稲田姫(櫛名田比売/奇稲田姫)とは、日本神話に登場する女神である。クシナダヒメとも言われる。また、ニコニコ動画などにおいては、国会中継などの際、衆議院議員の稲田朋美氏もその保守的な姿勢とかけて稲田姫と呼ばれることがある。
概要
古事記では櫛名田比売(くしなだひめ)、日本書紀では奇稲田姫(くしいなだひめ)と表記されている。櫛(奇)は「霊妙な」「不思議な」、稲は「稲の田」、姫(ヒメ)は女神を意味している。つまり直訳すると「稲穂がよく実った美しい田の女神」という事になる。古事記では櫛を差した巫女と解釈され、櫛名田比売と当て字されている。他にも真髪触奇稲田姫(まかみふるくしいなだひめ)、出雲国風土記では久志伊奈太美等与麻奴良比売命(クシイナタ ミトヨマヌラヒメノミコト)の別名が確認されている。後述のように櫛に変身したことから、彼女の名は「クシになったヒメ」から派生した言葉遊びとする説もある。
稲田姫は農業を司る女神なので、稲作守護のご利益がある。同時に夫婦円満、子宝・安産、開運、厄除け、衣食住守護、良縁、恋愛成就などのご利益もあるとされる。天照大神を嘆かせ、女神殺害までやらかしたガチ乱暴者のスサノオを、勇敢で穏やかな性格に改心させてしまうほどの美少女だったと伝わる。日本の山の神を統括する大山津見神の孫で、クッソ美人な木花咲耶姫の姪っ子にあたる。彼女は水の神ヤマタノオロチに仕えていた巫女だとする説があり、それによるとヤマタノオロチは川の象徴で、毎年一人ずつ生贄を喰らうのは氾濫の犠牲者を暗に表現しているとの事。
両親は手摩霊(テナヅチ)、足摩霊(アシナヅチ)といい、手足を撫でるという意味を持つ。ここから「撫でるように育てられた娘」と解釈され、大和撫子の語源になったとする説がある。
八岐大蛇伝説
彼女の存在をスターダムに伸し上げたのは、やはり八岐大蛇伝説のお話だろう。ただし出雲国風土記にこの話は出てこない。
高天原での暴れっぷりや女神殺害の暴挙により素戔嗚尊(すさのおのみこと)は、義姉の天照大神をブチ切れさせてしまう。その結果、高天原を追放され、下界(出雲国)に放り出された。彼は人を求めて斐伊川の上流へと向かった。すると上流から箸が流れてきたので「お、誰か住んでいるな」と期待を膨らませる。しばらく歩いていると人影が見え、泣いている老夫婦と怯えている一人の娘に出会った。不思議に思ったスサノオが声をかけると、夫婦はこれまでの事を語った。
この老夫婦は足名椎(あしなずち)・手名椎(てなづち)で、娘は稲田姫といった。夫婦には8人の娘がいたが、毎年八岐大蛇(やまたのおろち)に娘を食べられてしまい、ついに稲田姫以外の姉妹は食べられてしまった。夫婦は残った稲田姫もヤマタノオロチに食べられてしまうと悲嘆していた訳である。そんな中、スサノオは稲田姫の美しさに一目惚れ。続いて老夫婦にヤマタノオロチの特徴を聞きだした。曰く「ヤマタノオロチは1つの胴体と8つの首を持ち、目は赤く、その大きさは8つの谷と8つの山にまたがる」との事。あまりの化け物っぷりにスサノオは一瞬たじろぐも、「ヤマタノオロチを討伐するから、娘さんをください」と大胆にも求婚した。ナヅチ夫婦は突然現れたスサノオを信用していなかったが、あの天照大神の義弟だと知ると喜んで条件を飲んだ。
スサノオは老夫婦に強い酒を作るよう命じ、自身は稲田姫を謎の力で湯津爪櫛(ゆつつまぐし)に変身させ、これを頭に差した。この行為の理由には、単に彼女の姿を隠した以外にも諸説ある。有力なのはオロチに対抗するため「女性特有の生命力」「櫛に宿る魔力」「(素材である)竹の生命力」を頼ろうと、女性そのものを竹製の櫛に変化させて身に着けることでこれらを一辺に得たとする説。また婚姻の暗示として、櫛を差す=プロポーズの意味があったとも言われている。さらに両親が娘の手足を撫でられなくすることで、彼らの娘を「自分のもの」にしたことを表現しているとする見方もある。
一方で人が櫛になるわけがないという現実主義な考え方から他にも異説があり、七里離れた森の中(現在の島根県松江市にある八重垣神社)に彼女を隠したとする見方もある。この時、八岐大蛇の脅威から稲田姫を守るためにスサノオが八重垣を作った事が社名の由来になっている。
出来上がった酒を八ヶ所に設置し、稲田姫を捕食しにきたオロチの首に飲ませた。がぶがぶ酒を飲んだすえ酔っ払ったオロチはそのまま眠りこけてしまい、死んだように動かなくなった。その隙にスサノオが1本1本首を切り落として打倒した。
スサノオは出雲の地を気に入っており、ヤマタノオロチを倒した後はこの地にて新居を探して須賀(島根県雲南市)の地に根を下ろした。その際、吉祥を表す八色の雲が立ち上った。これを見た素戔嗚尊は「八雲立つ 出雲八重垣 妻込みに 八重垣造る その八重垣を」という句を詠んだ。これが日本最初の和歌であるという。神代正吾常盤草によると、八色の雲が出たので同地は出雲と名付けられたとしている。スサノオは宮殿を築き上げ、続いて義父の足名椎を呼び、稲田宮主須賀之八耳神の名を与えて宮殿管理の役職に据えた。
ちなみに日本書紀や古事記では、稲田姫は一言も喋っていない。また八岐大蛇神話以外の記紀には登場しておらず、その神話でも櫛に変えられた記述が最後でその後は元の姿に戻った記述すらない。そのため櫛のままだったとする説もある。一応、スサノオが約束どおり(元の姿に戻して)妻に娶ったとする解釈が有力だが、スサノオと夫婦になった以降の事も描かれていないので知名度の割に影が薄い。モブか何か?
