脱税とは、納税義務がある者がその義務を怠り、逃れることである。
概要
日本の場合、「偽りまたは不正の行為」を以って納税義務の一部あるいは全部を逃れることを指す。
単純な申告ミスとは異なり、同じ修正申告・更正処分による税金の追徴を受けた場合、遡及年分(単純ミスの5年遡及に代えて最大7年遡及)や、加算税・延滞税の取り扱いなどに差が設けられている。
また、悪質と認められる場合は告訴され、刑事罰を受けたり罰金を支払わされるなどの罰を受けることがある。
脱税の形態と加算税の賦課の取り扱いの違いについて
一般的に脱税すると本税額の35~40%が上乗せされる重加算税が賦課されると思われているが実際は少し違う。「偽りまたは不正の行為」があった者のうち、「仮装・隠ぺい行為」があったと認定された者だけが重加算税を賦課される。たとえ脱税したとしても仮装・隠蔽行為がなかった場合(例えば申告義務があることを知りながら申告をしていなかったものの、その後の税務調査に対して虚偽答弁や隠し事をしなかったと認められる場合など)には重加算税は賦課されず、単純な申告ミスと同じ本税額に10~15%上乗せの過少申告加算税(単に申告をしていなかっただけの者の場合は無申告加算税として、さらに5%上乗せ)が賦課されることとなる。
重加算税がかかるか否かの具体的な線引きを記そうとすると頭が痛くなるような文章を書いたり引用しなければならなくなるので(詳しくはググるなどしてください)、ざっくり言うと
「本人が本来の所得などを仮装・隠ぺいして不当に納税を逃れようとした意図が存在し、
かつその事実があったことが客観的に認められる相当程度の証拠がある場合」
に限られることとなる。
つまり、「何億円単位の巨額の申告漏れだから、脱税していたに違いない」というだけの理由で重加算税をかける、ということは到底不可能である。そうするに至った意図や理由、合理性の有無、話の筋が通っているか否か、そしてそれを裏付ける物証や信頼度の高い証言などが残っているか(←ここが一番重要)などの材料を全て用意しなければ重加算税を徴することはできないのであり、そのハードルは意外に高いのである。
これは、疑わしい者を厳しく追及し罰するよりも、「納税者有利の原則を優先し、国家権力の恣意性をできるだけ排除することの方が大事である」といった考え方に基づくものであると言える。
このことから、同じ脱税であっても、過少申告加算税や無申告加算税が賦課されたと報道された者は単に申告納税義務を怠っていただけの者であったり、その後の税務調査で素直に観念した者である可能性が高い。逆に重加算税が賦課された者は少なくとも納税義務を逃れることを目的とする何らかの嘘偽りや回避工作を行なっていたという、より悪質な納税者であることが考えられる。このような観点から見ると、また少し世の中が違って見えてくるかもしれない。
延滞税について
税務調査などの結果税金が追徴されることとなると、各種加算税の他に延滞税がかかる。この延滞税は、収めるべき税金が納付されていなかった(又は還付金を多く受領していた)ことに対しかかるものである。
年利は申告後2ヵ月までは特例基準割合+1%(年7.3%を限度)、2ヵ月を過ぎると特例基準割合+7.3%(年14.6%を限度)で、2ヵ月以内までは比較的低率で利息的な側面が強いが、2ヵ月を超えるとかなりの高率となり、加算税同様制裁金的な部分が大きくなる。
延滞税は、純粋なペナルティである加算税とは異なり、納税額不足に対する利息としての側面もあるため、自然災害またはこれに準ずる事由により期限内納付が出来なかった場合を除き免除されることはない。
仮に10万円の納付不足があったとすれば、「現在の10万円は過去の10万円よりも少ない、ゆえに元本を支払うだけでは足りない」という考え方に基づくものであるため、たとえ税務署の調査官の説明不足等により誤った申告をしてしまい、その後の調査で誤りを指摘されたとしても(注:税務署員に署や申告会場で聞いた話が間違っていようが申告の最終責任は納税者本人にあるとされているので、職員に重過失や故意がない限りそれを理由に争うのは無駄である)、その追徴税にかかる延滞税は納税者が支払わなければならない(責任問題云々ではなく「納税すべき資金が手元にあった」という事実に対して有無を言わさず課されるので、注意が必要である)。
それゆえ、税務訴訟などで争う場合は国税側が示した税金をいったん納付してから争うのが常識中の常識である。
もし納税者側が勝訴し課税取り消しされると、いったん納めていた税金に加えて延滞税と同じ特例基準割合+1%の還付加算金が上乗せされて返ってくる。このような面からも、延滞税がペナルティというよりは利息的なものと扱われているものと考えられる。
無申告事案の急増と、それに対する対応について
かつて脱税といえば、売上を少なくしたり経費を水増しして所得金額や納税額を過少に申告し納税を逃れる、といった類型が大半であったが、インターネットによる商取引や株・FX取引などが普及してからは「売上や経費を誤魔化して申告する」というよりも「申告手続そのものをしない」という「無申告事案」の類型が急増した。
