阪堺電気軌道とは、大阪府大阪市と堺市で営業している、南海電気鉄道の完全子会社の鉄道事業者である。
概要
会社名からも分かるように、軌道(路面電車)である。阪堺電気鉄道ではない。
単に「阪堺」や「阪堺電軌」、「阪堺電車」の通称で呼ばれるが、一部の人からは「チン電」と呼ばれている。府内唯一の路面電車でもある。
営業路線は阪堺線(恵美須町~住吉~浜寺駅前)と上町線(天王寺駅前~住吉~住吉公園)の二路線であるが、2009年7月4日のダイヤ改正で上町線(天王寺駅前~住吉)と阪堺線(住吉~浜寺駅前)の相互直通運転が開始され、こちらがメインルートとなった。一方、阪堺線(恵美須町発着)は朝夕ラッシュを除き我孫子道折り返しに運行が短縮された。
こうして運行形態が「恵美須町~浜寺駅前」「恵美須町~我孫子道」「天王寺駅前~浜寺駅前」「天王寺駅前~住吉公園」の四系統となったが、2013年2月2日のダイヤ改正により「恵美須町~浜寺駅前」が全廃となり、同時に日中毎時5本あった恵美須町発着が毎時3本に減便されてしまった。2020年現在は「恵美須町~我孫子道」「天王寺駅前~浜寺駅前」「天王寺駅前~我孫子道」の三系統が中心となっている。
このほか、「天王寺駅前~住吉公園」の系統も存在したが、2016年に消滅した。2014年3月1日のダイヤ改正で住吉公園発着の大半の電車が我孫子道発着に振り替えられ、住吉公園発着の電車は朝7・8時台の全5本(休日は全4本)に大幅削減されていたのだが、2016年1月31日を廃止予定日(運行最終日は1月30日)とするとして、国土交通大臣宛に廃止申請書を提出したことを2015年8月28日に阪堺電気軌道が発表したのである。この件について同社は、「住吉~住吉公園駅間の線路は敷設から60年近く経過し改修が必要となっているが、ダイヤモンドクロスの改修に数億円規模の費用がかかることから経営的な判断で廃止を決めた」としている。路線廃止後は、住吉公園発着はそのまま我孫子道発着に変更される予定である。この経緯を鑑みると、前述の阪堺線大阪市内減便の余波を受けての大幅減便→廃止(住吉~我孫子道間の運転本数確保)というよりは、初めからダイヤモンドクロスの改修による出費を避けたかったのではないか、と考えられる。
なお、阪堺電気軌道は住吉公園停留場と住吉鳥居前停留場を同一駅扱いで時刻表に掲載している(両駅は70mほどしか離れていない)。
上町線・阪堺線とも併用軌道区間が比較的多く、路線全長の半分近くを併用軌道が占めている。堺市内は車道と切り離されているので問題はないのだが、大阪市内にある天王寺駅前停留場~松虫停留場間、東天下茶屋停留場~帝塚山四丁目停留場間及び天神ノ森停留場~細井川停留場間は軌道が車道と共用状態になってしまっており、自動車が路面電車の運行の妨げになることがしょっちゅうである。特に天神ノ森停留場~東粉浜停留場(東粉浜一丁目以北)の間は道路拡幅工事の際にこの区間の道路西側が何らかの理由で拡幅出来なかったそうで、そのために線路が中心を通っておらず(下り線が道路のほぼ中心を通っている)、道路幅が狭くなる東粉浜一丁目以北では北行きの車道が軽自動車すら通れない幅しか確保されていない(2.5m程度の幅員に電柱が内側1m近くまでせり出して立っているため、事実上の道路幅は1.5m程度しかない)。ゆえに北行きの自動車は併用軌道上にはみ出して走行せざるを得ず、塚西・東玉出各停留場の上り線には安全地帯が無い(道路脇の電柱より後方で電車を待って、電車が来たら車に注意して道路を渡り乗車する)。そんなわけで軌道の状態があまり良くない区間が多く、結構蛇行動を起こし揺れるのも有名である。
