親和
1 互いになごやかに親しむこと。なじみ、仲よくなること。「会員間の―を図る」
「両国―するの大益を」〈新聞雑誌二一〉
2 異種の物質がよく化合すること。
「デジタル大辞泉」より引用
本ページは
1 数多くのプレイヤーを不信と不和、そして引退に導いた。
2 周辺ブロックのカードをほとんど否定した。
トレーディングカードゲーム、マジック:ザ・ギャザリングの1デッキタイプ「親和デッキ」について説明する。
「親和」とは
「親和」は2003年10月に発売されたセット、「ミラディン」で初登場したキーワード能力である。
その意味は
親和([○○]) は、「この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールする[○○]1つにつき(1)少なくなる。」
というものである。
○○の部分にはさまざまなものを入れることができる。実際に存在したカードは
親和(アーティファクト)
親和(平地)
親和(島)
親和(沼)
親和(山)
親和(森)
の計6種類。親和(平地)以下は各1種類しかないので、基本的に「親和」を持つカードは親和(アーティファクト)を持つ、 と考えていい。
もうすでに嫌な予感しかしない。
親和デッキの種類
ミラディンブロックを含むスタンダードの「親和デッキ」は大きく4つ[1]のデッキタイプを持っていた。
1.ブルード親和
2.グレ神話[2]
3.電結親和
4.薬瓶親和
このうち、1と2は「ミラディン」の次のセット「ダークスティール」が発売されると3と4にとって代わられ、 トーナメントシーンからは姿を消した。
そして、これらが「大量禁止カード指定」までの約1年間にわたり暴れまわることになった。
それぞれがどういうデッキであったかは以降で説明する。
「親和」を持つ主なカード
Frogmite / 金属ガエル (4)
アーティファクト クリーチャー — カエル(Frog)親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
2/2
マイアの処罰者/Myr Enforcer (7)
アーティファクト クリーチャー — マイア(Myr)親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
4/4
一般的なクリーチャーのパワー/タフネスから見るとマナ・コストが高く設定されているが、
親和によってアーティファクトを出していれば 低コストで戦場に出すことができる。
十分な数があればマナ・コストを0にできる点も重要である。あと、こいつらどっちもコモンである。
ソーサリー
親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
カードを2枚引く。
親和がつけられたカードはアーティファクト・クリーチャーだけではない。これもアーティファクトが十分にあれば、
(青)だけで2枚カードが引ける恐ろしいドローカードになる。コモンである。
親和を持たない重要カード
アーティファクト 土地
ミラディンで登場した「アーティファクト」と「土地」を併せ持つカード。
5色それぞれに1種類ずつ存在し、 次の「ダークスティール」では《ダークスティールの城塞》という「無色マナしか出せない代わりに破壊不能」な土地も登場した。全部コモンである。
これらの土地は、親和持ちカードからすれば「1つで2マナ生産する土地」に近い状態となるので非常に重要である。
そうでなくても、0マナで出せて、有色のマナを生産するアーティファクトには大きな価値がある。
刻印 ― 金属モックスが戦場に出たとき、あなたの手札にあるアーティファクトでも土地でもないカードを1枚、追放してもよい。 (T):その追放されたカードと共通する好きな色のマナ1点をあなたのマナ・プールに加える。
こちらは正真正銘の0マナで出せて、有色のマナを生産するアーティファクト。ただし、マナを生産してもらうためには有色カードを1枚手札から追放しないといけない。
親和デッキはアーティファクトデッキであると同時に多色デッキ(特にグレ神話、電結親和、薬瓶親和)なのでこのカードで色マナ生産のアテが増えることはデッキの安定性に貢献する。こちらはレア。
親和デッキ(ブルード親和)
「ミラディン」が販売された直後から作られたデッキタイプが「ブルード親和」である。
これとは別に、親和デッキでは1ターンに大量にカードが使用されることから「ストーム[3]」と組み合わせた「親和ストーム」というデッキもあった。
なお、MtGwikiに載っているデッキは「ブルード親和」と「親和ストーム」のハイブリッドである。
親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
飛行
ブルードスターのパワーとタフネスは、あなたがコントロールするアーティファクトの数に等しい。*/*
初期の親和デッキである「ブルード親和」でフィニッシャーを務めた巨大クリーチャー。
親和とアーティファクト数参照のパワー/タフネスを持つため、親和デッキでは(1)(青)(青)7/7飛行、とか(青)(青)10/10飛行 など頭がおかしい大きさ、低コストで出現することとなる。
