落選運動とは、選挙などにおいて特定の候補を落選させようとする運動である。
法律の文面においては「当選を得させないための活動」などと表現される。
(以下の文章は2022年7月23日時点の内容である。その後の法律の条文改正などによって法的解釈が変化する可能性については注意されたい)
概要
何らかの役職について定員を超えた複数の者が立候補しているときに、「特定の候補者を当選させよう」とする選挙運動は、裏を返せば「他の候補者を落選させよう」とする運動ではある。
だが「落選運動」と特に言うときは、そのような「誰かを当選させようとする運動」は省くことが多い。すなわち、純粋に「誰かを落選させる」ことのみを主題としており、そのライバル候補が当選することを目的にはしていない運動だけを指すことが多い。
ゆるい規制
日本においては、通常の選挙運動に比べて落選運動への規制は全然ゆるいことが知られている。
なぜなら、日本の選挙運動について様々な規則を定めている法律「公職選挙法」の判例・実例において、「選挙運動」とは「特定の選挙において、特定の候補者(必ずしも1人の場合に限られない)の当選を目的として投票を得又は得させるために必要かつ有利な行為」を指すものであるため。
つまり、日常的な感覚とは乖離しているようだが、「誰かを当選させること」を目的としない純粋な落選運動は、法律上は「選挙運動とは異なる」と解釈されるのである。
公職選挙法の文面において
これは、「公職選挙法では落選運動の事を想定していない」わけではない。それは「公職選挙法」の条文内に、以下のように「当選を得させないための活動」として落選運動についての規定がわずかにある事でもわかる。
(インターネット等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者の表示義務)
第百四十二条の五 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレス等が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない。
2 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、電子メールを利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、当該文書図画にその者の電子メールアドレス及び氏名又は名称を正しく表示しなければならない。[1]
プロバイダ責任制限法の文面において
また、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(略称:プロバイダ責任制限法)においても、以下のようにこの「当選を得させないための活動」に関する記載がある。
長ったらしいが、該当箇所の文面を引用する(後に要約も付す)。
第三条の二 前条第二項の場合のほか、特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報(選挙運動の期間中に頒布された文書図画に係る情報に限る。以下この条において同じ。)の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
一 特定電気通信による情報であって、選挙運動のために使用し、又は当選を得させないための活動に使用する文書図画(以下「特定文書図画」という。)に係るものの流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等(公職の候補者又は候補者届出政党(公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第八十六条第一項又は第八項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)若しくは衆議院名簿届出政党等(同法第八十六条の二第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)若しくは参議院名簿届出政党等(同法第八十六条の三第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)をいう。以下同じ。)から、当該名誉を侵害したとする情報(以下「名誉侵害情報」という。)、名誉が侵害された旨、名誉が侵害されたとする理由及び当該名誉侵害情報が特定文書図画に係るものである旨(以下「名誉侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害情報の送信を防止する措置(以下「名誉侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該名誉侵害情報の発信者に対し当該名誉侵害情報等を示して当該名誉侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該名誉侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
