神鷲皇國會とは、かつて存在した日本の右派系市民団体・右翼団体である。読みは「しんしゅうみくにかい」。
概要
在日韓国・朝鮮人や国内のリベラル・左派勢力を「反日的」とみなし、ネット上で支持を募りながら街宣やデモといった市民運動的スタイルの糾弾活動を展開していた、いわゆる「行動する保守」に分類される右派系市民団体である。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を始めとする他の右派系市民団体と連携して活動することが多かった。
その一方で、「全日本愛国者団体会議」(全愛会議)[1]で副議長を務めた大物右翼活動家の桂田智司最高顧問や、小学2年の頃から右翼団体に入っていたと自称する清水勇祐会長代理など、会の中枢は右翼団体出身者が担っていた。そのため会名や標章(黒地に日章旗・菊花紋章・旭日旗をあしらったもの)、活動現場での言動などに街宣右翼的な要素が見受けられ、自ら右翼団体を名乗ることもあった[2]。
こうした点に鑑みて右派系市民団体ではなく右翼団体として扱われることもあり、報道でも市民団体として紹介するケース[3][4]と右翼団体として紹介するケース[5]が混在していた。形式面でも実態面でも従来型の街宣右翼と右派系市民団体の境界に位置する団体だったと言える。
正確な結成時期は不明だが、2012年9月に行われた日韓断交デモの協賛団体に名を連ねていることから[6]、遅くともこの頃には結成されていたと見られる。それから半年余りが経った2013年4月18日、最高幹部の一人が恐喝容疑で逮捕されるという不祥事が起き(後述)、同日中に桂田最高顧問夫人の発案により解散が宣言された[7]。解散後も不祥事が相次いで発覚し、会の名誉は地に落ちることになった。
数ある右派系市民団体の中でもとりわけ過激で先鋭化された言動が特徴となっていた。ヘイトスピーチやジェノサイドの扇動も辞さない姿勢は大きな反響を呼び、嫌韓デモとヘイトスピーチ規制の是非について論じた新聞記事で右派系市民団体の盟主格である在特会と並んでその名前を挙げられたこともあった[8]。
不祥事
- 神戸市立博物館脅迫事件
- 2013年1月29日、神戸市立博物館が中国の文化財展示を予定していることに立腹した桂田智司最高顧問は同博物館に電話をかけ、「対中感情が悪化しているこの時期になぜ開催するのか」「無期限延期しなければ街宣車での抗議もあるぞ」などと1時間半に渡って電話に応対した職員を威迫した。また博物館の前で10回に渡って街宣活動を行い、のべ35台あまりの街宣車を動員した。
- 4月10日になって兵庫県警公安二課は暴力行為等処罰法違反容疑で桂田を逮捕した[9]。約7か月間の勾留の後、11月11日に神戸地裁で懲役1年2月・執行猶予3年の有罪判決が言い渡された[10]。桂田は判決を不服として控訴したが、翌2014年3月19日に棄却され、そのまま有罪判決が確定した[11]。
- 電気料金徴収員恐喝事件
- 2013年3月12日、会最高幹部の一人である18歳の少年は電気代の徴収で自宅を訪れた関西電力の社員に対し、「俺は右翼やっとんねん」と言いながら会の標章を貼った拡声器を見せて脅し、1月分の電気料金(約12,000円)の請求を断念させ、さらに止められていた電気の送電を再開させた。
- 少年は翌4月18日になって恐喝容疑で大阪府警警備部に逮捕され[12]、指導者を失った会は解散に追い込まれた。その後5月9日付で家裁送致され[13]、翌10日から大阪少年鑑別所で観護措置に服していたが[14]、同月29日に少女売春あっせん事件(後述)で再逮捕された。最終的に7月12日付で中等少年院送致の処分を受けている[15]。
- なお少年は逮捕されるまで自分は成人だと説明していたため、その説明を信じて飲酒や喫煙などに付き合っていた友好団体のメンバーらは一様に困惑することになった。特に密接な共闘関係にあった「愛国矜持会」の竹井信一代表は逮捕当日に緊急ニコ生を配信し、「僕らも○○君に嘘を吐かれていた。腹が立つと言うか情けない」「彼はよく頑張っていたと思うがこういうことをしてしまってはダメ」とコメントしている。
- 老人男性傷害・器物損壊事件
- 2013年3月19日、大阪・難波の地下街のトイレで満尾昌利総本部事務局長が、彼が肩からかけていたハンドマイクを覗き込んだ82歳の老人男性に「何見とんねん。表に出ろ」と因縁をつけ、胸倉を掴むなどの暴行を加えて顔に切り傷を負わせたほか、老人が着けていた眼鏡を取り上げて踏み潰すという行為に及んだ。警察官が駆け付ける前に満尾は現場を立ち去ったが、犯行の一部始終は近くの監視カメラに記録されていた[16]。
