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概要
ある物質を摂取したことにより生体に毒性の影響が出て、正常な機能が阻害されることを中毒というが、食中毒は食事をしたことにより中毒症状が起こる事をいう。その原因物質によって細菌性食中毒、ウイルス性食中毒、自然毒食中毒、化学性食中毒の3つにわけられる。細菌性食中毒とウイルス性食中毒を合わせて微生物性食中毒ということもある。なお、以前は寄生虫による症状については食中毒として取り扱ってなかったが、1999年の食品衛生法施行規則の改正により食中毒として取り扱われることとなった。寄生虫による食中毒は統計上、その他の原因に分類される。
以下に平成13~22年の10年間における厚生労働省食中毒統計による食中毒の発生件数と患者数、死者数を表にして示す。なお、あくまで保健所による調査で食中毒とされた件数であって、食品が原因と特定できないケースも多く、実際にはもっと多い可能性が高い。
原因 | 事件数(件) | 患者数(人) | 死者数(人) |
---|---|---|---|
サルモネラ属菌 | 2,033 | 36,951 | 6 |
ぶどう球菌 | 604 | 12,295 | 0 |
ボツリヌス菌 | 3 | 3 | 0 |
腸炎ビブリオ | 1,143 | 15,736 | 0 |
腸管出血性大腸菌(VT産生) | 210 | 2,771 | 10 |
その他の病原性大腸菌 | 430 | 10,898 | 0 |
ウェルシュ菌 | 288 | 21,375 | 1 |
セレウス菌 | 144 | 2,121 | 1 |
カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 4,616 | 24,660 | 0 |
ナグビブリオ | 7 | 39 | 0 |
コレラ菌 | 6 | 54 | 0 |
赤痢菌 | 12 | 216 | 0 |
その他の細菌 | 64 | 759 | 0 |
ノロウィルス | 3,198 | 129,695 | 0 |
その他のウィルス | 23 | 1,332 | 0 |
植物性自然毒 | 779 | 2,871 | 16 |
動物性自然毒 | 436 | 787 | 23 |
化学物質 | 125 | 2,385 | 0 |
その他 | 94 | 181 | 0 |
不明 | 793 | 15,756 | 0 |
合計 | 15,008 | 280,885 | 57 |
種類
細菌性食中毒
日本では保健所に届け出られた食中毒のうち約8割が細菌性食中毒である。体内で原因菌が増殖して中毒を起こす感染型と細菌が毒素を生成して中毒を起こす毒素型にわけられ、さらに毒素型は食品内で原因菌が増殖して毒素を出する食品内毒素型と体内で増殖して毒素を出す生体内毒素型にわけられる。感染型のほうが症状が長期化しやすい。
ウェルシュ菌やボツリヌス菌、セレウス菌など特定の細菌は芽胞という細胞構造を作る。この芽胞は増殖はしないものの熱や乾燥などに強い。生育環境が増殖に適しない時は細菌は芽胞の形になり、再び生育環境が増殖に適するものになった時には通常の細胞構造に戻って増殖する。
細菌性食中毒は主に夏に多く発生するが、カンピロバクター・ジェジュニ/コリのように5~6月に多いものもある。
- サルモネラ属菌(Salmonella)
- 特徴:ヒトや動物の腸管内のほか、自然界に広く生息する細菌で、サルモネラ・エンテリティディス(S.Enteritidis)やネズミチフス菌(S.Typhimurium)などの種類がある。乾燥に強い。感染型。
- 原因食品:生肉、特に鶏肉と卵が多い。他にうなぎ、すっぽん、乾燥イカ菓子など。卵については加工食品でも多く発生しているので注意が必要である。
- 症状:潜伏期は6~72時間。主な症状は急性胃腸炎で激しい腹痛、下痢、発熱、嘔吐をともなう。発熱は4日程度、下痢は6日程度で改善されることが多いが、平均4週間程度は体内に保菌したままであり、慢性保菌状態として1年程度保菌することもある。まれに尿道炎、関節炎、結膜炎をともない症状が数ヶ月~数年続くこともある。小児の場合には、けいれんやサルモネラ脳症などの合併症の事例もある。
- 対策:肉・卵は75℃1分以上加熱し、生卵を食べる場合は消費期限内の新鮮なものに限る。低温保存はある程度有効であるが過信は禁物である。二次汚染に注意する。
- 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)
