衛府の七忍(えふのしちにん)とは、チャンピオンREDにて2015年5月号から2021年1月号まで連載された漫画作品である。単行本は全10巻。
概要
元和元年、豊臣家を滅ぼし治国平天下大君となった徳川家康は、豊臣にまつわる人々を女子供の区別なく粛清した。自らの地盤を着々と盤石なものへと変えていった徳川であったが、未だ多くの者は落人として逃げ延び、生き永らえていた。
反乱分子の芽が育つことを危惧した家康は覇府の印を発行。それを所持した者はどのような身分であろうとも豊臣所縁の者を惨殺し得る大義名分を与えられた。そして、徳川のご威光を笠に着た輩の手により、その意に従わぬ民たちが駆逐されていく。
あまりの横暴、あまりの殺戮。しかし今、その威光に刃向かう七つの影、衛府の刃こと怨身忍者が立ち上がる――というお話。
テーマ性が強く、シリアスな空気の多かった『シグルイ』や『エクゾスカル零』とは打って変わってエンタメ色の強い仕上がりとなっている。
『覚悟のススメ』の頃の雰囲気に近く、ギャグもまた前二作よりも更に増しているのでわりと気楽に読める。シグルイから入った読者の中には「喰われる感半端ない」「テヘペロでやんす」「誤チェストにごわす」などの台詞に驚愕した者もいるのではないだろうか。
一方で、封建時代独特の理不尽やその象徴たる「民兵」の存在、全身の皮を引き剥いだり金玉だけをぶっこ抜いたりする必殺技など、精神的・肉体的を問わずに描かれる“残酷さ”も健在。その濃度はこれまでの作品と何ら遜色はなく、正に若先生の御作と言える一品である。
登場人物
怨身忍者とその関係者
登場人物についてはスターシステムを採用しており、全員ではないものの作者の過去作にまつわるキャラクターが数多く登場する。
特に主要人物たる七忍は『エクゾスカル零』における正義失格者と同じ名前を持ち、怨身忍者としての名称もそれぞれの強化外骨格と対応している。また「葉隠」や「怨身」など、前作と同じ用語が出てきているが関連性は不明。
デザインについては単に類似性を楽しむだけでなく、そのキャラクターが前作にてどのような活躍をしていたかを知っていると、また違った見方や感慨が湧くこと必須である。
- 葉隠谷のカクゴ
「我の姿見し者ども 孫の顔拝ませぬ!」
大和民族に追われ、山に隠れ住むようになった化外の民の末裔。かつての強化外骨格着装者たちと同じ名を持つが、かの二人とは違いぶっきらぼうで野生児めいた性格付けをされている。ぶっちゃけヤンキー。とはいえ根は優しく他者を思いやれる少年であり、理不尽に対する怒りも強い。
伊織を追ってきた徳川の侍に谷の仲間を鏖殺され、自身もまた仇討ちの最中に命を落とす。しかし、今際の際に現れた謎の“龍”と契約。蘇ったカクゴは摩骸神変し、第一の怨身忍者・零鬼(れいき)となった。 - 兵藤伊織
「私を殺せカクゴ 私を殺して元の姿に戻ってくれ」
真田家の家臣である兵藤家の娘。追手から身を隠すため葉隠谷に向かう途中カクゴと出会う。残党狩りを退けた後、怨身忍者と化したカクゴと共に徳川を打ち倒す決意を固めた。
武士の娘らしく、誇り高い性格で気性も荒い。が、たまに出るデフォルメ顔が妙にかわいいツンデレ。可愛さ半端ない。
- 忘八の憐
「本当にちんこでけぇ奴ぁ道具持たねェ」
備中の動地一家に所属するヤクザ者。自身を「仁義礼智忠信孝悌をドブに捨てた」忘八と嘯くが、実際は男気溢れる兄貴であり、真剣に湯女宿と女たちを守っている。天を衝く巨体と二十八人力を謳われる怪力を宿し、剣士との戦いの際にも道具を用いない頑強さを有する。本当にちんこでかい。