- 上記の恐喝事件で少年が逮捕された翌日の4月19日、満尾も傷害容疑などで大阪府警警備部に逮捕されたが[17]、こちらは5月9日付で処分保留のまま釈放され、6月28日付で不起訴となった[18]。釈放後の5月24日、満尾はチーム関西の公式サイト上で関係者への謝罪と「行動する保守」系市民活動からの引退を表明した[19]。
- 少女売春あっせん事件
- 2012年10月から12月にかけて、会最高幹部の一人である18歳の少年(上記恐喝事件で逮捕された少年)は友人の26歳男性と共謀し、大阪・道頓堀で声をかけた当時17歳の少女2人に報酬を折半する条件で売春をするよう持ちかけ、大阪市内のホテルで少女らにわいせつな行為をさせた。
- 少年が恐喝事件で逮捕された後の2013年5月29日、大阪府警警備部は児童福祉法違反および売春防止法違反の容疑で少年と友人の男性を逮捕した[20][21]。
- カウンター側学生暴行・器物損壊事件
- 2013年3月24日に行われた日韓断交デモ後の街宣の場で、「愛国を理由に差別を楽しむな」などのビラを掲げて抗議を行っていた韓国人の大学院生や日本人の大学生に対し、会最高幹部の一人である18歳の少年(上記恐喝・少女売春あっせん事件で逮捕された少年)・会幹部の42歳無職の男性・会メンバーの48歳アルバイトの男性の3人が襲い掛かり、ビラを破る、メガホンを使って耳元で怒鳴る、腹を殴るなどの行為に及んだ。
- 大阪府警警備部は6月19日、この3人を暴行および器物損壊の容疑で書類送検した[22][23][24][25]。
組織構成
役職名等は公式Twitterでの記載に基づく。いずれも解散時点のもの。
総本部 | |||
---|---|---|---|
役職名 | 氏名 | アドレス等 | |
最高顧問 | 桂田智司 | http://blogs.yahoo.co.jp/kaiketuharimao2665 | |
会長 | 琴月 | ||
会長代理 | 清水勇祐 | ||
事務局長 | 満尾昌利 | ||
青年部長 | 岡本康平 | https://twitter.com/mikunikaiseinen(リンク切れ) | |
婦人部長 | 長野百花 | https://twitter.com/naganomomo | |
地方支部 | |||
支部名 | 役職名 | 氏名 | アドレス等 |
関東支部 | 行動隊長 | 倖田和樹 | |
名古屋支部 | 支部長 | 美作希穂 | |
事務局長 | 影浦恵梨香 | ||
京都支部 | 支部長 | 神谷恭兵 | https://twitter.com/orega_kamiya |
情宣局長 | 長州まさみ | https://twitter.com/ProofofPatriot(リンク切れ) | |
九州支部 | 支部長 | 熊澤秀也 |
関東・名古屋・京都・九州の四支部体制を敷いていたが、活動の大半は総本部の幹部らが居住する関西地方で行われていた。会長の琴月は関東在住であったため[26]、会長代理の清水が活動の企画・運営にあたっていた。
公安当局によると会のメンバーは10人程度とのことなので、上に挙げた役員以外の平会員は数名程度しかいなかった可能性が高い[27]。
解散後の動き
現場責任者として道路使用許可を得ていた満尾事務局長が逮捕されたため、解散直後の4月21日に予定されていた神鷲皇國會主催の「特亜殲滅カーニバル」は中止となった[28]。解散後も岡本青年部長が中心となってデモの中止届提出や逮捕された最高幹部の少年らへの面会調整など残務処理にあたっていたが、少女売春あっせん事件が明るみになったことで岡本らも愛想を尽かし、逮捕者らへのサポートは打ち切りとなった[29]。
解散前にアップされた動画のコメントを見ればわかるように、ネット右翼層からの神鷲皇國會に対する評価はおおむね好意的なものだったが、恐喝・傷害・少女売春あっせん事件が明るみに出てからは一転して在日認定の対象となり、右派系市民運動を貶めるためのスパイとみなされるようになった。ネット右翼の間では「街宣右翼在日説」が広く受け入れられているため、街宣右翼的な要素を持つ神鷲皇國會への在日認定は非常に容易だったと言える。
こうした動きに対して長州京都支部情宣局長はTwitterで以下のようなコメントを残した[30]。
