概要
ホンダを除く軽自動車メーカーが製造・販売を行っている。キャビンを前方に寄せ、後方は屋根の無い荷台としており、バンより積載物の自由度が高い。代償として大部分のモデルは2人乗りであり、キャビンも最小限のサイズであるため、着座姿勢の融通がきかず長距離の走行ではドライバーの負担が大きい。頑丈なシャシーとサスペンション、粘りのある特性のエンジンを併せ持ち、過酷な使用に耐え長期間愛用されることが多い。現在製造されているモデルはFR駆動方式であるが、かつてはFF駆動(ホンダ・ライフピックアップ)やRR駆動(スバル・サンバー)、ミッドシップ(ホンダ・アクティなど)を採用したモデルも存在した。
軽自動車の初期にはボンネットのあるタイプも製造されていたが、荷台面積を大きくとれるキャブオーバータイプへ徐々に移行し、ボンネットタイプのトラックはスズキ・マイティボーイが1987年に生産終了したことで消滅した。また衝突安全基準への対応から、1999年にはダイハツ・ハイゼットを除き一斉にセミキャブオーバータイプへモデルチェンジしたが、足元のスペースもさることながら、セミキャブでボンネットやホイールベースを伸ばした分、絶対的な小回りが利かないことや、荷台面積が小さくなったことがウィークポイントとなってしまい、のちのモデルチェンジでキャブオーバータイプに戻っている。
かつては低床荷台もポピュラーであったが、現行モデルはフラットな高床荷台となっている。パネルバンのほか、ダンプなど特装系の荷台も存在する。
軽トラックが支持される理由
軽自動車は商用車であっても車検が2年周期であり、普通車のトラックより車検が1年長い分手間が省けるほか、燃料代や税金など維持費の低廉さもメリットとなる。
農機具の積載やちょっとしたお使いに使う下駄代わり、農協へ収穫品の搬入と言う具合に一台何役もこなせるオールマイティーカーであり、田舎における点描の代名詞として描かれる事が多いが、道の狭い都心においてもそのコンパクトさが重宝され、宅急便や赤帽でその姿を見る事が多い。
既に乗用車用としては旧態化したラダーフレームやパートタイム4WDを未だに採用、これが図らずも耐久性や走破性の高さに一役買っている。また、積載量こそ350㎏となっているが、実際にはその倍以上の積載にも耐えうる設計となっているという説がまことしやかに流れている。
特に地方においては10年以上乗り続けるケースが多く、中古車でもなかなか値落ちしない車種の一つに数えられる。
特別仕様
販売促進の手段として特別仕様が乗用車では販売される事が多いが、一般的に商用車ではほとんど見られない。しかし軽トラックは例外的に多く見られ、地方限定仕様が見られるのが特徴である。例えば、JAによる地域限定仕様がある。かつては農協専用車種として営農サンバー(JAサンバーとも)が設定されていた。
近年の潮流
2010年代以降、軽トラックを自社開発・製造していたメーカーが、他社からOEM供給を受けるケースが相次いでいる。これは少子高齢化に加え、乗用車と比べても乗り替えのスパンが長い故に、販売台数が減少している為である。また排ガス規制・安全対策などで開発・設計費がかさむ事もあげられよう。
長年、無二の個性を誇ったスバル・サンバーはダイハツ・ハイゼットのOEMとなったのは記憶に新しいが、三菱・ミニキャブもスズキ・キャリイのOEM供給を受ける事となった(電気自動車を除く)。それに伴い、三菱が供給していた日産・クリッパーもスズキ・キャリイへと変更となった。独自の個性を発揮していたホンダ・アクティも、2021年6月をもって生産終了となり、現在の軽トラックはスズキ・キャリイとダイハツ・ハイゼットが占めることとなった。
また、これまで軽トラックはまさに質実剛健であったが、全体的な販売台数が少なくなる中で付加価値をつけて少しでもユーザーの取り込みを図る為、ハイゼットに代表されるような女性向けの快適装備やボディカラーの多色化を図っている。またキャリイはセミATやHIDヘッドランプの設定などを行い、従来にはない装備設定を図っている。
後述のとおり、荷台部分を趣味や住居など多様にカスタムする用途も多く見られるようになった。
カスタマイズの対象
近年では軽トラックをカスタマイズのベースとする動きが散見される。軽自動車ならではの軽さと走破性、オープンな荷台と言う改造余地のあるところにより、走りから生活趣味・仕事まで用途別のカスタムが可能となっている。
元よりトラックと言う事でデコトラと言った装飾が従来から存在したが、近年ではドリフトのベース車に使用される事がある。近年ではこのクラスでは希少になった後輪駆動を採用している事や部品流用の融通が効く事、安価である事、ドリフトと軽トラックの意外すぎる組み合わせなどからアフターパーツも数を増やしている。
一方でオフロードで活躍する姿も散見される。元より田畑を走る用途もあり、悪路走破性は下手なSUVより高いが、最軽量の場合は700キロを切る重量であり、また最近の車両はショートホイールベースと言う事、デフロックやローレンジなどの設定があり、格上のRV車をカモにする本格的な装備である。
走りの他にも架装性の高さや軽規格と言うコンパクトさや税金などの安さより、メーカー製もしくはDIYで自作する「キャンピングカー」、「キッチンカー(屋台)」などのベース車になる事もある。
海外における軽トラック
軽規格は日本独自のものなので海外では通常のトラックと同系列であるが、そのコンパクトさから世界各地でその姿を見る事が出来る。特にスズキやダイハツはこのジャンルが強い。