過去には道路の混雑が激しい天王寺駅前停留場~松虫停留場間の地下化が検討されたこともあったが、様々な問題があったため断念し、結局あべの地区の再開発・道路拡幅事業に合わせて天王寺駅前停留場~阿倍野停留場南側(阿倍野筋4丁目付近)を現在よりも西側に移設することで対処することとなった。新線への切り替えは2017年1月の予定とされていたが、当初の予定よりおよそ1ヵ月早い2016年12月3日に供用が開始された。今後旧線が撤去されると同区間は全て片側2車線となり、路面電車とは芝生帯で完全に分離され、同エリアの渋滞緩和や電車の遅延抑止が期待される。
ちなみに、2012年時点で低床電車を保有していない路面電車事業者であったが、2013年に初の低床電車となるモ1001型(通称「堺トラム」)が導入された。現在は3編成が投入され、天王寺駅前~浜寺駅前間で毎日運行。2020年に更に1101形を投入し、超低床型車両は全部で4編成。
2010年11月12日にスルッとKANSAI協議会に加盟している。
→2014年4月1日にPiTaPa導入。ソース http://www.hankai.co.jp/topics/pdf/131122.pdf
始発駅(天王寺駅前など)を出発する際は、以前はJRの夜行バスで使われているのと同じ曲のチャイムが使用されていた。現在は四点音のチャイムに変更されている。
歴史
現在の阪堺電気軌道は、1980年に南海電気鉄道の子会社として設立された二代目である。
初代・阪堺電気軌道は、1910年に設立された。1912年に宿院停留所で分岐して大浜公園に向かう大浜支線が開業すると乗客も激増し、並行するライバルの南海鉄道(南海電気鉄道の前身)と熾烈な乗客獲得競争を繰り広げることとなる。しかし、1915年には一転して両社は対等合併する運びとなり、阪堺電気軌道は解散し、同社の路線は南海鉄道の大阪軌道線として編入されることとなった。
近畿日本鉄道(戦時中に国から合併を強制)、南海電気鉄道(戦後に独立)を経て同社の軌道線として活躍してきたが、1970年代に大きな変革を迫られる事態となる。沿線の宅地開発により人口が激増し、輸送力が逼迫するとして都市交通審議会で高速鉄道の整備が必要と答申されるのである。結局大阪市が地下鉄谷町線を延伸することを決定し、また阪神高速の建設を計画していた阪神高速道路公団に路盤を譲渡することも決まったため、南海平野線の廃線が決定した。そして、地下鉄開業の同日となる1980年11月27日に営業を終了し、12月1日より残った上町線と阪堺線が二代目の阪堺電気軌道に譲渡され、新会社としての営業がスタートした。
現有車両
モ161形のみ行先表示器が幕式(それ以外は元からLED式か幕式からLED式に改造中)。
また、非冷房車はモ161形のみである。
車両型式名 | 特徴 |
モ161形 | 阪堺の前身企業である「南海鉄道」が投入。1928年デビュー。 半鋼製(台枠や骨組みは普通鋼製、屋根は木造キャンバス張り)であり、 その構造が故に冷房搭載が不可能となっている。 そのため夏場だけは定期運用には入らず予備車両として車庫で寝ているニートレインである。 かつては南海平野線(1980年廃止)で連結し総括運転を行うため、 自動連結器や間接非自動マスコン、非常管付き直通ブレーキ(SME)を搭載していたが、 単行運転しか行わなくなったため1980年に非常管の無い直通ブレーキ(SM-3)に交換されている。 定期運用のある電車としては最も古い上に現役稼働年数最長であるが、 平成26年に故障や全般検査で安全面に重大な問題が見つかったなどの理由で 現役稼働車7両中3両が相次いで休車となっており、いよいよ老朽化が切迫している様子である。 まもなく車齢90年となる本形式の今後の行く末が懸念されるところである。 |