「ブルード親和」は青単色、または青主体に赤を少し足した色構成をしており、アーティファクトを大量に展開し、超巨大生物と化した《ブルードスター》を低コストで召喚、殴り殺すというデッキである。《ブルードスター》自体はデカいだけで除去呪文を浴びるとすぐ死んでしまため、速攻[4]被覆[5]を持たせるアーティファクト《稲妻のすね当て》や打消し呪文などで防御してやることが多い。
「ミラディン」と同時に発売された構築済みデッキのひとつは、「ブルード親和」の廉価版と言っていい内容であった。
これが結構強かった。少なくとも、同時発売された4種類の構築済みではぶっちぎりの最強である。
親和デッキの基礎構造は「コモン」と「アンコモン」でできていたので、シングルカード価格の安いカードで構成してもそこそこ強く作れる初心者の味方ポジションのデッキタイプであった。構築済みデッキのテーマになるからにはWizards of the Coast社はこういう方向で「親和デッキ」が構築されると考えていたのだと思われる。
さて、この《ブルードスター》、後々MTGを始めたプレイヤーや人づての話で「親和デッキやばい」「親和デッキ狂ってる」と聞いただけの人にはあまり知名度がない。これは後々スタンダードで猛威をふるった「親和デッキ」とは別系統のデッキであるためである。
親和デッキ(グレ神話)
「ブルード親和」と違うコンセプトで作られた親和デッキ。グレ神話の「グレ」はカードショップ「グレムリン」に由来するとのこと。
《ブルードスター》は使用せず、青赤黒3色のカードを使用した高速ビートダウンデッキである。
色マナを1つしか要求しないカード、低コストのカードを集めることでアーティファクト(特にアーティファクト土地)の枚数を増量できるようになり、結果、「アーティファクトを並べて、一気に投げ捨てて殺す」動きができるようになった。
ゲームの最序盤に、「アーティファクト・土地」、「親和持ちアーティファクト」を大量にプレイして戦場をアーティファクトまみれにするところまでは同じだが、ここにアーティファクトが墓地に置かれるとライフロスを発生させる《大霊堂の信奉者》やアーティファクトを追加コストとしてわずか2マナで5点という超火力を生産する《爆片破》を使って一気に対戦のライフを奪いきる。
アーティファクト生け贄要因には《エイトグ》を用いた。能力でパワー/タフネスが強化されるのでこいつ自身も強烈な打点となる。例えば、《エイトグ》+《大霊堂の信奉者》+6個のアーティファクトでブロックできなければ生産ダメージは13+6+1=20ダメージ。結構運が絡むが、どこに運が絡むのかと言えば6個のアーティファクトを用意できるかどうかではなく、《大霊堂の信奉者》と《エイトグ》がちゃんと召喚できるかどうかのほうだったりする。うまいこと回れば、3ターン目にはこの形が狙える態勢に入る。
「ブルード親和」は青単ゆえの安定性はあったものの、「グレ神話」が作り出す高速ダメージとそれに対応するゲーム環境の高速化についていけずトーナメントシーン(主に「大人数の」大会での使用率のこと)から姿を消していった。
アーティファクトを1つ生け贄に捧げる:エイトグ(Atog)は、ターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。
1/2
昔から存在するカードが再録されたもの。アーティファクトを大量に生け贄にすることで瞬間的に凶悪なパワー/タフネスとなる。 5個生け贄にすれば11/12。アンコモンである。しかも過去にコモンで収録経験あり。
Tooth of Chiss-Goria / チス=ゴリアの歯 (3)
瞬速
親和(アーティファクト)(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき(1)少なくなる。)
(T):クリーチャー1体を対象とし、それはターン終了時まで+1/+0の修整を受ける。
瞬速とは、「このカードはインスタントがプレイできるタイミングでプレイしてよい」という能力である。普通のアーティファクトではプレイできない相手のターンや戦闘中といったタイミングでもこのカードを出すことができる。
効果は一見貧相だが、親和デッキでこのカードが「0マナ」にならないわけがない。0マナのアーティファクトとしては強力な効果を持っていると言える。コモンである。
Disciple of the Vault / 大霊堂の信奉者 (黒)
クリーチャー — 人間(Human) クレリック(Cleric)
アーティファクトが1つ戦場からいずれかの墓地に置かれるたび、対戦相手1人を対象とする。あなたは「そのプレイヤーは1点のライフを失う」ことを選んでもよい。
1/1
これ以降の親和デッキの凶悪さを象徴するその1。コモンである。アーティファクトが多く、生け贄の機会も多い「グレ神話」では何かと誘発するので、1マナクリーチャーとは思えないダメージ源となる。
しかも2枚いたら、アーティファクト1つにつき2点ライフロスである。そんなに削られたらそれだけで死ぬわ!
