芥川賞とは、日本文学振興会(文藝春秋社)が主催する、日本で一番有名な純文学の新人賞。
最新の受賞作は、朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」と松永K三蔵「バリ山行」(第171回)。
概要
正式名称は「芥川龍之介賞」。選考は年2回、1月と7月に直木賞と同時に行われる。発表とともにNHKで速報が流れる文学賞は芥川賞と直木賞だけ。そのため、特に本好きでもない普通の人でもたいてい存在は知っている。
普段あまり本を読まない人の中には、その知名度や扱いの大きさから「日本で一番良い小説を選ぶ賞」だと思っている人も多いのだが、実際は、期間内に主要文芸誌(『新潮』『群像』『文學界』『文藝』『すばる』の五誌。それ以外では『早稲田文学』などから候補作が出ることもあるが稀)に掲載された作品から、まだ芥川賞を獲っていない新鋭作家の作品が選ばれる。上限はだいたい原稿用紙250枚で、短編~中編作品が対象。なので、日本の小説の中でも非常に狭い範囲を対象とした賞に過ぎない。スポーツにたとえれば、箱根駅伝や夏の甲子園がいくら世間的な注目度が高くても陸上競技全体や野球全体の最高レベルの大会ではないように、芥川賞も別に日本の小説全体の最高レベルの賞でもなんでもない。
現在の選考委員は小川洋子、奥泉光、川上弘美、川上未映子、島田雅彦、平野啓一郎、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一の9名(第163回以降)。ちなみに選考委員の中で受賞作家でないのは山田と島田の2人。山田は3回芥川賞を落ちて結局直木賞を受賞、島田は芥川賞史上最多タイの落選6回の記録を持つ。
受賞作は雑誌『文藝春秋』に全文掲載されるため(選考委員の選評も同時掲載)、文藝春秋は芥川賞受賞作の載る号だけやたらと発行部数が増えることがある(第131回で綿矢りさと金原ひとみが受賞した際には100万部以上を記録した)。このため芥川賞と直木賞は、雑誌の売り上げが落ちる2月と8月に話題を作るために始めた賞であると言われているが、この説はどうやら都市伝説であるらしい。
勘違いしている人をたまに見かけるが、芥川賞は作品を公募するタイプの新人賞ではない。芥川賞を獲ろうと思ったら、まずは前述の純文学雑誌の新人賞を受賞するなどして、雑誌に作品が掲載されなければならない。
ほぼ中堅作家の賞となっている直木賞と違い、こちらはより新人賞に近く、デビュー作でそのまま受賞する例もままある(既に他の新人賞の選考委員をしていた阿部和重が受賞したりもするが)。そのため、芥川賞を獲った「だけ」で消えていく作家も多い。受賞自体が大きなニュースになるため受賞作がベストセラーになるのもよくあることだが、そもそも普通の人は普段純文学なんて読まないのでそのまま忘れ去られていく作家もまた多い。もちろん、一般的には忘れ去られても作家としてはしっかり活動を続けている場合もある。金原ひとみとか。
海外の文学賞と違い、選考委員の顔ぶれがなかなか変わらないことについては批判も多い。直木賞もそうだが、選考委員には任期がないので、だいたいは10年以上にわたって選考委員を務めることになる。現在、一番の古株は第129回(2003年)から務めている山田詠美。ちなみに最長記録は第1回(1935年)から第86回(1981年)まで47年にわたって選考委員だった瀧井孝作。
太宰治が受賞できなかったことは有名だが、中島敦、三島由紀夫、村上春樹なども受賞していなかったりする(三島由紀夫はデビューしたのが戦後の芥川賞中断期間だったため、候補にすらなっていない)。他、落とされ続け受賞できなかった作家として有名なのは島田雅彦(当時選考委員だった安岡章太郎に嫌われていたらしい)だったが、当の本人は第144回から何の因果か選考委員に就任した。
