連れ去りとは、本人の意思に反して身体の自由を奪い、自らの支配下に置くことである。誘拐、略取。
連れ去り/親による子供の拉致/実子誘拐とは配偶者が子供を連れて家を出て行ってしまうことである。特に離婚やその前段階に際して片方の親がもう片方の親から子供を連れ去ることをいう。刑法上、未成年者略取誘拐罪に該当しうる。
概要
古典的には「子供を連れて実家に帰られてもらいます」という状況であるが、昨今では様々な事情により深刻化している面がある。
一般的には「連れ去り」のほうがよく使われているが、一部の人はより過激な「実子誘拐」という言葉に置き換えることがある。
夫婦関係の再構築に成功した場合は「そんなこともあったね」と笑い話で済むが、連れ去られたまま離婚訴訟、あるいはそのまま離婚ということになればその後の子供の親権争いで大きな問題となる。
なぜ起こるのか
様々な状況と理由が想定できるが、主な理由と考えられるものを挙げる。
子供の保護監視のため
短期的には日々の子供の世話のためである。
夫婦関係にも様々な形が見られる昨今であるが、夫婦生活の破綻により育児を担当していた側が家を出ていく場合、子供の世話をする人員がいなくなってしまう。子供が乳児、あるいは幼児であった場合、監視者がいない状況で1日放置しただけでも非常に危険である。
そのような危険を冒して子供を放置するのは親としても望むところではなく、「誰もいない家に残していくよりかは」という心理で、家出するときに子供を連れ出すのである。
配偶者のDVなどから自身と子供を守るため
夫婦生活の破綻の原因がDV(ドメスティック・バイオレンス)に代表される身体の危険を伴うものであった場合、一時避難として家を出る際に子供を家に置いていくのは非常に危険である。
そのような場合、避難に子供を同行させるのは合理的であり、もはや連れ去りとも言えなくなる。
親権を獲得するため
現行日本では単独親権制度を敷いており、離婚した両親のいずれかのみが親権を獲得できる。親権を得られない親が離婚の過程で養育者であることを既成事実化するために(監護の継続性)、不当に親権者から子供を連れ去って隠匿する事例が発生している、という主張がある。
ちなみに、日本で共同親権は2026年までに導入される見込みである。
国際的な「連れ去り」問題
近年、国際結婚を行って国外で生活をしていた女性が、配偶者に無断で自分の子供を連れて日本に帰国してしまう事例が問題となっている。
国際的には「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」によって子供を勝手に連れ去って元の国に返さないことは禁止されている。日本も同条約を2014年に締結しており、同条約を実施するための法律「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」も成立させている。
有名な事例としては、元卓球選手の福原愛が離婚後に共同親権をもって台湾で養育していた長男を2022年に夫に無断で日本に連れ去った事件がある(2024年に和解)。
日本での刑事罰化へ
2022年、柴山昌彦衆議院議員は自身のツイッターにて、子供の連れ去りが「未成年略取誘拐罪」にあたると警察庁と確認したことを報告している。これまで警察は家庭内で起こったことは民事であり、「民事不介入」の姿勢をとっていたため、大きな変化といえる。
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/shiba_masa/status/1489387695592067072
弁護士の対応
連れ去りに関しては「子供を連れ去ることは違法になることもある」「DVなどを理由に連れ去りが正当とされることもある」などが最大公約数的な意見ではあり、逆に連れ去られてしまったときの対処法を助言している弁護士事務所も多い。
が、中には「離婚後に子供の親権者となるためには、別居後に子供と一緒に住んでいることが重要です。 この場合のセオリーとしては別居のために家を出て行く場合には子供を連れて出て行った方が良いということになります。」という意見を載せている弁護士事務所も存在している。公のセミナーで弁護士が連れ去りを推奨したという報道も存在している。
結局のところ、弁護士といっても人であり、それぞれの弁護士によって法の解釈には差が出てきてしまうのは致し方ないといえるだろう。その結果として、次項のような実子誘拐ビジネスの存在が疑われることになっている。
実子誘拐ビジネスについて
弁護士が実子誘拐を支援して報酬を得ることを、【実子誘拐ビジネス】と呼ぶ場合がある。
ただし、このことに関して「弁護士が連れ去りをそそのかした」「元配偶者が子供を連れ去った後、弁護士に頼んで子供と会わせなくしている」などの論説が並ぶが、すべての弁護士が自らのホームページや弁護士事務所などで連れ去りの支援を明言しているわけではない。
注意点
このワードを扱う記事や書籍の中では「人権派弁護士」がこのように連れ去りを推奨しているという主張がされる例が見られる。例えば、2021年発行の『実子誘拐ビジネスの闇』では、目次だけでも「人権派弁護士の儲けの手口」「ハーグ条約を”殺した”人権派弁護士」「人権派弁護士が「実子誘拐」を指南」とかなり攻撃的な主張が見られる。この辺りはamazonの商品ページの試し読みから確認できる。
また、場合によっては「DVからの避難の推奨」さえも「連れ去りのそそのかし」に変換されているような記事も存在している。
連れ去りか、DVなどからの避難か
連れ去りかDVなどからの避難かは各事例によって異なる。また、当事者の間でも認識が大きく異なる。
DV加害者の方がDVをしていることに無自覚であったり、逆に連れ去った側が自らをDV被害者だと思い込んでいる場合もある。それに加え、男女関係というただでさえこじれやすい事情のうえ、離婚と親権という子供に関することまで絡んだ極限状態では人間の判断能力、および状況を客観視する能力はたやすく失われる。また、自分を守るために虚偽の証言も飛び出すことがある。
以下のリンクから飛べる記事はその典型例であり、連れ去りを行った夫、連れ去りされた妻では現状の認識が全く異なることがわかる。
- なぜ夫は妻に無断で子どもを「連れ去った」のか 連れ去り当事者が語る夫婦の内情 | AERA dot.
