から舞台を操る様から、裏から糸を引いて人や事物を操る人を「黒幕」と呼ばれるようになった。
- 二枚目・三枚目 (意味:男前、美男子(二枚目) ・ 残念滑稽な役どころ(三枚目))
歌舞伎の劇場・芝居小屋の前に掲げられている八枚看板にて、看板には舞台の立役者(主役)が一枚目に、美男役の役者が二枚目に、そして道化役(面白おかしい役)が三枚目に載っていた事からきている。
現在でも二枚目や三枚目という言葉はよく用いられるが、一枚目という言葉が用いられない理由については後述。
- 一枚看板 (意味:組織・集団の中心人物、他人に唯一誇れる長所・特技など)
劇場・芝居小屋の前に掲げられている大きな看板のこと。看板には外題と、主役である役者の絵姿が描かれている。
即ち劇団・一座の中心人物たる役者そのものを指す言葉となり、転じて集団や組織の中心を指す言葉となった。
先述の「二枚目」「三枚目」と違って一枚目が使われない事情については、二枚目や三枚目が容姿や振舞いについてを指した言葉である事に対して、一枚目(一枚看板)は地位を現した言葉であるからだと思われる。
- 千両役者 (意味:名優、素晴らしい技能で観客を沸かせる人)
歌舞伎役者の中でも特に名優と呼ばれた者は、年収が千両を超えた事すらあったという。
そこから転じて、現在では素晴らしく活躍するスポーツ選手などに対してもこの呼び名が用いられる事がある。
因みに初めて千両を超えた役者は二代目市川團十郎である。
- 大詰め・幕切れ・大喜利 (意味:物事やイベントが最終局面を迎える状態)
歌舞伎にて、それぞれの幕(場)が切れる際に舞台上の引き幕が閉まる事を幕切れといったが、その中でも時代物を演じる一番目の狂言の最後の幕は大詰めと呼ばれた。その後、歌舞伎以外にも芝居や戯曲などでも同様に最終幕を大詰めと呼ばれるようになる。
また、世話物を演じる二番目の狂言の最後は「大切り」と呼ばれ、これが「大喜利」の語源となったという。
- 十八番 (意味:最も得意とする技能、及び芸)
天保3年(1832年)に七代目市川團十郎が、市川家に代々伝わる芸を十八種類(厳密に言うと17種類+新作1種類)を選定して発表したのがこの言葉の起源とされる。正式名称は「歌舞伎十八番」。
「おはこ」とよく呼ばれるが(パソコン等でも「おはこ」で変換すると「十八番」と出てくるだろう)、本来は「じゅうはちばん」が正しい読みである。この読み方については、十八番の芸の台本を箱に仕舞って保管していたからとするなど諸説あるが、正確なルーツは判明していない。
ついでに言うと、「番」とは能や狂言を数える単位である。
- 大見得を切る (意味:大袈裟な表情や動作で相手を圧倒するさま)
歌舞伎の舞台にて、展開が盛り上がってきた時に役者が舞台上で一時動きを止めた後、睨むような表情を取ってポージングを取った事からきている。そこから、日常などでも大仰な言動・行動などを見せて自信をアピールし、相手を圧倒する事を大見得を切ると言う。
なお言葉内の「切る」の意味は「白を切る」「啖呵を切る」と同様に、目立つような口ぶり・態度を見せる事を示す。
- 茶番劇 (意味:底が見え透いた、馬鹿げた行為など)
もとは「茶番狂言」を略した言葉で、下手な役者が手近な道具などを用いて面白おかしな寸劇や話芸を演じるものを茶番劇と呼んでいた。歌舞伎から流行したとされる。茶番とは本来、給仕やお茶の用意をする者のことであるが、歌舞伎や舞台の楽屋にて茶の給仕をしていた役者が茶菓子などを用いて余興がてらにネタを披露しオチとした事から、この寸劇を「茶番狂言」と呼ばれるようになったといわれる。
そしてそこから、素人劇を思わせる底の見えた馬鹿馬鹿しい行動・物事を茶番劇と呼ぶのが定着した。
- 助六 (いなり寿司と巻き寿司の弁当)
コンビニなどでも普通に売られているいなり寿司と巻き寿司のパック・弁当であるが、名称の由来は歌舞伎の演目で、市川團十郎家に伝わる歌舞伎十八番の一つ、「助六由縁江戸桜」の主人公の「花川戸助六」である。助六と恋仲にある花魁の名が「揚巻(あげまき)」で、「揚げ=油揚げ」と「巻き=巻き寿司」の弁当で助六と掛けている。
創作作品や、ニコニコの場合
日本に定着した文化の1つだけに、創作作品などでも幅広く登場する。
(上記以外にも、どんどん追加していって下さい)
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