「電人ファウスト」とは、月刊コロコロコミック誌上に1994年から1995年にかけて連載された、近未来SFロボットアクション漫画である。著者は同誌上に「怪奇警察サイポリス」を連載していた上山道郎の実弟、上山徹郎。
概要
本作は低年齢向けのわかりやすいストーリー、ギャグ漫画が中心なコロコロコミック誌上において、高年齢層であっても楽しめるハードSF設定を多数盛り込んだ異色作であったが、そうした内容が主要読者層に受け入れられず、物語の終局部分を描き切れぬまま打ち切られてしまった。しかし上山の画力、設定共に卓抜した能力を一般に知らしめた最初の作品として、一部のコアなファンに評価されている。
あらすじ
人工知能学の天才にしてヴィーナスソフトの社長を務める暁光寺三太(ぎょうこうじ・さんた)の娘・留詩葉(るしは)はゲームセンターで遊んでいる最中に、謎の巨漢に襲撃される。その窮地を救ったのは、青黒いボディスーツとヘルメットを身に着けた男……ならぬ戦闘ロボット「ファウスト」だった。
ファウストによれば、何者かによってレインディア・ロボティクス社から強奪された9体のロボットが留詩葉を狙っており、彼女を守るために三太のプログラムによって遣わされたのが自分であるという。詳しい状況も分からぬままに、二人の逃亡劇が始まった。
登場人物
「電人ファウスト」の魅力は、上山によるアクション描写の巧みさもさることながら、細かなSF考証を絡めた各キャラクター(ロボット)設定にもある。ここではある程度のネタバレになるが、登場するキャラクターを紹介する。
なお、主人公が「ファウスト」、ヒロインが「ルシファー」、敵の首魁が「エンジェル」と、主要キャラクター三名はキリスト教系の伝説・文学作品から名が取られている。「暁光寺」というヒロインの名字も「暁の子」や「輝き」と呼ばれるルシファーをイメージしたものか。
また、ヒロインの父「三太」の名前は「サンタクロース」から、「レインディア・ロボティクス」から強奪された9体のロボットの名前はサンタクロースのそりを引くトナカイたちの名前から取られている。「レインディア」とはトナカイの意。
主人公
- ファウスト
- 頭頂高195㎝、重量182㎏。本世界における世界最高のロボット企業レインディア・ロボティクス(RR)社製の戦闘ロボット。三太によって留詩葉を守るようプログラムされている。外見上は非常に人間に近く、服も着ているため、事情を知らない人たちには「ヘルメットをかぶった男性」に見える。太陽エネルギーで駆動し、リペアロボットを内蔵しているため、フリーメンテナンスで80年以上稼働する設計である。戦闘兵器にも関わらずRBインターフェイス(表情機能)を搭載し、多くの仕草や行動に人間臭さが見られるなど、彼自身にも不明な部分が多い謎めいた機体である。モデルは「人造人間キカイダー」のハカイダーらしい。
- 武器のリボルバー「ガデルエル」は小型電磁砲で、通常の拳銃サイズの弾頭を使うにも関わらず、樹木を一撃で倒壊させるほどの破壊力があり、最大武器のプラズマ弾「パニッシャー」は発射時間こそかかるが、ほぼあらゆる防御を貫通する。 また専用バイク「アシエル」は、状況に応じて長距離モード、高速モード、水上モードの三形態に変形可能。
- 暁光寺留詩葉
- 本作ヒロイン。年齢は定かではないが、小学校高学年くらい? 病没した母の形見である時計を大切にしている。母の死が原因で、父とは微妙な距離感があるようだ(仲が悪いわけではない)。
- 暁光寺三太
- 留詩葉の父。48歳。経営している会社・ヴィーナスソフトは「社長の才覚だけで持っている」と社員に言わしめるほどの人工知能の権威。著書、特許共に多数。自ら作り上げたロボット少女「エンジェル」により拉致監禁されている。
敵勢力
- エンジェル
- 三太が作り上げた究極の人工知能を搭載する少女型ロボット。外見上、ロボットらしさをうかがわせるのは頭部にあるセンサーのみで、それをのぞけばどこにでもいる人間の少女にしか見えない(電人ファウストの世界では、ロボットの外観を人間同然にする技術はほぼ完成している)。しかし味覚痛覚といった感覚が無いため、人間そのものとなるために留詩葉の肉体を欲し、RR社をハッキングして9体のロボットを強奪した。
- ルドルフ