インスタント
爆片破を唱えるための追加コストとして、アーティファクトを1つ生け贄に捧げる。 クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。爆片破はそれに5点のダメージを与える。
これ以降の親和デッキの凶悪さを象徴するカードその2。アンコモンである。普通のセットならこの追加コストの支払いは容易ではなかったが、 ここは土地までアーティファクトであるミラディン世界なので問題ない。
これ一枚でフィニッシャーは焼き殺されるわ、プレイヤーも丸焦げだわ、《大霊堂の信奉者》はハッスルするわで泣きたくなる。 タフネス5でも焼け死ぬ、ライフ10点は即死圏ってアンタ…。
ダークスティールの親和
「グレ神話」は捨て身の一撃を浴びせて相手を沈めるデッキなので、一回妨害カードが刺さると再起不能になりやすい、そして妨害カードは結構多いという弱点を持っていた。
「ダークスティール」ではその弱点を克服するクソッタレなカードたちが続々収録されてしまった。
装備しているクリーチャーは+1/-1の修整を受ける。
装備しているクリーチャーが死亡するたび、カードを2枚引く。
装備(1)((1):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それにつける。装備はソーサリーとしてのみ行う。このカードはつけられていない状態で戦場に出て、クリーチャーが戦場を離れても戦場に残る。)
親和デッキどころか全方面凶悪なファッキンアーティファクト。アンコモンである。カード自体の説明は個別記事があるのでそちらを読んでほしい。
このカードの笑いどころとして頭蓋骨絞めのプレビュー記事を公式サイトで発表した点があげられる。
The most deceptively broken Darksteel card?(ダークスティールで一番のぶっ壊れカードはこれ?)じゃねぇーよ!ばーか!ばーか!
《頭蓋骨絞め》が稼ぎ出すカードアドバンテージは常軌を逸したものであり、
- 《神の怒り》でクリーチャーを破壊したと思ったら、返しに対戦相手の手札も戦場のクリーチャーも増えていた。
- 《爆片破》で5ダメージを食らった後、追加でまた《爆片破》が飛んできた。
- 《金属ガエル》が2枚の《頭蓋骨絞め》で絞められたので対戦相手が4枚カードを引いた。あっ、またカエル…
- 《マイアの処罰者》が《頭蓋骨絞め》を装備して殴ってくるんですが、これどうしましょう。
などなど惨すぎる状況があちこちで出現した。
クリーチャーやアーティファクトの起動型能力を封印する《減衰のマトリックス》や
非クリーチャーのアーティファクトをクリーチャー化し、結果的に装備品や土地を壊滅する《機械の行進》[6]といった必殺級の対策カードが「ミラディン」の時点で存在していたが、「頭蓋骨絞め入り親和デッキ」はあまりにも高速なダメージ生産力、復帰能力を持っていたため、これら必殺カードを全力で積んでなお「出す前に死なないよう祈れ!(カード引かれまくるから間に合わないこともよくある)」という有様であった。
結果、スタンダードは
1.親和デッキ(もちろん《頭蓋骨絞め》を使う)
2.《頭蓋骨絞め》をふんだんに使った非親和デッキ
3. 親和デッキだけは絶対殺すデッキ
の3種類で絞め上げられてしまった。
これではまともなゲームにならない。こうして《頭蓋骨絞め》は「ダークスティール」発売4か月後の2004年6月、MoMaパーツの大量禁止[7]以来5年ぶりに登場したスタンダードの禁止カードとなってしまった。
土地
(T):あなたのマナ・プールに(◇)を加える。
(1):ちらつき蛾の生息地は、ターン終了時まで、飛行を持つ1/1のちらつき蛾(Blinkmoth)アーティファクト・クリーチャーになる。それは土地でもある。
(1),(T):ちらつき蛾クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+1/+1の修整を受ける。
クリーチャー化する能力をもった土地、いわゆる「ミシュラランド」の一種。「アーティファクト・クリーチャー」になる点、飛行を持つ点が高く評価された。
特に後者は「フィフスドーン」発売後に《頭蓋囲い》の装備先として重要な要素となる。レア。
アーティファクトを1つ生け贄に捧げる:電結の荒廃者の上に+1/+1カウンターを1個置く。
接合1(これはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。それが死亡したとき、アーティファクト・クリーチャー1体を対象とする。あなたは「その上にそれらの+1/+1カウンターを置く」ことを選んでもよい)0/0
