渡辺明(わたなべ あきら)とは、将棋棋士である。1984年4月23日生まれ。東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。棋士番号235。
概要
加藤一二三、谷川浩司、羽生善治に続き、中学生でプロ四段に昇段した史上4人目の棋士。
若くしてタイトルホルダーとなったトップ棋士の一人で。多くの棋戦で活躍している。特に、2004年の竜王位で初タイトル獲得以来、2023年に名人位を失うまで何かしらのタイトルを保持し続けていた(この記録は、他に木村義雄の1937年12月11日-1947年6月6日、大山康晴の1950年-1956年、南芳一の1988年1月12日-1992年2月28日が特筆すべきくらいである)。
中でも竜王戦での活躍は圧倒的。内容面でも佐藤康光棋聖(当時)が挑戦した第19期や、鬼畜眼鏡羽生名人(当時)相手に3連敗4連勝(史上初)を達成した第21期など、棋史に残る名勝負が多い。特にこの第21期竜王戦は「勝った方が初の永世竜王」と言う事もあり、棋界内外で盛り上がりを見せた。詳しくはググれ。
竜王戦は2004年に森内俊之竜王・名人から竜王を獲得して以来、2012年まで9連覇を果たした。2013年に10連覇を森内俊之名人に阻止されるも、2015年糸谷哲郎竜王から奪冠。竜王連続9期、通算11期はともに単独首位である。
上述のように羽生世代近辺の棋士たちとのタイトル争いがクローズアップされがちではあるが、その一方で年下相手のタイトル戦番勝負に滅法強く、2015年に糸谷哲郎から竜王位を奪ってからは8連続で年下棋士に対してタイトル奪取・防衛を成功させており、2020年の棋聖戦で藤井聡太相手に失冠したことで初めて年下とのタイトル戦番勝負で敗退することとなった。その後も名人戦では豊島将之、斎藤慎太郎(2期連続挑戦)を、王将戦では永瀬拓矢を、棋王戦では糸谷、永瀬を退けており、現在(2023年時点)もなお藤井以外の年下棋士とのタイトル戦番勝負では敗退したことがない。
近年の活躍
長年竜王以外のタイトルと縁遠かったことから「竜王戦だけ本気出す」と揶揄された事もあったが、2011年、羽生王座から19連覇中の王座を奪取したのを皮切りに、他タイトルでの活躍が少しずつ増え始め、2012年は羽生のお礼参り挑戦を受け王座を奪われるも、丸山忠久九段の挑戦を退け竜王の座を守り抜くと、年明けの王将戦と棋王戦でそれぞれ佐藤康光王将と郷田真隆棋王へ挑戦、見事連続奪取を決め史上8人目の三冠を達成。
さらにNHK杯では羽生を破り、5連覇を阻止すると共に自身初優勝を果たし、自身初の最優秀棋士・獲得賞金No.1を達成した。
2017年度第30期竜王戦にて羽生棋聖に竜王を奪取される。さらに順位戦では、前年度の例の事件もあって(詳しくは三浦弘行の項を参照)闘志剥き出しの三浦弘行九段に敗北。同日、深浦康市が勝ったため、8期でA級から陥落した。
しかし、2018年度から好調となり、順位戦B級1組で全勝、久保王将からストレートで王将位を奪取し、広瀬章人の挑戦も退けて7連覇。更に、日本シリーズ優勝、叡王戦ベスト4と完全に調子を取り戻し、優秀棋士賞を獲得した。
2019年度は、昨年の好調をキープして棋聖戦で豊島棋聖への挑戦を決めた。
当時3冠の豊島将之と2冠の渡辺明という頂上決戦というべき対決となった。
結果は3勝1敗と勝利し、自身初の棋聖の奪取に成功した。
2019年度の勢いはまだまだ止まらなかった。
A級順位戦は無傷の全勝で名人戦への挑戦権を獲得し、日本シリーズでも優勝。
防衛戦となった棋王戦、王将戦は共に防衛に成功と最高の成果を上げた。
叡王戦は挑戦者決定三番勝負、銀河戦では決勝まで駒を進めるも、どちらも豊島将之に敗北した。
上記の通り一年を通して大活躍だったが、竜王戦では2連敗をして2組へ降級となってしまった。
2020年度は棋聖戦の防衛戦で、藤井聡太の初タイトル挑戦を受け、新旧中学生棋士対決となった。結果は1勝3敗と、藤井聡太に初タイトルを許すことになった。特に2局目は渡辺の先手番ながら、王手すら出来ずに完敗。格の違いを見せつける立場のはずが、逆に見せつけられる結果となってしまった。また、年下棋士相手のタイトル戦番勝負で敗退することも初めてであった。
一方で同時進行となった名人戦挑戦は4勝2敗で豊島将之を下し、自身初となる名人位を獲得した。
