この記事では、OVA「銀河英雄伝説」の外伝作品について記述しています。
同様の意味の他の言葉については記事「デュエリスト」をご覧ください。
「決闘者(Der Duellant)」とは、OVA「銀河英雄伝説外伝」オリジナル作品の一つである。全四話。
概要
前作「叛乱者」で駆逐艦<ハーメルンⅡ>を降り、軍務省の内勤となったラインハルトとキルヒアイスが、冬の帝都オーディンで遭遇した事件を描くOVAオリジナル作品。戦闘シーンは実質的に存在せず、もっぱらラインハルトとキルヒアイスの友情と、彼らを取り巻く陰謀についてのストーリーが展開される。
ラインハルトの少年時代の空白を埋めるOVAオリジナル三部作の第二部で、オーディンでの二人の生活や帝国の文化・風俗、貴族社会の裏側などが垣間見える。主君ラインハルトの行動に振り回されるキルヒアイスの愚痴ともツッコミともつかない心の声は必聴。
決闘
銀河帝国における貴族同士の勝負の方法。
実際には貴族同士が行うものではなく、それぞれが雇ったプロの「決闘者」を代理人に立てて行われるゲーム感覚のもので、他の貴族も見物にやってくるだけでなく、賭け事なども横行した。
基本的には一発ずつ弱装弾を込めた旧式の火薬銃を一人2丁持つかたちで行われ、腕や肩など、決闘を続行不能と判定される程度の怪我を負わせたほうの勝ちとなる。殺してしまった場合、むしろ素人の決闘者として本人にも、また雇った貴族の方も笑いものにされるため、死に至る危険は実質的に存在しない。銃で決着がつかなかった場合、剣、素手というように種目を変えて再戦となるが、実際にはほぼ銃のみで決着がつく。
この作品では、ふだんの光線銃と違い反動があって使いにくい火薬銃に挑むことになったラインハルトが苦労することになる。
登場人物
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ラインハルト・フォン・ミューゼル - CV.堀川亮
言わずと知れた主人公。大尉。今回はシャフハウゼン子爵が挑まれた決闘の代理人を引き受けることとなる。
自ら引き受けた事ゆえ、後半ではキルヒアイスに迷惑をかけまいと独自行動をとるのだが、そういう性格も含めてすべて見透かされている模様。キルヒアイスにバレていないと思っていろいろと誤魔化すシーンが無駄に可愛い。
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ジークフリード・キルヒアイス - CV.広中雅志
ラインハルトの親友。中尉。今回はラインハルトに振り回される苦労人役。
ラインハルトが決闘などという厄介事を嬉々として引き受けてしまうことに嘆息する。
この作品に限ってキルヒアイスの心の声が妙に多く、しかも本音が駄々漏れ。スタッフ自重。
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グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼ - CV.潘恵子
ラインハルトの姉で皇帝フリードリヒ4世の寵姫。弟を危険に晒したくない思いと数少ない友人であるシャフハウゼン子爵夫人の助けになりたい思いとの板挟みになり、皇帝に縋ることとなる。
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ヴェストパーレ男爵夫人マグダレーナ - CV.横尾まり
アンネローゼの友人。独身で、男爵家の当主を自ら務める女傑。シャフハウゼン子爵家の苦境をラインハルトに教えるが、彼が代理人を引き受けることまですべて計算して教唆したふしがある。キルヒアイスを「ジーク」と呼ぶ。
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シャフハウゼン子爵夫人ドロテーア - CV.佐藤直子
アンネローゼの数少ない友人のひとり。平民出身ゆえ、アンネローゼとも対等に付き合う貴重な貴族。
貴族ながら夫ともども良心的で大人しい好人物で、突然持ち上がった決闘話に困っていたところをラインハルトに救われることとなる。ひとりだけアス比おかしい。
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コルネリアス・ルッツ - CV.堀勝之祐
帝国軍少佐。射撃の名手であり、火薬銃の扱いに戸惑うラインハルトに撃ち方を教えた。
彼の教えた「片腕で銃を撃つ手を支える」撃ち方が、決闘の場でラインハルトの命を救うことになる。