神鷲皇國會が在日認定される日がくるなんて思ってもみなかった。 保守の評判を下げるための偽右翼だなんて書かれて。みんな日本のために頑張ってきたのに。あらぬ疑いをかけられても仕方ないような不祥事を起こしたのはわかってるけど、今までの活動全てを否定されるのは我慢できない。
主要メンバーのうち現在も政治活動を続けていることが確認されているのは、愛国矜持会に合流した長野婦人部長のみである。岡本青年部長は当初在特会に身を寄せていたが、しばらくしてブログやTwitterアカウントを削除し、活動の現場から姿を消した。長州京都支部情宣局長は生活を立て直すため親元に帰郷してからも[31]、Twitter上で従前通りの政治的発言を続けていたが、現在はアカウントを削除している。
満尾事務局長は上述したように活動から引退し、神谷京都支部長も7月になって引退を表明した[32]。中等少年院送致となった最高幹部の少年は活動復帰に意欲を見せているものの、愛国矜持会の竹井代表は「きちんと更生して仕事を見つけるまで、少なくとも向こう数年間は復帰すべきでない」と彼を牽制している[33]。桂田最高顧問は執行猶予期間満了まで仕事に専念する予定で、運動再開の目途は立っていないという[34]。
関連動画
関連コミュニティ
解散前は神鷲皇國會の公式コミュニティでニコニコ生放送の配信などを行っていたが、解散後は神谷元京都支部長の個人コミュニティに変更され、現在はそれも削除されている。
関連項目
外部リンク
脚注
- *右翼団体のナショナルセンターにあたる組織。
- *「俺は右翼やっとんねん」脅して電気代払わず 少年を恐喝容疑で逮捕 大阪府警 - MSN産経west
- *朝日新聞2013年4月6日「民族憎悪 叫ぶデモ」
- *右派系グループ元幹部の少年を再逮捕 少女を売春に誘った疑い - MSN産経west
- *脚注2参照。
- *全国一斉日韓国交断絶国民大行進・関西 - 行動する保守運動のカレンダー近畿版
- *神鷲皇國會の一連の騒動での対応(後日談) : おかもんblog
- *脚注3参照。
- *暴力行為等処罰法違反:博物館を脅した容疑で男を逮捕 /兵庫- 毎日jp(毎日新聞)
- *神戸新聞2013年11月11日「中国関連展示めぐり博物館脅迫 男に有罪判決」
- *控訴審 無念の敗訴
- *脚注2参照。
- *【衝撃事件の核心】「朝鮮人は呼吸するな」暴走する右派系市民グループ、ヘイトスピーチ(憎悪表現)という“鬱憤晴らし”(2/4ページ) - MSN産経west
- *旧神鷲皇國會会長代理の面会等について(2報)
- *元神鷲皇國会 - ニコニコ生放送
- *【衝撃事件の核心】「朝鮮人は呼吸するな」暴走する右派系市民グループ、ヘイトスピーチ(憎悪表現)という“鬱憤晴らし”(1/4ページ) - MSN産経west
- *ネット右翼幹部を逮捕、トイレで会った82歳男性に暴行 - MSN産経west
- *不起訴:男性に傷害容疑の右翼男性−−地検 /大阪- 毎日jp(毎日新聞)
- *声明
- *脚注4参照。
- *少女と契約結びわいせつ行為させる…2人を逮捕 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
- *ヘイトスピーチ抗議の学生らに暴行 - MSN産経west
- *ヘイトスピーチ:抗議の男女に暴行容疑、3人を書類送検- 毎日jp(毎日新聞)
- *抗議の在日韓国人女性に暴行容疑 街宣参加の3人書類送検 - 47NEWS(よんななニュース)
- *朝日新聞デジタル:反韓デモで小競り合い、3人書類送検 大阪・梅田 - 社会
- *https://twitter.com/sinsyumikunikai/status/324621474348556288
- *脚注13参照。
- *【中止】朝敵を排除する示威行動 - 行動する保守運動のカレンダー近畿版
- *神鷲皇國會会長代理清水の一連の逮捕について声明(青年部長声明) : おかもんblog
- *https://twitter.com/ProofofPatriot/status/325265879287865345(リンク切れ)
- *https://twitter.com/ProofofPatriot/status/325923381960667136(リンク切れ)
- *元神鷲皇國會 神谷より
- *脚注15参照。
- *脚注11参照。
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