近親婚の範囲
父親と娘、母親と息子、兄と妹、姉と弟などの最近親婚から、おじ姪・おば甥やいとこ婚なども近親婚に含まれる。
どこまでの範囲を公に結婚として認めるかは時代や国によってさまざまであり、「姻族」や「養子関係」までも含めて禁じるかどうかについてまで考えるとさらに話は複雑になる。
実親子、実きょうだいの扱い
時代によっては実の親子や兄弟姉妹間の結婚を認めた例もあり、特に王族など権威者においてはエジプトやハワイやインカ帝国などをはじめとして、最近親婚が盛んに行われていた。イランの宗教ゾロアスター教にいたっては宗教的美徳として最近親婚を推進しており、ゾロアスター教を国教としていたペルシャやアルメニア、王族で近親婚が行われていたエジプトなどでは庶民間で最近親婚が行われている。
ユダヤ教シャブタイ派でも、メシアの時代の到来により、上方世界での兄妹姉弟と親子の統合のために下方世界で最近親婚の制限が取り払われる日が来ることが説かれている。
異母きょうだい、異父きょうだいの扱い
現代では、日本も含む多くの国家においてきょうだい(兄妹、姉弟)同士では法律で結婚を禁じている。さらに、ほとんどの国では片親だけが共通の異母きょうだいや異父きょうだいでも例外とせず禁じている。(珍しい例外として、スウェーデンでは現在でも異母きょうだい、異父きょうだい同士の結婚が許可されている。)
しかし過去には片親が違ってればセーフとしていた国家も多い。例えば古代の日本では異母きょうだいでの婚姻は多くの実例があり、許容されていたことがうかがえる。その頃の著名な歴史上の人物で言えば、聖徳太子は異母兄妹の間に生まれた子である。また、ユダヤ教の聖典タナハ(キリスト教にも「旧約聖書」として伝わっている)によれば、預言者アブラハムは異母妹を妻とし、二人の間にユダヤ民族の祖ヤコブの父となるイサクが生まれている。
しかしどちらの片親が共通かで差別化していた例もみてとれる。例えば上記と同じ古代の日本でも、異父きょうだいでの婚姻は格段に例が少なくなり、異父妹と情を通じて罰された木梨軽皇子の悲恋物語の例も見るに、母親が共通であれば「腹が同じ」という事で禁じていたようである。
いとこ、またいとこの扱い
いとこは日本では4親等で問題なく結婚できる。海外においてはまちまちであり、アメリカ合衆国ではいくつかの州がいとこ婚を禁止している他、韓国などでも禁止されている。
欧州では概ねいとこ婚は認められており、いとこ婚によって生まれた著名人も数多い。文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースや、チャールズ・ダーウィンの母親であるスザンナ・ダーウィンはまたいとこ同士の親から生まれた。
イスラーム圏ではいとことの結婚は禁止されておらず、見知った異性が親戚になりやすいということや、預言者ムハンマドがいとこと結婚しているということもあり、いとこ婚が多い。その中でも父方の平行いとこ婚が好まれる。
現在の日本の法律上での禁止事項
2013年10月現在の日本においては、血族や姻族、養子関係を理由として禁止する規定は以下の通り。条文の文面は、総務省が運営する「法令データ提供システム」の民法のページから引用している(2013年10月14日閲覧)。
なお、「同性婚」や「重婚」、「一定の年齢以下の婚姻」や「離婚後一定期間の女性」などの他の禁止条件は多々あるので、以下でセーフとしていてもそれらの法律に引っかかる場合もあることに注意。
また、以下の内容は判例などを十分に参考とせず条文の文面からのみ判断したものである。実際に法律が運用される場面では個々の事例固有の諸事情や、所管する官庁からの通達などによっても左右されるため、セーフ・アウトが異なっている可能性もあるので注意されたい。
また結婚・婚姻という制度的なものは、恋愛や性愛とはまた別問題であることにも注意が必要である(それらについては「近親相姦」、「近親愛」、「ブラザーコンプレックス」、「シスターコンプレックス」、「マザーコンプレックス」、「ファザーコンプレックス」などの各記事などを参照されたい)。たとえば現在の日本の法律上では、以下のように「近親間での結婚」は禁じているものの、「結婚しない上での近親相姦」については、互いが成人であり、尚かつ互いの純粋な合意の上であれば、特に禁止する法律はない。
民法第七百三十四条(近親者間の婚姻の禁止)
直系血族とは、父母、祖父母、曾祖父母・・・、子、孫、曾孫・・・のことである。三親等内の傍系血族とは、きょうだい(兄姉弟妹。二親等)、おじおば(伯父伯母叔父叔母。三親等)のことである。これらがアウトとなる。
いとこ(傍系四親等)、はとこ(傍系六親等)、大おじおば(傍系四親等)等の、四親等以上離れた傍系血族間ではセーフである。
いとこ同士の結婚がセーフであることは有名であり実例もたくさんある。だが大おじや大おばとの結婚がセーフ(?)であることは結構意外ではないだろうか。(※実例があるのかどうかは不明。実際に申請しようとすると問題視されて受理されない可能性もあるかもしれない。)
ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
このただし書きによると、(誰かの養子縁組によって)養きょうだい同士になった人、(誰かの養子縁組によって)養おじおば・甥姪になった人・・・などとの結婚はセーフである。
「きょうだい(兄妹、姉弟)と恋仲になってしまった。結婚できない」と悩んでいる人は、とりあえずどちらかが養子でなかったかよく調べてみることから始めてみよう。どちらかが養子であれば、法律上は特に問題なく結婚できるのだから(「実はおじ姪(おば甥)でした」等の特殊なケースを除く)。
この「第八百十七条の九」は「特別養子縁組をすれば、養子になる前の実の血族との関係は終了する」と定めた条文である。「終了した後も前項と同様とする」とはすなわち、この第八百十七条の九を利用して実の父母や実のきょうだいと結婚することはできませんよ、ということ。