親和デッキの凶悪さを象徴するカードその3。ダークスティールの新能力「接合」は自身が死亡した時、乗っていた+1/+1カウンター全部を別のアーティファクト・クリーチャーに移動させる。
移動先が「接合」持ちならそいつが死んだときもまた全部移動する。
このカードは《エイトグ》に似た強化能力も持っているが、+1/+1カウンターによる永続的なものである。他のアーティファクト・クリーチャーが死にそうなときはこの能力で吸収強化。自分が死にそうなときは自らを生け贄として+1/+1カウンターを移動する。
そのため、いくらクリーチャーを殺しても打点は全然減っていないということになりがちである。つまり単体除去は打つだけ損という凄まじいことに
ここに《頭蓋骨絞め》が絡めば手札が増え、《大霊堂の信奉者》が絡めばライフを削れる。
多くの面で《エイトグ》以上の性能を発揮するので、《エイトグ》と入れ替わりで親和デッキに入った。こいつもレア。
1マナである代わりに生け贄能力がない《電結の働き手》というカードもあり、これらを加えたデッキは 「電結親和」と呼ばれた。[8]
あなたのアップキープの開始時に、あなたは霊気の薬瓶の上に蓄積(charge)カウンターを1個置いてもよい。
(T):あなたの手札にある、点数で見たマナ・コストが霊気の薬瓶の上に置かれている蓄積カウンターの数に等しいクリーチャー・カードを1枚、戦場に出してもよい。
マナ踏み倒し系カードの1枚。この系統としては戦場に出すためのコストが非常に安いが、このカードの能力で出せるクリーチャーは「蓄積カウンターの数とぴったり同じマナ・コスト」でないといけない。 2個乗せたらもう1マナのクリーチャーは出せないのだ。
高速化してるのに蓄積カウンターを乗せてるヒマなんてあるのか? と思うかもしれないが、親和デッキに入ってる非親和クリーチャーなんぞ1マナか2マナなので大丈夫。
赤マナしか出ない状況から《大霊堂の信奉者》が出る、なんてこともできるし、本当に乗せてるヒマがなくても「1マナの何もしないアーティファクト」にだって一応の利用価値がある。
この《霊気の薬瓶》を加えたバージョンを「薬瓶親和」という。
あと、このカードは当時アンコモンだったので300円も出せば余裕で買えた。
「電結親和」も「薬瓶親和」も基本コンセプトは「グレ神話」とほぼ同じである。「電結親和」は「接合」持ちクリ―チャーを使うことで単体除去呪文への耐性を高め、「薬瓶親和」は《霊気の薬瓶》の効果でより確実に《大霊堂の信奉者》を戦場に送り出せるように強化されている。
この2タイプのデッキは《頭蓋骨絞め》の投入とともに登場したが、結局《頭蓋骨絞め》があろうとなかろうとデッキの安定性(ゲームのたびに同じような強さを発揮できるかどうか)は「電結親和」「薬瓶親和」ともに「グレ神話」よりも上であったため、ダークスティール発売以降「グレ神話」はトーナメントシーンから姿を消すことになった。
フィフスドーンの親和
1.親和デッキ
2.親和デッキだけは絶対殺すつもりのデッキ(アグロもコントロールもあるが親和以外に弱い)
3.親和デッキとは別の方法で作られた高速デッキ
4.2の親和デッキ絶対殺すデッキを食い殺したいデッキ(少ない)
という状況だった。もちろん最有力は低確率ながら「対策カードが出る前に問答無用で殴り殺す」親和デッキである。
ただし、トーナメントは基本的に3試合2本先取である。1本目でズタズタに惨敗したとしても2本目、3本目を取り返せば試合には勝てる。
「親和デッキ」は高速クリーチャーデッキの割に普通のクリーチャー除去やアーティファクト除去などには耐性があるデッキではあったが、1枚出されただけで即敗北しかねない対策カードが複数存在するという意味では結構脆いデッキでもあった。
1本目は圧勝でも、対策カードてんこ盛りの2,3戦目も同じように有利に戦えるというわけではない。「低確率で」問答無用に殺せるといっても、結局「高確率で」一撃死カードに怯えながら戦うことになるのだ。
それでも、「ダークスティール」で悲惨な目に遭わされまくったプレイヤーたちが次のセット「フィフスドーン」で新たな「強力な親和デッキ対策」を求めるのは当然のことだった。低確率だろうがなんだろうが問答無用で負けを決められてはたまらない。
装備しているクリーチャーは、あなたがコントロールするアーティファクト1つにつき+1/+0の修整を受ける。
(黒)(黒):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それに頭蓋囲いをつける。
装備(1)
親和デッキの攻撃力が上昇したんですけど。コモンですけど。
もう十分やりすぎなのにこれ以上強化するんですか?