高松城主による残党狩りの折り、罠に嵌められ釜茹での刑に処される。身体が爆ぜきる寸前に龍と契約し、怨身忍者・震鬼(しんき)と化した。 - 銀狐
「湯女上等、ヨゴれてやんよ」
動地一家の湯女宿に転がり込んできたゲロまぶな女。憐に見初められ契りを交わし、共に湯女宿を盛り上げていくようになる。
その正体は大阪城奥御殿女中九尾組の一人であり、残党狩りに追われる女であった。くノ一としての実力は本物であり、怪人と化した刺客を退けるほど。しかし戦闘後の隙を突かれ、吉備津彦の矢により体を石へと変えられてしまった。
- 初夜ノ森の六花
「大した世の中ではないが、もう少し生きてやるか!」
飛州錫杖岳に住まう、まつろわぬ民最後の末裔。大食いで元気いっぱいな少女。外界に憧れ人里に降りてきたが、権九郎との出会いを経て里には化外の者の居場所が無いことを思い知る。大相撲の観戦後は彼を伴って山へと戻った。
二人きりで平和に暮らしていたが、権九郎を追ってきた残党狩りこと白怒火典膳が撒き散らした鴆の毒により、権九郎や山々の自然と共に自身も落命する。しかしその直後、周囲の木々を取り込み怨身忍者・雪鬼(せっき)へと覚醒、典膳を生きた骸骨へと変え仇を取った。 - 深見権九郎
「六花とは生まれる前より切っても切れぬ 不思議の赤い縄で結ばれておったかのう」
背中に阿修羅の姿をした火傷を背負う大男。その膂力は身の丈もある灯籠を持ち上げるほど。人里にて立花と出会い意気投合する。
阿修羅丸という四股名で大相撲に参戦し、幕府方の力士(を象った人間兵器)を打ち倒したため典膳に目を付けられる。立花と共に山で暮らしていた所を襲撃され、奮戦虚しくも斃れることとなった。
- 現人鬼・波裸羅
「地獄に堕ちる覚悟もなしに、この波裸羅と同等口(ためぐち)叩くまいぞ!」
怨身忍者・霞鬼(げき)へと変身するお方。両性具有の「現人鬼(あらひとおに)」。母の胎内にいた時に殺害されるも怨身忍者となった怪物で、その強さと美しさとカリスマは他の追随を許さない。生まれた時代と作品は変われどもそのご活躍はいささかも色褪せず、「仏像の中から出現する」「ちんちんで敵を切断する」「仏道を敗北(意味深)させる」とやりたい放題をなさっている。お美事に御座いまする。
おぞましき民草への憤怒も健在だが、母に寄せる想いはある模様。本作ではなんと徳川方につき、覇府の剣として他の怨身忍者を付け狙うが……
- 猛丸(タケル)
「獅子(シーサー)ぬ眼、身分の檻壊す!」
琉球の奥地、九十九城(ツクモグスク)に住まう獅子(シーサー)の入れ墨を施した少年。元は奴隷身分。波裸羅様と同じく生まれついての怨身忍者・霹鬼(ヒャッキー)であるが、ニライカナイに繋がる洞窟に入らなければ変身できない。
大阪城を落ち延びた豊臣家一行と出会い彼らを村に匿うが、大将の豊臣秀頼は琉球の化外者に恩を感じることもなく、「ひえもんとり」で戯れに惨殺されてしまう。変わり果てた猛丸の死骸の前に一人の大和の侍が駆け付け、憤慨する。それこそが“運命の兄弟”と予言された豊臣家の若侍、犬養幻乃介であった。 - 犬養幻乃介
「薩摩の狂犬ども 獣とは貴様らの如きを言う!」
豊臣家馬廻役の隻腕の武士。(雑誌掲載時にはシグルイの主人公と同じ“源之助”と記載されていた)
家臣としての責務から豊臣秀頼を守り続けるが、主君の性格上、匿った村人達は証拠隠滅に皆殺しにされるだろうと察していた。幻乃介は村人の助命を試みるが、それが逆効果となり猛丸は無残な最期を遂げる。