よって「妹と結婚したいが実の兄妹だからできない。だから他の家の養子になった。これで兄妹じゃないので結婚できる!」という手はアウト。少なくとも日本国内では通用しない。
民法第七百三十五条(直系姻族間の婚姻の禁止)
直系姻族とは、誰かの結婚によって関係の生じている、義理の 父母、祖父母、曽祖父母・・・、子、孫、曾孫・・・のことである。これらがアウトとなる。
傍系に関しては規定がない。つまり(誰かの結婚によって)義理のきょうだい同士になっている人、義理のおじおば・義理の甥姪になっている人・・・などとの結婚はセーフである。
親の再婚相手の子、つまり義理のきょうだい(兄妹、姉弟)と恋仲になってしまい悩んでいる人は、法律上は特に問題なく結婚できるので安心しよう(「本当は実のきょうだいでした」等の特殊ケースは除く)。もしその相手が自分の親と養子縁組をしていたとしても、第七百三十四条の「養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。」との規定により結婚できる。
「第七百二十八条」は「離婚で姻族関係が終了する」と定めた条文である。「終了した後も同様」ということは、「夫はひどい人だけど、お義父さんは素晴らしい人。ちょうどお義父さんはお義母さんと別れて独身だし、夫と離婚してお義父さんと再婚したい!」という考えはアウト。一度でも義理とはいえ親子になったからには、離婚したとしてもその記録はついて回り、日本国内では一生結婚はできないのである。
「第八百十七条の九」は前項で述べたとおり養子に関する法律である。「終了した後も同様」ということは、「じゃあ離婚した後にどこかの家の養子に入れば、お義父さんと他人だから結婚できる!」という考えもアウトになる。
民法第七百三十六条(養親子等の間の婚姻の禁止)
第七百三十六条 養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第七百二十九条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない。
この条文はひじょうにややこしい。
「卑属」という耳慣れない言葉が出てくるが、要するに自分の血族で自分より後の世代のことである。「直系」と付かなければ甥姪や大甥姪なども含むが、「直系卑属」となると自分の子や孫や曾孫・・・のことである。
「尊属」とはその逆で自分の家系で自分より前の世代のことで、「直系」と付かなければおじおばや大おじおばも含むが、「直系尊属」となると自分の父母や祖父母や曾祖父母・・・のことである。
なお、民法で「直系卑属」や「直系尊属」と言うときには姻族を含まない血族のみを指していうことになっている。
「第七百二十九条」は「離縁(離婚や養子縁組破棄)によって親族関係は終了する」と定めた条文である。
ややこしいがまとめると、「養子、その子、孫、曾孫・・・さらにその配偶者」、「養親、その父母、その祖父母、その曾祖父母・・・」とは、養子関係を取り消したり離婚したりした後でもアウト、ということ。
アウト?セーフ?
この人たちとは、現在の日本で法的に結婚できるだろうか?(どれも相手の年齢や性別は法律面で問題なく、文面以外での血のつながりもないものとする)
答えをドラッグして確認してみよう!(ただし、答えも間違っている可能性はあります)
- 少しの期間だけ自分の養女として育てたことがあるがすぐに養子縁組が解消され元の実の親に育てられた子 : アウト。第七百三十六条による。
- 離婚した妻の母(つまり、元・義理の母) : アウト。第七百三十五条による。
- 実の兄妹として育ったけど、実は養子だった兄 : セーフ。第七百三十四条。
- 養子に出て他人になった元・実の弟 : アウト。第七百三十四条の2。
- 離婚した夫の兄(つまり、元・義理の兄) : セーフ。第七百三十五条で禁じられているのは直系姻族のみで傍系姻族は規定がない。
- 離婚した妻がその後他の人と結婚して作った娘 :
- 離婚した妻の養母 : 基本的にはアウト。第七百三十六条。ただし、自分が妻と結婚していた期間が、妻が養子縁組をした期間より前であって被っていなければ、セーフになる可能性はある。
- 叔父さん(父の実弟)。そして自分は、父と血のつながりがない養女だった。: セーフ。第七百三十四条。
- 自分が養子に迎えた子の、実の姉妹。 : セーフ。第七百三十六条では養子の「直系卑属」しか禁じられておらず兄弟姉妹のような傍系については規定がない。
- 父が再婚した女の人の連れ子で、新しい兄 : セーフ。第七百三十五条で禁じられているのは直系姻族のみで傍系姻族は規定がない。
- 養父の離婚した元妻 : たいへんややこしくケースバイケース。「養父の元妻」が一度でも自分の「養母」になったことがある場合は、第七百三十六条により離婚していてもアウト。また養父との養子関係を介して直系姻族にもなっているので、第七百三十五条にも抵触しており、その意味でもアウトである。しかし何らかの理由から「養父の元妻」が自分の「養母」になったことがないなら第七百三十六条には抵触せず、さらに養父と養子関係を解消してしまえば第七百三十五条もクリアできるので、セーフになると思われる。
権力者の家系において
かつては「特権的家系の血の純粋さを保つ」、「財産や領地の分散を防ぐ」などの実利的な目的から権力者の家柄で近親婚が行われていた。日本では天皇家、公家、武家など。
国外ではヨーロッパの王侯貴族での血族結婚が知られており、特に何代にも渡って近親婚を繰り返した例としてはスペイン・ハプスブルク家が有名である。欧州以外でもエジプトのファラオ一族・インカ帝国皇帝一族なども有名である。
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関連項目
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