そして、
ソーサリー
このカードがスポイラーリストに出たときの阿鼻叫喚は相当なものがあった。
まず、「土地でない」ため親和デッキの戦闘継続能力に最も影響を与える「アーティファクト・土地」は無傷である。次に「4マナ以下」なので《マイアの処罰者》は生き残る。《電結の荒廃者》で全部丸めて《マイアの処罰者》にカウンターを乗せたら打点なんてさほど変わっていない。親和デッキには効果の薄い対策カードである。
もっとも、《粒化》だけならそこまで嘆きの声は上がらなかったと思われる。
このころ「親和デッキをぶっつぶすカードが再録されるならなんだろう」という妄想話がよくささやかれており、《溶融》[9]に次いで多かったのが《粉砕の嵐》というカードであった。
《粉砕の嵐》は (2)(赤)(赤)ですべてのアーティファクトを破壊する。というカードである。つまり、開発チームは親和デッキの優位を維持するためにわざわざ《粉砕の嵐》の劣化品を作ったに違いない開発チームと話したことないけど絶対そう!と疑心暗鬼に陥る人が出てしまったというわけである。
神河ブロックの親和
「オンスロートブロック」がスタンダードから退場し、新たに「神河ブロック」の第一セット「神河物語」がスタンダードに登場しても相変わらず「親和デッキ」は最有力デッキの地位にあった。
「親和デッキ」の中身はほとんどが「ミラディンブロック」のカードなので「オンスロートブロック」のスタンダード落ちの影響は非常に小さかったものの、「神河物語」から「親和デッキ」が得るカードもほとんどなかったため強化もされなかった。
また「神河物語」にはこれといった対親和必殺カードもなかったため、「低確率ながら対策を用意しても出す前に殴り殺す」デッキという最強候補扱いは変わらなかった。
結局カードの大入れ替えがあったのに、まったく新カードを使わないデッキが最強候補というわけで、この状況は
プレイヤーからすれば、「1年同じデッキばかりと戦ったのに、さらに1年同じことやるのかよ」
製作会社からすれば、「新セットカード不使用のデッキが最強候補ならこのセット買わなくてよくね?と思われる」
と誰も得しない。
次のセット「神河謀反」では《梅澤の十手》という頭がおかしいカードが出て多くのデッキは強化されたが、「親和デッキ」には入らなかったためやや弱体化したとはいえた。
しかし、それでも最強候補であることに変わりはなくゲーム全体の勢力図に変化ができるほどではなかった。
大量禁止と親和デッキの終わり
「神河謀反」が発売されてから約2か月後の3月20日、ついに《アーティファクト・土地全6種》《大霊堂の信奉者》《電結の荒廃者》の8枚が禁止カードに指定された。
当時の「親和デッキ」ではあまり見かけない《ダークスティールの城塞》まで禁止されたあたりにどんなことがあってもまともな強さの親和デッキは作らせないという決意が感じられる。
攻撃力(最高のカードを引き続けたときの強さ)・防御力(相手の妨害カードに対する復帰能力)・安定性のすべてを激減させられ、それでも対策カードはいまだ現役、となればさすがの「親和デッキ」もどうしようもない。こうして「親和デッキ」は退場させられることとなった。
この後もなんとか新しい「親和デッキ」を作ろう、という動きはあったものの大成することはなかった。
神河救済と親和デッキ
「親和デッキ」がメタゲーム上から消滅してもまだ話は続く。「神河ブロック」第3セットの神河救済では以下のカードが収録された。
Kataki, War's Wage / 戦争の報い、禍汰奇 (1)(白)
すべてのアーティファクトは「あなたのアップキープの開始時に、あなたが(1)を支払わないかぎりこのアーティファクトを生け贄に捧げる。」を持つ。
2/1
真髄の針が戦場に出るに際し、カード名を1つ指定する。選ばれた名前の発生源の起動型能力は、それらがマナ能力でないかぎり起動できない。
一言で言えば遅すぎんだろ!
