湾岸諸国(the Gulf states)とは、中東ペルシャ湾の湾岸に面した土地を領土に持つ国の総称である。
広義にはオマーン、UAE、カタール、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、イラク、イランの
8ヶ国を指す。
狭義には、湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council GCCと略す)を構成するオマーン、UAE、カタール、バーレーン、サウジアラビア、クウェートの6ヶ国を指す。
広義の湾岸諸国
広義の湾岸諸国は全てが産油国で、8ヶ国全てで全世界の石油埋蔵量の半分以上を占める。このため経済的に非常に重要で、世界経済の心臓部と言ってよい。
また8ヶ国全てがイスラム教を国教としている。
8ヶ国のうちイランだけがペルシア語を話すペルシア人が優勢の国家である。残りの7ヶ国はアラビア語を話すアラブ人が優勢の国家となっている。
狭義の湾岸諸国
狭義の湾岸諸国は、湾岸協力会議(GCC)を構成する6ヶ国を指す。このGCC6ヶ国は一致団結して行動することが非常に多く、一体不可分の存在との印象がある。テレビニュースでも「GCC6ヶ国の~」とアナウンサーが読みあげることがとても多い。
GCCはイラン・イラク戦争真っ最中の1981年に結成された。2国の派手な戦争に巻き込まれては敵わないので一致団結しておこうと考えたわけである。
ちなみにこの6ヶ国はすべて君主制の国であり、イラクとイランは共和制の国である。この構図は1981年から2022年現在まで変わっていない。君主制の国同士気が合って仲良くしやすかった。
GCC6ヶ国の総大将になるのは常にサウジアラビアである。軍事力、石油産出量、国土面積、メッカとメディナという2つの聖地を抱えている正統性、すべてにおいて卓越しており、他の5ヶ国はサウジアラビアの舎弟といった感があった。
特によく似ている3ヶ国 UAE、カタール、バーレーン
湾岸諸国のなかでもUAE、カタール、バーレーンの三ヶ国には共通点が多い。列記すると
砂漠に囲まれて5月から10月までの昼は灼熱の暑さになり、外出することは危険。
主要都市が海に近く、湿度が非常に高くて蒸し暑い。特に夜が蒸し暑く、外出すると眼鏡が曇る。
ときおり砂嵐が起こり、呼吸器官の病人が続出する。アブダビ、ドバイ、ドーハ、マナーマが凄い。
産油国で金持ち、巨大建築物を次々と建てている。アブダビ、ドバイ、ドーハ、マナーマが凄い。
インドなどからの出稼ぎ外国人建設労働者が多く、自国民の割合が少ない。(UAE13%、カタール13%、バーレーン46%)
モータースポーツに理解がありF1(バーレーン、UAE、カタール)やMotoGP(カタール)の誘致に成功している。
サッカー代表が地味に強く、W杯最終予選に残ってくるレベル。アフリカからの帰化選手が多い。
イラク、イランとは陸上で国境を接しておらず比較的に安全なイメージがある。
3国ともサウジアラビアを盟主として仰いでいて非常に親密である。
となっている。
半島がカタール、島がバーレーン、第二の都市ドバイで競馬をするのがUAE、とおぼえるといい。
湾岸諸国の君主制
狭義の湾岸諸国(GCC6ヶ国)はすべて君主制の国だが、称号が異なっている。
サウジアラビアとバーレーンがマリク(Malik)。Kingと英訳され、国王と和訳される。
UAEとカタールとクウェートがアミール(Emir)。そのままEmirと英語表記され、首長と和訳される。
オマーンがスルタン(Sultan)。そのままSultanと英語表記され、国王と和訳される。
これらの称号に上下の差は無い。国王が上で首長が下かというと、そんなことはない。マリクは「支配者」、アミールは「軍司令官」、スルタンは「権威」という意味で、いずれも1000年ほど前からアラブの世界で使われている立派な称号である。現在の国際社会でも全く同じように使われる。
ちなみに、マリクとスルタンはH.M.(His Majesty 陛下) アミールはH.H.(His Highness 殿下)というのが称号に付けられる。
こうした君主たちの子弟はたいてい、イギリスの学校で学んで自国に帰っていく。イギリスも君主制の国なので気が合うのであろう。