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ヘルクスハイマー伯爵 - CV.野島昭生
リッテンハイム派の門閥貴族。シャフハウゼン子爵家のハイドロメタル鉱山を奪うために決闘を挑んだ。
金髪にもみあげでやや粗野な性格の「とにかくいやらしい男」(ヴェストパーレ男爵夫人談)。
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黒マントの男 - CV.内田直哉
ヘルクスハイマー伯爵側の決闘代理人。全体的に古風なこのエピソード中でも特に古風な格好をしている。
本来はラインハルトを狙う刺客であり、ヘルクスハイマー伯が選んだ決闘者を殺して代理人の座を奪った。
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ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナ - CV.藤田淑子
皇帝のかつての寵姫。彼女に代わって寵愛を受けるようになったアンネローゼを激しく憎んでおり、弟であるラインハルトの命を執拗に狙っている。決闘の話を聞き、ラインハルトを害そうと暗躍する。
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リッテンハイム侯爵ウィルヘルム3世 - CV.坂部文昭
ヘルクスハイマー伯爵の後ろ盾。決闘の話を聞きつけて見物を希望し、自身の荘園に試合会場を用意する代わりにヘルクスハイマーが奪いとった後の鉱山利権に一枚噛むこととなった。
- リッテンハイム侯爵令嬢サビーネ - CV.榎本温子
かわいい。
ストーリー
Kap.1
「(”たまには”って、いつもいいところ持って行くじゃないですか……)」
帝都オーディンの軍務省で気の乗らない事務仕事に携わることになったラインハルトとキルヒアイス。二人は作業中に帳簿の不正とおぼしき数字の矛盾を発見して上官に知らせたが、「それは必要悪だ」と一蹴されてしまう。ラインハルトは前線から離れた軍務省の腐敗に歯噛みし、更なる力を得ねばならないという思いを新たにした。
数日後、二人は敬愛するアンネローゼと会うことが許され、その友人であるヴェストパーレ男爵夫人、シャフハウゼン子爵夫人とともに茶会のテーブルを囲むこととなった。その席で男爵夫人からシャフハウゼン子爵家の苦境を聞かされたラインハルトは、ここ最近の鬱々とした感情を気分転換しようと、自ら決闘の代理人に手を挙げる。
彼の提案に嬉々としてお膳立てを進めるヴェストパーレ男爵夫人の後押しもあってシャフハウゼン家の代理人となったラインハルトの隣で、キルヒアイスは溜息をつきつつ、この決闘事件でアンネローゼに心配をかけないよう、ラインハルトの命に危険が及ばないよう努力することを改めて誓ったのであった。
Kap.2
「ルッツ。コルネリアス・ルッツという」
「グリューネワルト伯爵夫人の弟」が決闘に挑む、という話は、すぐに門閥貴族の社交界に広まった。「腕の良い決闘者を雇った。グリューネワルト伯爵夫人の弟に痛い目を見せてやる」と豪語するヘルクスハイマー伯爵。妻子とともに彼の邸宅を訪れたリッテンハイム侯爵は、伯爵と皇帝の世継ぎに関わる後ろ暗い会話を交わす。
その頃、ラインハルトたちは火薬銃の練習のために試射場にやってきていた。火薬銃を使い慣れず、思うように的に当たらない事に怒るラインハルト。それを通りすがりのコルネリアス・ルッツ少佐が聞きつけ、ラインハルトの使っていた銃で見事に的のど真ん中に当ててみせる。彼はラインハルトに火薬銃の撃ち方を教導して去っていった。
一方、オーディン郊外の雪に覆われた森の中。ヘルクスハイマー伯爵の決闘者ゴルトシュミットは、果たし状を送りつけてきた謎の黒いマントの男と向かい合う。雪の中での決闘の末、斃れるゴルトシュミット。黒マントの男は、決闘としては反則である心臓をまっすぐ狙い、彼を撃ち殺したのである。その影には、ラインハルトの姉を憎むベーネミュンデ侯爵夫人の陰謀が隠されていた……。
Kap.3
「剣による立ち会いを所望!」
決闘の日。ヴェストパーレ男爵夫人の用意した派手な正装を身に纏ったラインハルトは、黒いマントの男と相対する。プロ相手ゆえあえてセオリーを外した動きで二発目の銃弾に賭けるラインハルト。ラインハルトの銃弾は黒いマントの男の右肩に、黒いマントの男の銃弾は胸の前に掲げていたラインハルトの左腕にそれぞれ当たっていた。左胸の心臓を撃ち抜かれれば、火薬銃とはいえ命はない。黒いマントの男は、ラインハルトの命を狙っていたのだ!
