玄倉川水難事故(くろくらがわ-)とは、1999年8月13日から翌14日にかけて、神奈川県山北町玄倉川で起こった水難事故である。
概要
大雨による増水の恐ろしさを日本中に知らしめた事故。
気象庁の用語改正や避難指示の体制整備など、様々な行政の改革のきっかけともなった。
この後ほどなくしてインターネットは常時接続の時代に入り、大型掲示板2ちゃんねるなどにおいて、彼らを揶揄する「DQNの川流れ」という言葉が定着してしまった側面も持つ。
あまりにも川をなめすぎたキャンプ計画(にすらなっていない行き当たりばったり)、警告の度重なる無視、関係者に対する暴言など、被害者たちの目に余る行動が目立った。少なくともはじめの退避勧告に従っていれば一人の死者も出さずにすんだものを、子ども4人を含む13名の死者を出す大惨事にしてしまったこともあり、彼らへの同情は現在に至るまで皆無に近い。
しかし、この事故が自業自得だからといって、「自分はここまでバカなことはやらないから大丈夫なはずだ」という別の油断をしてしまっては意味がない。彼らより小さな油断でも流される危険は常にある。
本事故にかかわらず、さまざまな水難事故や避難情報に関する最新の情報を集め、必要とあらば直ちに避難する、もしくは安全な場所にとどまる判断ができるようにすることが大事である。
経緯
玄倉川は、神奈川県山北町の丹沢湖(三保ダム)の更に奥地にある渓流。首都圏からも近い自然の宝庫・丹沢山地の中を流れている。しかし他の渓流の例に漏れず、多くの沢からの水が集まる場所であり、ひとたび大雨が降ればその流れは凶暴化する。(三保ダムはそうした洪水調整の役割も兼ねる多目的ダムである)
ここに1999年8月13日、神奈川のスクラップ処理会社「富士繁」のトラックドライバーとその家族・恋人ら25人が、キャンプをするため玄倉川の中州(もちろん現場はキャンプ場ではない)にテントを張ったことから惨事は始まる。
度重なる警告の無視
当時、熱帯低気圧が関東へと接近中であり、翌日までには豪雨・洪水が発生する恐れがあった。が、当人たちがそれを知っていたのかは定かではない。
13日午後には大雨洪水警報が発令され、地元のダム職員や警察官は川辺から退避するように何度も警告したが、一行はそれを全く相手にしなかった。他にも同地でキャンプをしていた人々は全員退避に従い、一行のうち4人は元々日帰りだったため帰宅、3人は退避に従ったが、最終的に18人だけが大雨の降る中洲のテントに残り続けた。
孤立
翌8月14日朝になっても雨は勢いを止めず、川の水位は増し、退避していた3人は消防の助けを呼ぶ事に。
午前8時半ごろまでにはようやくテントの一行も起床し、周辺の様子が一変している事に気付いた。時既に遅し、中州は完全に水没、大人の膝以上の高さにまで水位は上がっていた。テントもあっさりと流されてしまう。
消防・警察・報道などが駆けつけた現場にいたのは、濁流のど真ん中に固まって身動きの取れない18人(うち子供6人)の姿だった。救助を試みるも悪天候と増水に阻まれ苦戦を強いられる(悪天候の谷間という状況の為ヘリも出せない)。そうした隊員たちに対して一行は「早く助けろ!」と罵声を浴びせたとされる。
終幕
午前11時半ごろ(増水は続いてこの頃にはもう胸まで水に浸かっている状態だった)、遂に水流に耐えきれず、18人は全員一斉に濁流へと投げ出されていった。その衝撃的な光景はテレビカメラにしっかりと記録され、全国へと中継された。
残る13人はそのまま下流に流された。水流が強すぎる上、すぐ先に小型の滝があったため生存は絶望的とみられた。実際、翌15日までに12人の遺体を発見。残る1人も8月29日に発見され、全員の死亡が確認された。
事故の要因
テントを張った場所が川の中州
中州にテントを張ってはいけない、というのはキャンプ初心者の指導書にも必ず書いてある、基本中の基本である。川はどこでも増水の危険があるが、その中でも最悪の立地である。
再三の警告無視
退避した人々は全員助かっている。チャンスは一度や二度ではなかったにも拘わらず、それら全てを水の泡にした結果、自分たちが水の泡となってしまった。
本事故が注目される要因
再三の警告無視
繰り返しになるが、事故の最大要因であるとともに、これこそが本事故に同情の余地が見られないとされる最大の要因でもある。多くの被害者を出したとはいえ、本事故は自業自得という見方が大勢であった。救出費用が公費ということもあり、当時流行していた自己責任論もあって冷ややかな目で見られることになった。
警告の有無にかかわらず、大雨が降っていて水流の勢いが増しているにもかかわらず頑なに待避していない、という時点で、まともな判断能力を喪失していたと言わざるをえない。
救助者・関係者への暴言(真偽不明のものも含む)
真偽が完全に確認されたわけではない話も混ざっているので注意は必要だが、特に話題になる。
退避を促す地元職員に対する冷淡な態度から、救助活動中には早くしろと騒ぐ自己中心的な行動は、この事件を語る上でも非難の的に挙がりやすい。
他にも挙げるとキリがないのだが(荒れる原因にもなるので)ここでは略す。
映像が残っている
濁流の中に取り残された姿、そして力尽きて流される姿がカメラに記録されて報道されており、ニコニコ動画などの動画サイトで現在でも目にしやすい。
最終的に多数の死者を出すことになったため、ニュースではのちに自粛されることになったが、録画していた視聴者がいたために映像に残っているものである。
一目で大惨事と分かる光景である。教訓として心に刻もう。自業自得とはいえ嘲笑していいものではない。
本事故の影響
予報の表現改訂
それまでは「弱い台風」「弱い熱帯低気圧」とか「小型の台風」といった表現が用いられていたのだが、それでも台風は台風であって普通の低気圧よりも強烈なのに誤解を招きかねないという指摘もあり、この事故が契機になって表現が改められた。
強さは「台風」「強い台風」「非常に強い~」「猛烈な~」の4種類に、大きさは「台風」「大型の台風」「超大型の~」の3種類に。この表現は2016年現在でも適用され続けている。
また、熱帯低気圧に「弱い」という表現は使われなくなった。
「弱くない」熱帯低気圧(tropical depression)とは(日本では)台風のことである。つまり「弱い」とはいえミニ台風ぐらいの威力はあり、引き続き注意を要する。現在は単に「熱帯低気圧」と表現される。
避難指示の体制・文言の整備
本事故に限ったことではなく、度重なる自然災害のたびに避難「勧告」を無視して被災する市民が続出したため、21世紀になってから、避難指示のやり方や文言がたびたび改訂されている。
これは2021年現在も継続中で、最新のガイドラインでは、「避難勧告」という用語が廃止された。
2021年5月20日の改正災害対策基本法では、「高齢者等避難」→「避難指示」と、いずれも「任意ではなく必ず避難」という意図が伝わりやすいようになっている。詳しくは「避難指示」の記事参照。
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