緊急事態条項単語

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緊急事態条項とは、外からの侵略・武攻撃・テロ自然災害などの緊急事態において、時の憲法秩序ではこれに対応できない場合に適用される憲法上の規定である。2020年から2021年にかけて数度にわたって行われている新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」とは異なるので注意。

概要

緊急事態において、時とは異なる権限を行使するためのものである。このような権限を国家緊急権といい、講学上、「戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など、時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家が、立的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限」と定義されている。具体的には、時では違となるような、議会の解散の制限、行政府の長や議員の任期の延長、あるいは財産権などの一定の人権を制限する措置をとることなどである。

こうした国家緊急権についての制度は、憲法上明文の規定として置くこともあれば、憲法には明文の規定はないが憲法解釈によって国家緊急権が認められ、法律レベルで具体的な制度を定めていることもある。

法系諸では、マーシャルルール(martial rule)という不文が存在する。これは、時では違とされるようなものでも緊急事態に対処するため必要な範囲内で行うことができるという英法系諸に特有の概念である。

アメリカは合衆憲法には緊急事態条項はなく、非常時に関する規定は侵略時の人身保護状の停止と大統領による議会招集の規定のみだが、大統領公共の安全を保持するためには法律で禁止されていないあらゆる措置をとることができるとされており、法律レベルでは戦争権限法や国家緊急事態法などの国家緊急権に基づくさまざまな非常時立法が行われている。また、イギリスはそもそも成文の憲法典がない不文憲法であるが、法律レベルでは緊急事態法などの法律があり、国家緊急権が認められている。これらはまさしく、マーシャルルールがあるがゆえである。

日本国憲法

日本国憲法には緊急事態条項はなく、解釈上、国家緊急権も認められていない。これは、国家緊急権を認め、政府による独断によって非常時措置を行うことを許すと、濫用の恐れが大きいので、国会があらかじめ非常時に関する法律を整備し、その法律に基づき対処すべき、という考えに基づく。それでも想定外の事態が起こることは当然あり得るが、その場合でも国会法律を制定することで対処することになる。もし国会が閉会中なら内閣臨時国会を召集できるし、衆議院が解散している場合は「参議院の緊急集会」が国会の代わりを果たすことができる。こうした議論は当時の帝国議会の議事録にも残されている。

北浦 太郎委員】(現代訳)

やはり私は(明治憲法)第31条ですか、そういう規定が必要ではないかと思う。なぜこの憲法日本国憲法)にそれを置かないか、この点お伺いいたします。

金森次郎務大臣】(現代訳)

現行憲法(※明治憲法のこと)におきましても、非常大権の規定が存在していたことは今お示しになった通りでありますしかしながら民主政治底させて民の権利を十分擁護いたしますためには、左様な場合の政府の一存において行う処置は、極これを防止しなければならないのです。非常という言葉を使うことによって、大きな解釈の余地を残しておいたなら、どんなに精緻な憲法を定めましても、その口実を使い(憲法が)破壊される恐れが絶対にないとは断言しがたいと思います。したがって、この憲法左様な非常時の特例においても、いわば行政権の自由判断の余地をできるだけ少なくするように考えたわけであります。もし特殊な事態が起これば、臨時議会を召集してこれに対処し、もし衆議院が解散後にあって処置ができないときは、参議院の緊急集会をもって暫定的な処置をする。同時に他の面において、実際の特殊な場合に応じる具体的に必要な規定は、素から濫用の恐れがないように準備するように規定を備しておくことが適当であると思うわけであります

昭和21年7月15日 第90回帝国議会 衆議院 帝国憲法正案委員会) 

ただし、このように緊急事態条項がなく、国家緊急権がないからといって、非常時立法ができなかったり私権の制限ができないというわけでは決してない。そもそも国家緊急権は最初に説明した通り、時の憲法秩序を一時停止する権限のことである。国家緊急権がなくとも、時の憲法秩序の内における対処は可だ。そして、日本国憲法憲法秩序はそもそもからして「公共の福祉」のための権利制限を認めている。つまり、現行憲法においても非常時立法、私権の制限などを行うこと自体は可である。このことも国会答弁に議論が残されている。