二 特定電気通信による情報であって、特定文書図画に係るものの流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等から、名誉侵害情報等及び名誉侵害情報の発信者の電子メールアドレス等(公職選挙法第百四十二条の三第三項に規定する電子メールアドレス等をいう。以下同じ。)が同項又は同法第百四十二条の五第一項の規定に違反して表示されていない旨を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出があった場合であって、当該情報の発信者の電子メールアドレス等が当該情報に係る特定電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に正しく表示されていないとき。[2]
赤字「当選を得させないための活動」が使われている「一」だけでなく、下線強調で示した「同法第百四十二条の五第一項」とは上記の公職選挙法の引用部分のことであるので、「二」も落選運動に関する内容である。
要約すると、「一」は「選挙運動でも落選運動でも、名誉棄損的な内容がウェブサイトとかSNSで発信されていた場合、候補者等が名誉毀損だとして削除を求めたならば、プロバイダ等が発信者に削除に同意するか否か確認してから、同意しないという返事が来ないか待つべき期間が2日に短縮される」ということ。
選挙に関わらない通常の情報は、プロバイダは発信者に削除に同意するか否か確認して、「同意しない」という返事が来ないかどうか7日待ってから削除しないと、発信者から「削除されたことで損害を受けた」という訴えを起こされると賠償義務を負う。選挙に関わる情報の場合、この「7日」が「2日」に短縮され、プロバイダによるスピード削除が可能となるわけ。
そして「二」は「選挙運動でも落選運動でも、公職選挙法で決められている通りにウェブサイトに電子メールアドレス等を表示していないなら、候補者等から名誉毀損だという連絡が入った時には、プロバイダは直ちに削除しても賠償義務を負わない」という意味である。
「選挙運動」では規制されているが「落選運動」では規制されていない行為の例
それでは具体的に、「選挙運動では法律で規制されているのに、落選運動では規制されていない行為」を例を挙げて見ていこう。
選挙運動期間外の運動
「選挙運動」は、公職選挙法で「選挙運動の期間」を定めた第百二十九条の規定により、当該選挙の公示・告示日から当該選挙の期日の前日までの期間(いわゆる「選挙運動期間」)しか行うことができない。
しかし公職選挙法は「落選運動」の期間について何も定めていない。
よって、選挙運動期間が開始する前から落選運動を始めたとしても、法律違反とならない。
未成年者による運動
「選挙運動」は、公職選挙法で「年齢満十八年未満の者の選挙運動の禁止」を定めた「第百三十七条の二」の規定により、満18歳未満の未成年は行うことができない。
しかし公職選挙法は落選運動を行うものの年齢について何も定めていない。
よって、満18歳未満の者が落選運動を行ったとしても、法律違反とならない。
「落選運動」でも許されない行為の例
一方、公職選挙法では「投票」を「得しめない目的をもつて」、あるいは「当選を得させない目的をもつて」という表現を用いて、選挙運動だけではなく落選運動においても認めない行為をいくつか定めている。
戸別訪問、署名運動、新聞紙や雑誌の不法利用、買収や利害誘導、氏名の虚偽表示、など
たとえば、選挙に関わる戸別訪問は、公職選挙法の「第百三十八条」において以下の文面で禁じられているが、ここでは「選挙運動」に限定するかたちにはなっておらず、「得しめない目的をもつて」というフレーズを盛り込むことで落選運動をも対象とした記述となっている。
(戸別訪問)
よって、落選運動であっても戸別訪問を行う事は公職選挙法違反である。
同様に、「得しめない目的をもつて」というフレーズが用いられていることにより、「署名運動」(第百三十八条の二)、「新聞紙、雑誌の不法利用等」(第百四十八条の二)、「買収及び利害誘導」(第二百二十一条)、「氏名等の虚偽表示」(第二百三十五条の五)も、選挙運動と落選運動の双方において公職選挙法違反となる。
虚偽事項の公表など
また、候補者を落とそうとして虚偽事項の公表を行うこと等についても、公職選挙法の「第二百三十五条」の第二項において、「当選を得させない目的をもつて」というフレーズを用いた以下の文面で禁じられている。
第二百三十五条 当選を得又は得させる目的をもつて公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者の身分、職業若しくは経歴、その者の政党その他の団体への所属、その者に係る候補者届出政党の候補者の届出、その者に係る参議院名簿届出政党等の届出又はその者に対する人若しくは政党その他の団体の推薦若しくは支持に関し虚偽の事項を公にした者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
2 当選を得させない目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に関し虚偽の事項を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。[4]
関連リンク
関連項目
脚注
- *公職選挙法 | e-Gov法令検索
より引用。赤字強調は引用者。
- *特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 | e-Gov法令検索
より引用。赤字および下線による強調は引用者。
- *公職選挙法 | e-Gov法令検索
より引用。赤字強調は引用者。
- *公職選挙法 | e-Gov法令検索
より引用。赤字強調は引用者。
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