2017年カタール外交危機
2017年6月5日にサウジアラビアなどの中東5ヶ国が、イランが支援するエジプトの政治団体への資金援助を理由にカタールと断交した。鉄の結束を誇っていた狭義の湾岸諸国(GCC6ヶ国)が分裂した。
カタールはペルシャ湾のガス田開発でイランと衝突したくないという事情があり、近年はイランと同調することが増えていた。そうしたカタールの行動が、イランと犬猿の仲であるサウジアラビアの逆鱗に触れてしまった。
ちなみにサウジアラビアとイランは犬猿の仲で、中東世界の主導権を巡り常に争っている。2国の相違点を表にするとこうなる。
サウジアラビア | イラン | |
民族 | アラブ人 | ペルシア人 |
言語 | アラビア語 | ペルシア語 |
宗派 | スンナ派 | シーア派 |
米国 | 超の字がつくほどの親米 | かつて親米だったが1979年革命後は強烈な反米 |
歴史 | メッカ・メディナというイスラム聖地を持つ | イスラム以前に世界的大帝国[1]を築き上げた誇りあり |
気候 | 砂漠で暑い | 砂漠で暑いところもあるが、高原で涼しいところもある |
似ているのは、どちらも広大な領土を持っている軍事大国、石油産出量が莫大であること、程度である。
この断交によりカタールは陸路・海路・空路を封鎖され、サウジアラビアやUAEから輸入していた食料品が手に入りにくい事態となり、スーパーの棚が空になった。サウジアラビアの空域を通過できなくなり大回りの空路を強いられ、カタール航空の経営も悪化した。
米国とクウェートが関係改善に向けて仲介に乗り出した。2017年9月にはサウジアラビアとカタールの両首脳が電話会談して緊張緩和へ少し前進した。
英国のフィナンシャルタイムズ紙が報じるところによると[2]、2020年11月になってサウジアラビアがカタールとの関係回復に乗り出したという。11月3日にアメリカ合衆国大統領選挙が行われ、民主党のジョー・バイデン候補が勝利する見通しになった。ドナルド・トランプ大統領はイスラエル寄りであり[3]、イスラエルに敵対するイランに厳しい外交政策をとっており[4]、イランと敵対するサウジアラビアに対して大量の武器供与を行い[5]、サウジアラビアへの武器売却を議会に反対されても拒否権を発動し[6]、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が承認して政府機関にジャーナリストのジャマル・カショジを殺害させた後も皇太子に対して追求の圧力を加えることをせず[7]、徹底的にサウジアラビア寄りの姿勢を示していた。そのドナルド・トランプ大統領が選挙で敗れて民主党のジョー・バイデンが大統領になるので、サウジアラビアに対する米国の様々な圧力が強化されることが予想された。その圧力をすこしでも緩和するため、「カタールとの国交回復」という外交成果を挙げておいて、ジョー・バイデンへ恩を売るだろう、とフィナンシャルタイムズ紙は推測した。
2021年1月5日になってついにサウジアラビアとカタールの断交状態が解消され、国交が回復した[8]。
関連項目
脚注
- *紀元前6世紀にアケメネス朝ペルシアという大帝国を建設してオリエント世界を統一した。3世紀にはササン朝ペルシアを建国して強勢を誇った。7世紀中盤になってササン朝ペルシアはイスラム教勢力に征服された。イスラム教が生まれたのは7世紀初めのことである。
- *フィナンシャルタイムズ紙2020年11月28日記事
- *ドナルド・トランプの娘のイヴァンカ・トランプの婿がジャレッド・クシュナーというユダヤ教徒である。
- *2018年5月8日にドナルド・トランプ大統領はイランに対する核合意から離脱し、イランに対する強烈な経済制裁を開始した。BBC記事
- *ロイター通信2019年5月24日記事
- *フランス通信(AFP通信)2019年7月25日記事
- *2021年2月に民主党政権になったあと、米国政府は「ジャマル・カショギの殺害は皇太子の承認があった」という報告書を提出した。BBC記事
- *フランス通信(AFP通信)記事
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