吉國 一郎 内閣法制局長官】

現行憲法のもとにおいて非常時立法ができるかというお尋ねでございますが、非常時立法というものにつきまして、もともとこれは法令上の用ではございませんから明確な定義があるわけではございませんけれども、まあわがに大規模な災害が起こった、あるいは外から侵略を受けた、あるいは大規模な擾乱が起こった、経済上の重要な混乱が起こったというような、非常な事態に対応いたしますための法制として考えますと、それはあくまでも憲法に規定しております公共の福祉を確保する必要上の合理的な範囲内におきまして、民の権利を制限したり、特定の義務を課したり、また場合によりましては個々の臨機の措置を、具体的な条件のもとに法律から授権をいたしまして、あるいは政によりあるいは省によって行政府の処断にゆだねるというようなことは現行憲法のもとにおいても考えられることでございまして、現に一昨年の 11 国会で非常に多大の御労苦を願いまして御審議いただきました生活安定緊急措置法というものがございます。…(中略)…また古くは、災害対策基本法の中で、非常災害が起こりました場合に、財政上、融上の相当思い切った措置を講じ得るようになっておりますが、これもそのたびごとに政をもって具体的な内容を規定いたすことになっております。このように、現憲法のもとにおきましても特定の条件のもとにおいてはこのような立法ができることは、すでに現在先例を見ていることから言っても明らかでございまして、いわゆる非常時立法と申すものにつきまして、一定の範囲内においてこれを制定することができることは申すまでもないと思います。

昭和50年5月14日 第75回国会 衆議院 法務委員会)

自民党改憲草案

2018年自由民主党憲法改正推進本部が発表した憲法改正後の条文イメージ・たたき台素案では2つの緊急事態条項がある。「第73条の2」と「第64条の2」だ。(条文はこの順番で紹介されている。)

【第73条の2】

大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、民の生命、身体及び財産を保護するため、政を制定することができる。

内閣は、前項の政を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認をめなければならない。

【第64条の2】

大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員総選挙又は参議員議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

前者の73条の2の規定は、実質的に、後述する大日本帝国憲法明治憲法)第8条の緊急勅の規定を復 活させるものとなっている。(これも後述するが、明治憲法の緊急勅の規定は1923年の関東大震災の際に濫用され、亀戸事件治安維持法制定などを引き起こす要因となった。)

なお、自民党やその支持者などは憲法正し緊急事態条項を追加しようと【現行憲法では私権の制限ができない】とする場合があるが、さきほど紹介した国会答弁にもある通り、非常時立法に関しては、自衛隊法・武攻撃事態法・周辺事態安全確保法などの有事法制、災害対策基本法・災害救助法・大規模地震対策特措法などの災害関連法など、既に数多くの先例があり、私権の制限は現行憲法でも緊急事態条項や国家緊急権がなくとも可である。

また、まさしく国会答弁にも例として挙げられている生活安定緊急措置法であるが、これは2020年マスク転売規制するため、適用された法律だ。この転売規制の解除に当たって行われた衛藤内閣府特命担当大臣の記者会見においても、大臣は転売規制を解除した理由について、転売規制が『強な私権の制約』であると明確に述べている。

まず、消費者及び食品安全担当大臣として、新型コロナウイルス感染症への対応について発言いたします。本日の閣議において、「生活安定緊急措置法施行の一部を正する政」が厚生労働省経済産業省国税庁及び消費者庁の共同請議により閣議決定されましたので御報告いたします。本政に基づき、829()以降、マスク及びアルコール消毒製品の転売規制が解除されることとなりました。

現在マスク及びアルコール消毒製品については、いずれも供給量が大幅に増加し、中での購入は可な状況となっています。転売規制は強な私権の制約であり、生活安定緊急措置法の規定を踏まえますと、需要の逼迫が善されれば解除すべきものであるため、今般、マスク及びアルコール消毒製品の両方について、規制を解除することとしました。

2020年8月25日

大日本帝国憲法

大日本帝国憲法明治憲法)には緊急事態条項に当たる規定が以下の4つあった。

緊急勅令(第8条)