直木賞とは全く別のジャンルのようで意外と接近しており、芥川賞候補からのちに直木賞を獲った作家(最近だと角田光代や島本理生)や、絲山秋子のように芥川賞候補→直木賞候補となって結局芥川賞を獲った作家もいる。社会派ミステリで知られる松本清張も受賞作家。第119回で車谷長吉が直木賞、花村萬月(と藤沢周)が芥川賞を獲った際には「受賞作家が逆だ」と言われたりした。
第144回以降、直木賞とともに受賞記者会見の模様がニコニコ生放送で中継されている。特に西村賢太、田中慎弥がそれによって大きな話題をさらった。
大百科に記事のある受賞作
大百科に項目のある受賞作家
- 松本清張 (第28回『或る「小倉日記」伝』)
- 石原慎太郎 (第34回『太陽の季節』) - 第114回(1995年)から第146回(2012年)まで選考委員。
- 大江健三郎 (第39回『飼育』) - 第76回(1976年)から第91回(1984年)、第103回(1990年)から第114回(1995年)まで選考委員。
- 村上龍 (第75回『限りなく透明に近いブルー』) - 第123回(2000年)から第158回(2017年)まで選考委員。
- 小川洋子 (第104回『妊娠カレンダー』) - 第137回(2007年)から現選考委員。
- 辻仁成 (第116回『海峡の光』)
- 目取真俊 (第117回『水滴』)
- 町田康 (第123回『きれぎれ』)
- 中村文則 (第133回『土の中の子供』)
- 西村賢太 (第144回『苦役列車』)
- 円城塔 (第146回『道化師の蝶』)
- 田中慎弥 (第146回『共喰い』)
- 羽田圭介 (第153回『スクラップ・アンド・ビルド』)
- 村田沙耶香 (第155回『コンビニ人間』)
大百科に項目のある候補作家(★は直木賞受賞)
- 太宰治 (第1回「逆行」)
- 村上春樹 (第81回「風の歌を聴け」、第83回「1973年のピンボール」)
- 島本理生 (第128回「リトル・バイ・リトル」、第130回「生まれる森」ほか計4回) ★
- 舞城王太郎 (第131回「好き好き大好き超愛してる。」、第142回「ビッチマグネット」ほか計4回)
- 宮内悠介 (第156回「カブールの園」、第158回「ディレイ・エフェクト」)
- 古市憲寿 (第160回「平成くん、さようなら」、第161回「百の夜は跳ねて」)
似たような賞
ほぼ同じポジション(純文学の新進作家が対象)の賞に、新潮社の三島由紀夫賞と、講談社の野間文芸新人賞がある。
詳細はそれぞれの記事を参照してもらいたいが(簡単に言えば三島賞はトンガってて野間新人賞はオーソドックス)、大きな違いは三島賞・野間新人賞とも年1回であることと、芥川賞が「文学誌に発表された中短編」を対象としているのに対し、三島賞・野間新人賞はどちらもそれに加えて単行本を対象にしていること。なので、芥川賞を落ちた作品が単行本にまとめられてから三島賞・野間新人賞を獲る例は結構ある。
ちなみに三島賞、野間新人賞とも、芥川賞を受賞した作家は(暗黙の了解で)対象外。この三賞を制覇しているのは、笙野頼子、鹿島田真希、本谷有希子、村田沙耶香、今村夏子の5人。
関連動画
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 直木賞
- 吉川英治文学新人賞
- 山本周五郎賞
- 本屋大賞
- 日本推理作家協会賞
- 江戸川乱歩賞
- 本格ミステリ大賞
- 柴田錬三郎賞
- 三島由紀夫賞
- 野間文芸新人賞
- 吉川英治文学賞
- 大藪春彦賞
- 山田風太郎賞
- 泉鏡花文学賞
- 中央公論文芸賞
- 吉川英治文庫賞
- 日本ミステリー文学大賞
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