角川ホラー文庫とは、KADOKAWAから刊行されているホラー専門の文庫レーベル。
概要
1993年4月創刊。創刊ラインナップは鈴木光司『リング』、赤川次郎『忘れな草』、景山民夫『ボルネオホテル』、ディーン・R・クーンツ『マンハッタン魔の北壁』など15作(上下巻が2作あるので17冊)。
当時、スティーヴン・キングやディーン・R・クーンツといった海外のモダンホラーの人気作家は日本でもヒットしていたものの、ホラーというジャンル自体は人気があるとは言えず、翻訳ホラー叢書などはことごとく失敗に終わっていた。国内でも、現在「ホラー小説」と呼ばれるような作品自体はあったものの、それらは「ホラー小説」というジャンルとしてくくられてはいなかった。一例として、鈴木光司『リング』の単行本(1991年刊)のオビには「今、新しいCult-Novelが誕生した!」と書かれており、「ホラー」の文字はどこにもない。『リング』がランクインした『このミステリーがすごい!1992年版』には、「氷河期のホラー小説を救え!」という三橋暁のコラムが掲載されており、当時のホラー小説が商業的に苦戦を強いられていたことが伺える。
そんな中、当時の角川書店社長・角川春樹が突如「これからはホラーだ!」と直感し、社長の鶴の一声で作られた(と言われる)のが角川ホラー文庫と、新人賞の日本ホラー小説大賞である。宍戸健司編集長のもと、真っ黒な背表紙を目印に、書き下ろしの新作や有名作家の旧作、江戸川乱歩など物故作家の作品、楳図かずおや水木しげるや手塚治虫の漫画まで、とにかくなんでもかんでも「ホラー」とくくって刊行していった。
創刊ラインナップだった『リング』がこれをきっかけに売れ始め、ホラー小説というジャンルの下地を作っていったところに、1995年、第2回日本ホラー小説大賞を受賞した瀬名秀明『パラサイト・イヴ』と、『リング』の続編となる鈴木光司『らせん』が単行本で刊行。たちまちどちらも大ベストセラーとなり、ホラー文庫の『リング』も爆発的に売れ、一気に日本にホラー小説ブームが巻き起こることになる。というわけで、90年代後半のホラー小説ブームはこの角川ホラー文庫が無ければ存在しなかったと言っていい。
21世紀に入るとホラー小説ブームも一段落したが、角川ホラー文庫は角川文庫のサブレーベルとして定着。日本ホラー小説大賞受賞作の受け皿を務めつつ、その後もちょくちょくヒット作を出していく。2018年に日本ホラー小説大賞は横溝正史ミステリ大賞に吸収され消滅したものの、それでホラー文庫が消滅するということはなく、現在も刊行が続いている。
刊行内容などあれこれ
日本ホラー小説大賞受賞作は、大賞受賞作は基本的にハードカバーで出てから角川ホラー文庫入りしていたが、長編賞・短編賞や優秀賞作品はいきなりホラー文庫から出ることも多かった。長編賞や優秀賞でもハードカバーで出た作品もあり、どういう基準で出し分けていたのかはわりと謎。
創刊からしばらくは、年に3回、春(4月)・夏(8月)・年末(12月)にまとめて冊数をドカッと出すという刊行形態だった。その後だんだんそれが崩れて毎月刊行に近くなっていき、現在はほぼ毎月新刊が出る形に落ち着いている。
創刊から00年代前半ぐらいまでは、CGを使った抽象的なイラストの表紙が多かった。00年代末になると、ライトノベルと一般文芸の垣根が崩れ始める流れにいち早く乗り、ライトノベル的なイラスト表紙の作品を出し始め、櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』や藤木稟『バチカン奇跡調査官』などの、現在でいうライト文芸にあたる人気シリーズを生み出すことに成功している。
最初期は翻訳ものも出していたが、創刊から数年でほぼ国内作品のみになった。翻訳ものはその後も00年代までは『バイオハザード』や『サイレントヒル』などの映画ノベライズがちょこちょこ出ていたが、現在はほぼ完全に国内作品のみの刊行となっている。
書き下ろしの新作が多いこともあって、一般文芸の文庫レーベルの中でもかなり玉石混交な面があり、このレーベルがなければ出版されなかったのではと思うようなキワモノ変な作品も結構ある。なお角川ホラー文庫から出ていた作品が後に角川文庫に移籍することもたまにある(篠田節子『美神解体』とか)。
大百科に記事のある角川ホラー文庫作品
- 黒い家 (貴志祐介)
- 着信アリ (秋元康)
- 天使の囀り (貴志祐介)
- パラサイト・イヴ (瀬名秀明) ※現在は新潮文庫
- バチカン奇跡調査官 (藤木稟)
- ぼっけえ、きょうてえ (岩井志麻子)
- リング (鈴木光司)
大百科に記事のある、角川ホラー文庫で本を出したことのある人物
※ホラー文庫で単著を出したことのある作家。アンソロジーのみの収録作家は除く。
関連リンク
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- なし
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