自己鍛造弾(SSF:Self Forging Fragment 直訳すれば自己鍛造破片)は、一般的には装甲戦闘車両の上面や下面など、装甲が薄い部分を狙う対戦車ミサイル、誘導砲弾、対戦車地雷などの弾頭に使用される弾薬である。
概要
筒状のケースに詰められた爆薬の上に、浅い皿状の金属板で蓋をしたような構造をしている。
起爆すると、爆薬が金属板を砲弾状に変えつつ、秒速2500~3000mという超高速で前方に打ち出す。
この辺の図解はウィキペディアの当該ページを参照していただければ理解が早いだろう。
構造は成形炸薬弾と類似しているが、成形炸薬弾と比べて金属製ライナーの凹みは浅い。自己鍛造弾の侵徹長はライナー直径の0.5~3倍程度と言われており、成形炸薬弾より劣っている。しかし、成形炸薬弾のメタルジェットの威力は目標までの距離(スタンドオフ)が遠いと急激に低下するのに対して、自己鍛造弾の有効距離はライナー直径の1000倍以上(直径100ミリのライナーで100メートル以上)と言われており、成形炸薬弾を大きく上回る。[1]
利点
通常の徹甲弾(APFSDSなど)に比べ、高速で発射する必要がないので、重く高価な「砲」が必要ない。
地雷などにも使われることからわかるように、発射する必要すらないにも関わらず分厚い装甲を貫通させる事ができる。
成形炸薬弾(HEAT)に比べ、空間装甲等で簡単に無力化されない。成形炸薬弾は、貫通力を生み出すメタルジェットが起爆後数十センチも進むと霧散し無力化してしまうのに比べ、自己鍛造弾は起爆後もかなり長い間(直径の1000倍以上)、貫通力を維持する事ができる。
欠点
直径の5~8倍の貫通力を持つ成形炸薬弾に比べ、自己鍛造弾は直径と同程度の貫通力しか持たない。
威力を高めようとすると直径が大きくなり過ぎるため、砲が必要ないというより砲弾として使えないというデメリットの面が強くなる。この点、砲弾やロケット弾弾頭としても使える成形炸薬弾に比べ不利である。
このため、砲弾ではなく地雷や仕掛け爆弾、航空爆弾といった運用方法が取られる。
はやぶさ2に搭載
以上のように爆弾・兵器として使われる自己鍛造弾だが、なんと学術目的で宇宙探査に使われた例がある。
小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された「衝突装置(SCI)」がそれで、小惑星表面を「掘り返す」ために使われた。小惑星表面は強烈な太陽光や宇宙線などで化学変化しているので、そのような影響を受けていない小惑星地中の「新鮮な」サンプルを採取するためである。
ごく小さな重力しか持たない小惑星で穴を掘ることは想像以上に難題で、かつ装置は探査機に搭載するために小さく、軽い必要がある。そのため、砲が必要なく、爆薬のエネルギーを効率よく弾のエネルギーに変えることができ、狙った場所に撃ち込める自己鍛造弾が採用されることとなった。ちなみに、起爆するときは探査機自体は小惑星の裏側に退避するので、探査機が被害を受けることはない。
2019年4月5日、実際に運用された衝突装置(SCI)は、見事に小惑星「リュウグウ」の表面に人工クレーターを作ることに成功。はやぶさ2は世界で初めて地球以外の星を「砲撃」した探査機となった。
関連動画
関連項目
脚注
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