藤田元司単語

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藤田元司（1931年8月7日～2006年2月9日）とは、読売ジャイアンツに所属していた元プロ野球選手であり、監督としては長嶋茂雄・王貞治といった稀代のスターに挟まれながらも80年代の巨人において監督として様々な選手たちを育て上げた名監督である。

概要

高校は新居浜東高から西条北高に転向、甲子園にはわずかに手が届かなかった。
大学では慶応義塾大学に進学し、1年からベンチ入りしたが優勝は1年の春以外経験することは出来ず、4年秋には早慶戦で3連投と奮闘したにも関わらず敗れ、「悲運のエース」と言われた。
大学時代は巨人の水原監督から熱心に誘われていたが、当時はプロに行く気はなかった藤田は社会人野球に進み、野球部で都市対抗野球の優勝に貢献、その後はノンプロの世界選手権の代表などを経験したあとに57年に巨人に入団する。この時水原監督には「3年間やってダメならやめます、辞める時はきれいに辞めさせてください。」と唯一の条件を伝えている。

プロ1年目は先発・抑えでフル回転し、いきなり17勝を挙げる活躍で巨人の優勝に貢献し新人王を獲得、日本シリーズでも登板するが西鉄の前に1勝4敗で敗れた。

58年は29勝を挙げ、金田正一の31勝・防御率1.30には届かなかったため投手タイトルは獲得できなかったが、この年入団し本塁打王・打点王を獲得する大活躍を見せた長嶋茂雄を押しのけてMVPを獲得、しかし西鉄との日本シリーズでは6試合に登板して防御率1.09という素晴らしい成績を残すものの、稲尾和久の超人的な活躍により1勝2敗に終わり、西鉄の3連覇を許す。（※詳細は神様、仏様、稲尾様を参照。）

59年は27勝を挙げる活躍でチームも開幕から首位を独走し優勝、藤田は最多勝と2年連続となるMVPに輝くが、日本シリーズでは南海ホークスの杉浦忠の4連投4連勝という前年の稲尾に勝るとも劣らない活躍により3試合に先発として登板するも2敗を喫した。（※詳細は杉浦忠の記事を参照。）
そして度重なる登板と練習中のアクシデントなどが重なり、60年から成績は急降下を始め、60年は7勝でプロ入りして初めて二桁に届かず、61年も8勝に終わったことでこの年監督に就任した川上哲治監督から移籍するよう要請されるがこれを拒否し、62年は13勝と久々の二桁勝利を挙げるも肩の故障は癒えず、63年からは投手コーチと兼任し、65年限りで現役を引退した。

現役引退後は引き続き巨人の投手コーチを務めたが、70年には暴力団との交際を疑われ、73年途中には2軍コーチに降格し、74年はスカウトに転向されるなどかつての巨人のエースとは思えぬ扱いが続き、75年には大洋ホエールズのコーチに就任するが、これもわずか2年で退団した。

その後は解説者などで活動していたが81年、長嶋茂雄監督の解任により長嶋の尻拭い後任として監督に就任、藤田は心臓に病を抱えた状態ながらも80年に引退したばかりの王貞治を助監督に、川上時代から参謀として活躍していた牧野茂をヘッドコーチに置く「トロイカ体制」を作ってチームを指揮することとなった。

しかし一部のファンは長嶋の解任を川上哲治の陰謀と決めつけ、藤田を川上の傀儡として見ていたため、読売新聞の不買運動だけでなく、監督に就任した藤田に猛バッシングを浴びせた。具体的には藤田の自宅にいたずら電話や「カミソリレター」・「娘を殺す」といった内容の脅迫状を送りつけるなど、およそ野球ファンとは思えぬ所業を繰り広げ、さらにはマスコミも藤田に対し冷淡であり、藤田が結果を出しても「長嶋の遺産のおかげ」と藤田を認めようとはしなかった。ファンやマスコミが徳光和夫だと思っていただければ想像しやすいだろうか？
挙句には正力亨オーナーもマスコミの誘導によって長嶋復帰のラブコールを送るようになってしまったため、さすがに藤田の我慢は限界に達し、オーナーの部屋に乗り込んで「オーナー！現在巨人の監督を務めているのは私です！私の事が不満ならユニフォームを脱いだっていいんですよ！」と外にいた記者にも聞こえるような大声で怒鳴りこんだという。

