竜王戦(りゅうおうせん)とは、将棋のタイトル戦の一つである。前身となる九段戦、十段戦についても説明する。
概要
読売新聞社主催。1988年に、それまで実施されていた「十段戦」を置き換える形で新設された。
賞金額が将棋の8大タイトル戦の中で最高であり、またタイトル保持者の呼称も名人と同様特別扱い(竜王が名人以外のどれかのタイトルを持っていても、その保持者は「竜王」のみを付けて呼称される[注1])されるなど、名人とともに将棋界のトップタイトルと称される。
ちなみに竜王と名人の両方のタイトルを保持している場合は「竜王名人」と呼称される。歴代では羽生善治(1994年の竜王獲得~1996年の竜王失冠までと、2003年の名人獲得~同年の竜王失冠まで)、谷川浩司(1997年の名人獲得~1998年の名人失冠まで)、森内俊之(2004年の名人獲得~同年の竜王失冠までと、2013年の竜王獲得~翌年の名人失冠まで)、豊島将之(2019年の竜王獲得〜翌年の名人失冠まで)、藤井聡太(2023年の名人獲得~現在)の5人しか存在しない。
特徴
- 前年度の成績に基づき、1組から6組までのグループに分かれてトーナメント方式で対局を行う。なおトーナメント方式とはいえ、順位決定や昇級者決定のため、2敗(場合によっては3敗)するか、本戦出場決定または昇級決定するまで対局を続ける[注2]。
- 1組の5名・2組の2名・3組以下の各1名(合計11名)で本戦を行なう。本戦もすべてトーナメント方式で、所属する組と通過順位によって本戦における配置の有利不利に差が付く(2012年の例)。本戦の決勝(挑戦者決定戦)のみ三番勝負。
- 本戦優勝者が竜王保持者と七番勝負で竜王の座を争う。
1組から6組のグループに分けるという点では順位戦(名人戦の挑戦者決定戦)と似ているが、
- 最上位のグループ以外に所属していても、竜王保持者への挑戦権を得られる可能性がある。(順位戦の場合は、最上位であるA級順位戦に所属していないと名人位へ挑戦することもできない)
- このため、実力ある若手がタイトルを獲得することもままあり、初タイトルが竜王というケースも多い。羽生善治や渡辺明はプロ5年目で竜王の座を獲得している(所属の組はそれぞれ3組・4組)。2014年に初タイトル挑戦・獲得した糸谷哲郎も3組からの進出である。
- 現在のところ最も下の組からの獲得記録は藤井猛と渡辺明の4組優勝。挑戦記録も同じく4組優勝の同2名と真田圭一(谷川浩司に敗れる)。
- 竜王獲得および挑戦の最年少記録は羽生善治の19歳。19歳での獲得はタイトル戦全体で見ても当時の最年少記録であり、現在でも藤井聡太(17歳11か月・棋聖)、屋敷伸之(18歳6か月・棋聖)に次ぐ歴代3位の記録である。なお最年長記録も羽生善治の47歳。
- 挑戦者決定戦においては1994年に行方尚史が、プロ1年目の6組優勝で出場を記録している。挑決では羽生善治に敗れるも、そこに至るまでに深浦康市、森内俊之、南芳一、米長邦雄、郷田真隆という強豪達をことごとく打倒するという大記録であった。
- また2017年には、史上最年少でプロ入りした藤井聡太が公式戦無敗のまま6組優勝して本戦出場し、あわや中学生で将棋界の頂点に立つかと話題になったが、本戦2回戦で佐々木勇気に敗れた。この佐々木戦が藤井にとってプロ入り後初の公式戦での黒星であった。
- また、プロ棋士(=四段以上)でなければ参加できない順位戦と違い、好成績を挙げた女流棋士へ4枠、アマチュア棋士へ5枠、奨励会員へ1枠が用意され(それぞれ6組からの参加)、順位戦に参加していないフリークラスのプロ棋士も他棋戦と同様に参加出来る。フリークラスであっても3組に在籍する棋士や、順位戦で苦戦していても竜王戦では上位組に留まり続ける棋士もいたりするなど、トーナメント制ならではの興味深い様相も呈している。
- 順位戦がリーグ戦(総当たりあるいは固定数対局)なのに対し、竜王戦は全対局がトーナメント方式である。ただし昇級者の決定はやや変則的で、2敗せずに勝ち残った棋士が昇級する(グループ優勝・準優勝+昇級決定戦勝ち残り2名の合計4名。2012年の2組の例)。降級は単純で、各組で負け続けて残った4名(1組~3組は16名なので2連敗、4組・5組は32名なので3連敗)が降級する。女流棋士やアマチュア棋士も昇級できる(ただし個人としてではなく枠として)のだが、昇級者決定戦に出られない(=1敗した時点で終了)ためにランキング戦で決勝まで勝ち上がる必要がある。なお、3組以下から本戦の挑戦者決定戦で勝利し、竜王に挑戦した場合、仮に七番勝負に負けても次年度は自動的に1組となる。
歴代タイトル保持者
氏名の丸数字は通算在位。氏名の太字は永世竜王位獲得(連続5期または通算7期。襲名は原則引退後)
