遠山・葛西スペシャルとは、プロ野球の99年、2000年シーズン中、当時阪神タイガースの監督であった野村克也が編み出した継投策である。
遠山奬志と葛西稔(遠山から伊藤敦規に繋いだケースあり)による継投のため二人の名字からこの名前となったが、他にも「野村スペシャル」「遠山・葛西・遠山」といった呼び方もある。
概要
通常投手が交代する時は、交代される投手はベンチに下がり交代する投手がマウンドにあがる。
しかしこの継投、例えばマウンドに遠山がおり葛西が登板する場合、まずマウンドにいる遠山が一塁に回り、マウンドに葛西が上がる。そして葛西が最低打者1人と対戦後、今度は遠山がマウンドに上がって葛西が一塁に回るというもの。
当時の阪神は中継ぎに関してはそれほど層が薄いとまでは言えなかったが、野村監督は遠山の左打者に対する強さを信頼していたと言える。
ただし野村自身はこの継投を「苦肉の策」「弱者の兵法」と語っているため、現在のプロ野球で見ることはそうないと思われる。
また遠山・葛西に関しては二人とも野手経験があるために一塁守備が可能なので、ぶっつけ本番で投手に一塁を守らせるのも考えものだろう。
ルール上の遠山・葛西スペシャル
プロ野球では以下のような規定がある。
野球規則3.03の原注
「同一イニングでは、ピッチャーが一度ある守備位置についたら、再びピッチャーとなる以外他の守備位置に移ることはできない。ピッチャーに戻ってからピッチャー以外の守備位置に移ることもできない」
このため同一イニング内では「投手→野手→投手」は可能であるが「投手→野手→野手」や「投手→野手→投手→野手」といった起用は不可能である。
ただし高校野球では以下のような規定がある
規則3.03 【原注】前段のうち「同一イニングでは、投手が一度ある守備位置につい たら、再び投手となる以外他の守備位置に移ることはできない」は適用しない。
つまり高校野球では「投手→野手→野手→投手」という交代は可能である。
遠山・葛西スペシャルが行われた例
1999年5月19日 対広島 〇10-2
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
阪神タイガース | 1 | 1 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 5 | 10 |
広島東洋カープ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 2 |
[神]○井川-遠山-伊藤-遠山-福原-山岡 | ||||||||||
[広]●山崎-高橋健-黒田 | ||||||||||
[本](神)和田2号、(神)ジョンソン11号 |
先発の井川慶から7回無死満塁のピンチを招くと遠山に交代し、1アウトを取った後に伊藤に交代して遠山が一塁へ。伊藤が1アウトを取ると遠山が再びマウンドに戻って1アウトを取って7回を終えた。試合はこの後福原ー山岡のリレーで勝利。
2000年4月13日 対巨人 〇3-2 (この試合では遠山の再登板はなし)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
読売ジャイアンツ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 2 |
阪神タイガース | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
[神]○藪-遠山-伊藤-Sミラー | ||||||||||
[巨]●ガルベス-岡島-三沢 | ||||||||||
[本](巨)高橋由1号、(巨)マルティネス3号 |
3-0で迎えた8回に先発の藪が連続本塁打を浴びて1点差に迫られると、8回1死から遠山が登板し、代打の村田善を仕留めた後、遠山は一塁の守備に回り、マウンドには伊藤敦規が上がって1アウトを取り8回を切り抜ける。
最終回のマウンドにはカート・ミラーが上がったが、左打者に備えて遠山は一塁に残る。だがミラーが右打者3人を凡退させて1点差を死守し阪神は勝利。遠山の再登板は無かったが、阪神は巨人戦600勝目を飾った。
2000年5月9日 対中日 〇5-4
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
阪神タイガース | 1 | 1 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
中日ドラゴンズ | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
[神]福原-吉野-○川尻-吉田豊-伊藤-遠山-葛西-S遠山 | ||||||||||
[中]●野口-前田-正津-岩瀬-ギャラード | ||||||||||
[本](神)ハートキー1号 |
この試合で初の「遠山-葛西-遠山」リレーが完成。8回2死から登板した遠山は1アウトを取って8回を終えると、9回先頭の右打者吉原を迎えて一塁の守りにつき、マウンドを葛西に譲る。その後2死三塁となり、打席には左の関川。葛西はベンチへ下がり、遠山が再び登板して二ゴロに抑え、試合終了。
2000年5月21日 対横浜 〇1-0
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
