野球狂の詩とは、1972年~1978年まで週刊少年マガジンで連載されていた水島新司の野球漫画であり、それを原作として放送されたアニメ、ドラマ(いずれもフジテレビ系列)、映画作品でもある。アニメ版は全25話。
概要
当初は、50歳を超えてもなお現役投手として活躍する岩田鉄五郎をはじめとする「東京メッツ」のナインを主人公とした一話完結型の不定期連載漫画だったが、女性投手・水原勇気が登場する「水原勇気編」の頃には連続性を持った漫画となり、不定期から定期連載へと変わっている。
1977年からは、フジテレビ系列でゴールデンのアニメ作品としては珍しい1時間番組として放送されている。
まずスペシャル番組として第1話が放送され、それから約5ヶ月後に第2話以降が放送されているが、第6話と第7話には約2ヶ月の間隔があるほか、放送も第2~6話までは月一放送、第7話以降は週一放送というこれまた珍しい放送形式となっている。
なお、第11話までは水原勇気編、第12話以降は勇気以外のキャラクター編と、原作とは逆の順番で放送されている。
同じ年には木之内みどり主演の実写映画が、1979年には火浦健を主人公としたアニメ映画(第13~14話を再編集したもの)が公開され、1985年にはフジテレビ系列の『月曜ドラマランド』にて斉藤由貴主演でドラマ化されている。
1997年にはミスターマガジンにて続編となる『野球狂の詩・平成編』が連載されている(タイトルは『野球狂の詩2000』を経て『新・野球狂の詩』と変更され、『新』は廃刊になったミスターマガジンに代わって週刊モーニングで連載された)。
『平成編』は20年後の東京メッツが舞台となった漫画で、かつての選手達は引退しており、メッツも身売り寸前という状態から始まっている。鉄五郎、五利一平、勇気はメッツに監督およびコーチとして復帰し、かつてのエースだった火浦健はライバルチーム・大阪ガメッツの監督となっている。
作中におけるメッツの対戦相手は当時の作者の好みもあり、圧倒的に阪神が多い。当時のプロ野球漫画では珍しく、巨人の選手の登場は極めて少ない。
2005年には出版社の壁を越えて『ドカベン』との水島作品クロスオーバーが実現し(野球狂の詩は講談社、ドカベンは秋田書店)、『野球狂の詩vs.ドカベン』としてメッツ対スーパースターズの日本シリーズ第7戦が描かれた。
東京メッツについて
セントラルリーグに所属するという設定のプロ野球球団。時期は不明だが、戦後のプロ野球が再開頃までには存在していた模様。
当初の名前は「東京倶楽部」で、1950年の2リーグ分裂後に東京メッツに改称(なお、MLBのニューヨーク・メッツより10年以上早く「メッツ」を名乗っている)。
親会社は食品会社の東京インスタント食品という会社で後にメッツ食品に改称。その後1978年オフに大日本建設という建設会社に親会社が移った。
上記の通り、『野球狂の詩 平成編』第1話の時点ではかつての選手は鉄五郎を含めて軒並み引退しており(鉄五郎は任意引退状態)、あまりの弱さにチームも身売り寸前となっていたが(買い手も一つ、二つあったらしい)、一日だけ復帰した鉄五郎と勇気の奮闘を見たオーナー代行が身売りを撤回し、鉄五郎を監督、五利をヘッドコーチとした新体制で再出発している(この時点では勇気は選手としてもコーチとしても完全復帰はしていない)。
なお、『新・野球狂の詩』では化粧品会社の「華生堂」に身売り、本拠地も日本ハムに先駆けて札幌に移転し球団名も「札幌華生堂メッツ」と改称している。
本拠地は東京都国分寺市にあるという設定の国分寺球場で札幌移転後は札幌ドームを本拠地としている。
主な登場人物
東京メッツ
- 岩田鉄五郎
作中の多くのエピソードで中心人物として登場する、メッツの老エース。左投左打、背番号18。年齢はエピソードによって前後するが、概ね50歳前後。投球時に「にょほほほほ」という掛け声を発するのが特徴。戦前の中等学校野球ではヒットを打たれるだけでニュースとなるほどの学生野球界屈指の剛腕左腕として有名で、日本で初めてフォークボールを投げたのは杉下茂より5年早い自分だと主張している。プロフィールによれば、かつて完全試合を達成した事もある。現在は若い頃に比べるまでもないが、それでも現役を貫くかっこいいジジイ。『球聖』の異名をとる。