公共の安全を保持し厄災を避けるため緊急の必要があり、かつ、帝国議会が閉会中の場合は、天皇法律と同等の効を有する勅を制定することができる。ただし、その勅は次回の帝国議会に提出し承認を得なければならず、もし承認を得られなければ失効する。

後述する厳宣告とは異なり、この緊急勅をもって厳を行う場合があった。これを「行政厳」あるいは「準厳」という。行政厳は、1905年の日焼き討ち事件(日露戦争の講和条約であるポーツマス条約の締結に反対する市民が起こした暴動)、1923年の関東大震災1936年2・26事件天皇政を志向する皇陸軍青年将校らの起こしたクーデター未遂)において行われた実例がある。

このうち、とくに1923年の関東大震災の際には、本来、は『戦時もしくは事変に際し』適用すべきところ、自然災害において適用し、厳によって軍部に権限が集中した結果、災害後の混乱に乗じ、朝鮮人社会主義者などが政府により虐殺されたり拷問されたりするなどの結果を招いた。(例えば、震災2日後から4日後にかけて、10名の社会主義者らが軍によって虐殺された亀戸事件などが有名である。)

また、民を弾圧する具として使われた稀代の悪法である『治安維持法』もこの緊急勅の規定が濫用された結果、制定されたものである。実は、治安維持法は最初、過社会運動取締法という名前帝国議会に法案として提出されていた。しかし、処罰要件の曖昧さから濫用のおそれが大きいなどの理由で、帝国議会では反対が相次ぎ、案となっていたのである。

それにもかかわらず、政府関東大震災混乱に乗じ、治安維持法の前身に当たる『治安維持ノ為ニスル罰則ニ関スル件』という緊急勅を出した。先述したように緊急勅法律と同等の効があるため、緊急勅を利用することで、議会を通さずに、政府の独断で事実治安維持法が制定されたのである。緊急勅帝国議会事後承認が必要であるが、既に既成事実となっており、承認せざるを得ない状況となっていた。

戒厳宣告(第14条)

戦時には、天皇は、厳を宣告することができる。厳の具体的な行使の要件や効などは法律で定めることとされたが、実際にはそうした法律が新たに制定されることはなく、明治憲法制定前の太政官布告である『』がその役割を果たした。1894年の日清戦争と1904年の日露戦争の際に厳が宣告された実例がある。

非常大権(第31条)

戦時・国家事変の際には、天皇は、非常大権を行使することができる。非常大権の具体的な行使の要件や性質については条文に定めがなく、また、この規定は、日本国憲法制定に至るまでの間、結局一度も発動されることはなかったため、非常大権がどういうものなのかは曖昧なままであった。

緊急財政措置(第70条)

公共の安全を保持するため緊急の必要があり、かつ、帝国議会を召集できない場合、政府は勅によって財政上必要な処分を行うことができる。ただし、その勅は次回の帝国議会に提出し承認を得なければならない。

諸外国の緊急事態条項

ボン基本法(ドイツ連邦共和国憲法)

ボン基本法は、1968年正で、制定当初とべ、かなり詳細な規定が追加された。ボン基本法における緊急事態は、対内的緊急事態と対外的緊急事態に大別される。

(1)対内的緊急事態(第35条2項・3項、第91条)

具体的には①地震洪水暴風雨火災・干ばつなどの自然災害航空機鉄道事故などの特に重大な災害事故テロクーデターなどの存立に対する危機憲法上の権利や権分立など民主主義における危機⑤特に重要な場合における公共の安全・秩序に対する危険をす。原則として州政府が対内的緊急事態であることを認定し、被害が複数の州にまたがっているなど広範な領域に及ぶ場合や州政府が対応不能な場合などは連邦政府認定する。

対内的緊急事態であることが認定されると、州政府は他の州の警察連邦警備隊などの派遣を要請することができ、連邦政府は州の警察揮命連邦警備隊を派遣することができる。それでも不十分な場合には、軍を出動させ、民用物の保護や交通規制などを行う。また、移転の自由や通信の自由が一部制限される場合がある。