これをうけて、平成23年度税制改正で「故意の無申告犯」(最大5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金)及び「単純無申告犯」(最大1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金)に対する罰則規定が新たに設けられ、故意性のある無申告者に対しては仮装・隠蔽行為が無くても脱税犯の一種として立件されやすくなった。なおこの改正には、国税庁査察課からの強い要望があったと言われている。
一方で納税者が単に申告義務を知らなかっただけのような単純無申告や、本人が申告ミスに気付いていないような場合については、法律に罰則規定こそあるものの、国税庁の使命として掲げられている「納税者が納税義務を理解し実行することを支援する活動(納税者サービスの充実)」との兼ね合いがあるためか、余程の悪質性が見込まれていない限りいきなり強権をふるってくることはほとんど無い。
まず最初は納税者の自主的な申告の見直しや、申告義務があるか否かの検討を促す案内文が(行政指導として)送付され、その段階で納税者が気付いて期限後申告や修正申告をした場合は自主修正や自主提出扱いとなり加算税も10%軽減されるなど、比較的ソフトな対応を取っているのが実情である。ただしこの指導を無視したまま一定期間が経過すると、以後の連絡からは税務調査に切り替えられ、法令に基づく無申告犯や脱税犯として扱われる可能性が出てくる。また以前は税務署から「調査を行う」との事前通知があってから即座に修正申告を自主提出した場合も同様に加算税が10%軽減されていたが、平成29年分からは軽減割合が5%に縮小されたため、調査開始前に修正申告等を提出した場合でも5%の過少申告加算税または10~15%の無申告加算税がかかることとなった(なお、「見直し確認案内」に基づく修正申告等の場合は従来通り10%軽減される)。
万が一税務署から前述のような案内文が届いた場合は、心当たりのあるなしに関わらず、できるだけ早く税務署の窓口に出向くか電話相談するなどした方が賢明である。
申告漏れと脱税の違い、加算税の区分などについて
マスコミの用法や現場における「申告漏れ」と「脱税」、及び重加算税の使い分けは概ね下記のとおりとなる。
偽り又は不正の行為により税を逃れた場合 | 左記以外 (見解の相違、経理ミス、 申告手続の失念など) |
||
仮装・隠ぺい行為あり | 仮装・隠ぺい行為なし | ||
法律用語 | 脱税 | ||
一般的な用法 | 脱税 | 申告漏れ | |
最大遡及年分 (増額更正等) |
最大7年 | 最大5年 (相続税・贈与税は6年) |
|
加算税の取扱 | 重加算税(35~40%) | 過少申告加算税(10~15%)または無申告加算税(15~20%) |
脱税と節税、租税回避行為の違いについて
脱税の定義はこれまでに書いたとおりであるが、混同されやすい言葉に「節税」や「租税回避行為」がある。
両者の違いは、それぞれ次のとおりになる。
- 節税…一定の要件を満たしたうえで、税法の定めに則り、税負担の軽減を受けること。もちろん合法である。
- 租税回避行為…税負担を逃れる目的で、通常の商取引を逸脱した明らかに非合理的な取引を行い、税負担の軽減を受けること。脱法行為(グレーゾーン)に該当する。
節税で最も有名なものとしては、商売人であれば青色申告控除、サラリーマンなどであれば医療費控除や住宅ローン減税などがこれに該当する。節税とされる項目は多岐にわたり、色々な恩恵が受けられる反面、計算が複雑なものも少なくなく、また証拠書類の保存が義務付けられていることが通常である。
これに対し、租税回避行為は「租税法律主義」の穴を突いた行為である。
例えば、不動産の貸付物件を持っている地主が、地主自身を社長とする不動産の管理業を営む会社を別に立ち上げ、通常の相場を遥かに超える額の管理費を管理会社に支払うことで税負担を逃れようとする行為がこれに当たる。他にも自販機売上を活用した賃貸マンション建設費の消費税還付スキーム(※現在はほぼ使えない)や、税負担逃れのために半年以上海外に居住する方法、サラリーマンが少額の副業を立ち上げ、副業に係る必要経費を突っ込んで多額の赤字を計上して給与所得と通算し所得税還付を得る方法など、様々な租税回避行為があるが、書くと長くなるので気になる方は各自ググッて調べていただきたい。
要するに「ズルいことして税負担を逃れているのは事実だけど、法律に『やっちゃダメ』とはどこにも書いてないでしょ?」と言った行為が「租税回避行為」なのである。ただし違法でないとしても、目的が目的だけに課税当局からは厳しい目で見られることになってしまうし、場合によっては黒とみなされ否認されてしまうこともあるが、裁判で覆るケースも無いわけではなく、その判断は難しいものとなっている、
また、あまりにも濫用が過ぎると、直ちに法律が改正されて以後「してはいけないこと」に変わる場合も少なくない。その場合、改正法が施行された後に同じことをやると脱税になるので、厳に慎むべきである。
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