相続税とは、相続などにより取得した財産に課税する税金である。
概要
相続税は国税の一つで、平成20年度の税収は贈与税と合わせて1.5兆円である。これは、租税及び印紙収入の3.3%を占め、国税の中では6番目の額である。
相続税は直接税、つまり税金を負担する者と税金を納める者が一致する税金である。税率は所得税と同様に累進課税制度を導入しており、最低税率は10%、最高税率は50%である。
相続税の納税義務者は原則として相続などにより財産を取得した個人である。ただ、相続財産が6000万円以下ならば原則として税額が0になるため、平成20年に相続税の課税対象となったのは死亡件数の4%程度と少ない。なお、公益法人に対する遺贈の場合のように法人が納税義務者になることもある。
相続財産に不動産が多くて相続税は多いが金銭は少ないような場合のように、相続税を払うのが困難であることもあるから、金銭以外の物で納税をする物納制度がある。
相続に関する用語
- 相続
- 死亡した人の財産などが配偶者(妻や夫のこと)や子のものになること。財産だけではなく借金などの債務も対象になる。
- 非相続人
- 相続における死亡した人のこと。
- 相続人
- 相続における財産を引きつぐ人のこと。民法の規定によって定まり、配偶者、子、親、兄弟姉妹などが対象になる。ただし、欠格や廃除の対象になった人や相続を放棄した人は相続人にならない。
- 単純承認
- 財産と債務の両方を相続することを承認すること。一定の期間内に限定承認または放棄をしなければ単純承認したものとみなされる。
- 限定承認
- 相続する財産の分だけ債務を相続することを承認すること。家庭裁判所への申述が必要。
- 放棄
- 相続権を放棄すること。財産も債務も引き継がない。家庭裁判所への申述が必要。
- 欠格
- 民法の規定により自動的に相続人から外されること。被相続人を殺したり殺そうとした場合など。被相続人の意思にはよらない。
- 廃除
- 被相続人の請求により相続人から外されること。被相続人を虐待した場合など。欠格とは異なり家庭裁判所への請求が必要。
- 法定相続分
- 民法で定めた相続財産の分配割合。被相続人が遺言で指定すれば法定相続分とは異なる割合で財産を配分することも出来る。
- 遺産分割
- 実際にどの財産をどの相続人が相続するかを決めること。相続人同士の合意があれば、法定相続分とは異なる配分での分割も可能。被相続人が遺言で指定することも可能。
- 遺留分
- 被相続人が遺言により財産の配分を決めているような場合でも、財産のうち一定の割合を相続人が請求できる場合がある。この一定の割合のこと。
- 遺言
- 財産の配分等について被相続人が指定すること。一般用語として使われる場合とは異なり、遺言は原則として署名と押印がなされた書面によらないとならない。「ゆいごん」ではなく「いごん」と読むのが通例である。
- 遺贈
- 遺言によって、被相続人の財産を人に贈与すること。相続とは異なり民法で決められた相続人以外に対しても可能。遺贈についても相続税がかかる。
- 死因贈与
- 贈与者の死亡によって効力を生じる贈与のこと。原則として遺贈と同様に取り扱い、相続税もかかる。
計算方法
一般に相続税の計算方式には、相続される全ての財産の額を基礎として計算する遺産課税方式と、相続人ごとに相続した財産の額を基礎として計算する遺産取得課税方式がある。日本では遺産取得課税方式を基本としているが、相続人が実際に相続する財産の額ではなく、法定相続分の財産の額をもとに計算する方式を採用している。
具体的には次の手順で計算する。
1. 相続人ごとに課税価格を求める
課税価格は次の式で計算される。
課税価格=相続財産の額+みなし相続財産の額-非課税財産の額-債務の額-葬式費用の額+相続前3年以内の贈与財産の額
ここで、それぞれの項は次のようなものである。
- 相続財産
- 相続、遺贈又は死因贈与により取得した財産。
- みなし相続財産
- 相続財産ではないが、実質的に相続財産と同様の性質を持つもの。生命保険金や死亡退職金など。
- 非課税財産
- 相続税の課税対象とされない財産。お墓など。
- 債務
- ここでは、相続で引き継いだ債務のこと。
- 葬式費用
- 被相続人の葬式にかかった費用のうち一定の条件を満たすもの。
- 相続前3年以内の贈与財産の額