(2)対外的緊急事態(第80a条、第115a条~第115l条)

対外的緊急事態はさらに①外から武攻撃を受けるかまたはその危機が直前に切迫している場合の防衛事態②防衛事態ほどではないが、それに近い外交上の危機が生じている緊迫事態③同盟条約に基づき同盟支援国際機関に協すべき同盟事態に分けられる。

防衛事態であることの認定は、連邦政府の発議に基づき、連邦参議院の同意を得た上で、連邦議会が総議員の過半数で、かつ、投票総数の3分の2以上の賛成をもって行い、連邦大統領布する。(ただし、緊急の必要があり、連邦議会の議決が不能な場合には、両議院の議員で構成される合同委員会が連邦議会に代わって行う。また、実際に武攻撃を受けており、認定ができない状態にあるときは、武攻撃をもって認定されたものとみなす。)認定されると、に以下の効果が生じる。

  • 連邦大統領連邦議会議員などの任期が一定期間延長される
  • 連邦議会が解散されなくなる
  • 軍の揮命権が防大臣から首相に移行する
  • 時には州に専属的な立法権がある事項について、連邦が競合的な立法権を取得する
  • 立法手続が簡略化され、両議院への法案の同時送付と共同審議が可となる
  • 合同委員会が委員の過半数で、かつ、投票総数の3分の2以上の賛成をもって連邦議会が議決不能であると認定した場合、連邦参議院および連邦議会の権限を合同委員会が代わりに行使し法律の制定などを行う。ただし、憲法改正はできない。また、合同委員会の制定した法律は防衛事態の終了6か後には自動的に失効する。
  • 連邦警備隊を連邦全土に出動させることができる
  • 連邦が各州政府に対し揮命を行うことができるようになる
  • 職場放棄の自由職業選択の自由が制限され、非軍事的役務への徴用を行うことができる
  • 財産権の制限がなされ、用収用が行われる場合がある
  • 4日間を限度として、裁判官に引致しないまま身柄拘束をすることができる
  • 経済自由権を一部制限できる
  • 後述する『確保法』が適用される

防衛事態の終了は、連邦参議院の同意を得た上で連邦議会が過半数の賛成をもって行う。この議決は連邦参議院の側からめることもできる。

緊迫事態であることの認定は、連邦議会投票総数の3分の2以上の賛成をもって行う。認定されると、職場放棄の自由が制限され、非軍事的役務に徴用される場合があるほか、軍が民用物の保護や交通規制を行う。また、緊迫事態の際に適用さるために、あらかじめ法整備されている一連の防衛関係法令が発動する。この防衛関係法令を『確保法』という。(具体的には、労役確保法・食糧確保法・交通確保法・経済確保法などがある。)

緊迫事態であることが認定されると、こうした確保法の全てが包括的に適用されるが、このような対応を行うとかえって対外的な緊を高める恐れがある場合は、連邦議会投票総数の過半数の賛成をもって、緊迫事態であることの認定をせずに、一部の確保法を個別的に適用することができる。これを「同意事態」あるいは「部分的緊迫事態」という。これらは連邦議会投票総数の過半数の賛成をもって終了させる。

同盟事態であることの認定は、同盟条約の範囲内で、国際機関連邦政府の同意を得た上で行う。認定されると、緊迫事態のための確保法が適用されることとなる。なお、条文には明記されていないが、ここでいう同盟・国際機関とは、NATO北大西洋条約機構)が想定されている。

濫用防止の仕組み

ドイツ過去ワイマール憲法の緊急事態条項をアドルフ・ヒトラー率いるナチス悪用され、独裁化へのを開いてしまったという痛ましい歴史がある。

ワイマール憲法第48条2項では、大統領公共の安全・秩序のために、武行使を含む「必要な措置」を行うことができ、人身の自由言論の自由、集会・結社の自由などの基本的人権を停止する権限をもっていた。当初、「必要な措置」には立法措置を含まないと解釈され、非常権限の行使には議会コントロールを受けることが想定されていたが、悪意ある拡大解釈により「必要な措置」には立法措置も含むとされ、政府による大統領緊急の根拠とされた。これが、国会議事堂放火事件における緊急命や全権委任法などを経て、ナチスが独裁を手にする重要な要因となった。

