長期金利単語

チョウキキンリ
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長期金利とは、融業界の用で、次のことをす言葉である。

  1. 長期金融市場で形成される期間1年利の総称。
  2. 長期金融市場で形成される期間1年利の中で最も中心的な存在として位置づけられている新規発行10年物国債利回り

本項では1.と2.の両方について解説する。
 

1.の概要

を運用・調達する取引が行われる市場のことを市場という。1年以下の期間の資を扱うものは短期金融市場といい、1年をえる期間の資を扱うものは長期金融市場という。長期金融市場で形成される利をすべてまとめて長期金利と呼ぶ。

ここでいう「利」という言葉は、「利率」を意味したり「利回り」を意味したりする。長期金融市場の長期貸付市場銀行Aが企業Bに対して貸し付けするときの利なら「利率」という意味である。長期金融市場国債市場利なら「利回り」という意味である。

銀行企業計に1年をえる期間で貸し出しするときの利は、長期金融市場利のを受ける。5年~10年といった長期にわたる自動車ローンを組むときや、25年~30年といった長期にわたる住宅ローンを組むときは、長期金融市場利を参考にして決める。

企業計が銀行に対して2年~10年の定期という形式でお金を貸し付けるときの利も、長期金融市場利のを受ける。
 

2.の概要

長期金融市場のなかに債券市場があり、債券市場の中に中期国債・長期国債長期国債市場があり、中期国債・長期国債長期国債市場の中に新規発行10年物国債(新発10年物国債)を扱う市場がある。この新規発行10年物国債市場こそが長期金融市場の中心地である。新規発行10年物国債利回りが長期金利の代表格とされる。

日本政府国債を発行しているのだが、その中で発行量が多く中心的な存在とされているのが10年物国債である[1]

大量の10年物国債を1年のうち1回だけに集中させて市場へ売却するわけではなく、1年のうち12回に分けて1ヶに1回のペース市場に売却している[2]。つまり、新規発行10年物国債市場に1回の割合で年がら年中開かれている。
 

国債利回りの上昇=国債価格の下落

「長期金利が上昇する」とはどういう意味か。それはまず、新規発行10年物国債利回りが上昇するということである。

新規発行10年物国債利回りが上昇するということは、新規発行10年物国債が売り手優勢になって値段が下落するということである。

利回りの記事で、単利利回りであっても複利利回りであっても、売り手優勢になって国債の値段が下がると国債利回りが上昇することを確認できる。ちなみに日本の債券市場で採用されている利回り単利利回りである。
  

国債の売買 国債が買われる 国債が売られる
国債の価格 国債の価格が上がる 国債の価格が下がる
国債利回り 長期金利(国債利回り)の下落 長期金利(国債利回り)の上昇

 

期待インフレ率と金融政策予想が、新規発行10年物国債の利回りを決める

日本国債は自不換銀行券建て国債なので、債務不履行デフォルト)することなく100%確実に返済される。『債券発行者に対する信用リスク』が皆無であり、これを理由として売りに走る者は存在しない。

日本国債の利回りを決める最も大きな要因は、期待インフレ率とそれに合わせた中央銀行融政策の予想になる。

インフレが強くなり債権者(貸し手)が苦しくなるので、中央銀行短期金利の利上げをして債権者(貸し手)の利益を保護するだろう」と市場関係者に思われたら、国債が売られて国債価格が下落して利回りが上昇する。そして市場関係者が「十分に利回りが上がっただろう」と思ったところで国債の売りが止まる。

デフレが強くなり債務者(借り手)が苦しくなるので、中央銀行短期金利の利下げをして債務者(借り手)の利益を保護するだろう」と市場関係者に思われたら、国債が買われて国債価格が上昇して利回りが下落する。そして市場関係者が「十分に利回りが下がっただろう」と思ったところで国債の買いが止まる。
 

国債の売買 国債が買われる 国債が売られる
国債の価格 国債の価格が上がる 国債の価格が下がる
国債利回り 長期金利(国債利回り)の下落 長期金利(国債利回り)の上昇
期待インフレ率中央銀行融政策の予想 デフレが強くなりそうだ、中央銀行短期金利の利下げが行われるだろう」と思われている インフレが強くなりそうだ、中央銀行短期金利の利上げが行われるだろう」と思われている

 