- 頭頂高220㎝、重量283㎏。人間の運動機能を機械に代替するという発想を貫いた設計思想のロボット。重量級の機体だが、パンクラチウム製の筋繊維と電子経路システムにより俊敏に行動できる。オクタゴン・アーツという格闘技を使う。第一話に登場する最初の刺客。
- キューピッド
- 全長175㎝、 重量104㎏。9体の中では情報制御に特化した機体で、戦闘能力はまったくない。情報収集や電線を利用してのエネルギー供給を担当する。遠心力を利用したディーン・ドライブで無音飛行し、電磁波反射をおさえるインビジブル・コクーンによりレーダーにもかからない。
- ダッシャー
- 全長161㎝、重量489㎏。魚のような形状をした特殊な戦闘ロボット。電圧をかけることで硬度が変化する超合金レイヴニウムで装甲し、ディーン・ドライブで浮揚、ジェット推進による高速体当たりで攻撃する。サイズのわりに重いのは、この体当たりの威力を増すためのようだ。
- ダンサー
- 体長159㎝、重量515㎏。カニのような形状をした車両ロボット。市街地における戦闘を想定した、高速高機動の戦車に等しく、対人機銃とロケット砲を装備。バランス的にいくつか問題を抱えている。
- ドナー
- 頭頂高206㎝、重量303㎏。電気を直接攻撃力に変換する戦闘ロボット。ギガクーロン級のエネルギーを操る電子の王で、「黙示録の天使のラッパ」を意味する7種の特殊攻撃と、電子機器の機能を奪う「超電磁領界(メタトロンゾーン)」を使う、9体の中では実質上最強の機体。
- ブリッツ
- 頭頂高199㎝、重量190㎏。頭部が骸骨のような形をした人間に近い外観の戦闘ロボット。ガデルエルのような武器「アントゥルーズ」を口の中に備え、人間臭い仕草を見せるなどファウストに近い特徴がある。残忍な性格をしており、エンジェルの入れ物となるはずの留詩葉に対しても容赦がない。
- コメット
- 頭頂高172㎝、重量114㎏。黒髪の美女の姿をした修理ロボット。戦闘能力はない。必要な機能が体内にすべて収まるため、とりあえず人間の形状にしたという設定。
- プランサー
- 体長153㎝、重量64㎏。いぬ。RR社が技術の幅を広げるために開発した犬型ロボット。エンジェルの護衛を担当。歯が電磁ナイフになっているらしい。キャシャーンのフレンダーみたい。
- ビクスン
- 頭頂高181㎝、重量223㎏。形状記憶合金の繊維で編まれ、磁気推進で飛行する特殊武器「シルバーテイル」を操る女性型戦闘ロボット。9枚のシルバーテイルは、切断と耐弾の機能を併せ持つ攻防一体の装備。 ロボットの部分はシルバーテイルの指揮と充電を担当するため、おそらくどんな形状でもよかったものと思われる。だからボンテージ着ている大人の女なんだ、というのは上山徹郎ファンには暗黙の了解です。
単行本
電人ファウストは1995年に「てんとう虫コミックス」として全二巻が発売されたが絶版。上山徹郎が「LAMPO(ランポ)」で注目されると2000年に大判の「てんとう虫コミックススペシャル」として再販された。が、しかしこちらも現在在庫切れのようで事実上絶版に等しく、中古以外での入手は困難である。
「てんとう虫コミックス版」と「スペシャル」版では、サイズや表紙以外にも大きな違いがある。「てんとう虫コミックス版」には上山徹郎のデビュー作「ガンボーグVZ」(第32回小学館新人コミック大賞児童部門入選)と、中平正彦のもとでアシスタント中に描いた読みきり「旋風剣 鋼丸(せんぷうけん・はがねまる)」が収録されているのに対し、「スペシャル版」にはファウスト本編のみしか収録されていないのである。
上山はのちにメディアワークスを経て、現在集英社で作品を発表しているが、「LAMPO」はともかく「電人ファウスト」に限っては「ドラえもん」のエプロンがデカデカと登場するシーンがあり、小学館以外での再販は難しいと思われる。
大きなサイズで紙質もいい「スペシャル版」もいいが、ファンならばやはり前者の「てんとう虫コミックス版」を入手しておきたいところであろう。
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- ページ番号: 4857355
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