モ351形 | 南海電鉄管轄時代の末期である1962年にデビュー。 かつて南海鉄道が運用していた木造電車の電3形(モ101形)の置換用として投入された。 車両構造はモ501形と共通であるが、 駆動系に関してはモ101形からモーターを流用しそれを吊り掛け搭載しているのが最大の違い。 2001年にモ161形と同形式のモーターを装備していたモ301形の廃車発生品と取り替えられ、 モ161形とモーターを共通化することでメンテナンスの合理化が図られている。 夏場に(通常ダイヤで)吊り掛けサウンドが聞こえてきたら十中八九コイツが来たと思って良い。 |
モ501形 | 1957年デビュー。全鋼製車。 かつて大阪市交通局が走らせていた「大阪市電」の3001形とよく似たスタイリングを持つ。 駆動系にはWNドライブ(平行軸カルダン駆動)方式を採用した、 当時としては高性能な車両だった。 この車両はフートゴング(鐘)を搭載していない。 理由は、沿線住民から「うるさい」と苦情があったため。 |
モ601形 | 1996年デビュー。車体や台車はモ701形と同一で、 WNドライブ(平行軸カルダン駆動)方式を採用している。 その一方で、ブレーキや制御機器は元大阪市電1601形→後の阪堺モ121形の 廃車体から流用しているのが最大の違い。 流用品は昭和42年のモ121形譲受時に交換した部品に限定されているため、 そんなに古い部品を流用しているという訳でもないのであるが ブレーキ性能は旧来車(モ501形等)と比べると車重が重めなせいか低い模様。 |
モ701形 | 1987年デビュー。阪堺初の電気指令式ブレーキ・ワンハンドルマスコンを採用し、 スタイリングも近代的なものになった。 WNドライブ(平行軸カルダン駆動)を採用している高性能車。 ブレーキ性能がこれまでの車両と段違いに良いせいで、ブレーキランプが搭載されている。 しかし制御方式は相変わらず抵抗制御のまま。 |
1001形 | 2013年デビュー。愛称「堺トラム」。阪堺初の超低床電車・VVVFインバータ制御車。 第1編成(1001F)には「茶ちゃ」、第2編成(1002F)には「紫おん」、 第3編成(1003F)には「青らん」という別愛称も付けられている。 時刻表にはどの時間にこの列車が入るのかが公開されているほか、 公式twitterにて各編成の現在の位置情報を発信している。 茶ちゃ位置情報 ![]() ![]() ![]() なお、阪堺線住吉以北には通常運用では乗り入れない。 |
1101形 | 2020年デビュー。1001形と同じ設計をベースに超低床型車両を増発させる目的で導入。 現在1編成しか運行されていない。南海のコーポレートカラーをあしらっているのが特徴。 1001形同様住吉以北の阪堺線に乗り入れることができず、天王寺駅前~浜寺駅前のみ運用。 日本語と英語の2言語での案内が可能。時刻表で編成を確認できるのは1001形同様だが、 Twitterでの位置情報発信は行っていない |
現有路線
- 阪堺線
- 上町線
駅一覧
※全線各駅停車のみの運行。
阪堺線
HN51 恵美須町駅(堺筋線乗り換え)
HN52 新今宮駅前停留場(JR大阪環状線・関西本線・南海本線・南海高野線・御堂筋線・堺筋線乗り換え)
HN53 今池停留場
HN54 今船停留場
HN55 松田町停留場
HN56 北天下茶屋停留場
HN57 聖天坂停留場
HN58 天神ノ森停留場
HN59 東玉出停留場
HN60 塚西停留場
HN61 東粉浜停留場
HN10 住吉停留場(上町線乗り換え)
HN12 住吉鳥居前停留場(南海本線乗り換え)
HN13 細井川停留場
HN14 安立町停留場
HN15 我孫子道停留場
HN16 大和川停留場
HN17 高須神社停留場
HN18 綾ノ町停留場
HN19 神明町停留場
HN20 妙国寺前停留場
HN21 花田口停留場
HN22 大小路停留場
HN23 宿院停留場