2021年3月時点では棋王戦(対糸谷哲郎)と王将戦(対永瀬拓矢)の防衛戦を同時進行中だったが、王将(4勝2敗1千日手、3連覇・通算5期)・棋王(3勝1敗、9連覇・通算9期)ともに防衛に成功した。同年4月からは名人戦七番勝負で斎藤慎太郎を迎え撃ち、2021年5月、4勝1敗で名人初防衛。
2021年度は昨年失冠した棋聖戦で挑戦者に名乗りを上げ、藤井聡太棋聖へのリベンジに挑んだものの、0勝3敗で敗退。初めてタイトル戦の番勝負でストレート負けを喫すると同時に、自身が保持していた最年少九段記録ならびに屋敷伸之九段が保持していた最年少防衛記録の更新を許した。さらに年明けの王将戦で藤井聡太竜王の挑戦を受けることとなるが、ここでもストレート負けを喫して最年少五冠達成を許してしまった。一方、棋王戦では永瀬拓矢王座を3勝1敗で退けて防衛。自身のタイトル通算獲得数を30に乗せた他、史上3人目となる同一タイトル10連覇を達成した。
2022年度は名人戦で前期に続いて斎藤慎太郎の挑戦を受けると、再び4勝1敗で防衛。貫録を見せつける結果となった。しかし年度末の棋王戦では藤井聡太が挑戦者に名乗りを上げ、1勝3敗で失冠。10年間守り続けた棋王位を失ってしまった。
2023年度、満を持して順位戦を潜り抜けてきた藤井聡太竜王の挑戦を受けるも、1勝4敗で敗北。史上最年少名人の誕生を許した上、自身は約18年ぶりの無冠となった。
棋風
居飛車党で、攻めの棋風。自玉を固めてから細い攻めを繋げることに関しては定評がある。また大体の戦型で通常の玉形から穴熊に組み替えることが多いのも特徴。受けも強く、近年では受け潰しに転じることも多々あり、大山二世と呼ばれたこともあるほど。
最新定跡にも明るく、若手の頃は横歩8五飛の研究で名を馳せたほか、竜王戦でも2008年の竜王戦で有名になった阿久津流急戦矢倉渡辺新手や、2010年から一時期愛用した角換わり六筋位取りなど、自ら新手・新定跡を編み出すことも多い。
戦型選択の面では、デビュー当初は後手番では横歩取り8五飛を多用していたが、2005年の竜王初防衛戦以降採用しなくなった。「先後両方を持つのが嫌だったから」らしい。以降は時折後手番の戦法選択に苦慮していた時期もあり、振り飛車などを試したこともあるが、基本的に後手番では8四歩と突き、相手の戦型誘導に従って指すことが多い。そのため角換わりは先手有利とされた2010年頃もずっと後手番を持ち続ける羽目になり、結果、郷田真隆と並んで角換わりの後手番の守護神などと呼ばれたことも。2013年の竜王失冠以降はタイトル戦の番勝負やA級順位戦など大一番での振り飛車の採用も多くなっており、2016年現在ではもはやゴキゲン中飛車が完全にローテ入りした感もある。
このような特徴のある棋風を磨いてきた一方で、2010年代後半の将棋AIの興隆に伴って出現した「守りを固める手数を惜しんで攻めの先攻を重視する(守りを気にしないのではなく、囲いで固めずに陣形全体のバランスで攻防一体の構えを取る)」潮流には完全に乗り遅れ、2017年度の不振を招いた。ただしすぐにその潮流をキャッチアップして従来の棋風とミックスさせ、2018年度から再度好調の波を掴んでいる。
また、名人に縁がなかった理由に関して「順位戦のように持ち時間が長い将棋が不得意だった」と自己分析していた。
人物像
ネット上でのあだなは藤子不二雄Aの漫画「魔太郎がくる!!」の主人公に似ていることから『魔太郎』(本人公認)。転じてその強さから『魔王』とも呼ばれる。冬の棋戦に強いイメージがある為、「冬将軍」「鍋の季節」の異名を持つ。ニコニコ上では、フランクさから気軽に『ナベ』と呼ばれることが多い。
既婚者で、妻は伊奈祐介六段の妹、伊奈めぐみさん。柊(しゅう)という息子がいる。
ハキハキした解説と同じく「思ったことを口にするタイプ(本人談)」とのこと。
タイトル戦の前夜祭では事あるごとに(特に佐賀牛や富山のブリの)食べ歩き宣言をする、「肉豆腐定食に味噌汁は指しすぎ」発言など、何かと食い気の話に事欠かない。好物はチョコパイとグラタンコロッケバーガー。
特に甘い物(特にチョコ・ケーキ・アイス類)が大好きで、タイトル戦はおやつしか楽しみがないと公言しており、ほとんどの棋士がタイトル戦では1局につき数キロ痩せると漏らす中、番勝負のたびに太るのが悩みだとか。ストレスは特に感じないらしい。
ただし食べた分だけ太る体質らしく、タイトル戦のたびに体重計を持ち込み、日夜ジョギングやエアロバイクなどのダイエットに励んでいる。なお、何故かエアロバイクは自室ではなく、妻の部屋に設置した。自分しかやらないのに…