上記のようなファンもマスコミもオーナーも敵という内憂外患というレベルじゃない苦境に見舞われながら藤田はシーズンを戦うことになる。

開幕戦では前年最多勝の江川卓ではなく西本聖を抜擢し、西本もその期待に応え132球の完投勝利。打線はこの年入団した原辰徳を当初は二塁で起用していたが、5月にそれまで三塁を守っていた中畑清が怪我で離脱したため原を三塁にコンバートし、空いた二塁には篠塚利夫を抜擢、するとそれまで低調気味だった打線が活性化し、篠塚は阪神の藤田平とハイレベルな首位打者争いを繰り広げる。
この嬉しい誤算により原に三塁の定位置を奪われた中畑は一塁に回されたが、復帰後は打撃も好調で4番に座った。
投手陣は開幕投手の西本とそのライバルである江川そして定岡正二の3本柱が活躍し、抑えにも角光男を固定した。
結局この年は投手陣は江川が20勝、防御率2.29という成績で投手タイトルを独占しMVPを、西本が18勝を挙げる活躍で沢村賞を、角は20セーブで最優秀救援投手を獲得。
打線は原が打率.268,22本塁打67打点の成績で新人王に選ばれ、篠塚は首位打者こそのがしたものの打率.357を記録し、4番に座った中畑は打率.322、16本塁打66打点という成績を残した。

日本シリーズでは江夏豊を擁する日本ハムファイターズと対決するが、江川・西本がそれぞれ2完投勝利（西本は完封含む）で日本ハムを下し、就任1年目で巨人を日本一に導いた。
しかし1年目にて日本一という最高の結果を残してもなおマスコミの態度は相変わらず冷たいものであった。
 
82年は投手3本柱は江川が19勝、西本・定岡が15勝を挙げ、打線も原が33本塁打、中畑が25本塁打を記録し、さらに1番に定着した松本匡史が61盗塁で盗塁王を獲得したが、巨人は最後の最後で中日追い抜かれ2連覇は成らなかった。

83年は開幕から首位を独走、7月に一度だけ広島に首位を渡したが、それ以降は圧倒的な勢いで優勝まで突っ走った。
この年は「50番トリオ」と呼ばれた若手3人の選手たちが躍動、一人は背番号54の槙原寛己、この年は12勝9敗1セーブの活躍で新人王を獲得した。もう一人は背番号50の駒田徳広、4月10日に練習中に怪我で離脱した中畑に代わりスタメンに抜擢されると、満塁の場面で迎えた初打席で右田一彦から満塁ホームランを放つという衝撃的なデビューを飾り、この年は打率.286、12本塁打47打点という成績を残す。最後は背番号55の吉村禎章、代打での起用が多かったが、6月29日から7月1日にかけては3試合連続本塁打を放つなどの活躍を見せている。この年は打率.326、5本塁打11打点という成績を残した。

一方の主力選手たちも負けてはいない、江川・西本はそれぞれ16勝・15勝を挙げ、抑えの角は途中怪我で離脱したものの9試合連続セーブなどの記録を残している。
打線も原が32本塁打103打点の活躍で打点王、松本も前年の盗塁数を上回る76盗塁（現在セ・リーグ記録）を記録して2年連続盗塁王を獲得している。

しかし日本シリーズではかつて巨人で現役時代を共にした広岡達朗率いる西武ライオンズに先に王手をかけながらも3勝4敗で敗れ日本一を逃した。
そして藤田は監督を王貞治に譲り、この年でいったん巨人の監督を退任する。

だが藤田の後を受けた王は87年こそ優勝したものの日本一は達成できず、それ以外の年も優勝は逃すという結果に終わり88年限りで退任（実質解任と言われている）したため藤田が再び尻拭い後任に指名される。
健康上の問題から一度は辞退を考えたものの、当時の務台光雄読売新聞名誉会長から「老い先短い年寄りの願いを聞いてくれ」と懇願されたため監督に復帰、さすがにこの時は前任時に結果を残していることもあり、大きな批判は起こらなかった。
 
