『香川県ネット・ゲーム依存症対策条例』(以下ゲーム条例と記載)とは、香川県で施行されている条例である。
概要
2020年1月10日に素案が示され、同年3月18日に可決・成立、同年4月1日より施行された。
提出までの経緯、条例の内容、施行までの議会の動き、施行後の議員の言動に至るまで数多くの問題が指摘されている。
この条例は、18歳未満の子供のパソコン、スマートフォンやゲーム機の使用を平日は1日60分、休日は90分とすること、及び未就学児は午後9時まで、18才未満は午後10時までを「目安」としパソコン、スマートフォンやゲーム機の使用を停止させること、このルールの家庭内での努力義務を課すものである。(第18条)。
対象者は18歳未満の子供だけでなく、家庭の教育方針に干渉するという性質上保護者にも役割を強いる形になっている。更にはソフトウェア・アプリ開発・提供者、つまり香川県民がインターネットでアクセスする可能性のある全てのゲーム事業者に香川県民に配慮するよう要請、即ちプロパイダやサーバー管理者にまで責任が波及している。(第11条)。なおこの案件は県の主要事業として予算が充てられているが、事業者に対する補填などは記載されていない。
当然県や学校は今後、ゲーム依存症対策を推進する責務に則り、家でゲームばかりしてないで外で遊びなさい、などと促進する活動を行っていかなければいけない為(第4・5条)、香川の子供たちは今後これに則った教育方針に晒されることとなる。
また、あまり注目はされてはいないが第11条の2では性的描写や暴力描写を自主規制することを求める条項が含まれており、年齢指定を問わずゲームの内容にも干渉するような内容が何故か明記されていることから、表現規制条例である点も注視したい。
この条例を策定した大山一郎元県議会議長は、国にも法整備を求めると発言しており、条例にもその旨が記載されている。もっとも、政府は「ゲームは1日1時間」の有効性の根拠を認めていない[ソース]。
なお、隣県である岡山県にも同様の『自主規制』はあるが、これは学生等が自主的に提唱し、あくまで本人の自己裁量によって行われるものであり、条例として公文書にて明文化されているものではない。
同じくゲーム依存症防止条例を目指していた自治体のひとつの秋田県大館市は、この条例化を香川のフレンドリーファイアで一時凍結することになり、香川の活動がゲーム依存症対策の全国区化への呼び水になるかどうかはまだ不明である。
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(香川県条例第24号)全文
以下の引用の元となる告示された条例のPDFファイルはこちらから。
(テキスト認識で読み取ったものを人力で修正している為、誤字等がありましたらご指摘ください)
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例 (香川県条例第24号) ※ローマ数字は条に付随する項(例:法令での第X条第Y項のYの部分) ※丸数字は条項内で定める定義の区切り番号(例:リスト上のリスト番号) |
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インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用は、子どもの学力や体力の低下のみならずひきこもりや睡眠障害、視力障害などの身体的な問題まで引き起こすことなどが指摘されており、世界保健機関において「ゲーム障害」が正式に疾病と認定されたように、今や、国内外で大きな社会問題となっている。とりわけ、射幸性が高いオンラインゲームには終わりがなく、大人よりも理性をつかさどる脳の働きが弱い子どもが依存状態になると、大人の薬物依存と同様に抜け出すことが困難になることが指摘されている。 その対策としては、国において、他の依存症対策と同様に、法整備の検討や医療提供体制の充実などの対策を早急に講ずる必要があるが、県においても、適切な医療等を提供できる人材などを育成するため、研修体制の構築や専門家の派遣等の支援に取り組むことが求められている。 加えて、子どものネット・ゲーム依存症対策においては、親子の信頼関係が形成される乳幼児期のみならず、子ども時代が愛情豊かに見守られることで、愛着が安定し、子どもの安心感や自己肯定感を高めることが重要であるとともに、社会全体で子どもがその成長段階において何事にも積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げていけるようにネット・ゲーム依存症対策に取り組んでいかなければならない。 ここに、本県の子どもたちをはじめ、県民をネット・ゲーム依存症から守るための対策を総合的に推進するため、この条例を制定する。 |
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(目的) 第1条 |
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この条例は、ネット・ゲーム依存症対策の推進について、基本理念を定め、及び県、学校等、保護者等の責務等を明らかにするとともにネット・ゲーム依存症対策に関する施策の基本となる事項を定めることにより、ネット・ゲーム依存症対策を総合的かつ計画的に推進し、もって次代を担う子どもたちの健やかな成長と、県民が健全に暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする。 | |||||
(定義) 第2条 |
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この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 | |||||
