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熱中症とは、高温等のために体のバランスがおかしくなり発症する障害のことである。
概要
人間のような恒温動物は汗や毛細血管の拡張などにより上昇した体温を低下させる機能、つまり体温調整機能がある。しかし、汗により水分や塩分が失われることにより、このような体温調整機能が破綻し体温が上昇し続けて様々な障害を起こすことがある。このような障害を総称したものが熱中症である。かつては特に重症のものを熱射病あるいは日射病と呼ぶこともあった。
熱中症になりやすい環境としては、温度が高い、湿度が高い、風が弱い、通気性が悪い、日差しが強い、急に暑くなったなどがある 。激しい労働や運動によって発症することも多い。また熱中症になりやすい人は、高齢者、幼児、肥満の人、 体調の悪い人、持病のある人、暑さに慣れていない人とされている。
悪条件さえ揃えば、年齢に限らず30分も経たないうちに発症する。
年代別に見ると10代はスポーツ時、20代から50代は仕事時、60代以上は日常生活において起きることが多い。このうち、スポーツ時と仕事時は屋外で発症することが多いが、日常生活において起こる場合にはむしろ屋内で発症することが多いので注意が必要である。
熱中症は患者数、死亡数とも少なくない。1995年以降における日本の1年間の熱中症死亡数は平均で約353人であり、最も多かった2007年には923人に上った。また、消防庁の調査によると、2010年は7月~9月の夏季において53,843人が熱中症で搬送された。
症状と処置
熱中症は重症度に応じてⅠ度~Ⅲ度に分類されている。これを表にまとめると次のようになる。
重症度 | 症状 | 対応 |
---|---|---|
Ⅰ度 (軽症) |
||
Ⅱ度 (中等症) |
|
|
Ⅲ度 (重症) |
すぐに救急隊を呼んだ上で応急処置を行う。 |
Ⅰ度やⅡ度の場合は次のような手順で処置を行う。これらの処置を行っても症状が改善されなかったりむしろ悪化するような場合には医療機関へ搬送する 。Ⅲ度の場合の応急処置も1や2については同様であるが、3の水分・塩分の補給は行わない。
応急処置
- 1. 涼しい場所への避難
- 風通しの良い日陰かクーラーの効いた室内へ避難させて、安静に寝かせる。
- 2. 脱衣と冷却
- 衣服を脱がせたり締め付けを緩める(ボタンやベルトを外すなど)。うちわや扇風機などで扇いで体を冷やす、氷嚢を首、脇の下、太ももの付け根、股関節など皮膚のすぐ下を太い血液が流れているところに当てる。保冷材や凍ったペットボトル等でも代用できるため、冷蔵庫やクーラーボックスに入れておくと役立つ。
- 3. 水分・塩分の補給
- 冷たい水を与える。大量の発汗があった場合には、塩分補給のため食塩水(1リットルに1~2グラムの食塩)やスポーツドリンクが良い。ただし、意識がない場合、意識があっても呼びかけや刺激に対する反応がおかしい場合、吐き気を訴えたり実際に吐く場合には水分を無理に飲ませるのは厳禁である。このような場合には医療機関へ搬送すること。
予防法
熱中症の予防のためには次のようなことに気をつける必要がある。
- 暑さを避ける
- 屋外では日傘や帽子を使用し、できるだけ日陰を歩く。屋内ではブラインドやすだれを垂らし、扇風機やエアコンを使う。ただし、エアコンの設定温度が低すぎると出入りする際に体の負担になるので注意。仕事においてはスポットクーラーや業務用の大型扇風機などの設備も必要。体温が過度に上昇する前に涼しい室内・車内・店内・地下街などに一時避難する手もある。
- 涼しい服装をする
- 汗をよく吸う素材で出来た、体を締め付けない服装を選ぶ。太陽光の下では、黒色系の服は避ける。
長時間炎天下で過ごす場合は帽子をかぶるといった自衛策も必要。(麦わら帽子などは通気性に優れており蒸れづらい)近年は冷却材を内蔵できたり、内部に送風が可能な空調服も販売されている。 - こまめに水分や塩分を補給する
- のどが乾いた場合はもちろんであるが、のどが乾いていなくてもこまめな水分補給を行う。スポーツドリンクや塩分の多い飲料が特に良い。なお、お酒は吸収した水分以上が尿として排出されてしまうため、水分補給としては不十分である。
- 「運動中に水を飲むな!」と昔はよく言われ未だに頑なに信じている古い人もいるが、元は「戦時中にジャングルなどで(煮沸されていない)不衛生な生水は腹を壊す=死に直結するから飲むな!」という言葉が伝言ゲームで勝手に曲解されて伝わったもので、全く科学的根拠がない。当人が「俺がそれで苦労してきたのにお前らが苦労しないのは許さない!」という負の部分もある。(当然、海外の人は行わないし、普通に飲む)
- 十分な水分を準備する
- 運動や活動に対して十分な量の水分を用意する。またコンビニや自販機など補給場所を把握する。店舗のない山奥の現場などではあらかじめそれらを買い込むといった準備を怠らない。必要に応じて大型の水筒や、共用で使えるタンクといった補給装置などを準備する。(→水筒)