『平成編』~『新』では監督兼任とはいえ70代にして未だ現役。『vs.ドカベン』の時点では80歳という凄い状態になっている(娘婿の清志はとっくに引退、孫の武司もベテランの域に入っている)。この頃になると流石に先発することはほぼ無く、たまにワンポイントリリーフなどで登板する。『新』第1巻のカバーに書かれたプロフィールによれば、200勝400敗を達成している。『新』では直球はせいぜい130キロ前後だが、直球と同じ球速のフォーク、更に遅い80キロ代のカーブ、心理戦の駆け引きといった老獪なピッチングで強打者をかわしていく。…と、今サラッと書いたが70代で130キロの球を投げるというのは普通に考えれば超人である。松井秀喜相手に140キロを投げたこともある。非常に柔らかい筋肉の持ち主で、それが長年現役を続けられる秘訣らしい。
打撃も得意で、作中では打席に立つと、結構な確率でヒットを放っている。
水島漫画でよく見られる、関西出身でもないのに関西弁でしゃべるキャラクター。 - 五利一平
メッツ監督(岩田が監督のときはヘッドコーチ)。岩田とは現役時代にバッテリーを組んでいた。岩田より年下らしい。岩田のことは「鉄っつぁん」と呼ぶ。岩田が目立ちすぎるため、やや影が薄い。岩田と同じく関西弁でしゃべる。岩田によく振り回される現在の姿からは想像しづらいが現役時代は強打者としてならしており、中等学校時代に無敵をほこった岩田のフォークを初めて打ったのは彼。プロ通算打率は3割を超えている。
『新』では2002年の最終戦で投手起用を巡って岩田と対立したことがきっかけでコーチを辞任、岩田との50年に渡る付き合いを絶ってかつての親会社であるメッツ食品でサラリーマンになる。しかし岩田がピッチャー返しの打球を顎に食らい離脱、水原が代行監督となるが2桁連敗を喫する有様となったことでオーナーからヘッドコーチ(兼代行監督)として呼び戻され、その後復帰した岩田とも無事和解して元の鞘に収まった。 - 水原勇気
ドリームボールを擁する、おそらくフィクション作品における、初の女性プロ野球選手。
元々は獣医を目指していたが、鉄五郎の熱意に心を動かされてそれを棒に振ってプロ入りする。得意球はストレートとナチュラルに曲がる変化球、そして魔球「ドリームボール」。メッツにおいては左のワンポイントとして登板する。
『平成編』~『新』では新たな女性投手・国立珠美(後述する国立玉一郎の娘)にドリームボールを伝授する。その後いろいろあって投手コーチに就任、そして選手兼コーチとして現役復帰する。(苗字は変わっていないが)中学生の娘がいる既婚者で年齢も40代に入っているが、ドリームボールのキレは健在でリリーフを務める。 - 火浦健
メッツの若きエース。人呼んで「北の狼」。
幼少期に生母と双子の弟と生き別れ、ヤクザの火浦政に育てられたが、その後、自分のためにヤクザから足を洗おうとした父を殺した暴力団組長に報復したために2年間服役、釈放後に上京しテストを経てメッツに入団した。
ルーキーイヤーに20勝を達成、その後、生母と再会した。
家族運が非常に悪く、父は早世し、母と弟とは父の死後まもなく前述のとおりに生き別れ、養父は殺され、妻も結婚後わずか2年で亡くしているなど、とても不幸な人(ただし、生母は再会後はずっと一緒に暮らしている)。
なお、弟・王島大介は阪神タイガースのスラッガーで「南の虎」の異名を持つ設定。
『平成編』以降はメッツのライバル、大阪ガメッツの選手兼監督となる。 - 国立玉一郎
メッツの4番打者。ポジションは内野手でサード。別名「スラッガー藤娘」。
女形を十八番とする歌舞伎役者の家系に生まれ、歌舞伎の稽古を受けているためか、物腰は柔らかく優雅である。
のちの時代(『平成編』)には、実娘がメッツ入りすることになる。 - 千藤光