“身分の檻”に絶望した幻乃介は猛丸の仇である島津武士を主君の目の前で殺害し、侍の身分を捨てると宣言。その瞬間、猛丸の亡骸が超常の力で幻乃介の肉体と交じり合う。怨身融合を遂げた二人は二魂一体の戦士・霹鬼(ひゃっき)となり、身分の檻をなくすべく大和の国へと旅立った。
- 明石レジィナ
「我は“るきへる”の姿持ち “みかえる”の剣かざす者」
大阪牢人五人衆が一人、明石全登の娘。父にならいキリシタンに帰依していた。大阪城落城の際に自害が出来ぬまま家臣と共に捕らえられ、凄惨な拷問の末に死亡。怨身の鬼・雹鬼(ひょうき)となり、現世に楽園を築くべく、異形となった家臣らと共に立ち上がった。
拷問によって爪を剥がされており、そこから呪いを込めた「鬼の爪」を飛ばして攻撃する。一方で自らを地獄に落ちた「るきへる」であると断じており、後に宮本武蔵の二天一流の構えに十字架を見出し、その手にかかる。 - 宮本武蔵
「チェストとは“知恵捨て”と心得たり」
作州浪人。二天一流の剣豪。
播州にて、薩摩藩の中馬大蔵に「鬼退治」を依頼され、これを引き受けた。後に島津家久より、目方三十四貫(127kg)の「備中守実高」の鎧を譲られ、自らの「外骨格(ほね)」として雹鬼、そして人外と化した明石全登と対峙する。
- テヤン
「つーか 奴婢とか本気(マジ)あり得ねえわ」
「太陽」という意味の名を持つ、ツムグの恋人。快活な性格の少女。倭人の家で奴婢として働かされていたが、心無い仕打ちを受け続けてきた。
諏訪頼水に見初められて手中に落ち、愛妾とされる。更に「舞六剣」起動の儀式を行う巫女となるが、「舞六剣」の作者にして信玄の軍師・山本勘助の霊に憑依されて人格が変貌。不完全な形で「舞六剣」を起動させてしまう。以後は勘助の器となり、不敵な軍師としての顔を見せる。右目を閉じているのはその影響。ツムグの気概を認めて受け入れ、共に旅立つ。 - ツムグ
「俺にはアリランが見えるんだ」
壬辰倭乱(文禄・慶長の役)によって日本に連れてこられた「異民」の末裔の少年。背中に仏の刺青が彫られている。(雑誌掲載時は朝鮮語名「チグム」、和名「ツムグ」とされていた)
恋人のテヤンが領主・諏訪頼水に連れ去られ、その際テヤンが仕える一家を惨殺した事で異民と倭人の百姓の間に軋轢が起こった為、彼女を取り戻して誤解を解こうとする。
一方で頼水はテヤンを巫女とし、かつて徳川家康を三方ヶ原の戦いで敗走させた武田信玄の巨具足「人間城」こと「舞六剣(ぶろっけん)」を不完全ながら復活させる。この際、集落が壊滅した事で農民の鬱憤の矛先が異民に向けられてしまう。
勘助に憑依されたテヤンと再会後、信玄の兜、七星軍扇、可変陣馬・鬼鹿毛を得る。直後に同胞の危機を察して駆けつけるも、仲間は農民のリンチによって惨殺されていた。姿を見せた頼水に領主として公正な裁きを願うが「異民どもは農民の更に下にあるものとし、鬱憤を晴らす為に殺されたに過ぎない」と返されて激昂。拡充具足「無明」を纏った頼水に返り討ちにされるが、怨身忍者・霧鬼(むき)として覚醒。鬼鹿毛が変形した頭部を合体して完全復活した「舞六剣」の新たな主となり、頼水の野望を文字通り粉砕した。
- 沖田総司
「鬼じゃない 鬼より怖い壬生の狼だ」
元「新撰組」一番隊隊長。飄々とした性格の美青年。言動はイマドキの若者らしく割と軽い。
細身でひ弱そうに見えるが、仲間からは「世が世なら剣の腕で大名になれた」と評される凄腕の剣士。竹刀の突きで畳4枚をぶち抜き、柄の突き上げで喉から頭蓋を貫き、更に池田屋では鎌倉の合戦作法にのっとり血を啜って補給していたのを、喀血と勘違いされていた。