ワイマール憲法第48条2項

ドイツライヒにおいて公共の安寧及び秩序に重大な障害を生じたまま障害を生ずる危険のあるときは、ライヒ大統領は、公共の安寧秩序を回復するために必要な措置をとることができ、必要あるときは兵を用いることができる。この的のためには、ライヒ大統領は、第 114 条(人身の自由)、第 115 条(住居の不可侵)、第 117 条(通信の秘密)、第 118 条(意見表明の自由検閲の禁止)、第 123 条(集会の自由)、第 124条(結社の自由)、第 153 条(所有権の保障)に定めた基本権の全部又は一部を一時的に停止してもよい。

その反省から、政府による緊急事態条項の濫用を防ぐため、現在ボン基本法はいくつかの手を打っている。まず特筆すべきは、20条4項の抵抗に関する規定である。これは、1968年正で緊急事態条項の追加と併せて追加された規定で、他の救済手段がない場合に、憲法秩序の排除を企てる何人に対しても抵抗する権利を全てのドイツ人に保障するものである。政府による緊急事態条項の濫用の抑止となっている。

また、連邦憲法裁判所およびその裁判官の地位や任務の遂行は妨げることができない。これにより、仮に緊急事態にかこつけて悪法が制定された場合でも、連邦憲法裁判所が違立法審権を行使し、その法を効にするということが期待される。

そして、ワイマール憲法の過ちを繰り返さないため、政府はいかなる緊急事態においても、単独で緊急命を発布することはできないとされている

フランス共和国憲法(第5共和国憲法)

かつてフランス植民地であったアルジェリア1954年民族解放戦線が結成され、フランスとの間でしい独立戦争を繰り広げた。この戦争はしだいに泥沼化し、追い込まれたフランスはついには政府(第4共和政)崩壊にまで至る。その後、1958年、初代大統領シャルル・ド・ゴールのもとで始まった新政府(第5共和政)は新憲法を制定し、アルジェリア紛争に対処するために、1961年憲法16条に基づく緊急事態条項を発動した。16条に基づく緊急措置権が発動されたのはこのときだけである

16条では、大統領は、の制度・独立・領土保全・約束の実施に重大かつ急迫の危険が切迫し、憲法上の機関の適正な運営が阻されたときは、首相、両議院の議長及び憲法院に諮問した後、緊急措置を発動することができる。(憲法院の諮問には法的拘束はなく、大統領はその答申に拘束されない。)

緊急措置権が発動されると、国会は当然に集会し、大統領議会を解散することができなくなる。大統領の受ける制限はほぼこれだけであり、緊急事態であることの認定・終了やその期間は大統領の判断に属し、議会法のコントロールが及ばない上に、大統領が具体的にどのような措置をとるかについては、条文上、「状況により必要とされる措置をとる」としかないため、考え得るだけのほぼあらゆる国家を行使し人権を制限することが可となっており、非常に独裁的で濫用の恐れが大きい規定となっている。

このため、2008年には憲法正され、緊急措置の発動から30 日間が経過すると、各議院の議長又は議員60 人は、憲法院に対し、緊急措置の要件の有の審申し立てることができ、憲法院は、開で、これに関する意見を表明するという規定を新たに設けた。さらに、緊急措置の発動後 60日間が経過すると、憲法院は、いつでも職権でその審を行うことができるようになる。憲法院が要件を満たさないと判断した場合、大統領は緊急措置を停止することになる。ただし、こうした規定が追加されたとはいえ、それでもまだまだ大統領の権限が非常に大きいものとなっていることに変わりはない。

また、フランス憲法にはほかに第36条にもについての規定がある。戦争や内乱の際に、閣議によって厳を宣告する。厳が宣告されると、行政権および法権が軍当局に移管され、具体的にどのような措置が取られるかは防法典により規定されている。12日をえる延長をする場合は国会の承認が必要となる。ただし、この条項が適用され厳が宣告された例はない

