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白血病とは、血液(血球)に生じる「がん」である。
「がん」と言っても、血液中に腫瘍が出来るわけではない。主に骨髄にある造血幹細胞が何らかの原因で病的な白血球ばかりを生成するようになり、その結果として正常な血液状態ではなくなってしまう。
有名人が罹患して亡くなったり、創作でも「不治の病」として扱われがちなためか「一度かかったら死ぬしかない」と言うイメージを持つ人も多いが、安心してください。治療方法はありますよ。
概要
定義と症状
白血病は遺伝子変異の結果、増殖や生存において優位性を獲得した造血細胞が骨髄で自律的に増殖するクローン性の疾患群である。白血病は分化能を失った幼若細胞が増加する急性白血病と、分化・成熟を伴いほぼ正常な形態を有する細胞が増殖する慢性白血病に分けられる。また分化の方向により骨髄性とリンパ性に大別される』
…ざっくりまとめると、「何らかの原因で血を作る細胞が遺伝子レベルで変異して、白血球を増し増しで作るようになってしまう」病気。白血球は免疫だし、ちょっと多いくらいいいんじゃないの?と思う人もいるかもしれないが、病的な白血球ばかりが作られるぶん「赤血球や血小板が減る」と言うことである。
さらに白血病で作られる白血球は病的なので、免疫力も落ちる。赤血球が少なくなるので重度の貧血にもなる。血小板も少なくなるので怪我したら治癒しづらい。そして、増えすぎた白血球は溢れて細胞を侵し、臓器に様々な異常を引き起こす。以上は「急性白血病」に見られる症状である。
逆に「慢性白血病」では上記のような症状が出づらく、健康診断で引っかかって初めて気付くケースも。だからと言って放置すると、何年か経過した後「必ず」上記の急性症状が現れる。
発症原因
造血細胞が遺伝子変異をきたし云々…までは分かっているが、「なぜそのような遺伝子変異が起きるのか」については殆ど分かっていない。トリガーとして判明しているのは
程度であり、他の原因物質と思われるものは不明。がん抑制遺伝子の不活性化や、癌遺伝子の活性化が蓄積して発生する…と言うことくらいしか分かっていないのだ。
ちなみに「癌」は「上皮組織の悪性腫瘍」を指す用語であるため、白血病を「血液の癌」と書くのは正確ではない。「癌」よりも広範の意味を持つ「がん」を用いて「血液のがん」と表記するのが正確である。
白血病の分類
大きく分けて「造血幹細胞がどの時点でがん化したか」で「急性」「慢性」、「どこががん化したかで」で「骨髄性」「リンパ性」に分類される。
造血障害による貧血、免疫不全、出血傾向などが共通の症状として表れる。急性白血病と慢性白血病の発生比率は約4:1、急性骨髄性と急性リンパ性では成人で約1:4、小児で約4:1である。
急性骨髄性白血病とは
「造血幹細胞」は、赤血球、白血球、リンパ球、血小板など、血液中の様々な成分を生み出し、また自身も分裂して造血組織を維持し続けている。
この造血幹細胞が未熟な時期に異常が起きると、血球がバランスよく作られなくなり、血液中に白血病細胞が増加してしまう。「急性」とは「急激に進行する」という意味ではなく、「造血幹細胞が血球に分化する途中でその能力を失って異常増殖する」という意味なのだ(確かに急性白血病の進行は速いことが多いし、もともとはそういう理由で急性とされていたのだが)。
がん細胞の増加により骨髄のバリアが破壊され、血液中に通常は流出しない未熟細胞(実態はがん細胞)が流出することによる「白血病裂孔(間隙)」という血液の状態がみられる。
慢性骨髄性白血病とは
「急性」とは違い、慢性骨髄性白血病にかかっていても、造血幹細胞で赤血球・白血球などはちゃんと分化・成熟している。しかし、作られる数に異常が生じるのだ。正しく作られた白血球でも時間を掛けてじわじわと増えれば、やがては身体に異常をもたらす。つまり、「造血幹細胞が血球に分化する能力を持ったまま異常増殖する」というのが急性との大きな違いだ。
この「白血球がじわじわ増えていく」段階は自覚症状がほとんどないため、健康診断などで初めて発見されることが殆ど。放置すると、やがては前述したような「急性症状」が発症する。
急性・慢性リンパ性白血病とは