- 急に熱くなる日に注意する
- 暑い環境におかれてしばらく経つと人間の体は体温調整が上手くなる。逆に言うと急に熱くなる日は体温調整がまだ上手に出来ていないため、熱中症になりやすい。このため、梅雨明けの7月下旬から8月上旬に熱中症が多発する。
- 暑さに備えた体づくりをする
- 汗をかかないような季節から、ウォーキングなどの軽い運動により汗をかくことにより、体温調整が上手になるようにする。
- 体調に気をつける
- 体調に異常を感じたら申告し対処・診断・応急処置を行う。速やかに対処できれば現場への復帰も容易になり、結果的に被害は最小限に抑える事も可能。場合によっては医療機関への救急搬送も行う。
- 風邪による発熱や下痢による脱水症状の時、睡眠不足や栄養不足の時は特に暑い場所での活動は控える。心臓病や糖尿病などの持病がある人、肥満の人も同様である。
- 集団活動ではお互いに配慮する
- スポーツや労働など集団活動を行うときは監督者を配置し、上記のようなことに気をつける。気温・湿度・通気性などを把握し、計画的に休憩を指示し場合によっては活動を中止する。個人の体調を観察し、熱中症の症状が疑われる時には適切な対応を行う。凍ったボトルなどの保冷材等をクーラーボックスに入れておくといった事前対策があればなおよい。一人で作業している場合に倒れると発見・対処が遅れるため、2人以上での作業や定期的な見回りも必要。
対処が悪質な場合は必ず疑う
ブラック部活・ブラック企業(項目参照)など、体調不良の申告や明確な異常が起きているのに体育会系のノリや根性論で継続させるのはもってのほか。(価値観が昭和のまま修正されずに生きてきた指導者などに多い)気軽に水分補給をしやすい雰囲気・環境や休憩時間を作ることも重要。
皆が頑張っており迷惑がかかるからと同調圧力で「言い出せずに限界まで耐えて熱中症で死にました」は全く美徳ではないため、非人道的な対処しか行わない現場はまともでないと疑うこと。部活や職場の先輩・過去に功績を残した監督=「指導者としても優秀」…とは限らないため、盲目に従えばあの世行きである。
WBGT(暑さ指数)
熱中症の発症数と気温には密接な関係があるが、他にも湿度、気流、輻射熱(物体表面温度)なども関係してくる。運動時や労働時など特に熱中症に気をつける必要があるような場合には、気温のみによる管理では不十分な時もある。このことを踏まえて、熱中症予防の観点から高温環境を評価する指標がWBGT(Wet-bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)である。
これは1957年にアメリカのYaglouとMinardが提唱した指標で、労働時の指標としてJIS Z 8504やISO7243で規格化されており、運動時の指標としても日本 体育協会の「熱中症予防のための運動指針」で採用されている。日本では暑さ指数などともよぶ。
WBGTは次の計算式で求まる。測定にはアウグスト温度計等を用いるが、演算と取扱いが煩雑なため、現在はハンディータイプの測定器が開発されている。
環境 | 計算式 |
---|---|
屋外で日射のある場合 |
|
屋内または日射のない場合 |
WBGTについては、1時間ごとの実況予測値(推測値)と明後日までの予測値が環境省熱中症予防情報サイトに掲載されている。
日本体育協会の「熱中症予防のための運動指針」では、WBGTに応じて次のような指針を定めている。温度が高い場合には参考値としてあげた乾球温度、つまり通常の気温でも代用できるが、湿度が高い場合には1つ上のランクの指針を参考にすること。
WBGT | 気温(参考値) | 対応 | |
---|---|---|---|
31度以上 |
35度以上 |
運動は原則中止 |
|
28~31度 |
31~35度 |
厳重警戒 |
熱中症の危険が高いので激しい運動や持久走など熱負担の大きい運動は避ける。運動する場合には積極的に休憩をとり水分補給を行う。体力低い者、暑さに馴れていない者は運動中止。 |
25~28度 |
28~31度 |
警戒 |
|
21~25度 |
24~28度 |
注意 |
|
21度まで |
24度まで |
ほぼ安全 |
なお、2011年6月24日に埼玉県熊谷市で6月としては史上最高となる39.8度を観測したが、気温の上昇に伴い急激に湿度が低下したため、WBGTとしては最高気温を観測した午後2時過ぎ(約29度)よりむしろ正午(約32度)の方が高かった。
余談
- 熱中症になるのは人間だけではなく、外で飼育しているペットなどでも起こりうる。
- 生物に限らず高温多湿の環境下に置かれた飲料や食品等は、細菌が繁殖し容易に腐敗する(食中毒)といったリスクも見落としがちである。
関連商品
関連項目
- 夏 / 猛暑
- 水 / 水筒
- ニコニコ大百科:医学記事一覧
- 少し、頭冷やそうか
- 高齢化社会
- ヒートアイランド現象
- 地球温暖化
- 脱水
外部リンク
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