北米においては小さすぎる事による安全性確保の困難さから、ナンバーを付けての公道での走行は出来ないが農場での作業用機械やゴルフカート代わりとして個人レベルではあるが輸出をされている。なお、かつてはダイハツはハイゼットを正規輸出していたが、日本のモデルと比べると一部モデルでドアがパイプとなっているなどの違いがあった。
ヨーロッパではダイハツ・ハイゼットがイタリアのピアジオ社にOEM供給をしており、ポーターの名称で販売されている。また、スズキ・キャリイも販売されており、イギリスでは当時のパートナーであったGM系列のベッドフォード社からラスカルの名称で販売されていた。
アジアにおいてはダイハツやスズキのモデルが存在するが、名称こそ日本と一緒であっても、実態はほぼ別物である事が多い。韓国においては軽自動車の規格に極めて近い軽車(読みは「キョンチャ」)と言う物があり、スズキ・キャリイが大宇自動車にOEM供給をされ、ダマスという名称で販売されている。排気量が日本の軽自動車よりやや大きい事やLPG車がメインに据えられている事などが異なる。タイにおいてはプーケット市内のタクシーとしてトゥクトゥク(バンコクのそれとは別物)の名称で多数走行している。タイではミゼットの頃からのブランド力か慣習かは定かではないが、こうした車の8割はダイハツ製である。現在、ダイハツはタイにおける正規販売をしていない(現地法人はすでに解散している)。
これらのモデルは軽規格に縛られない為、排気量がアップしてる物やリアオーバーハングが延長されているなど、国内仕様とは一線を画したものとなっている。
北米における受容
前述のとおり、アメリカにおいてはその小ささゆえに個人輸入での導入が中心であるが、ここ数年は非常に注目を集める存在となっている。これは北米においていわゆる25年ルールの適用がなされるからである。海外の車に対して、製造から25年経過した車は輸入しても特段の改造なしでもアメリカ国内を走行できるルールによるものであり、割合にアメリカ国内での使用に耐えうる基準である660ccの車がこぞって北米にわたっている。
当地においてはこれに相当する車として。ATV(All Terrain Vehicle)の存在があるが、それと同等以上の性能を持ち、割合に安価で、走行距離もそこまで多くない軽トラは注目されているのである。日本に駐留する軍人経由での軽トラの評判もあり、かなり多くの軽トラが輸出されているといわれている。
25年ルールを我慢できない人(最新の軽トラがほしい人)はオフロード車としての登録をする事がある。北米における「オフロード」とは泥ねい路と言うわけではなく、インターステートハイウェイと言った州をまたがるハイウェイを除いたものとされている。この場合、25マイル(時速40キロ程度)速度制限を課せられたりなどがある。
農道のポルシェと田ンボルギーニ
いつからか軽トラックに対して、こうしたあだ名が付けられるようになった。
軽トラックのエンジン配置は名だたるスポーツカーと同じエンジン配置となっている事や軽量な車体と相まって、機敏な動きを見せる。
特に有名なのはスバル・サンバーであり、リアエンジン配置と乾いた排気音から「農道のポルシェ」と言うあだ名がつけられた。余談としてスバルとポルシェは自動車の設計などで浅からぬ縁もある。この他、ホンダ・アクティは「農道のNSX」「農道のフェラーリ」、三菱・ミニキャブは「農道のランエボ」などと呼ばれている。なお、キャリイにターボを載せた車があり、キャリイワークスと言われているとかないとか。
田ンボルギーニの元ネタ、スーパーカーブランドの「ランボルギーニ」は農業用トラクターのブランドにも使われているという非常に高度な駄洒落でもある。
こんな状態だから軽トラックによるカーレースも開催されている。
主な軽トラック
現行車種/キャリイ系統
- スズキ・キャリイ(キャリィ、キャリーと言う具合に表記ゆれが見られるが、これらは間違い)
- マツダ・スクラムトラック ※初代(1989年6月)より。
- 日産・クリッパー ※2代目(2013年12月)以降。初代は三菱・ミニキャブのOEM車。
- 三菱・ミニキャブ ※7代目(2014年2月)以降。電気自動車版のみ2017年製造終了まで自社生産。
現行車種/ハイゼット系統
過去の車種
- くろがね・ベビー ※日本初のキャブオーバータイプの軽トラック。
- スズキ・マイティボーイ
- ダイハツ・ミゼットⅡ
- ホンダ・ライフピックアップ
- ホンダ・T360→TN360→TN-V→TNアクティ→アクティ
- マツダ・B360→ポーター
- マツダ・ポーターキャブ
余談
- 軽トラック(バン)ではダイハツのみであるが、古い360㏄規格のモデルを1981年まで販売していた。当時なお残っていた360㏄軽限定免許所持者への配慮のためとされる。
- 軽免許の人間が550cc以上の軽自動車を運転した場合、無免許運転ではなく免許条件違反に当たる。どちらにしてもれっきとした違反であるが、本来より重い無免許運転で摘発された結果、罰則が誤って適用されるケースが多かった。
- ちなみに免許条件違反は2点・7000円の罰金、無免許運転は25点で一発免許取り消し・3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金と、あまりにも格差がある…まぁ今や軽免許の所持者がいるとは思われないけど…。
関連動画
軽トラックの走行性能の高さを示す例。
関連項目
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