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胃腸炎とは、何らかの原因で胃や小腸、大腸に炎症を起こし、腹痛・嘔吐・下痢などの症状があらわれる病気である。
概要
数日から1ヶ月程度で治る急性胃腸炎と、数ヶ月〜半年以上症状が持続する慢性胃腸炎がある。
胃だけが炎症を起こした場合は胃炎、小腸や大腸が炎症を起こした場合は腸炎、大腸のみが炎症を起こした場合は大腸炎と呼ばれる。
ウイルス性胃腸炎
細菌性胃腸炎と合わせて「感染性胃腸炎」と呼ばれる。
原因となるウイルスはノロウイルス(旧・小型球形ウイルス)やロタウイルス、アデノウイルスなどがある。
ウイルスの種類にもよるが主に胃や小腸がダメージを受けることが多く、下痢よりも嘔吐の症状の方が強くあらわれることが多い。また、細菌性腸炎と違って血便が出ることはほとんど無い。多くの場合、数日程度(ロタウイルスは1週間程度)で治るが、脱水症状や誤嚥性肺炎には注意しよう。
特に注意したいのがロタウイルスによる胃腸炎で、コレラに匹敵する激しい下痢(白い水のようなうんちが大量に出る)が起こり、高熱も伴うため脱水症状に陥りやすい。また、稀に脳症や心筋炎、肝炎、腎不全などの重大な合併症を起こすことがある他、腸へのダメージが大きいため腸重積症という緊急性の高い病気を起こすこともある。ただしロタウイルスは小さな子供に多く大人はあまり罹らないため、知名度はノロウイルスより低い。
感染力が非常に強く人から人に伝染しやすいため、食中毒としてだけでなく感染症としても注意する必要がある(特にノロウイルスの感染力はインフルエンザウイルスやコロナウイルスをも凌駕するとされ、アルコール消毒も効きにくいため厄介である)。ただし一般的にノロウイルスやアデノウイルスによる胃腸炎は細菌性胃腸炎に比べて軽症で済むことが多く、予後は良好である。
ロタウイルスによる胃腸炎に限りワクチンで予防できるが、ノロウイルスやアデノウイルスのワクチンはまだ無い。
細菌性腸炎
様々な細菌によって小腸や大腸が強いダメージを受け、激しい下痢が起こる病気。主に食中毒として発症するが、細菌の種類によっては人から人に伝染することもある。
潜伏期間は最近の種類によって大きく異なり、例えば腸炎ビブリオやサルモネラなどは食後数時間から1日程度経ってから発症するが、O157やカンピロバクターなどは数日から1週間程度経ってから発症することが多い。
全体的にウイルス性胃腸炎よりも症状が重く、激しい腹痛を伴ったり、大腸からの出血によって血便が出ることもある(特にベロ毒素を出す細菌は大量に下血することもある)。また、細菌の種類によっては高熱を伴うこともある。ただし、ウイルス性胃腸炎と異なり胃へのダメージは小さいため、嘔吐を伴わないことも多い。
細菌の種類によっては敗血症を起こしたり、ベロ毒素によって溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重大な合併症が起こることもある。抗生物質による治療や入院が必要になることも少なくない。ちなみに下痢止めを飲むと細菌や毒素が体外に排出されにくくなるため、かえって症状が悪化する危険がある。
基本的には急性腸炎として発症するが、腸結核(結核菌による腸炎)は慢性腸炎として発症する。
- 腸炎ビブリオ…魚介類などが原因となることが多い。強い腹痛や嘔吐、下痢などが主な症状。数日程度で治ることが多く、基本的には予後良好。
- カンピロバクター…生肉(特に鶏肉)が原因となることが多い。腹痛、下痢、血便、発熱が主な症状。基本的には予後良好だが、稀にギラン・バレー症候群という重大な神経疾患を併発することも。
- サルモネラ菌…生肉や生卵が原因となることが多い。動物(ペット)や爬虫類などから感染することもある。腹痛や下痢、発熱が主な症状で、高熱を伴うことが多い。基本的には予後良好だが、稀に敗血症などの重大な合併症を起こすことも。
- 病原性大腸菌…人間(ヒト)に対して有害な一部の大腸菌の総称。大腸菌の種類によってそれぞれサルモネラ腸炎、細菌性赤痢、コレラに似たような症状があらわれる。
- 腸管出血性大腸菌…猛毒のベロ毒素を産生する能力を持った、とても危険な大腸菌。O157やO111などの種類がある。主に大腸を激しく攻撃するため激痛や大量下血などの症状があらわれ、HUSなどの重大な合併症を引き起こすこともある怖い細菌。また三類感染症(法定伝染病)であり、人から人に伝染することもある。