イタリア共和国憲法

イタリア憲法には戦争状態に関する第78条と必要性・緊急性がある非常の場合に政府が暫定措置をとることを規定する第77条2項の2つの緊急事態条項がある。

78条では、両議院は戦争状態であることを議決し、政府に必要な権を与えることができると規定している。具体的に政府にどのような権を与えることができるのかについては、条文に明記されていないため、解釈に委ねられている。また、この場合、両議院の議員の任期が延長されるとともに、民の裁判を受ける権利が制限され、民間人であっても軍事裁判所で裁判を受ける場合がある。戦争状態は講和条約の締結とともに終了する。

一方の77条2項では、非常事態では、政府法律と同等の効を有する暫定措置を発布することができると規定している。ただし、その暫定措置法律に転換するため、発布した当日に両議院に法案として提出し、議会は例え解散中であっても直ちに召集され5日内に集会する。その後、60日以内に法律として可決されなければ、暫定措置は遡及的に失効する。こうした暫定措置はもちろん緊急事態において用いられるべきものであるが、実際にはその制定が常態化しており、政府によって日常的に濫用されているのが実情である。

ロシア連邦憲法

ロシアが外から侵略されるか、または、その直接的な危険が切迫しているときは、大統領厳を布告することができる。ただし、議会に報告し、上院事後的な承認を得る必要がある。また、この間、下院は解散されなくなる。

ほかに、内乱・テロ自然災害などの非常事態にも、大統領は非常権限を行使することができる。この場合も議会に報告し、上院事後的な承認を得る必要があるとともに下院は解散されなくなる。また、一定の人権制限が可であるが、非常事態であっても制限できない人権憲法に列挙されており、そのような人権は制限できない。

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緊急事態条項

65 ななしのよっしん
2023/05/28(日) 23:03:40 ID: 0ZtSLRe7xO
>>sm42275266exit_nicovideo
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66 ななしのよっしん
2023/08/13(日) 08:52:26 ID: uEwP/8rYi4
「緊急事態でもやってはいけないこと」と「永久にならない」その二つは考えてはいけないのか?
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67 ななしのよっしん
2023/11/16(木) 15:58:23 ID: amOS+qVkEP
賛成も反対もなぜ必要不要かの話がフワッとしたものばっかりでこんな感じの空気でみんな自分が何言ってるか何やってるかもわからないまま大日本帝国は破滅に向かったんだなぁ〜と思える
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68 ななしのよっしん
2023/12/02(土) 09:08:12 ID: uEwP/8rYi4
制限で何でもできるようにさせろ、後世の検証もいらない、政府は悪いことはしない疑うのはだ」

「絶対いかなる緊急事態も認めない」
の二極になっているのが…

「緊急事態でもこれとこれは絶対絶対ダメ(たとえば拷問は仕方がなくても子供拷問するな)」
「いろいろやるのは仕方ないが、絶対後世で検証できるように。絶対に公文書を焼くな」
というような立場はないんだろうか?
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69 ななしのよっしん
2023/12/02(土) 09:16:03 ID: KnT2RcD/CL
政治家なら緊急事態条項が発動されたらまずそういうアレはいいけどコレはダメ系の付帯条項を全部撤して制限にして自分に権集中させるかな
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70 ななしのよっしん
2023/12/31(日) 15:08:10 ID: aQ8GodMru8
参議院の緊急集会(憲法第54条第2項)制度の存在がその制定過程と共にもっと広く知れ渡っていたら、緊急事態条項議論上に載せられることはかったろう。
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72 ななしのよっしん
2024/01/01(月) 00:29:43 ID: KnT2RcD/CL
バカのふりしなくていいよ
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73 ななしのよっしん
2024/01/02(火) 08:09:19 ID: KnT2RcD/CL
独裁者なら今緊急事態条項して選挙を半永久的にくしマスメディアを全ての管理下に置く
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74 ななしのよっしん
2024/01/14(日) 19:52:54 ID: amOS+qVkEP
これの反対ワクチンとかがいっぱいいるんでそういう集まりなんかぁと思った
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