- 特徴:海に生息し、真水や酸に弱い。魚を生食する文化のない国ではあまり見られない食中毒である。近年は減少傾向。感染型。
- 原因食品:魚介類、特に刺し身や寿司。漬物や減塩塩辛等に二次感染したケースもある。
- 症状:潜伏期は8~24時間。主な症状は、腹痛、下痢、発熱、嘔吐。
- 対策:魚介類は新鮮なものでも真水でよく洗い、短時間でも冷蔵庫に保存する。生魚以外でも60℃10分以上加熱する。二次汚染に注意する。
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
- 特徴:ヒトを含めた幅広い動物に広く生息する。健常者であっても鼻や咽喉、腸管に幅広く生息し、手指からも検出される。食品内毒素型で、菌が増殖するとエンテロトキシンという毒素を生成する。この毒素は熱に強く100330分の加熱でも無毒化されない。なお、院内感染で問題になったMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)も黄色ブドウ球菌の一種である。平成12年に雪印乳業の乳製品でこの黄色ブドウ球菌が大量増殖して戦後最大の食中毒事件を引き起こした。
- 原因食品:牛乳、乳製品、卵製品、畜産製品、穀類とその加工品、魚肉ねり製品、和洋生菓子と非常に幅広い。
- 症状:潜伏期は1~3時間。 主な症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢。
- 対策:手指を洗浄し、調理器具の洗浄殺菌を十分行うこと。手が荒れていたり化膿がある人は直接食品に触らない。防虫、防鼠対策を行うこと。低温保存も有効である。
- ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)
- 特徴:土壌や河川、動物の腸管など自然界に広く生息する。酸素のない場所で増殖する嫌気性菌で、熱に非常に強い芽胞を作る。食品内毒素型で発生する毒素によってA型菌からG型菌にわけられるが、食中毒の原因となるのはA型、B型、E型が多い。
- 原因食品:日本ではいずしが特に多く、ほかに缶詰、瓶詰、真空パック食品、レトルト類似食品などの保存食品から。乳児ボツリヌス症については蜂蜜やコーンシロップからの感染がある。
- 症状:潜伏期は8~36時間。主な症状は吐き気、嘔吐、筋力低下、脱力感、便秘、視力障害、発声困難、呼吸困難。近年の発生はまれであるが一度発生すると重症化し、致死率は20%と高い。
- 対策:いずしを食べる時は特に注意をし、容器が膨張している缶詰や真空パックは食べない。芽胞は1204分以上で加熱する。1歳未満の乳児には蜂蜜コーンシロップを与えない。もし、ボツヌス食中毒の疑いがある場合には抗血清による早期治療を行う。
- 腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia col:EHEC)
- 特徴:動物の消化管には多くの大腸菌が生息しているが、その中でも毒素を産生し、出血性腸炎や溶血性尿毒症症候群を起こす病原性大腸菌のこと。赤痢菌が生産する志賀毒素に類似したベロ毒素(VT)を生産する。生体内毒素型に分類されるが、腸管内に定着するので感染毒素型として感染型に含めることもある。少量でも発生するが加熱や消毒には弱い。血清型O157がほとんどであるが、「焼肉酒家えびす」集団食中毒事件で検出されたO111や平成23年現在欧州を中心に大流行しているO104のほか、O26、O128、O145などもある。ちなみにO-157等と書かれることが多いが、これはおそらくO(オー)と0(ゼロ)の区別が付きにくいために便宜的に付けたもので、正式には「-」は付かない。
- 原因食品:日本では井戸水、牛肉、牛レバーなどが多く、他にハンバーグ、牛角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフ、シカ肉、サラダ、貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬け、日本そば、シーフードソースなど。海外ではハンバーガーやアップルジュースなどの発症例もある。
- 症状:潜伏期は1~10日間。主な症状は激しい腹痛と下痢、血便で、発熱は少ない。初期にはかぜのような症状(感冒様症状)も見られる。乳幼児や高齢者を中心に重症化しやすく、溶血性尿毒症症候群を併発して意識障害を起こす。
- 対策:食肉は75℃1分以上加熱して中心部まで火を通す。野菜は水でよく洗う。と畜場の衛生管理、食肉店での二次汚染対策を十分に行い、低温保存を徹底する。
- ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)
- 特徴:ヒトや動物の腸管のほか、土壌や下水など自然界に幅広く生息する。熱にきわめて強い芽胞を作り、1001~3時間の加熱にも耐える。生体内素型で、ヒトの腸管内で増殖して毒素を発生する。しばしば、食品の大量加工施設で大規模発生するため、件数が少ないわりには患者数が多い。嫌気性菌である。
- 原因食品: カレー、煮魚、麺のつけ汁、いなりずし、野菜煮付けなど煮込み料理一般。他の細菌が死滅している上に酸素が少なくなっているため。
- 症状:潜伏期は8~12時間。主な症状は下痢と腹痛で、嘔吐や発熱は少ない。
- 対策:調理後はすぐに食べる。食品を保存するときは加熱調理食品はすぐに冷却し、10℃以下か55℃以上を保つ。再加熱する場合は十分に加熱して殺菌したあと、すぐに食べる。いずれにしろ、加熱しても芽胞は死なないことが多いので注意が必要である。
- セレウス菌(Bacillus cereus)
- 特徴:土壌などに生息する。熱や消毒に強い芽胞を作る。芽胞は100℃、30分の加熱でも死なない。毒素型であるが、嘔吐型の症状を引き起こす食品内毒素型と下痢型の症状を引き起こす生体内毒素型の両方がある。
- 原因食品:嘔吐型はピラフやスパゲティ、下痢型は食肉、野菜、スープ、弁当など。
- 症状:潜伏期は嘔吐型は30分~3時間、下痢型は8~16時間。主な症状は名前のとおり、嘔吐型は吐き気や嘔吐、下痢型は下痢や腹痛。
- 対策:米類や麺類は作り置きせず、すぐ食べる。穀類の食品は室内に放置せずに、加熱調理食品のすぐに冷却し、10℃以下で保存する。
- カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(Campylobacter jejuni / Campylobacter coli)
- 特徴:家畜、家禽類の腸管内に生息する。食材中ではほとんど菌が増殖しないが、きわめて少量の菌でも発症するので注意。乾燥や加熱に弱い。感染型。
- 原因食品:鶏肉、特に生の鶏肉が多い。他に牛レバ刺し、飲料水、生野菜など。
- 症状:潜伏期は1~7日。主症状は、発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢、血便。ほとんどの場合は数日で自然治癒するため特別な治療を要しない。しかし、約0.03~0.1%の確率でギランバレー症候群を発症し重症化することもある。
- 対策:食品は65℃数分以上加熱すること。調理器具は熱湯消毒した上でよく乾燥させる。二次感染に気をつける。
ウイルス性食中毒
ウイルス性食中毒として保健所に報告される食中毒のほとんどがノロウィルスである。そのほか、頻度は少ないもののロタウィルス、アデノウィルス、アストロウィルス、A型肝炎ウィルス、E型肝炎ウィルスによる食中毒が報告されている。
- ノロウィルス(Norovirus)
- 特徴:原因食品が判明しないケースが多く、食品取扱者による二次汚染も多いとされている。少量のウィルスでも発症し、食品を媒体としない感染も多い。アルコールや石鹸による通常の消毒・殺菌はあまり効果がない。1年中発生しているが、特に12月~翌年1月にかけて大流行する。これは、寒い時期に長時間生き残ることと、この時期に消費量が増えるカキ等の二枚貝に生息することが理由とされている。
- 原因食品:カキ等の二枚貝が多いが、調理人を経由してサンドイッチやパンから感染することもある。原因不明のことも多い。
- 症状:潜伏期は24~48時間。主な症状は下痢、嘔吐、吐き気、腹痛、軽い発熱。
- 対策:二枚貝は85℃1分以上加熱して中心部まで十分に火を通す。野菜などの生鮮食品は十分に争う。手洗いの徹底。調理器具は洗剤で十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウムに浸すか、あるいは85℃以上の熱湯で1分以上加熱する。
自然毒食中毒
件数や患者数はそれほど多くないが、フグや毒キノコのように致死率の高いものがあり、死者も珍しくない。実際、平成13~22年の10年間における食中毒の死者57人のうち、動物性食中毒によるものが23人、植物性食中毒によるものが10人である。動物性食中毒の23人の全てがフグによるもので、植物性食中毒のうちキノコによるものが10人である。なお、キノコは厳密には植物ではないが、消費者の混乱を避けるために植物性に分類されている。
