法月綸太郎(のりづき りんたろう)とは、日本のミステリー作家・評論家。
よく間違われるが、倫太郎ではなく綸太郎である。苗字の読みも「ほうげつ」ではないので本屋で探すときは注意。
綾辻行人いわく、『悩める自由業者』。ファンからの愛称は「ノリリン」。
概要
1964年島根県生まれ。綾辻行人や我孫子武丸と同じく京大ミステリ研出身で、1988年に『密閉教室』でデビュー。ペンネームは小栗虫太郎の小説に登場する探偵・法水麟太郎……ではなく吉川英治『鳴門秘帖』に登場する隠密・法月弦之丞と島田荘司の助言で決まった。なお、『密閉教室』は末尾に謎の手紙が添付されているが、講談社BOX等のノーカット版ではそれに説明がされている。
警視である父親から持ち込まれる事件を、万年スランプな推理作家の名探偵・法月綸太郎が解決する《法月綸太郎シリーズ》が作品の中心。なお、作者と同名の探偵で父親が警視という設定は、エラリー・クイーンの一連の作品と同じである。
寡作ながら常に高品質のミステリを発表しており、プロパーの間での評価も非常に高いが、それ故にファンの間ですらどれがベストか意見が割れるため、綾辻行人における『十角館の殺人』『時計館の殺人』や有栖川有栖における『双頭の悪魔』に相当するような、誰もが認める代表作が一向に決まらない作家(そのせいで2012年の週刊文春のオールタイムベストランキングでは1作もランクインできなかった)。長編では『誰彼』『頼子のために』『一の悲劇』『生首に聞いてみろ』『キングを探せ』、短編では「死刑囚パズル」「背信の交点」「都市伝説パズル」あたりが代表作に挙がりやすいか。
人格から小説の内容までがアメリカの作家エラリー・クイーンに影響を受けたために似ている。その作風は事件に悩み解決に悩み、ときにはハードボイルド調になりつつも論理を駆使する探偵の犯人当てである。あまりに論理を重んじるため、彼の解説は数学が混ざる。「後期クイーン的問題」(名探偵の項目を参照)と呼ばれる、推理小説特有の論理の限界に作家自身も悩みながら執筆を続けている。そのためか、初期はともかく90年代半ば以降の作品は短編集が多い。
法月綸太郎シリーズは、話自体はそれぞれ独立しているものの、長編では作中で過去の作品の出来事について言及されることが多いので、なるべく刊行順に読むのを勧めたい。特に『頼子のために』『一の悲劇』『ふたたび赤い悪夢』『二の悲劇』の4作は法月綸太郎の悩みと迷いの遍歴でもあるので、刊行順に読むのを強く推奨する。
2002年、短編「都市伝説パズル」で第55回日本推理作家協会賞を受賞。2005年、『生首に聞いてみろ』で第5回本格ミステリ大賞受賞。2013年から2017年まで、本格ミステリ作家クラブ第4代会長を務めた。最近はSF方面に傾斜しており、SF作家としてSF創作講座の講師をしたりもしている。
小説と並行してミステリー評論も行っており、探偵小説研究会に所属。文庫解説もよく書いており、評論の著作も何冊かある。評論家としてはゴリゴリの理論派で、ミステリプロパーの間で影響力の強い評論家のひとり。前述の「後期クイーン的問題」も、そもそもは自身の論文「初期クイーン論」が発端である。
またネコ大好き人間で知られ、家の中はネコグッズであふれている。その愛情は数百匹の飼い猫が集まって戯れる短編「猫の巡礼」を執筆するほどである(短編集『しらみつぶしの時計』に収録)。
2016年、『一の悲劇』が長谷川博己主演でドラマ化。法月作品では初の映像化になる。
作品リスト
小説
- 密閉教室 (1988年、講談社ノベルス→1991年、講談社文庫→2002年、講談社[ノーカット版]→2007年、講談社BOX[ノーカット版]→2008年、講談社文庫[通常版の新装版])
- 雪密室 (1989年、講談社ノベルス→1992年、講談社文庫→2023年、講談社文庫[新装版]) ★
- 誰彼 (1989年、講談社ノベルス→1992年、講談社文庫→2021年、講談社文庫[新装版]) ★
- 頼子のために (1990年、講談社ノベルス→1993年、講談社文庫→2017年、講談社文庫[新装版]) ★
- 一の悲劇 (1991年、ノン・ノベル→1996年、祥伝社文庫→2022年、祥伝社文庫[新装版]) ★
- ふたたび赤い悪夢 (1992年、講談社ノベルス→1995年、講談社文庫) ★
- 法月綸太郎の冒険 (1992年、講談社ノベルス→1995年、講談社文庫) ★
- 二の悲劇 (1994年、ノン・ノベル→1997年、祥伝社文庫→2022年、祥伝社文庫[新装版]) ★
- パズル崩壊 (1996年、集英社→1998年、講談社ノベルス→1999年、集英社文庫)
- 法月綸太郎の新冒険 (1999年、講談社ノベルス→2002年、講談社文庫) ★
- 法月綸太郎の功績 (2002年、講談社ノベルス→2005年、講談社文庫) ★
- 生首に聞いてみろ (2004年、角川書店→2007年、角川文庫) ★
- 怪盗グリフィン、絶体絶命 (2006年、講談社ミステリーランド→2012年、講談社ノベルス→2014年、講談社文庫)
- 犯罪ホロスコープI 六人の女王の問題 (2008年、カッパ・ノベルス→2010年、光文社文庫) ★
- しらみつぶしの時計 (2008年、祥伝社→2011年、ノン・ノベル→2013年、祥伝社文庫)
- キングを探せ (2011年、講談社→2013年、講談社ノベルス→2015年、講談社文庫) ★
- 犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (2012年、カッパ・ノベルス→2015年、光文社文庫) ★
- ノックス・マシン (2013年、角川書店→2015年、角川文庫)
- 怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関 (2015年、講談社→2017年、講談社文庫)
- 挑戦者たち (2016年、新潮社)
- 法月綸太郎の消息 (2019年、講談社→2022年、講談社文庫) ★
- 赤い部屋異聞 (2019年、KADOKAWA→2023年、角川文庫)
評論
- 謎解きが終ったら 法月綸太郎ミステリー論集 (1998年、講談社→2002年、講談社文庫)
- 法月綸太郎ミステリー塾 日本編 名探偵はなぜ時代から逃れられないのか (2007年、講談社)