骨髄性とは違い、リンパ球が増殖する白血病。大雑把に言ってしまえば、リンパ芽球の段階でがん化したものが急性、Bリンパ球ががん化したものが慢性といえる。類縁疾患として悪性リンパ腫があり、これはリンパ節でTリンパ球やBリンパ球が増殖し、腫瘤を形成してしまうもの。つまり、リンパ球がどの段階でがん化したかだけの違いであり、急性と慢性の間には骨髄性ほど大きな違いがあるというわけではない。
白血病の種類
「急性」「慢性」「骨髄性」「リンパ性」で大別される白血病だが、症状や発症しやすい年齢などはまちまち。以下に表でざっくりまとめてみると、
種類・名称 | 主な症状・異常 | 発症しやすい年齢など |
急性骨髄性白血病(AML) | 赤血球・白血球の減少による 発熱・貧血・出血など |
まんべんなく 70歳以上より率増加 |
急性前骨髄球性白血病(APL)※ | 出血・貧血(特に出血が危険) | 特に中年期で増加 |
急性リンパ性白血病(ALL) | 発熱・貧血 リンパ節/肝臓/脾臓の腫れ |
特に小児に多し |
慢性骨髄性白血病(CML) | 無症状→疲労感・微熱・脾臓の腫れ →放置すると急性症状 |
まんべんなく 40歳以上より率増加 |
慢性リンパ性白血病(CLL) | 無症状→貧血・ 脾臓などの腫れ・免疫不全など |
特に60歳以上で増加 |
成人T細胞性白血病(ATL) (ウィルス感染で発症) |
急性症状から慢性化まで色々 | 保有者からのウィルス感染 母子感染・性感染する |
悪性リンパ腫 | リンパ節の腫れ・しこり、その転移 痛み・発熱など |
まんべんなく 加齢で発症率増加 |
※正確にはAPLはAMLの一分類なのだが、治療法が他のAMLと異なるために分けられることも多い。
他にも様々に分類される。紙幅の都合上、詳しい説明は控えさせて頂きます。興味を持った方はぜひ一度、調べてみることをオススメします。
成人T細胞性白血病(ATL)について
この白血病は原因がはっきりしており、ウィルス保有者からの母子感染・精液を通じての性感染があるため特記する。
HTLV-1というウイルスの感染によって発症する。主に母乳による母子感染や夫婦間での性感染が感染経路と考えられているが、発症するまでが長い(40代に多い)ため、夫婦感染はあまり問題視されない。薬が効きにくく、発症後そのまま死に至ることが多い。ATL細胞と呼ばれる花形の特殊な白血球が血中に見られるのが特徴。ちなみにHTLV-1は日本人の100人に一人が持っており、そのうち5%が発症すると言われている。
ウイルス性のため、地域によって患者数が偏っているのが特徴。世界ではカリブ海沿岸やアフリカ中西部に多く、日本では九州~沖縄に多い。熊襲などの先住民と、大陸からの移民などの違いが現れた一つの形とも言える。また離島など交通の便が悪い地域は感染者が多い傾向にあり、五島列島などは特に感染者が多かった。
長崎県は1987年頃から積極的にATLの母子感染対策を実施しており、現在は改善へと向かっている。
白血病の治療
(よくCMを打たれていたこともあってか)「骨髄移植」が白血病の唯一にして最大の治療方法…と言うわけではなく、2016年現在の主流は「抗ガン剤による化学療法」である。とは言うものの骨髄移植の重要性は変わらず、これしか手立てがない白血病もある。
骨髄移植
白血病で正常な造血機能が失われた患者(レシピエント)に、機能が正常な人(ドナー)の骨髄を注入して行う治療方法。日本では1992年から「骨髄バンク事業」が開始された。
患者への負担が大きく、副作用も大きく、いわゆる拒絶反応の発現率も高い。兄弟姉妹ですら「ヒト白血球抗原(これが一致しないと移植不可)」の一致率は25%ほど、非血縁者では数百人~数万人に一人しか一致しない。さらにこの抗原が一致したとしても、拒絶反応が約25%の確率で発生してしまう。
日々開発される新薬の登場により、ファーストチョイスとしていきなり「骨髄移植」が選択されることは少なくなったものの、薬でも抑え込めない・抑えこんでたけど再発した、となると「奥の手」として選択される。
繰り返しになるが、骨髄移植を行おうにもドナーと患者の「抗原」が一致していなければ、この治療を選択することすら出来ない。ひとりの骨髄バンクへの登録は、それだけ患者の助かるチャンスを増やすことに繋がる。
化学療法
「抗がん剤」を投与して行う治療方法。白血病の種類に合わせて様々な薬が日々開発・投入されており、化学療法の目的である「完全寛解(白血病細胞はまだ残ってるし、再発の可能性もあるけど、症状自体は押さえ込めている)」まで持っていくことも十分に可能となった。