HN24 寺地町停留場
HN25 御陵前停留場
HN26 東湊停留場
HN27 石津北停留場
HN28 石津停留場
HN29 船尾停留場
HN31 浜寺駅前停留場(南海本線乗り換え)
※新今宮駅前停留場は2014年12月1日に『南霞町停留場』から名称変更
※石津北停留場は2015年2月1日に開業
恵美須町停留場は2020年2月に100m南に移設され「通天閣前」の副駅名が付けられた。同様に新今宮駅前停留場も「新世界」の副駅名が付いている。
上町線
HN01 天王寺駅前停留場(大阪環状線・関西本線・阪和線・近鉄南大阪線・御堂筋線・谷町線乗り換え)
HN02 阿倍野停留場(谷町線乗り換え)
HN03 松虫停留場
HN04 東天下茶屋停留場
HN05 北畠停留場
HN06 姫松停留場
HN07 帝塚山三丁目停留場
HN08 帝塚山四丁目停留場
HN09 神ノ木停留場
HN10 住吉停留場(阪堺線乗り換え)
HN11 住吉公園停留場(南海本線乗り換え) ※2016年1月31日廃止
住吉公園停留場は2014年3月より通常ダイヤでは朝7・8時台のみ発着していた。(正月に限り大幅増便)
これ以外の時間帯は同駅東側徒歩1分の位置にある阪堺線住吉鳥居前で乗降するよう案内されていた。
ちなみにこれが日本一早い最終列車と言われていた。
現在でも駅舎そのものは残っており宝くじ売り場や居酒屋等が今でもテナントとして営業中。ホームと線路は取り壊されており、跡地にはタイムズの駐車場が建っている。
運賃
運賃は段階的な値上げを経て2020年10月現在、全線大人230円・子供120円均一である(一回のみ途中乗り換え可)。支払いは後乗り前降りとなっており、降車時に行う。
以前は我孫子道を超える(つまり大阪市内エリアと堺市内エリアを行き来すると)割増運賃が発生し290円になったが、2011年1月15日から2020年9月末までは、差額を堺市が補助することで均一運賃を維持していた。2020年10月にこの補助が終了したが、10円値上げすることで全線均一運賃を維持している。
後述の通りICカード支払いにも対応、下車時だけでなく乗車時にもリーダーへのタッチが必要。
乗り継ぎ
乗り継ぎ指定駅は、住吉・我孫子道の2箇所(住吉公園・住吉鳥居前は不可)。
運賃を支払った後、乗り換え券を貰えば後続の電車に追加料金なしで乗車することが出来る。
IC乗車券利用の場合、乗り継ぎを取る必要は無い。
乗り継ぎのタイムリミットは降車後1時間以内。
ただし、住吉停留場での乗り換えは阪堺線(恵美須町~住吉)と上町線(天王寺駅前~住吉)の往来のみであり、堺市内から恵美須町方面に向かう場合などは我孫子道停留場での乗り換え以外は認められていない。
南海バスとの乗り継ぎの場合
IC乗車券を使用している場合のみ、阪堺を降りてから2時間以内に南海バスに乗り継いで降車(運賃前払いバスの場合は乗車時適用)した際に50円割引となる。
その逆も同じく、南海バスを降車(運賃前払いバスの場合は乗車時適用)してから2時間以内に阪堺に乗り継いで降車した場合も50円割引となる。
ここでいうIC乗車券はPiTaPaのみならず他全国相互利用対応の9ブランド(ICOCA等)も含まれる。
一日乗車券
全部スクラッチカードタイプ。使用する年月日の数字を削ること。
- てくてくきっぷ
大人600円・子供300円。阪堺全線乗り放題。 - 堺おもてなしチケット南海バス拡大版
大人500円・子供250円。阪堺我孫子道駅~浜寺駅前駅間と、南海バス堺市内ほぼ全線乗り放題。 - 堺おもてなしチケット阪堺拡大版
大人700円・子供350円。阪堺全線と、南海バス堺市内の一部路線乗り放題。
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