黒いマントの男の利き腕が奪われたと判断した審判は、シャフハウゼン子爵側の勝利を宣言しようとする。しかしそこに物言いがついた。黒いマントの男が、剣による再戦を望んだのである。観客たちの熱狂の中、剣を交えるラインハルトと黒いマントの男。ラインハルトは手練の敵に押し込まれ、今にもその身に剣を突き立てられようとしていた。
その時である。決闘を止める声が会場に響き、近衛兵の一隊が馬を駆って姿を見せた。そして近衛兵は一方的に決闘の差し止めと鉱山利権の折半を申し渡し、皇帝陛下の御聖断であるとして反論を抑える。弟を心配したアンネローゼが、皇帝を動かしたのだ。しかしラインハルトは、救うべき姉に逆に救けられてしまったことに傷ついたのだった。
Kap.4
「キルヒアイスには、なんと言って誤魔化そうかなぁ……」
自らの無力さに打ちひしがれるラインハルト。腕の傷はほとんど癒えたが、心に負った重傷はいまだ癒らぬままであった。そんな時、キルヒアイス不在のさなかに、二人の住む部屋にボウガンの矢が飛び込んでくる。それは、古風なことに黒いマントの男からの矢文であり、果たし状であった。これを見た彼は英気を取り戻したが、同時にどうやってキルヒアイスに気付かれないよう誤魔化そうかと思い悩むことになった。
果たし合いの話を隠し、あくまで武芸の稽古として剣の修練に励むラインハルト。彼は軍務省の資料を漁り、「西暦の19世紀以前の東洋のある国」での剣の流派についての知識を得る。キルヒアイスはそれに付き合いつつ、ラインハルトが再戦しようとしているという確信を深めるのだった。
そして再戦の日。ラインハルトは騎乗して単身郊外の森へと赴き、黒いマントの男と向かい合う。剣を合わせる二人。それを影から狙う別の暗殺者と闘うキルヒアイス。戦いの末に剣を折られたラインハルトに、黒いマントの男の剣が振りかかった。咄嗟にラインハルトは、資料で得た「東洋のある国」の秘技を繰り出し形勢を逆転させる。勝利によって鬱屈した思いを振り払ったラインハルトは、自殺を選んだ黒いマントの男を尻目に自宅へと帰っていった。
その他作品詳細
見どころ
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ラインハルトとキルヒアイスの日常風景
「決闘者」では、舞台が帝都オーディンでそのストーリーも軍務とは基本的に無関係であるため、二人の戦いの日々の狭間の日常風景を見ることが出来る。普段着のラインハルトとキルヒアイスやその暮らしぶり、それに軍務を離れた二人の友人関係といった描写は、長大な本編外伝を合わせても非常に珍しいものでなかなか興味深い。
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引き続き律儀な帝国テイスト
旧式駆逐艦の内部にも「帝国らしさ」の表現に余念がなかった「叛乱者」に引き続き、「決闘者」では軍務を離れたところでのストーリーだけに思う存分古風な「帝国らしさ」が表現されている。やたら派手なラインハルトの決闘衣装、案外貴族風なラインハルトの乗馬服、なぜか騎馬で駆け込んでくる近衛兵、そしてとことん古風な黒いマントの男など、舞台が「帝国らしさ」の総本山たる帝都オーディンであるだけに実に徹底している。
- 奇想天外なオチ
視聴者がみな唖然としたであろうあの「オチ」。むろん本編のストーリーに関係のないエピソードだからできることだが、それにしたってあれはびっくりである。地味に伏線を挟んで違和感を無くしているのもなかなか巧妙。
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