新規発行10年物国債の利回りは市場原理で決まることが多い

短期金利の代表格である担保コール翌日物利は、日本銀行全に支配下に置いており、いつも完璧に誘導している。担保コール翌日物の利には市場原理が働かない。

一方で、長期金利の代表格である新規発行10年物国債利回りは、日本銀行が支配下に置くことが少なく、市場原理に委ねられることが多い。

新規発行10年物国債が「中央銀行Aが発行する不換銀行券建て」である場合、中央銀行Aは好きなだけ不換銀行券や「不換銀行券に即座に交換できる中央銀行」を発行して新規発行10年物国債を買い取ることができるため、その気になれば中央銀行Aは新規発行10年物国債利回り自由自在に操作できるのだが、あえて操作しない。

「新規発行10年物国債市場というのは、今後10年間のインフレ率と短期金利担保コール翌日物の利)を参加者が好きなように予想して発表し、その発表された予想の中で最も適切であろうと思われるものが支持される場所であり、中央銀行が邪魔をするべきではない」とか「市場関係者による研究発表の場を温存する必要がある」と考える中央銀行が多い。

米国FRBも、長期国債を買い入れて長期金利を操作することを避けてきた。1961年ツイストオペで長期国債を買って長期金利を操作し、それ以降は長期国債買いオペを実施せず、再び長期国債買いオペを行ったのが2009年リーマンショック時のことである[3]

2016年9月以前の日本銀行も自分の運営するウェブサイトで「長期金利について日本銀行は思いのままに動かすことができない」と書いていたほどである[4]
  

新規発行10年物国債の利回りを中央銀行が操作する例

長期金利の代表格である新規発行10年物国債利回り中央銀行が操作することは、歴史上あまり多くないが、たまに見られる。

日本では2016年9月以降に日銀が長短利操作付き量的・質的緩和を実行するようになり、「長期金利を誘導することやイールドカーブを操作することは可である」と宣言しつつ、長期金利を準に維持するようになった。

米国では1961年2011年FRBがツイストオペとかペレーションツイストと呼ばれる融政策を実行した。ツイスト英語twistと書き、「ねじれる」という意味である。いずれの年でも、中央銀行が長期国債を購入して長期金利を下げつつ短期国債を売却して短期金利を引き上げ、長短利差を縮小し、イールドカーブを寝かせてフラット化させ、銀行の収益に打撃を与えるという副作用を甘受しつつ気刺した。

ちなみに中央銀行が長期国債を売却して長期金利を上げつつ短期国債を購入して短期金利を引き下げることもツイストオペという。その場合は、長短利差を拡大し、イールドカーブを立たせてスティープ化させ、気が悪くなるという副作用を甘受しつつ銀行収益の善をすことになる。
 

長期金利の形成に関する3つの仮説

長期金利の代表格である新規発行10年物国債利回りと、短期金利の代表格である担保コール翌日物の利は、ほとんどの場合で異なった数値になる。

長期金利はどのようにして形成されるのか、それについては3つの仮説がある。
   

純粋期待仮説

期待仮説とは、市場関係者が予想する今後10年間の短期金利均値が新規発行10年物国債利回りになる、という考え方である。

2000年1月10日頃に新規発行10年物国債市場が開かれたとする。その市場関係者は、2000年から2009年までの短期金利をすべて予想する。

2000年から2009年までのうち、2000年2004年2008年夏季オリンピックがあって家電の需要が増えるだろう。2002年2006年ワールドカップ冬季オリンピックがあって家電の需要が増えるだろう。だから短期金利の予想を書くと2000年2%2001年1.52002年2%2003年1.52004年2%2005年1.52006年2%2007年1.52008年2%2009年1.5」などと予想する。

そして、10年間の短期金利均値を出す。1.02×1.015×1.02×1.015×1.02×1.015×1.02×1.015×1.02×1.015=1.1894086... と計算する。そして、1.1894086の10乗根を計算する[5]

1.1894086の10乗根を計算するには表計算ソフト=(1.1894086)^(1/10) と入する。出てくる答えは1.01749なので、この場合の新規発行10年物国債利回り1.749になる。

期待仮説の短所は、順イールドをうまく説明できないというところである。2年物国債利回りが1年物国債利回りよりも高くて3年物国債利回りが2年物国債利回りよりも高いといった状態を順イールドというが、純期待仮説に従うと「順イールドになっているということは、短期金利が右肩上がりに上昇し続けるとみんなが予想しているからだ」ということになり、その解釈はやや理があるとされている[6][7]
 

