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腸チフスのメアリー(本名:メアリー・マローン)とは、アメリカ合衆国の元料理人である。
優秀な料理人だったが、とある理由で料理人として働けなくなってしまった人物として有名である。
概要
メアリー・マローンは1869年9月23日に、イギリス領北アイルランドの貧しい家庭に生まれた。1883年(14歳の時)に経済的困窮とジャガイモ飢饉をきっかけとする食料危機を理由としてアメリカ合衆国のニューヨークに移住した。
特にこれといったスキルを持っていなかったメアリーはニューヨークの裕福な家庭で料理人として働き始めるが、そこで料理の腕(と心優しい性格)を高く評価され一目置かれる存在となっていた。
しかし20世紀の初頭のニューヨークでは腸チフスという伝染病が流行しており、メアリーが働いた家でも重症の腸チフス患者が多数発生し、(メアリーが懸命に看護したにもかかわらず)病状はむしろ悪化し、洗濯人の女性1人が死亡した。
その後、1907年にニューヨークの保健所の調査で、「腸チフス患者のほとんどがメアリーが働いていた家庭で発生している」という事実が分かったことからメアリーが腸チフス菌の保菌者であると疑われ、検査した結果、メアリーの大便から腸チフス菌が検出された。その後、メアリーはノース・ブラザー島という小さな島の病院に隔離入院させられた。
メアリーが毒性の強い腸チフス菌を持っていた(胆嚢に菌が寄生していた)にもかかわらず、一度も腸チフスを発症したことが無い健康保菌者(無症候性キャリア)だったことから、この事件は世間を震撼させた。
1910年、メアリーは「食品を取り扱う仕事に就かないこと」と「今住んでいるところを明らかにすること」を条件に解放され、しばらくは調理作業が発生しない使用人(洗濯婦など)として働いていたが、やがて消息不明となり、1915年にニューヨークの産婦人科病院で偽名を使って料理人として働き多数の腸チフス患者(うち死者2名)を出したことから、ニューヨークの保健所を激怒させ、再びノース・ブラザー島に島流しとなり、今度は二度とノース・ブラザー島から出ることは無かった。
その後、1938年11月11日にメアリー・マローンは亡くなった。
腸チフスとは
細菌性食中毒の一つで、サルモネラ属の細菌の一種が小腸のリンパ節や胆嚢に感染して起こる病気。
サルモネラ属の細菌は「主に急性胃腸炎を起こすタイプ」と「腸チフスやパラチフスを起こすタイプ」がある。前者は激しい下痢を起こすが、(ほとんどの場合)数日程度で治る予後良好な病気である。
一方、後者(腸チフス)はインフルエンザやマラリアに似た高熱・倦怠感・発疹などの症状が1〜2週間続き、重症化すると激しい下痢や小腸からの大量出血(下血)、敗血症を起こして死亡することもある怖い病気である。現在は抗生物質で治療できるようになった(ただし現在は耐性菌も登場しているので要注意)ものの、今でも未治療だと致死率が10%以上となる非常に危険な感染症である。ちなみにパラチフスも症状は腸チフスとほぼ同じである。
また、胃腸炎型のサルモネラ菌は人から人に伝染することはほとんど無いが、腸チフスやパラチフスを起こすタイプのサルモネラ菌は赤痢菌やO157と同様に感染力が強いため、接触感染によって人から人に伝染する(二次感染)ことがある。
現在では日本やアメリカ合衆国のような先進国ではあまりみられなくなったが、発展途上国(特にインド)では未だに腸チフスやパラチフスは流行しており、多数の死者を出している怖い病気である。
日本の感染症法では腸チフスとパラチフスは(コレラやO157などと同じ)三類感染症となっているため、感染者は陰性になるまでサービス業や食品を取り扱う仕事ができなくなる(ちなみに胃腸炎型のサルモネラ食中毒は五類感染症である)。また、腸チフス菌やパラチフス菌に汚染された物件(食品など)は消毒または廃棄の対象となる。
かつては隔離入院が必要な二類感染症だったが、「空気感染・飛沫感染する病気では無いこと」「抗生物質で治療できること」などの理由から2007年に三類感染症に変更された。
関連項目
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