阪神タイガース | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
横浜ベイスターズ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
[神]○湯舟-伊藤-吉野-川尻-遠山-葛西-遠山-S葛西 | ||||||||||
[横]矢野-●河原-島田-森中-木塚 | ||||||||||
[本] |
9回、わずか1点リードの阪神は、先頭打者の谷繁に対し、右の葛西を投入。8回途中から投げていた遠山を一塁へ回して、次に予測される左の代打に起用するつもりだった。ところが、頼みの葛西が谷繁に左翼線に二塁打を打たれ9番に入っていた木塚に代わって、代打に右の万永が登場し、送りバントで三塁に走者を進め、犠飛でも同点にする形を作ろうとした。 右対右でセオリーなら葛西続投のケースだが、野村監督は遠山をあえて再度登板させた。「左の方がバントを処理してサードに投げやすいから」と八木沢コーチ。葛西はお役御免かと思いきや、一塁を守らせた。
万永がバントを成功させると、1番石井琢が1死三塁で打席に入り、遠山が遊飛に仕留め2死。2番田中の打順で代打で進藤が登場。 するとこの回、3度目の投手交代を告げた野村監督。一塁から葛西が再度マウンドへ登った。また遠山が一塁に入るのかと思いきや野球規則3・03【原注】により、遠山はベンチに下がる。
試合は葛西は進藤から三振を奪い、1-0で勝利し、阪神は99年8月18日から続いていた横浜戦の連敗を14でストップした。
2000年5月30日 対横浜 〇2-0
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
横浜ベイスターズ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
阪神タイガース | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
[神]○星野伸-遠山-葛西-遠山-S葛西 | ||||||||||
[横]●斎藤隆-河原-横山 | ||||||||||
[本] |
7回まで星野伸之が横浜のマシンガン打線を相手に無失点に抑え、8回は遠山が1イニングをピシャリ。
9回はまず葛西が登板して遠山が一塁へ。1アウト後に遠山が再びマウンドに向かうもアウトがとれず、再び葛西がマウンドに戻り残り2アウトを取って試合終了。
2000年6月3日 対広島 〇2-1
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
広島東洋カープ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 |
阪神タイガース | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 2 |
[神]○川尻-伊藤-遠山-葛西-遠山-S葛西 | ||||||||||
[広]●ミンチー-広池-山崎慎 | ||||||||||
[本] |
7回までは先発の川尻哲郎が、8回は伊藤が無失点に抑え、9回は1点を失ったものの遠山(1/3)-葛西(0/3)-遠山(1/3)-葛西(1/3)のリレーで薄氷の勝利。
2000年6月8日 対巨人 〇6-5
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
阪神タイガース | 0 | 0 | 3 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 6 |
読売ジャイアンツ | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 | 2 | 0 | 5 |
[神]○藪-伊藤-吉野-中込-遠山-葛西-遠山-S葛西 | ||||||||||
[巨]●桑田-三沢-柏田-河本-木村-岡島 | ||||||||||
[本](神)新庄12号、(巨)仁志9号 |
7回までは藪-伊藤のリレーで3失点に押しとどめるが、8回は吉野が1アウトを取った後に中込、遠山が打たれ、葛西がマウンドに上がって遠山が一塁へ。葛西が2アウト目を取った後に遠山がマウンドに戻り葛西が一塁に回ったが、遠山はまたもアウトがとれず再び葛西がマウンドに戻って3アウト目を取り8回が終了。9回は葛西が引き続きマウンドに上がり3アウトをとって綱渡りの勝利。
2000年6月10日 対横浜 〇7-6
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
阪神タイガース | 0 | 3 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 7 |
横浜ベイスターズ | 0 | 0 | 0 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 6 |
[神]川尻-吉野-○中込-遠山-葛西-S遠山 | ||||||||||
[横]ベタンコート-●河原-木塚-森中-横山 | ||||||||||
[本](神)新庄13号、谷繁2号 |
以上8試合で行われ、いずれも接戦で勝利している。
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
- 7
- 0pt