ショーマンシップに満ち溢れた選手。
ポジションは当初ピッチャーのち、ショート。やることなすこと派手だが、実は円形脱毛症でハゲがバレた当初は野次られまくってひどく調子を落とした。その後、開き直ってスキンヘッドにしたことで復活。 - 富樫平八郎
メッツの選手。ポジションは投手→外野手。高校時代は自分を上回る才能の持ち主である日下部了の存在もあって、公式戦での登板はわずか1試合、1球のみだった。その後、野手にコンバートされ、代打の切り札として活躍。彼が主演した「ウォッス10番」「ガッツ10番」「スラッガー10番」の10番三部作は女性キャラを作者が尊敬している里中満智子が描いている。 - 吉田心太郎
記念すべき第1話「ふたり心太郎」の主人公。幼少期に母と生き別れ、彼を担当していた警察官の吉田巡査に引き取られて育つ。明訓高校時代には甲子園においてノーヒットノーランを2回、決勝戦を完全試合で飾る無双ぶりで卒業後はドラフト1位でメッツに入団。(ちなみにこのエピソードでは岩田はまだ登場してないため、彼が背番号18に設定されている。)
その後わずか3年間で99勝(1年目31勝、2年目32勝、3年目36勝)し、沢村賞などの数々の投手タイトルを獲得するも、4年目の開幕戦で酷使がたたって故障、その後全く勝てなくなり10年目のシーズンでは支配下登録こそされているが扱いは打撃投手にまで落ちていた。
その後、認知症になっていた生母と再会、このこともあってか、7年ぶりに勝利し通算100勝を達成した。
その後のエピソードでも登場するが、岩田の存在もあり、背番号は21になっている。 - 甚久須
グリグリメガネの冴えない風貌ながら、神がかり的なジンクスの持ち主でメッツの危機を救う選手。初登場エピソードでクビになったはずだが、なぜかその後も普通に登場している。本名は野呂甚久須。エピソードによって投打の左右がコロコロ変わるので両投げ両打ちと思われる。実は実家は資産家。 - 長島太郎
長嶋茂雄の熱狂的ファンで風貌やプレースタイルまで長嶋に似せた男。草野球チームを作るとチーム名は必ず「ジャイアンツ」、ポジションは常にサード、背番号は3、女性は「亜希子」という名前じゃないと結婚しないと言いはり、挙句の果てにはプロ野球選手になろうとし(なお、毎年不合格になっている)知人からも「ミスターばか」と呼ばれている。しかし、1973年のオフにそれまでの努力が実を結び遂にメッツに合格。背番号は30(当然、「0が余計だ」と不満を漏らしている)。シーズン序盤から中盤までは大して活躍できなかったが、シーズン終盤で1軍に昇格、更に背番号も念願の「3」に変更されたこともあって大奮起、活躍を見せる。さらに長嶋茂雄の引退試合と同日に行われた試合では4番・サードで出場。現役最初で最後のホームランを打ちわずか1年で引退した。そんな彼について岩田は「あいつには長嶋茂雄にまさるとも劣らぬものがたったひとつある。それは、燃える心とたゆまぬ努力だ!」と賞賛した。 - 青田心太郎
『平成編』以降のメッツの不動のエース。元々は大阪ガメッツへの入団を希望していたがメッツに指名され、岩田の命がけの説得に折れて入団する。 - 国立珠美
『平成編』から登場。国立玉一郎の実娘で、ドリームボールを伝授してもらおうと水原のもとへやってくる。だがドリームボールを投げるためのフォークの握りをするには指の幅が足りなかったため、手術で幅を広げドリームボールを習得する。当初はリリーフ、のち先発投手として活躍する。 - 羅生門
『平成編』以降の4番打者でサード。髭をはやした大男で、低迷するメッツの中で本塁打王を争うなど心強い存在だったが、音武田入団後は5番ライトとなる。その上、4番不在に悩まされていた大阪ガメッツからトレード要請がきて、岩田の孫である岩田武司と交換トレードされる。 - 岩田武司
岩田の孫で『平成編』からの登場。アメリカ2Aでプレーしていたが、1999年に大阪ガメッツに入団する。本来はピッチャーだが打撃力の高さを買われてセンターとの二刀流で起用される。その後『新』で羅生門とのトレードでメッツに入団。5番ライトとなる。 - 円山大地
