道化(どうけ)とは、わざとおかしな言動・行為をすることによって周囲の人々を楽しませるものの事である。道化師とも。
転じて、愚かな行動をして周囲の人間から苦笑されるような人を指す。
曖昧さ回避
概要
かつてローマ帝国では、小人や奇形、知恵遅れといった障害者を奴隷として愛玩、ペットのように「所有」する習慣があった。この習慣は16世紀末まで続き、中世ヨーロッパでは領主や国王といった特権階級の人物が、道化を雇う事は普通だった。
彼らは宮廷道化師(ジェスター)と呼ばれ、不具の身や滑稽な振る舞い、奇抜な衣装や言動を笑われる事で周囲の者を楽しませる役を負うと同時に、貴人や君主に対する無礼な発言を許されていた。君主の機嫌取りには欠かせない存在であり、君主への取次・仲介、中立の立場から君主の風評を演技で表現して意見できる、「愚者にして賢者」という稀有な位置にあった。
トランプのジョーカーに伝統的に描かれているのは、この宮廷道化師である。
著名な所では、ポーランドの宮廷道化師・スタンチクが挙げられる。
15世紀末から16世紀にかけ三代の王に仕えた彼は優れた知性と見識を持ち、国の現況と未来についての考察は当代の学者さえも唸らせたという。軽妙な風刺を用いた時事問題を王に逐一伝え、時に警告、時に批判を堂々と行った。その言行は同時代の歴史家・著述家らによって記録されており、当時の政治情勢を知る貴重な手がかりの一つとなっている。
一方、大衆文化の中でも道化師の存在は大きかった。15世紀頃には酒場や売春宿にも道化が雇われ、お祭り騒ぎを盛り上げる役を務めたという。
サーカスにおいておどけ役を演じ、曲芸と司会を兼ねて場を盛り上げる道化はクラウン(Clown)と呼ばれる。18世紀のイギリスの曲馬ショーにおいておどけ役を演じていた役者が名乗ったのがその起源とされ、転じて「馬鹿」「おどけ者」「愚か者」の代名詞ともなった。
臨機応変に場を盛り上げる技量、身振りと曲芸だけで場を繋ぐ実力などが求められ、ベテランでなければクラウンは演じられないという。事実伝統的なサーカスにおいて、クラウンのオーディションは熾烈を極めるとされる。
また「モンテカルロ国際サーカス・フェスティバル」は1974年以来続くサーカスの祭典で、年に一度、世界中のサーカスからパフォーマーが招聘されて演技を行う。勿論クラウン部門も存在し、ここで賞を獲得する事は最高の栄誉とされている。
他方、道化の中には単なる見世物として笑われるだけの者も少なくなかった。たとえば15世紀のイタリアでは、カーニバルの余興として道化師を檻の中に閉じ込め、外から野菜くずやゴミ、ひどい時には汚物を投げつけて笑うという見世物があったという。一般大衆のガス抜きとしての扱いは、当時決して珍しいものではなかった。
その歴史を反映したか否かは不明だが、道化の中には伝統的に目の下に涙マークを描くパターンがある。馬鹿にされながら笑われる悲しみを表現しているとされるが、巷説であり具体的な一次資料は不明。
日本では幇間(ほうかん)がこれに該当する。「太鼓持ち」とも言い、宴席で主や客のご機嫌取りをし、芸者衆を助けて場を盛り上げる職業芸人だった。現在ではお座敷芸の衰退と共に数を減じ、全国でも師匠に学んだ幇間は僅かに数人と言われている。
ちなみに師匠に学ばず人のご機嫌取りをする輩は「野だいこ」と呼ばれ、夏目漱石の「坊つちやん」で赤シャツ(教頭)の腰巾着のあだ名に使われている。
また歌舞伎の役どころに「道化方(道外方)」があり、芝居の息抜きがてら笑いを誘う役どころとして演じられる。出演する役者名を記した看板の三枚目に名前が上がった事から、「三枚目」と呼ばれて同義で日常的に用いられる。
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