- 「ネグレクトなんてしていない」 子どもを“連れ去った”夫の主張に妻が真っ向から反論 | AERA dot.
そのため、一方からのみの証言・情報を鵜呑みにしていては事実から大きく逸脱する可能性があり、だからこそ録音や記録映像などの客観的証拠が重要となってくる。
創作の中の連れ去り
「片親が子供を連れて家出する」「家に帰ったら妻と子供がいない」というシチュエーションは昭和の時代から割とよくあることであり、日常に潜む大事件として創作などでもよく取り上げられていた。
最後に夫婦がよりを戻すことを前提とした創作であれば、「実家に帰ってしまった妻を夫が追いかけ、謝って許してもらう」というのがよくあるパターンである。その際に実家や親戚周りの人情を描くこともある。このパターンの場合、子供にとってはなかなか会えない母方の祖父母・叔父・叔母・いとこなどと遊ぶ機会でもある。都会から田舎に行くきっかけともなり、そこでの新しい出会いもあるかもしれない。子供なりに親の状況を理解しているときには、地元でできた友達にふと口をついて両親の悩みを打ち明けてしまうという流れもありうる。
もちろん、両親が仲直りせず、そのまま離婚となってしまう創作も存在している。連れ去り・離婚・親権訴訟を主題とした創作においては当然こちらがメインとなる。こちらの路線ではドロドロとした人間関係を描く昼ドラ展開となりやすい。当然ながら、そのあとは子供の親権をめぐっての争いに移行する。
連れ去りが1エピソードなどとして使われている作品
- クレヨンしんちゃん - アニメでは母親のみさえが子供たちを連れて家出をするエピソードが複数存在している。
- 機動戦士ガンダムF91 - ヒロインのセシリー・フェアチャイルド/ベラ・ロナは、母親が夫とは別の男と駆け落ちした際に、一緒に連れ出されている。
実例
- ミツカン「種馬事件」
ミツカン経営者一族の入り婿だった父親が、生まれたばかりの子どもを経営者一族に連れ去られてしまった事件。 - 福原愛不倫連れ去り騒動
卓球選手の福原愛が不倫をし、咎められたことをDVであると主張し国境をまたいで連れ去った事件。 - フランス人男性バンサン・フィショ氏ハンガーストライキ
日本人妻に子を連れ去られたフランス人男性と夫に子を連れ去られた女性による抗議活動。
各種メディア報道
放送局等 | 放送・公開日時 | 番組名等 | 特集名等 | 概要 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
TBS JNS | 2024.08.24 17:00 |
報道特集 | “連れ去り”などで関係絶たれ・・・ ~子どもたちの告白~ | 両親の関係悪化で連れ去られるなど 一方の親との関係を断たれる子どもたち。 複雑な心境をカメラの前で明かしました。 | 番組構成は主に子供の視点で放送されて、同居親の顔色を伺うために、言いたくない別居親の悪口を言って傷ついている様子が映し出された。 |
BBC | 2021.08.04 | BBC NEWS JAPAN | 日本人妻に「連れ去られた」子供に会いたい……仏男性が東京でハンガーストライキ | 東京のオリンピックスタジアム近くで、フランス人男性が7月10日にハンガーストライキを始めた。実の親による子供の連れ去りに抗議するために。 | 番組内では配偶者に子を連れ去られた母親の声も取材された。被害者は男性だけではなく女性も多くいることが報道された、 |
AFP | 2021,07.11 17:59 | BB News | 日本人妻に「子供誘拐された」、仏男性が再会求めハンスト | 日本在住歴15年のフィショ氏は息子(6)と娘(4)が戻ってくるまでハンストをやめないと述べ、再会がかなわなければ「フランス当局が真剣に、私の子供たちを守る意向であることを示してほしい。そして、日本が子供の権利保護に同意しない場合には、日本に制裁を科す方針を示してほしい」と訴えた。 | 連れ去りをした女性は一度目の裁判でDV被害を訴えたがその後撤回している。虚偽DVを主張しても何のデメリットがないとうい観点からの報道。 |
ANN | 2021.12.02 | ABEMAnews | “子ども連れ去り”容疑 仏当局が日本人妻に逮捕状 | フランス人の夫に子どもを会わせないのは連れ去りの疑いがあるとして、フランスの司法当局が、日本人の妻に対して逮捕状を出しました。 | 諸外国や国際警察から逮捕状が出ていることが指摘されている。 |
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関連項目
外部リンク
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