その後
稲田姫とスサノオとの間には多くの神々が産まれている。稲田姫が元の姿に戻されて産んだのか、稲田姫の変身した櫛からスサノオが産み出したのかは定かではないが、まず八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)が誕生する。その八島士奴美神は大山津見神の娘である木花知流比売(このはなちるひめ)と結ばれている。この木花知流比売は木花咲耶姫とも岩長姫とも言われ、また古事記にしか登場しないので正体は判然としていない。そこから綿々と家系が続いていき、七代目の子孫に出雲神話のスーパーヒーローである大国主命(おおくにぬしのみこと)が誕生すると古事記に記されている。一方、日本書紀では稲田姫の直接の子供としている。他にも五十猛命、大屋津姫、岩坂彦命の二男一女をもうけている。
ちなみにスサノオは大山津見神の娘である神大市比売(かむおおいちひめ。卑弥呼と同一説あり)も妻にし、大年神(おおとしのかみ)と宇迦之御霊神(うかのみたまのかみ)が誕生している。理由については記紀に書かれていないため不明。堂々と浮気してますね…。考察により早世した説、スサノオの更なる活躍に期待して自ら身を引いた(神大市比売に譲った)説などが出ている。稲田姫は八岐大蛇関連の話以外には登場していないので、この浮気に対してどう反応したのかは謎である。ただ八重垣神社には鎌倉時代に書かれたスサノオとその家族の絵が残っており、浮気相手の神大市比売とその娘を見て不機嫌そうな顔を浮かべている稲田姫が見られる。浮気されて怒っているのだろうか。
暴れん坊で多重人格でやべーやつなスサノオであったが、稲田姫と出会ってからはそのような面は無くなり、大人しくなったという。
各地の信仰
島根県を中心に、各地に稲田姫を祀った氷川神社が点在する(一部例外あり)。稲田姫単体を祀った神社は殆ど無く、大抵は夫のスサノオや子孫のオオクニヌシと一緒に祀られる。島根県松江市にある八重垣神社には稲田姫が身を隠したとされる森があり、最奥に位置する鏡の池は飲み水や姿見に使われた伝説がある。この故事に由来して、毎年5月3日に身隠神事が執り行われる。
同じく島根県仁多郡仁多町佐白の地には八岐大蛇伝説に関する伝承や地名が多く残っており、この地を稲田姫の出身地とする見方がある。
創作作品への出演
知名度が高い女神であるため、様々な作品に登場している。
- 大神
神木村の住人として、クシナダの名で登場。酒造りを生業とする心優しい娘で、村の剣士であるスサノオに恋慕されている。ヤマタノオロチ編自体が八岐大蛇伝説を題材としているため、原典と扱いはほぼ同じである。復活したヤマタノオロチから生贄に指名されるが、村のためならばとオロチの牙城である十六夜の祠へ連れて行ってくれるようアマ公に依頼する。その後アマ公の援護を受けたスサノオによってオロチは倒され、見事救出される。これがきっかけで二人は相思相愛の関係になり、めでたく結ばれる事に。ラスボス戦では、苦境に立たされるアマ公に力を与えるべく夫婦ともども祈りを捧げていた。
- パズル&ドラゴンズ
クシナダヒメの名で登場。2013年8月30日に実装された新和神シリーズの1体。生贄になる寸前の状態だからか、すごく険しい表情を浮かべている。属性は木だが、進化させると木+木になったり、水+木になったりとよく変化する。超究極進化させると草薙剣を持ってサンライズ立ちするという勇ましい姿になる。転生進化にも対応しており、こちらは綺麗なヤマタノオロチと思われる竜が背景にいる。ちなみに学園オロチの絵では、不良と化したヤマタノオロチに捕まっている。自社コラボの形でサモンズボードにも出張。
関連項目
- 稲田姫様に叱られるから
- 稲田姫様マジ切れ
- 稲田姫様、お許しください!
- 木花咲耶姫(親戚)
- 大山津見神
- 大国主命(子孫)
- 八雲(装甲巡洋艦) - 大日本帝國海軍の装甲巡洋艦。竣工後に島根婦人会から稲田姫の像が贈られている。
関連リンク
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