- 被相続人の死亡の時点からさかのぼって3年以内に被相続人から贈与された財産。なお、この財産についてすでに贈与税を支払っているときは、後の計算で税額から引くことができる。
2. 課税遺産総額を求める
課税遺産総額は次の式で計算される。
課税遺産総額=相続人ごとの課税価格の合計額-基礎控除額(マイナスの場合は0とする)
法定相続人には相続人以外にも相続を放棄した人も含む。欠格や廃除により相続権を失った人は含まない。また、相続人の中に養子が2人以上いる場合には養子は2人として計算する。
なお、基礎控除額は通常は3,600万円以上になるため、課税価格の合計額が3,600万円以下ならば課税遺産総額は0になるため、相続税は課税されない。
3. 相続税の総額を求める
まず、法定相続人ごとに課税遺産総額×法定相続分の額を課税標準として下記の表にあてはめて税額を計算する。この税額を全ての法定相続人について足しあわせた金額が相続税の総額になる。なお、実際に相続した財産ではなく、法定相続分で計算することに注意。また、ここでいう法定相続人は2の基礎控除額の法定相続人と同じで相続を放棄した人を含み、養子は1人のみとする。
課税標準 | 税額 |
1,000万円以下 | 課税標準×10% |
3,000万円以下 | 課税標準×15%-50万円 |
5,000万円以下 | 課税標準×20%-200万円 |
1億円以下 | 課税標準×30%-700万円 |
3億円以下 | 課税標準×40%-1,700万円 |
3億円超 | 課税標準×50%-4,700万円 |
4. 相続人ごとの相続税の額を求める
相続人後の相続税の額は次の式で計算する。こちらは、3とは異なり実際に相続する財産をもとに計算している。
相続税の額=相続税の総額×(その相続人の課税価格÷課税価格の合計額)
ただし、実際に納付する相続税額は、相続人ごとの事情に合わせて税額加算及び税額控除という税額の調整を行った後の金額になる。主なものは次のとおり。
- 配偶者の税額の軽減
- 相続人が配偶者であったときは、1億6千万円と配偶者の法定相続分のどちらか多い方の金額を上記の計算における「その相続人の課税価格」から引くことができる。なお、相続税額がマイナスになる場合は相続税額は0とする。
- 贈与税額控除
- 1の計算で課税価格に贈与された財産を加算しているときは、その贈与財産について支払った贈与税を相続税額から引くことができる。
- 障害者控除
- 相続人が障害者であったときは、満85歳になるまでの年数1年あたり6万円を相続税額から引くことができる。特別障害者の場合は6万円ではなく12万円。
- 未成年者控除
- 相続人が未成年であったときは、満20歳になるまでの年数1年あたり6万円を相続税額から引くことができる。
財産の評価
相続は、被相続人から相続人へと一方的に財産が移り、金銭のやり取りなどは行われないから、相続した財産がいくらであるかはわからない。しかし、財産の額がわからないと相続税の計算ができないため財産の評価が問題になる。地上権や永小作権など法律で評価方法が定まっているものもあるが、大部分のものについては時価で評価すると規定されており、具体的な算定方法までは定めていない。
さまざまな相続財産について時価を把握することは難しいため、国税庁では財産の評価方法について一定の指針を設けている。これを財産評価基本通達という。この通達はあくまで国税庁内部の取り決めであるため、納税者が必ずこの方法によって計算しなければならないというものではないが、実務においてはこの通達に従って計算することが一般的になっている。
この通達の中でも特に有名なのが宅地の評価方法の一つである路線価方式である。これは、宅地が面している道路の路線価に宅地の面積をかけた金額を土地の価格とするものである。面している路線の数や土地の形などによってはこの価格に調整を行うこともある。路線価は国税庁が毎年7月に発表しており、実際の土地の価格の70%~80%ぐらいになるように調整されていると言われている。
路線価は相続税の算定のためのものであり、土地の評価に詳しくない人でも計算できるように画一的な方法を採用している。そのため、土地の正確な価格を求めるのには向いていない。とはいっても、ある程度は地価と連動しているため、おおまかな地価の変動状況を見るために利用されている。
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