犯罪人引渡条約とは、国際条約の一つである。
概要
読んで字の如し。犯罪者を引き渡す事に関する条約である。
国外に逃亡した、国内における犯罪の嫌疑がかけられている容疑者が、逃亡先の国で身柄を拘束された際、容疑者の身柄については捕まえた国の司法権に属するので本来は引き渡す義務はない。しかしこの条約を締結するとそれが可能になるわけである。だいたいの条約がそうだが、これは逆もしかりであり、相互に義務を果たす必要がある。
ヨーロッパでは欧州評議会参加国(≒EU加盟国プラスα)ならば、欧州犯罪人引渡条約に基づき同様の措置がとられる。国別に見ると2020年現在は英国が120ヶ国、フランスが100ヶ国、アメリカが70ヶ国との間で締結している。
それに対し我が国はアメリカと韓国の2カ国でしか締結していない。これは先進国の中でも特異に少ないとされ、我が国に設置されている死刑制度やマル特無期(事実上の仮釈放なし終身刑)が原因という言説もある。
条約の内容と問題点
概要に著した通り、この条約は我が国においてはアメリカと1980年に、韓国とは2002年に締結している。それぞれの条約には引き渡す罪状や、引き渡す際の諸手続きなどが決められており、これに基づいて実際の手続きを逃亡犯罪人引渡法に拠って行うという仕組みになっている。
まず押さえておくべきはこの条約はあくまで、引き渡すかどうかを問題にしている条約という点である。引渡条約を結んでない国に逃亡した容疑者に対し、捜査を中止したりする事を定めているわけではなく、外交努力として「代理処罰」を求めることは可能であり、また国外逃亡した容疑者が帰国した場合に逮捕することもまた可能である。
また、あくまで論点となりうるのは外国国籍を持つ者が外国で犯罪を犯した後に故国に逃亡した場合であって、日本国籍を持ったまま海外逃亡しても、ビザなしの国に行ったとして最大90日以内に帰らなければ強制送還される(ビザありなら条件に記載された日数内)為、多くの場合問題にはならない。
国外に逃げようとうちの国で犯罪を起こしたのなら、条約どうこう関係なく引き渡すのが筋ではないかと考える人もいるかもしれない。ここで思い出してほしいのが、歴史の授業のうち、幕末あたりでやったであろう領事裁判権である。これは、外国人がその条約を結んだ国で犯罪を犯しても、その国の法律ではなく、その外国人の領事(本国から派遣された外交官)の下、本国の法律で裁くという内容の権利である。
我が国は明治に入って長らくこの権利の撤廃を目指してきたが、それも当然で、相手がどの国の人間であろうと、自国の領土内で置きた事件は自国の法律で裁くのが当たり前(属地主義)だからである。これと同じことが引き渡し条約絡みの話でもいえ、逃亡してきた人間であろうと、本来ならば自国の法律で裁くなり刑事処分を下すのが原則で、引き渡すのが特例となるのである。ブラジルなど一部の国では自国民を外国に引き渡すことを憲法で禁じているほどだ。
この条約が結ばれてない国での逃亡犯に対する手段として、代理処罰を冒頭にあげているがこれにも問題がある。捜査資料をすべてその国の言葉に直さなければいけないし、すべて訳してその国の法廷で裁判にかけられたとしても、国が違えば量刑も大きく違うので必ずしも被害者や遺族、当該国の法感情に見合った罰がくだされるとは限らない。その為、一カ国でも多く、この条約を締結して逃亡犯を自国に引き渡す事が強く求められるのである。
我が国も全く締結国の増加に無関心なわけではなく、中国やブラジルなどとの交渉を持ったこともあったが、残念ながら実を結ばずに終わっている。
取り上げられた作品
- 相棒 Season7 第12話「逃亡者」 杉下右京(水谷豊)単独の頃の事件。ちょうどブラジルとの間で犯罪人引渡条約についての交渉がもたれた頃の話であり、その影響だろうか。放送からかなりの年月(2009年1月放送)が経っているが、骨子となる部分に変化はないため、この問題について知るにはいい題材となるだろう。
関連項目
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