「身売り」とは、かつて生活苦などを背景に自分の労働力や身柄を金銭と引き換えに提供する行為を指した日本語である。近現代では、企業・団体の買収や資本提携、方針転換を批判的に形容する比喩としても使われる。表現自体に強い価値判断が含まれるため、実態理解には歴史的・法的な意味と、現代の比喩的用法を区別する必要がある。
概要
- 狭義:借金返済や生活苦により、身代金と引き換えに労働・身柄を差し出す行為。
- 広義:企業・団体が他者に吸収され、独立性を失う比喩的表現。
- 注意:現代日本では人の売買は刑法上の犯罪であり、企業買収・球団譲渡などとは法的に無関係である。
語源と変遷
中世日本語の「身を売る」に起源を持ち、近世には遊郭制度や年季奉公と結びついた。明治期の「芸娼妓解放令」(1872年)により形式上は廃止されたが、戦前まで人身売買的慣行は続いた。戦後は刑法・売春防止法によって違法化され、21世紀以降は比喩的に企業や個人の「譲渡」「妥協」を表す語として定着した。[1]
代表的実例
1. 政治・社会
政党合併や政策転換の際に「理念を身売りした」と批判されることがある。特定の利益団体や政権への迎合を非難する文脈で多用される。[2]
2. 企業
- シャープの鴻海傘下入り(2016):鴻海精密工業が出資し「外資への身売り」と報じられたが、実際は経営再建策。[3]
- トレンドマイクロの身売り報(2024):一部通信社が「身売り検討」と見出しに使用。実際は再編選択肢の検討段階。[4]
3. メディア・芸能
芸能人やVTuberが大手企業に所属・契約する際、「身売りした」と揶揄される。スポンサー依存への皮肉として使われる場合も多い。[5]
結語
「身売り」という語は、日本社会の経済・文化・倫理の鏡である。江戸期には貧困の現実を、戦後には人身売買禁止の法体系を、現代では資本主義の構造的非対称を映す。企業・球団・個人が「身売り」と呼ばれるたび、その背景には理念と経済のせめぎ合いが存在する。
出典・参考文献
- 日本国語大辞典(第二版)「身売り」項。
- 朝日新聞デジタル「政策転換に『身売り』批判」(2019)。
- 日本経済新聞「シャープ、鴻海傘下入り決定」(2016)。
- ロイター「トレンドマイクロ、身売り検討か」(2024)。
- Yahoo!ニュース「VTuber事務所所属で『身売り』論」(2023)。
- 会社を子会社化)」(2022年)。
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