何故か慶応4年から元和元年の江戸に、愛刀・菊一文字則宗と浅葱の羽織、ふんどし一枚でタイムスリップ。更には病も綺麗に癒えている。自分が知るのとは似て非なる「江戸」を舞台に戦う。 - 霓鬼(げいき)
「汝はこの現世の住人か」
愛宕神社を訪れた沖田総司の前に突如として現れた「鬼」。旗本ばかりを狙って殺し続けている。何故か沖田とは敵対せずに姿を消してしまうが……
その正体は徳川家幕臣・谷衛成(たにこれなり)。眼鏡をかけた物静かな男だが、試斬による刀剣鑑定を生業とする「公儀刀剣御試役」であり、作中屈指の剣技の使い手。高潔な男であり自らの生き方に懊悩していた際、虹鬼の血を浴びたことで怨身の鬼と化す。以後は己の正義を貫き、江戸市中の旗本を斬殺していた。その後正体が露見し、討伐に来た総司と対決する。 - 雀(すずめ)
「聴くべし 舌なき者の声」
全身に傷を帯びた小柄な少女。かつては武家に奉公していた下女だったが家宝の皿を割った粗相を咎められ、舌切り雀になぞらえて舌を斬られた上、処刑を命じられた衛成により全身をバラバラにされる。しかし怨身の鬼・虹鬼(ななき)として蘇生した上で衛成を鬼に変え、覇府と敵対。炎を操り、柳生宗矩をも圧倒したが、乱入した桃太郎卿にはなすすべもなく体を引きちぎられて敗北する。
- 黒須京馬
「雷鳴となりて砕け散る 俺の生きる証はそこにのみ有る!」
真田十勇士に次ぐ忍者。大坂の陣では真田幸村の兄・真田信之に仕えていた。兄分である十勇士を敵とみなすが、慕う心に変わりはない。大忍法「淤能碁呂」により十勇士の体の各部位を移植されて彼らの忍法を体得、怨身忍者・雷鬼(らいき)として誕生。鬼哭隊の剣豪・上泉信綱に挑む。
江戸幕府
- 治国平天下大君徳川家康
言わずと知れた江戸幕府初代征夷大将軍。覇府の印や民兵の動員により、着々と日本の絶対支配を推し進めている。
怨身忍者の覚醒を「衛府より飛来する七つの凶星」という悪夢により察知。この事態は家康所用巨具足“金陀美”を着装うほどの大国難になるであろうと予期しており、既に老境に入った身でありながらも再び鎧をその身に着装い迎え撃つ覚悟を固めている。
ちなみ金陀美は桶狭間合戦で用いられた代物であり、身に付ければ大男の身の丈十倍ほどの巨躯と化す鎧というかロボットとなっている。有事の際にはライディーンさながらに、左右に分かれた駿府城の天守閣から発進するらしい。……が、それを上回る超弩級の巨具足が後に登場するのであった。 - 孝霊天皇皇子大吉備津彦命
温羅征伐の軍神にして、日本一の桃太郎その人。数百年も昔の人物でありながら未だに若々しい姿を保って現れた。これは「その時代の支配者に逆らう者を粛清する」ことを条件に不老長寿を得ているため。現在は家康に協力し、残党狩りを行っている。
紅雉・毬犬・串猿という、桃太郎おなじみ三匹のお供をモチーフにした獰猛な女性たちを付き従えている。本人もまた高い戦闘力を誇り、大の大人を片手で振り回すほどの膂力を持つほか、血を流さずに身体を切断できる御伽仕立瘤取剣や射抜いた獲物を石へと変質させる魔弓石女矢など、昔話や神話にまつわる武具を使いこなす。
豊臣家
- 豊臣秀頼
言わずと知れた大阪城主であるが……
流石は若先生というべきか。大河ドラマ『真田丸』も佳境に入った頃を狙ったかのように現れたのは、これまでの秀頼イメージを爆砕せしめる程の超絶暗君であった。
スレでは困惑の声と「藤木はまた上司に恵まれないのか……」との同情が絶えなかったそうな。悪行の数々が祟ってか、最終的に薩摩のゆるキャラとなって余生を過ごすハメに。
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