藤田は投手陣の整備に取り組み、第1期の監督時に活躍した西本聖をトレードで放出して捕手の中尾孝義を獲得、さらに第1期時にドラフトで獲得しながらその後は殻を破りきれていなかった斎藤雅樹を自ら指導した。
この斎藤が中尾の強気のリードなどもあり覚醒、この年いきなり20勝を挙げる活躍で最多勝に輝いた他、11試合連続完投勝利という記録も作っている。
この斎藤に槙原寛己・桑田真澄が加わり先発3本柱を結成してこの3人だけで55完投を記録、槙原は7月終盤に離脱してしまうが、他にも前年14勝を挙げたガリクソンや香田勲男、水野雄仁、木田優夫といった若手が台頭して穴を埋め、打線はクロマティが一時は打率4割を超えるほどの打撃で打線を引っ張ると、故障離脱した中畑に代わり6番・三塁の座を手に入れた岡崎郁や、川相昌弘、緒方耕一といった若手を抜擢、これらの起用がピタリとあたり6月半ばからは首位から一度も転落せず圧巻の優勝を決めた。

日本シリーズでは仰木彬監督率いる近鉄バファローズと対決、先に3連敗を喫し王手をかけられるが、近鉄の加藤哲郎の発言（大幅にマスコミによって表現が歪曲されてはいるが）によって選手たちが奮起し、そこから一気に4連勝で逆転で日本一に輝き、実に8年振りの日本一に輝いた。

90年は3本柱の一人、桑田真澄が登板日漏洩問題などで1か月の謹慎処分、原辰徳が脇腹痛で1ヵ月離脱、クロマティの打撃不振というアクシデントに見舞われたが、打線は右膝靱帯断裂という大けがから復帰した吉村禎章や駒田徳広、村田真一といった選手が穴を埋め、投手陣は右ひざ半月板の手術から復帰した槙原やミスター完投と呼ばれた斎藤、そして宮本和知や木田優夫が活躍、完投は70を数えた。
このように故障者などが出てもそれを補うことが出来る選手を次々に抜擢する藤田の慧眼により、巨人はこの年2位に22ゲーム差を付けぶっちぎりの優勝を果たした。

しかし日本シリーズでは森祇晶率いる西武ライオンズに3本柱が打ち砕かれ、まさかの4連敗を喫した。

そして91年は広島に92年はヤクルトに優勝を許し92年限りで退任し長嶋に後を託した。

監督退任後は解説者に復帰し、96年には野球殿堂入りを果たした。しかし2000年頃から体調を崩し始め、治療にあたっていたが2006年2月9日に心不全で死去、亡くなる前には「巨人は原辰徳なら大丈夫」という言葉を残し、その言葉の通り、原辰徳は巨人で3連覇を達成するなど最後までその慧眼は健在であった。

人物

周囲からは「球界の紳士」と呼ばれ、監督としては山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させて見せ、誉めてやらねば人は動かし」を座右の銘とし、時に優しく、時に厳しく選手に接し、結果多くの選手たちに慕われ、葬儀では藤田の下で戦った多くの元選手たちが涙を流している。監督から離れても周囲に気を使うことを忘れず、2005年に堀内恒夫が監督を退任した際にはファンやマスコミが堀内をバッシングするなか、「堀内には大変な思いをさせた。みんな、堀内に会った時は“ご苦労さん”と声をかけてやろう」と堀内をねぎらっている。
またあの度々問題を起こすことで有名なデーブ大久保も藤田の事を「オヤジ」と慕っていた。

監督時代も 50番トリオや川相昌弘、岡崎郁、緒方耕一、木田優夫などを抜擢し、原辰徳には監督として大いに影響を与えているなど藤田が巨人に残したものは非常に多い。要はもっと評価されるべき。

以上のように監督としても人間としても素晴らしい人物であり、野村克也は「投手出身の監督は“藤田元司を除いては”お山の大将のような人間が多い」と藤田を高く評価し、藤田の葬儀で弔辞を読んだ川上哲治は藤田を「人のために死ねる男」と評した。
だが巨人の監督としては病持ちで短期政権だったこと、長嶋→藤田→王→藤田→長嶋と見事にONコンビに挟まれてしまったことが相まって一般知名度がいまいちなのが非常に惜しまれる方である。
 
反面「瞬間湯沸かし器」と言われるほどの癇癪持ちな面もあり、オーナー室に怒鳴り込んだ話は有名。その一方で、90年に起きた桑田の登板日漏洩問題では当初桑田は「1年間の謹慎処分」になるはずだったが、藤田はナベツネ渡辺恒雄ら読売の幹部に対し「1年間の謹慎処分は承服できません！桑田の投手生命が断たれます！」と真っ向から声を荒げて反対し、桑田を身を挺して庇った結果、処分を1ヵ月にまで軽減させている。

2002年には糸井重里と対談を行っている。⇒体温のある指導者。藤田元司。

通算成績

投手成績

監督成績 

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関連項目

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