こうなってしまったのは新しいセットの開発には意外と時間がかかる、印刷などの時間を考えるとルールテキストの完成は実際の発売日よりかなり早い、ということが理由である。
あるセットで特定のデッキが異常強化されたからといって、次のセットですぐ対策カードが出るわけがないのである。
後出しで対策カードを作っていたら手遅れになってしまった、という反省から後年のセットでは「何かの間違いでヤバいデッキができそうなコンセプト」を作った時、本当に何かの間違いが起こった時に備えて事前に「そのデッキにだけ一撃死級の効果が出る【低コストの】カード」を用意するようになった。
こうしたカードはゲームバランスが正常なうちはサイドボードにも採用されない(ピンポイントすぎて使いづらい)。しかし、異常事態が発生した時はあらゆるデッキがそのカードを採用してフルボッコするので自動的にメタゲームから退場させる効果が期待できる。
まあそんな反省も後々忘れてオーコとか作っちゃうんだけど。
裏の最強デッキ、貧乏親和
実をいうと「親和デッキ」はMoMaのように滅多打ちにして完全消滅させないと止まらないほど絶望的に強いデッキではない。
《頭蓋骨絞め》があった時ですらプレミアトーナメントと呼ばれる大型大会の上位の多くは「アンチ親和デッキ」(=禁止カードなしの対策で十分撃沈できる)であり、《頭蓋骨絞め》禁止後も極めて強力ではあっても完全支配には程遠い状況であった。
だが、当時のプレイヤーなら、特に時々カードショップのトーナメントに出てたプレイヤーなら
「そんなわけねぇよ。右も左も親和デッキだったわ」と言うだろう。
これはどちらも事実である。
「親和デッキ」は禁止カードを出してしまった他のデッキとは異なる大きな特徴があるのだ。
今までに挙げたカードのうち《金属モックス》、《電結の荒廃者》、《ちらつき蛾の生息地》は当時でも2000円はした高額レアカードである。ここでは紹介してないが、《空僻地》というそれなりに値の張るレアカードも使用する。
では、これらのカードがないと「親和デッキ」は作れないのか?と言うと別にそんなことはない。
《電結の荒廃者》は《エイトグ》に戻せばいいし、
《ちらつき蛾の生息地》も「アーティファクト」分が重要なのだから、適当な「アーティファクト・土地」にすればいい。
《金属モックス》だって0マナアーティファクトの《溶接の壺》《羽ばたき飛行機械》あたりでごまかしがきく。
普通、こういった「代用品」でデッキを作るとデッキが全体的に弱くなるものなのだが、
安いカードだけ集めて親和デッキを作っても悪くなるのは安定性だけで、攻撃力はむしろ上がる。
プレミアトーナメントでは一般的に8回~10回程度試合を行う。
安定性の低いデッキではこれだけ試合数が多いと、無視できない確率で事故が発生してそのまま敗北したり、相手のちょっとした妨害でも一発で機能不全に陥ることがあったり、と上位を狙うことができない。
しかし、ショップ大会は4試合程度なので安定性を犠牲にしてもちょっとした運があれば何とかなってしまう。
そうなると3000円程度でスタンダード最強クラスのデッキを作ったということになってしまうのだ。
友人たちで集まって遊ぶカジュアルな場を考えると状況はさらに深刻である。
今はともかく当時はサイドボード[10]を用いたゲームをすることは珍しかっため親和デッキに対抗するには親和デッキを使う以外に方法はないということになってしまいがちであった。
そもそも、親和デッキを絶対殺すデッキを作るには相当のレアカード(≒費用)が必要である。
「3000円程度で最強クラスのデッキ」が作れるなら「数万円つぎ込まないとまっとうに対抗できないデッキ」をわざわざ作ろうとする人は少ない。
こうして「親和デッキ」はカジュアルプレイ、小型トーナメントで圧倒的な使用率を誇るようになり、「右も左も親和」「親和に勝てるのは親和だけ」という状況を生み出してしまった。
こうなれば、MTGの衰退、ひいては終了へとつながってしまうので早々に対策が必要となるのだが、
プレミアトーナメントでは「右も左も親和デッキ」でもなければ(近い状況ではあったが)、「親和デッキに勝てるのは親和デッキだけ」でもないところが事態を悪化させてしまった。