『新』で登場。巨人への入団を志望していたが、メッツの札幌移転に際し、地元出身のスター選手として2000年ドラフト1位で指名される。3番センターを務める。 - 音武田祭
『新』で登場。2000年ドラフト2位で入団。豪快なお祭り男で入団直後から4番サードを務める。 - 青空晴太
『新』で登場。初め草野球でヒット1本5千円という約束で助っ人打者をしていた。プロ入り後もヒット1本5万円の完全出来高制で契約する。ポジションはショート。国立珠美に惚れている。 - 村雨周道
『新』で登場。青空同様、草野球の助っ人投手を務めていた。その正体は住職であり、多くの檀家を抱えているためプロにはなれないとしていたが、2001年ドラフト1位で指名され、関東での試合(巨人・ヤクルト・横浜)限定で契約する。打力も高い。
他球団
- 力道玄馬
阪神タイガースの選手。背番号は11(現実では村山実以後、永久欠番になっている)。
元々は投手で、「メッツキラー」で名で知られていたが、肩を完全に故障して引退するはずだった。しかし、引退試合で「秘打鉄殺し」と称する高いバウンドのサヨナラ内野安打を打ち、バッターとして復活を果たす。六甲おろしの替え歌を応援歌として持っている。 - 王島大介
阪神タイガースの選手。背番号は10(現実では藤村富美男以後、永久欠番になっている)。別名は「南の虎」。
高校時代はスラッガーとして名を馳せており、甲子園で優勝した年に阪神タイガースにドラフトで指名される。両親が実の親ではないことは知っており、実母とはそれとは知らず顔を合わせた事はあったが、親子として対面するのは『平成編』までなかった(この時に火浦が双子の兄であることも知る)。本名は「二郎」。 - 武藤兵吉
広島東洋カープの選手。背番号77。元・メッツの2番手捕手で水原勇気のドリームボール習得に貢献するが、完成を見ることなく広島にトレードされる。その後は打倒ドリームボールに情熱を傾ける。のち交通事故に遭い『新』で再登場した際には車いす生活となっている。 - 海王神人
大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)の選手。背番号0。神がかり的な打撃能力でホームランを量産、低迷していた大洋を15連勝に導く。野球以外にも彼のファンであった岩田の孫の武司が病気に倒れ、意識不明の重体になっている最中、岩田家を訪問、手を握っただけで武司の意識を回復させたり、残飯に己の手汗をかけて美味くさせたりするなど奇跡を起こす。その後岩田と対決、一打サヨナラの場面で岩田の命を賭した投球で三振を喫する。瀕死の岩田に触れて蘇生させたことを最後に神がかり的な力は消え、その後は3割打者を目指すごく普通の選手となった。 - 仙台又三郎
『新』に登場。ガメッツの代打要員。武藤兵吉の息子であり風貌もそっくり。親子二代に渡ってのドリームボール攻略に悲願を燃やす。
テレビアニメ版主題歌
- 野球狂の詩
- 作曲・編曲:渡辺宙明 歌:堀江美都子、コロムビア男声合唱団
全編を通じてのオープニングテーマで、歌と言うよりもスキャット。勇気が登場しない第12話以降でも、オープニングでは勇気がトップで紹介されている。 - 勇気のテーマ
- 作詞:水島新司 作曲・編曲:渡辺宙明 歌:堀江美都子
第11話まで使用されたエンディングテーマ。冒頭には「この作品を 野球を愛するすべての女性ファンに捧げます。」というテロップが挿入される。 - 栄光の彼方へ
- 作詞:橋本淳 作曲・編曲:渡辺宙明 歌:水木一郎
第12話および第15話以降のエンディングテーマ。 - 北の狼・南の虎
- 作詞:橋本淳 作曲:中村泰士 編曲:萩田光雄 歌:水木一郎
第13~14話の主題歌。 - かあさんの灯火
- 作詞:橋本淳 作曲:中村泰士 編曲:萩田光雄 歌:水木一郎
第13~14話のエンディングテーマ。
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