完全寛解まで持っていければ、残っている白血病細胞を徹底的に死滅させる「地固め療法」、さらに弱い抗ガン剤を使用する「維持療法」を行い、これで5年間再発しなければめでたく「治癒」となる。
この治療法を選択するためにも、健康診断などによる早期発見が非常に大事である。
代表的な抗ガン剤
白血病の種類・進行状況に合わせて様々な薬がある。ここでは一部を紹介したい。
- トレチノイン (分子標的治療薬。APLに対して有効。原因を「狙い撃ち」し、病態によっては寛解率90%まで行くことも)
- イマチニブ (ガン原因タンパク質の働きを抑えこむ。病態によっては非常に有効だけど高価。
1錠3000円を1日4錠、保険が効いても1ヶ月10万円くらい…) - ネララビン (骨髄移植しかないかと思われたT細胞急性リンパ性白血病に対して有効。2007年に認可)
- ABVD療法 (アドリアマイシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジンの4剤全てを併用する
治療方法。悪性リンパ腫に対して使用される) - CHOP療法 (シクロホスファミド、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ビンクリスチン、プレドニゾロンの4剤を併用する治療方法。悪性リンパ腫の一種に対して使用される)
などなど。(かかりたくないけど)もし白血病にかかってしまっても、今日に至るまで様々な薬が開発され続けている。主治医と十分に相談の上、適切な治療法を選択するためにも、早期発見・早期治療が何より大事である。大事なことなので二回言いました。
関連疾患
- 骨髄異形成症候群(MDS)
正常な造血ができない異常な細胞が骨髄内で増殖し、血球が減少してしまう疾患。骨髄の芽球比率が20~30%未満(分類法によって異なる)のものがMDSとされ、それ以上のものは急性白血病とされる。
前白血病と言える状態で、急性骨髄性白血病に移行することも多い。 - 真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症など
それぞれ赤血球、血小板、骨髄間質細胞が異常増殖した疾患。増殖しているものが違うだけで骨髄内で異常増殖が見られるというのは慢性骨髄性白血病と共通しており、すべてまとめて骨髄増殖性腫瘍と呼ばれている。
両者の特徴を併せ持った「骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍」という疾患もある。
白血病にかかった著名人
前述したように、大部分が「発症原因不明」とされる白血病。多くの著名人も罹患している。
- 夏目雅子 (女優。AMLを発症、27歳で死去)
- 本田美奈子 (女優。AMLを発症、38歳で死去)
- 渡辺謙 (俳優。AMLを2度発症するも復帰)
- アンディ・フグ (格闘家。APLを発症、35歳で死去)
- 十二代目市川團十郎 (歌舞伎俳優。APLを発症、妹より骨髄移植を受け復帰)
- 中島忠幸 (お笑いコンビ「カンニング」のひとり。ALLを発症、35歳で死去)
- 蔵間龍也 (元大相撲力士。CMLを発症、42歳で死去)
- 浅野史郎 (元宮城県知事。ATLを発症、骨髄移植を受け療養)
- 大豊泰昭 (元プロ野球選手。AMLを発症、51歳で死去)
- 三瓶明雄 (TOKIOの6人目DASH村の営農指導者。AMLを発症、84歳で死去)
- カーネル・サンダース (ケンタッキーフライドチキン創業者。AMLを発症、90歳で死去)
- 松来未祐 (声優。悪性リンパ腫により39歳で死去)
- 北別府学 (元プロ野球選手。ATLを発症、骨髄移植を受け療養)
- 池江璃花子 (競泳選手。ALLを発症するも復帰)
- 攝津正 (元プロ野球選手。CMLを発症、闘病しながら活動)
- 星希成奏 (声優。ALLを発症、現在は入院治療を終え退院し、リハビリ中)
年齢・性別・人種・職種を問わず、いつ誰がなってもおかしくない白血病。他界した人も、復帰した人も、この厄介な病の存在を知らせるため、それぞれが様々なメッセージを様々な形で発信し続けている。
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関連項目
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