この状況を「ゲームバランスはかなり悪いが、まだあわてるような時間じゃない」と誤解してしまったのだ。
カジュアルプレイに近いところではMoMaの冬以上の地獄なのに、事態の打開に向かって動く気配がなさそうなことに多くのプレイヤーが絶望し、MTGのプレイをやめ、ゲームの悪評をまき散らしていった。
結果、「神河ブロック」の売り上げは極端に減ってしまった。[11]「Wizards of the Coast社の経営が傾いたので、カジュアルプレイヤーを戻すために大量禁止を出した」という噂もある。
現在の親和
現在ではモダンやレガシーといった昔のカードを使用可能なフォーマットで使用することが出来る。
このうちレガシー(全時代のカードを使用可能)では目立たないデッキの1つといった扱い。
一方モダン(ミラディンブロック辺りからのカードが使用可能)では、「アーティファクト・土地」6種類のうち実に5種類、さらに頭蓋骨絞めが禁止されているにも関わらず4強の1つという立ち位置。特にメイン(2本先取の1本目)では最強の呼び声も高い。反面、サイド後(カードの一部を入れ替えて行う2本目・3本目)は効果的な対策カードが色々とあるため、相手の対策カード1枚で機能不全になってしまうこともある脆い一面も持つ。まぁそんな脆さを抱えながら4強の一角という辺りとんでもない話である。なお、モダンの親和デッキは「親和」を持つカードが多くて1種類、場合によっては0枚なんてこともあり、「親和」を使ったデッキではなくアーティファクト・クリーチャー主体のデッキの通称と言ったところ。ちなみに海外では「ロボッツ」と呼ばれている。
またPauper(コモンカードのみ使用可能)でも4~5種類あるトップクラスのデッキの1つ。上述の通りコモンカードが多いデッキなので、こちらではミラディン時代のカードが多く見受けられる。ちなみに、こちらでは禁止されているのは「頭蓋囲い」のみで「アーティファクト・土地」も全て使用可能。だったが、あまりにも親和が大暴れしたために2022年1月にエイトグが禁止に、3月に大霊堂の信奉者が禁止になっている。
関連項目
脚注
- *大量禁止指定後にさらに別種の親和デッキが作られたが、あまり良い成績が残せなかったのでここでは割愛する
- *誤字ではない。
- *事前に使った呪文の数だけコピーが作られる能力。主なカードは《精神の願望》など
- *通常、ターン開始時に戦場にないクリーチャーは攻撃ができない。これは戦場に召喚されてすぐ攻撃可能とする能力である。
- *被覆を持つクリーチャーは呪文の対象にできなくなる。大体の除去呪文は対象をとる必要があるので被覆を持つクリーチャーは呪文で倒しにくい。
- *このカードの効果は「マナ・コストと同じパワー/タフネスを持つクリーチャーにする」というもので、アーティファクト・土地は0/0となり即死亡。後出しもできない。また、装備品は「クリーチャーになると装備できない」ためただのちっこいクリーチャーになる
- *一斉禁止になったわけではなく、7ヶ月の間に《トレイリアのアカデミー》《意外な授かり物》の2枚、《ドリーム・ホール》《水蓮の花びら》《時のらせん》の3枚、最後に《精神力》と順次禁止となった。この時期にはMoMaパーツとは別に《記憶の壺》も禁止カード入りしている。最後は1999年7月1日付けの《精神力》。
- *実はグレ神話と電結親和の区別は「接合」持ちクリーチャーが入っているか否かではなく、チス=ゴリア系(歯のほかに鱗もある)アーティファクトが入っているか否か、でなされていた模様
- *(X)(赤) Xマナ以下のアーティファクトをすべて破壊するカード。この場合、X=0-2でプレイして「アーティファクト・土地」を殲滅したい、という意味
- *3戦2本先取などの試合形式で2戦目以降に元のデッキから交換するためのカードの束。主に苦手なデッキへの対策カードが入っている。
- *そもそも神河ブロック自体、大して強いセットではないので売り上げが減ること自体は当たり前である。問題は下がり方である。
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