これと関連してダイエット半分、やりたかったから半分で、休止状態だった将棋連盟のサッカー部をフットサル部として再建し、部長を務めている。
なお、将棋連盟のフットサル部関東の通称はFCセンダガーヤ。最近は連盟関西フットサル部のFortune Islandとの対戦がニコ生で公式番組になったことも。
競馬が大好きで、府中市に住んでた頃、休日には愛用のママチャリで東京競馬場に通っていた。
馬券を買うだけには飽き足らず、不安がる妻を『絶対に損しないから』と説得し「一口馬主」を始めるほど。
最近は、競馬研究しても当たらない為「競馬観戦のみになりつつある」と発言をしている。
ぬいぐるみ愛好家としても知られ、実家や家に計100匹以上のぬいぐるみを集めている。ぬいぐるみごとに名前や設定を考えて遊んでおり、「固いぬいはダメ」「ぬいは耳に当てて気持ちよさそうなのがベスト」「売り物のぬいには必要以上には触らない。新しい飼い主に失礼だから」などの語録も多数。
息子とともに遊んでいるが妻には不評で、棋士仲間が「竜王にぬいぐるみをあげると心の底から喜んでくれます」とツイートすると「全部まとめて送り返します」とバッサリ斬られる程度の扱いをされている模様。がんばれ魔太郎。
そして遂に後述の別冊少年マガジンの企画にて自分もぬいぐるみ化された。通称なべぬい。「一人だと寂しいので、同じ位の大きさのぬいを用意して、一緒に俺を応援して欲しい」とのこと。わけがわからないよ。
大の漫画好きで、1000冊以上蔵書があるとのこと。棋書と同じ棚に並んでいるが、漫画が大部分を占めているため来客に突っ込まれることも。
ジャンルは基本的に問わないが、グロ&ホラー系統は怖いため読まないとのこと。なお、描く方は完全に画伯である。
基本的に、好きなものは好きと取り入れ嫌いな物は嫌いと拒絶する。子供だね!
若手時代から積極的にブログを執筆しており、書籍化もされている。妻のめぐみさんのブログとならんで、棋界有数の人気ブログとして知られている。
また、妻のめぐみさんが本人をモデルとした実録漫画「将棋の渡辺くん」を別冊少年マガジンにて連載中。『将棋棋士』という特殊な職業ゆえか、一般常識が欠落している部分もあり、その度に妻にブログや漫画内で突っ込まれる日々を送っている。
この漫画のせいで私生活が暴露されまくっているため、この漫画を出典としてナベ及びナベと親交の深い棋士のネタは充実する傾向がある。
また、好き嫌いを明白に告げる癖があるためと、歯に衣着せぬ物言いから毒舌三羽烏と呼ばれた時代もあった関係か、ニコ生のタイトル戦PR動画ではヒール役を演じることもあった。その一方で、俄然力を付けてきたコンピュータ将棋「Bonanza」の対局に受けて立つなど、勇敢な場面も見せている。この対局結果は渡辺の勝利だったが、対局後「奨励会三段以上、中堅棋士以上の強さはある。こんなに強いなら安易に受けて立つんじゃなかった。勝ってほっとした」と答えている。
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出演だけでなく、よく視聴もしていることを公言している。コメントを書いて出演中の棋士に読まれたこともあるということを将棋解説中にカミングアウトしたことがある。以来、将棋生放送のコメントで素晴らしい手を指摘する人は「野生の竜王」と呼ばれるようになった。
本人曰く、「観る将」なのであまり出演したくないらしい(が、出演すると基本的にノリノリ)。なお、プレミアム会員の模様。タイトル戦の生放送ではアリーナ席を狙って開幕前からPC前でスタンバイしているとか何とか。
余談だが、将棋ソフトponanzaが将棋倶楽部24で対局する様を配信するユーザー生放送にゲスト出演したところ、ニコ生運営に見つかってユーザー生放送にもかかわらずニコ生トップページにただいま放送中と特別に掲示されたことがある。
昇段履歴
- 6級(1994年)…奨励会入会
- 四段(2000年4月1日)…三段リーグ1位による昇段
- 五段(2003年4月1日)…順位戦C級1組昇級
- 六段(2004年10月1日)…竜王挑戦
- 七段(2005年10月1日)…竜王獲得
- 八段(2005年11月17日)…竜王1期
- 九段(2005年11月30日)…竜王2期
成績
タイトル戦登場履歴
- タイトル戦登場回数:45回
タイトル獲得履歴
叡王戦成績
関連動画
関連生放送
関連サイト
関連項目
- 13
- 0pt