- 赤痢菌…大腸菌に近い仲間の細菌で、重い大腸炎を引き起こす。発熱と激しい下痢が主な症状で、赤痢菌の種類によってはO157等と同様にベロ毒素を産生し、大量下血やHUSが起こることもある。三類感染症。先進国(日本を含む)では少なく、発展途上国に多い。
- コレラ菌…腸炎ビブリオに近い仲間の細菌。小腸を激しく攻撃するため「米の研ぎ汁」と揶揄されるほどの猛烈な下痢が起こり、重度の脱水症状が起こることもある。ただし、発熱は無く腹痛も比較的軽め。三類感染症。
- 腸チフス菌、パラチフス菌…サルモネラ菌に近い仲間の細菌。腸炎を起こすが下痢はあまり重要な症状ではなく、むしろ長引く高熱と発疹が特徴的。治るまでに1ヶ月以上かかる厄介な腸炎であり、重症化すると腸に穴があいたり、敗血症を起こすこともある。三類感染症。
- 結核菌…一般的には肺結核を起こす細菌として知られているが、小腸や大腸に炎症が起こる「腸結核」という病気の原因でもある。他の細菌性腸炎と違って慢性化しやすく、薬で治療しないと長引く。腹痛や下痢、発熱など潰瘍性大腸炎やクローン病と似たような症状があらわれる。重症化すると腸に穴があいたり、大量出血が起こることもある。二類感染症なので隔離が必要。
- クロストリジウム・ディフィシル…腸内の常在菌で悪玉菌。普段はおとなしいが、抗生物質の副作用で腸内の善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)が少なくなると大暴れして、「偽膜性大腸炎」という病気を引き起こす。主な症状は腹痛と激しい下痢で、重症化すると下血したり大腸に穴があいたりする。最悪の場合は死亡することもある怖い病気。
虚血性大腸炎
動脈硬化や重度の便秘などが原因で大腸に血液が流れにくくなり、大腸の粘膜に潰瘍ができる病気。「大腸の狭心症」とか「大腸の生活習慣病」などと呼ばれることもあり、脂質異常症や脂肪肝、糖尿病、高血圧などがある人が罹りやすい。特に高齢者に多いとされているが、若者でも罹る可能性がある。
激しい腹痛と下血が主な症状。血流が一時的に減少することで起こる病気であり血流が完全に途絶えてしまうわけではないため基本的には予後良好。しかし稀に大腸が狭くなって腸閉塞を起こしたり、大腸が壊死して腹膜炎や敗血症などの致死的な合併症を起こすこともある。
原則として入院治療が必要だが、ほとんどの場合は1ヶ月以内に治る。しかし腸閉塞や大腸壊死などを起こした場合は緊急手術が必要になることもある。
ちなみにもっと深刻な病気として腸間膜動脈閉塞症というのもある。こちらは腸へ血液を送る血管が完全に詰まってしまい血流が停止し、七転八倒するほどの激しい腹痛や嘔吐、大量下血、ショックなどが起こる。発症から数時間以内に治療しなければ腸が完全に壊死し腹膜炎や敗血症などの合併症を起こして非常に高い確率で死亡する危険な病気である(致死率50%以上)。「心筋梗塞が腸で起こったような重大な病気」とたとえられることもある。
アレルギー性胃腸炎
所謂、食物アレルギー。原因となった食べ物を食べてから数時間後に腹痛、嘔吐、下痢などの症状がみられる。重症化すると吐血や下血、アナフィラキシーショックなどの重大な症状を起こすことも。
潰瘍性大腸炎
大腸に慢性的な炎症や出血が起こる病気。原因は未だに不明であり、特定疾患(難病)に指定されている。治療法もまだ確立されていない。
何らかの原因で自分自身の免疫システムが大腸を攻撃してしまう、自己免疫疾患の一つ。
致死率は低いが激しい下痢や下血、腹痛により日常生活が困難になることも少なくない。また、稀に大腸に穴が空いたり腸閉塞を起こしたりして亡くなる場合もある。大腸癌を併発することもある。
この病気は完全に治ることはほぼ無いが、ほとんどの場合、薬物治療により炎症を軽減することができる。しかし激しい炎症がずっと続いている場合は手術で大腸を全て切除しなければならないこともある。
クローン病
潰瘍性大腸炎と似ているが、こちらは大腸だけでなく小腸にも炎症が起こる。特定疾患(難病)の一つ。
症状も潰瘍性大腸炎に似ているが、こちらは下血はあまりみられない。しかし小腸にも激しい炎症が起こるため栄養を吸収するのが難しくなり、痩せてしまう人も多い。こちらの方がより深刻である。
致死率は低いが、厳しい食事制限が必要となる。ちなみに潰瘍性大腸炎と異なり、手術で小腸を全て切り取ることはできない。
詳細は「クローン病」を参照。
薬剤性大腸炎
特定の医薬品の副作用によって大腸から出血し、激痛や下血などの症状があらわれる病気。症状は激烈だが、多くの場合、原因となった医薬品を中止すれば治るため予後良好。
関連項目
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