流動性プレミアム仮説

流動性プレミアム仮説は、タームプレミアム仮説とかリスクプレミアム仮説ともいう考え方で、リスクプレミアムというものを考慮する考え方である。

リスクプレミアムというのは不確実性に対する保険というべきものである。1年物国債利回りよりも2年物国債利回りの方が長期間で、予想が外れる危険性が高く、不確実性が大きいのだからリスクプレミアムを大きくする。同じ理由で、2年物国債利回りよりも3年物国債利回りのほうが不確実性が大きいのだからリスクプレミアムを大きくするし、3年物国債利回りよりも10年物国債利回りのほうが不確実性が大きいのだからリスクプレミアムを大きくする。

「自分の予想が外れるかもしれないという不安感」がリスクプレミアムになる、と考えてもよい。「のごとく将来を見通すことができ、短期金利の推測に誤りがない」と強気に思っていればリスクプレミアムが0になる。「将来どうなるか分からない」と弱気になればリスクプレミアムが上がる。

流動性プレミアム仮説の長所は、順イールドをうまく説明できるところである。

流動性プレミアム仮説の短所は、逆イールドをうまく説明できないところである。
  

特定期間選好仮説(市場分断仮説)

特定期間選好仮説とは、短期金利と長期金利は全く別の需給関係によって決まり、さまざまな期間の長期金利も全く別の需給関係によって決まる、という考え方である。

特定期間選好仮説とよく似ていて同一視されることが多いのは市場分断仮説である。

市場にはさまざまな業者が参加しているが、業者ごとに好みの投資期間が異なっていることが分かっている。たとえば、銀行は5年以内の債券に投資するのが一般的で、保険企業は10年をえる長期の債券に投資するのが一般的である[8]

新規発行5年物国債市場への参加者と、新規発行10年物国債市場への参加者と、新規発行40年物国債の参加者は異なるのだから、それぞれの市場でまったく異なる需給関係が存在しているのであり、「期間が長いほどリスクプレミアムが大きくなって順イールドになる」とは限らない、と論ずる。

特定期間選好仮説の長所は、順イールドも逆イールドも説明できるという点である。
 

純粋期待仮説と流動性プレミアム仮説の混合

期待仮説と流動性プレミアム仮説を混合させて長期金利の形成を説明することがある。

2000年1月に新規発行2年物国債市場が開かれたとする。その市場関係者は、2000年2001年短期金利を予想し、2ヶの短期金利掛け算して、それから平方根を計算する。ここまでは純期待仮説と同じだが、さらにリスクプレミアムを足す。2年物なのでリスクプレミアムも低めになる。

2000年1月に新規発行10年物国債市場が開かれたとする。その市場関係者は、2000年から2009年までの短期金利をすべて予想し、10ヶの短期金利掛け算して、それから10乗根を計算する。ここまでは純期待仮説と同じだが、さらにリスクプレミアムを足す。10年物なのでリスクプレミアムも高めになる。
 

イールドカーブ

定義

横軸を期間として、縦軸を利回り)として、さまざまな期間の国債利回りの点を書き入れ、その点を結んだ線のことをイールドカーブとか利回り曲線という。

イールドカーブはなだらかな曲線になることが多い(画像検索結果exit)。
 

順イールド

順イールドとは、イールドカーブがおおむね右肩上がりとなっている状態のことをいう。短期金利が低くて長期金利が高いという状況である。

人類の歴史を振り返ると、イールドカーブが順イールドとなったことが多い。
 

スティープ化

順イールドの右肩上がりの度合いが大きくなり、まるで急な坂であるかのようになった状態のことをスティープ化とかスティープニング(steepening)という。steep英語で「急な坂」という意味である。また日本語の表現では「イールドカーブが立っている」と表現する。

長期金利と短期金利の差が拡大している状態であり、長短利差の拡大とも呼ばれる。

イールドカーブがスティープ化して長短利差が拡大することは、銀行の経営を助けるものである。

銀行が預者に向かって払う利子は、普通や「1年以下の定期」のものが多く、「1年をえる定期」のものが少ない。そして普通や「1年以下の定期」の利は短期金利を参考にして決め、「1年をえる定期」は長期金利を参考にして決める。そして銀行の貸し出しは1年をえる長期貸付が多いが、このときの利は長期金利を参考にして決める。つまり要するに、「銀行資産は長期金利に連動し、銀行負債短期金利に連動する」といってよい状態である。