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渡辺明は2004年から2012年までの9期連続で竜王の座を保持、通算では11期を獲得するという大記録を達成している。次点は羽生善治の通算7期。なお9連覇は将棋の全タイトル戦を見ても歴代6位タイ(当時)である。
その間に渡辺は5連覇により、20歳で初めてのタイトルとして竜王を獲得してからストレートで「永世竜王」称号の資格者となった。その5連覇が掛かった第21期の挑戦者は、当時通算6期獲得していた羽生善治であり、どちらが勝っても初の永世竜王誕生という大一番となった。しかも羽生の3連勝の後に渡辺が4連勝で防衛という驚異の結末を迎え、この時の竜王戦はもはや伝説となっている。
羽生善治はその第21期以降、あと1回竜王を獲得すると通算7期の竜王獲得により永世竜王資格者となれる状態が続いていたが、2008年・2010年と渡辺の前に屈し、その後しばらく挑戦の機がないままだった。
しかし2017年に久々の竜王挑戦を決めた羽生は、因縁の渡辺を相手に対戦結果を4勝1敗とし、ついに2人目の永世竜王資格者となった。これにより羽生は叡王を除く現在可能な7タイトル(+NHK杯)全てでの永世称号獲得という歴史的偉業を成し遂げることとなった。
通算在位期数
通算期数 | 棋士名 | 通算期数 | 棋士名 |
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11 | 渡辺明 | 3 | 藤井猛 藤井聡太 |
7 | 羽生善治 | 2 | 森内俊之 豊島将之 |
4 | 谷川浩司 | 1 | 島朗 佐藤康光 糸谷哲郎 広瀬章人 |
最近の1組在籍者
数字:本戦進出順位、△:前年度2組からの昇級者、▲:前年度3組以下からの昇級者(前年挑戦者の敗者)
▼:当年度降級者、太文字+☆付きが当期挑戦者。
順位戦の最上位(A級順位戦)と比べると、「1組で優勝したからといって竜王挑戦が決まるわけではない」「2連敗だけで降級する」など位置づけは異なるものの、1組在籍を続けることは一つのステータスといえる。
九段戦及び十段戦
1948年より開催された全日本選手権戦が始まりである。当初はタイトルではなく、NHK杯などのような一般棋戦の1つという扱いであった。1950年の第3回より名人に次ぐタイトルである九段が制定され、1950年は全日本選手権戦の勝者が九段となり、1951年以降は全日本選手権戦が挑戦者決定トーナメントという扱いになっていた。なお、九段は名人の格下という扱いとなっており、名人は全日本選手権戦には参加せず、名人と九段による名人九段戦が行われていた。タイトル戦、名人九段戦ともに五番勝負で行われた。1956年からは再び制度が変更され、名人もトーナメントに参加するようになり名人九段戦は廃止、前年度勝者も参加するという一般棋戦のような制度に戻った。決勝は七番勝負であった。
1962年より十段戦に移行。6名で行われる十段戦リーグの勝者が挑戦者となるタイトル戦として開催されることになった。十段戦リーグは2名入れ替えで、予選トーナメントを勝ち抜いた2名が昇格し、下位2名はリーグから降格する。なお、初年度は九段経験者3名(大山康晴、塚田正夫、升田幸三)がシードされ、予選枠は3名となっていた。
永世称号は九段戦は3連覇、十段戦は通算10期が条件となっており、永世九段は塚田正夫、永世十段は大山康晴と中原誠が永世称号を与えられた。なお、塚田正夫は死後に名誉十段が追贈された。
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脚注
- [注1] 竜王戦以外の棋戦においてタイトル保持者として対局する際においてはその限りではない。例えば2002年の王座戦の時点で羽生善治は王座のほかに竜王・棋王のタイトルを保持していたものの、この王座戦における呼称はあくまで、羽生善治「竜王」ではなく羽生善治「王座」である。
- [注2] 通常の勝ち残り式のトーナメントを「ランキング戦」、ランキング戦で1敗した棋士が移行する敗者復活トーナメントを「出場者決定戦」(1組)「昇級者決定戦」(2組以下)と呼んでいる。
- [注3] 本戦の決勝戦の相手(第1期開催の時点ではタイトル保持者はいないため)。なお、第1期竜王戦では、前身の十段戦の最後のタイトル保持者(高橋道雄)は準決勝に、永世十段称号保持者(大山康晴、中原誠)は準々決勝にそれぞれシードするという扱いとなった(参考)。
関連項目
リンク
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