- 法月綸太郎ミステリー塾 海外編 複雑な殺人芸術 (2007年、講談社)
- 法月綸太郎ミステリー塾 疾風編 盤面の敵はどこへ行ったか (2013年、講談社)
- 法月綸太郎ミステリー塾 怒濤編 フェアプレイの向こう側 (2021年、講談社)
作品別の各種ミステリーランキング順位(判明分)
作品名 | このミス | 週刊文春 | 本格ベスト10 | ミス読み |
---|---|---|---|---|
密閉教室 | 1988年8位 | 圏外 | --- | --- |
雪密室 | 圏外 | 圏外 | --- | --- |
誰彼 | 圏外 | 圏外 | --- | --- |
頼子のために | 1991年版16位 | 圏外 | --- | --- |
一の悲劇 | 1992年版19位 | 圏外 | --- | --- |
ふたたび赤い悪夢 | 1993年版18位 | 圏外 | --- | --- |
法月綸太郎の冒険 | 圏外 | 圏外 | --- | --- |
二の悲劇 | 1995年版10位 | 1994年次点 | --- | --- |
パズル崩壊 | 圏外 | 圏外 | 圏外 | --- |
法月綸太郎の新冒険 | 2000年版11位 | 1999年16位 | 2000年版1位 | --- |
法月綸太郎の功績 | 圏外 | 2002年15位 | 2003年版2位 | --- |
生首に聞いてみろ | 2005年版1位 | 2004年2位 | 2005年版1位 | --- |
怪盗グリフィン、絶体絶命 | 2007年版8位 | 圏外 | 2007年版25位 | --- |
犯罪ホロスコープⅠ | 圏外 | 圏外 | 2009年版17位 | 圏外 |
しらみつぶしの時計 | 圏外 | 圏外 | 2009年版19位 | 圏外 |
キングを探せ | 2013年版8位 | 2012年5位 | 2013年版1位 | 2013年版2位 |
犯罪ホロスコープⅡ | 圏外 | 圏外 | 2014年版5位 | 圏外 |
ノックス・マシン | 2014年版1位 | 2013年3位 | 2014年版4位 | 2014年版1位 |
怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関 | 圏外 | 圏外 | 圏外 | 圏外 |
挑戦者たち | 2017年版12位 | 2016年16位 | 2017年版15位 | 2017年版8位 |
法月綸太郎の消息 | 圏外 | 圏外 | 2020年版17位 | 2020年版15位 |
赤い部屋異聞 | 圏外 | 圏外 | 2021年版30位 | 圏外 |
関連動画
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 相沢沙呼
- 青崎有吾
- 青山文平
- 赤川次郎
- アガサ・クリスティ
- 芥川龍之介
- 浅暮三文
- 芦沢央
- 芦辺拓
- 飛鳥部勝則
- 綾辻行人
- 鮎川哲也
- 有川浩
- 有栖川有栖
- 泡坂妻夫
- アーサー・C・クラーク
- 池井戸潤
- 伊坂幸太郎
- 石川博品
- 石田衣良
- 石持浅海
- 伊藤計劃
- 稲見一良
- 乾くるみ
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- 今村翔吾
- 今村昌弘
- 岩井志麻子
- 歌野晶午
- 内田幹樹
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- 大山誠一郎
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- 小川一水
- 荻原規子
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- 小野不由美
- 折原一
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- 海堂尊
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- 上遠野浩平
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- 久住四季
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- 黒川博行
- 黒田研二
- グレッグ・イーガン
- 古泉迦十
- 甲田学人
- 古処誠二
- 小林泰三
- 小松左京
- 紺野天龍
- 今野敏
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- 佐々木譲
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- 品川ヒロシ
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- 高木彬光
- 高村薫
- 竹本健治
- 田中慎弥
- 田中啓文
- 田中芳樹
- 田辺青蛙
- 月村了衛
- 月夜涙
- 辻堂ゆめ
- 辻村深月
- 土屋隆夫
- 都筑道夫
- 恒川光太郎
- 天藤真
- 遠田潤子
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- 中村文則
- 中山七里
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- 西澤保彦
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- 西村賢太
- 西村寿行
- 似鳥鶏
- 貫井徳郎
- 沼田まほかる
- 野崎まど
- 長谷敏司
- 羽田圭介
- 初野晴
- 早坂吝
- 林真理子
- はやみねかおる
- 氷川透
- 東川篤哉
- 東野圭吾
- 広瀬正
- ピエール・ルメートル
- 深水黎一郎
- 藤井太洋
- 船戸与一
- 方丈貴恵
- 星新一
- 誉田哲也
- 舞城王太郎
- 牧野修
- 万城目学
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