また、全体の発生件数の約65%が動物性、約35%がキノコを含めた植物性のものである。動物性のほぼ全てがフグ等の魚介類によるもので、植物性のものの約80%がキノコによるものである。キノコについては、クサウラベニタケ、ツキヨタケ、ニガクリタケ、カキシメジによるものが多い。死亡例ではドクツルタケ、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケのいわゆる猛毒キノコ御三家のほか、タマゴタケモドキ、ニセクロハツ、フクロツルタケ、カエンタケ、タマシロオニタケ、コレラタケ、ニガクリタケなどがある。また、以前は食用とされてきたスギヒラタケは急性脳症を疑う事例が発生しており死亡事例もあるため食べないほうが良いとされている。
化学性食中毒
発生件数は少ないが、一度発生すると大規模な事件になることが多い。食品添加物など食材に使用した化学物質によるもの、生産過程で使用した化学物質によるもの、工業廃水などにより食材となる動植物が汚染されたもの、悪意を持って化学物質を混入させたいわゆる食品テロなど原因は様々である。
食品添加物によるものとしては、ホウ酸類、ホルムアルデヒドなどの防腐剤、オーラミン(黄色)やローダミンB(赤色)などの着色料、でズルチン、パラニトロオルトトルイジンなどの人工甘味料で食中毒の事例がある。生産過程で使用した化学物質によるものとしては、ヒ素が混入した森永ヒ素ミルク中毒事件やPCBが混入したカネミ油症事件などがある。残留農薬による食中毒は近年はまれになったが、農薬や殺虫剤の誤混入による事件は起きている。工業廃水による汚染のものとしては、鉛、カドミウム、有機水銀など重金属汚染によるものが多く、水俣病やイタイイタイ病なども広い意味では食中毒の一種といえる。食品テロのものとしては、まだ原因がはっきりとしていないものの中国製冷凍餃子中毒事件について可能性が指摘されている。
このほか、保健所に定期的に報告されるものとして、ヒスタミンによる食中毒などがある。ヒスタミンはアミノ酸の一種であるヒスチジンを多く含む魚を放置したときに、ヒスタミン生成原因菌の作用により生産される毒物で、アレルギーのような症状を起こす。
予防法
ここでは、食中毒に関する一般的な予防法について説明する。全ての食中毒に共通するのは正しい情報を仕入れ、安全な食材を選ぶことである。これに加えて、細菌やウィルスによるものについては「付けない、増やさない、殺す」が食中毒予防の3原則である。以下、これについて説明する。
付けない
細菌を食材に付けないようにすることである。肉や魚介類には食中毒の原因菌が含まれていることが多いため、野菜などの他の食材と一緒にしないようにすることが大切である。食材同士が直接触れることがなくても、包丁やまな板等の調理器具を経由する二次汚染が起こることがあるため、肉や魚介類を扱った調理器具では他の食材を調理する際に使用しないこと。また、野菜や魚介類についてはきれいな水でよく洗う。
手洗いの徹底、台所を清潔に保つことも重要である。特に調理中にトイレに行った場合に手洗いを忘れがちであるので注意が必要である。調理後は調理器具、食器、ふきん等は洗剤を使ってよく洗う。漂白剤や熱湯による消毒も有効である。
増やさない
細菌が食材の中で増殖するのを防ぐことである。一般的でかつ効果的なのが冷蔵庫・冷凍庫による保存である。ほとんどの細菌は低温では増殖をしないか、増殖する速度が低下する。ただし、低温で死滅することはないし、低温でもゆるやかに増殖する細菌もあるので過信は禁物である。また、購入した食材、特に生鮮食品はすぐに冷蔵庫・冷凍庫に入れる。冷蔵庫・冷凍庫の温度は適切に管理し入れすぎないようにする。
調理をした後はすぐに食べること。生鮮食品はもちろんであるが、加熱をした料理についても時間の経過と共に細菌が再び増殖することがあるので注意が必要である。温かく食べる食品は常に温かく、冷たく食べる食品は常に冷たくしておき、食べないものはすぐに冷蔵庫・冷凍庫に保存するか廃棄する。
食材だけでなく調理器具、食器、ふきん等で細菌が増殖しないようにすることも大切である。これらを洗った後はよく水を切って乾燥させる。
殺す
細菌を死滅させることである。最も一般的であるのが加熱である。おおまかな目安としては中心部まで75℃1分以上と言われているが、カキなどの二枚貝についてはノロウィルス防止のため85℃1分以上の加熱が必要であるので、絶対的な基準ではない。アルコールによる殺菌が有効なケースもあるが、耐性を持つ細菌もいるので注意が必要である。
関連動画
関連項目
外部リンク
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