また、イールドカーブがスティープ化して長短利差が拡大することは、企業計の経営に打撃を与えるものである。企業計は短期金利を参考する普通や「1年以下の定期」を利用することが多く、長期金利を参考にする1年借り入れでローンを組んでいることが多い。
 

フラット化

順イールドの右肩上がりの度合いが小さくなり、まるで坦な野原であるかのようになった状態のことをフラット化とかフラットニング(flattening)という。flat英語で「坦な野原」という意味である。また日本語の表現では「イールドカーブが寝ている」と表現する。

長期金利と短期金利の差が縮小している状態であり、長短利差の縮小とも呼ばれる。

イールドカーブフラット化して長短利差が縮小することは、銀行の経営に対する打撃となる。また、企業計にとって経営を助けるものである。
  

逆イールド

逆イールドとは、イールドカーブがおおむね右肩下がりとなっている状態のことをいう。短期金利が高くて長期金利が低いという状況である。

人類の歴史を振り返ると、イールドカーブが逆イールドとなることは非常に少ない。通常の状態から逆転した状態なので、「長短利の逆転」と呼ばれる。

何らかの異常な現が起こってインフレ一気に進み、それに対応するため中央銀行短期金利の利上げを一気に行うと逆イールドになる。あるいは何らかの異常な現が起こって気の先行きに不安感が生まれ、株式を売って長期国債を買う動きが一気に進み、長期金利が急に低下すると逆イールドになる。

アメリカ合衆国市場関係者の間では「逆イールドになった後に大きな不況が訪れる。逆イールドは不吉である」とり継がれている。1988年12月に逆イールドになり、1990年7月気後退が始まった。1998年5月に逆イールドになり、2001年3月ITバブルが崩壊して気後退が始まった。2005年12月に逆イールドになり、2007年12月サブライムローン問題による気後退が始まった。2019年8月に逆イールドになり、2020年2月頃からコロナ禍アメリカ合衆国を襲って気後退が始まった。
  

関連項目

関連コトバンク記事

関連Wikipedia記事

その他

関連項目

脚注

  1. *知るぽると『1.金利の巻exit』。ただし日本政府は2年物国債や5年物国債も10年物国債に迫るほどの量で発行してる。詳しくは国債の記事を参照のこと。
  2. *債務管理リポート2020exitの39ページには様々な国債の新規発行の頻度が掲載されており、新規発行10年物国債は1ヶに1度のペースで発行されていると記述されている。『債券の基本とカラクリがよ~くわかる本 第3版(秀和システム久保田博幸』の63ページには、財務省の資料を参考にして国債の入札日程を記してある。それを見ると、10年物の利付き国債に1回のペースで売り出されていることが分かる。
  3. *中央銀行融政策がよくわかる本(秀和システム久保田博幸 144ページ
  4. *2016年11月17日参議院財政融委員会において白眞勲議員がそのことを摘している。議事録五ページexit
  5. *2乗してaになる数をaの平方根というが、これは中学数学で出てくる。3乗してaになる数をaの3乗根(立方根)、10乗してaになる数をaの10乗根、n乗してaになる数をaのn乗根といい、これらは高校数学で出てくる。つまり、累乗根の一部の平方根だけが中学数学で出てきて、累乗根の全てが高校数学で出てくる。
  6. *『(純期待仮説)によれば、利回り曲線右上がり(順イールド)のことが多いのは投資利上昇を予想することが多いから、というやや説得の弱い解釈となってしまう。』新・証券投資論Ⅱexit_nicoichiba日本経済新聞出版社)伊藤敬介・荻治・諏訪部嗣 34ページ
  7. *『しかし、過去のイールドカーブの形状を見ると大部分の期間で順イールドでした。したがって、もし純期待仮説が過去のイールドカーブに妥当するのであれば、大部分の期間で利の上昇が起こらなければなりません。しかし、実際にはそのような現は起こっていません。したがって、その点から言えば、純期待仮説は現実に妥当していないと言えそうです。』入門・証券投資論exit_nicoichiba(有閣)岸本直樹池田幸 93ページ
  8. *債券の基本とカラクリがよ~くわかる本 第3版(秀和システム久保田博幸 82~83ページ

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長期金利

1 ななしのよっしん
2022/06/14(火) 08:54:13 ID: RgXilqHPiS
利上げしないといけないけど利上げしたら日本経済が破綻するからできない
だから利率が上がらないように永遠にをつぎ込むことを決めた
決めたと発表したから24時365世界から食い物にされてる
さらに最悪なことに出口
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