①ネット・ゲーム依存症ネット・ゲームにのめり込むことにより、日常生活又は社会生活に支障が生じている状態をいう。 | |||||
②ネット・ゲームインターネット及びコンピュータゲームをいう。 | |||||
③オンラインゲームインターネットなどの通信ネットワークを介して行われるコンピュータゲーム | |||||
④子ども18歳未満の者をいう。 | |||||
⑤学校等 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条第1項に規定する保育所及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第6項に規定する認定こども園をいう。 | |||||
⑥スマートフォン等インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む。)することができるスマートフォン、パソコン等及びコンピュータゲームをいう。 | |||||
⑦保護者親権を行う者若しくは未成年後見人又はこれらに準ずる者をいう。 | |||||
(基本理念) 第3条 |
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ネット・ゲーム依存症対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。 | |||||
①ネット・ゲーム依存症の発症、進行及び再発の各段階に応じた防止対策を適切に実施するとともに、ネット・ゲーム依存症である者等及びその家族が日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるように支援すること。 | |||||
②ネット・ゲーム依存症対策を実施するに当たっては、ネット・ゲーム依存症が、睡眠障害、ひきこもり、注意力の低下等の問題に密接に関連することに鑑み、これらの問題に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとすること。 | |||||
③ネット・ゲーム依存症対策は、予防から再発の防止まで幅広く対応する必要があることから、県、市町、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等が相互に連携を図りながら協力して社会全体で取り組むこと。 | |||||
(県の責務) 第4条 |
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県は、前条の基本理念にのっとり、ネット・ゲーム依存症対策を総合的に推進する責務を有する。 | |||||
ⅱ | 県は、市町が実施する施策を支援するため、情報の提供、技術的助言その他の必要な協力を行う。 | ||||
ⅲ | 県は、県民をネット・ゲーム依存症に陥らせないために市町、学校等と連携し、乳幼児期からの子どもと保護者との愛着の形成の重要性について、普及啓発を行う。 | ||||
ⅳ | 県は、子どもをネット・ゲーム依存症に陥らせないために屋外での運動、遊び等の重要性に対する親子の理解を深め、健康及び体力づくりの推進に努めるとともに、市町との連携により、子どもが安心して活動できる場所を確保し、さまざまな体験活動や地域の人との交流活動を促進 | ||||
(学校等の責務) 第5条 |
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学校等は、 基本理念にのっとり、保護者等と連携して、子どもの健全な成長のために必要な学校生活における規律等を身に付けさせるとともに、子どもの自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るものとする。 | |||||
ⅱ | 学校等は、ネット・ゲームの適正な利用についての各家庭におけるルールづくりの必要性に対する理解が深まるよう、子どもへの指導及び保護者への啓発を行うものとする。 | ||||
ⅲ | 学校等は、行内にスマートフォン等を持ち込ませる場合には、その使用について、保護者と連携して適切な指導を行うものとする。 | ||||
ⅳ | 学校等は、県又は市町が実施するネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする。 | ||||
(保護者の責務) 第6条 |
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保護者は、子どもをネット・ゲーム依存症から守る第一義的責任を有することを自覚しなければならない。 | |||||
ⅱ | 保護者は、乳幼児期から、子どもと向き合う時間を大切にし、子どもの安心感を守り 、 安定した愛着を育むとともに、学校等と連携して、子どもがネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない。 | ||||
ⅲ | 保護者は、子どものスマートフォン等の使用状況を適切に把握するとともに、 フィルタリングソフトウェア (青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成20年法律第79号)第2条第9項に規定する青少年有害情報フィルタリングソフトウェアをいう。以下同じ。)の利用その他の方法により、子どものネット・ゲームの利用を適切に管理する責務を有する。 | ||||
(ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者の責務) 第7条 |
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医療、保健、福祉、教育その他のネット ・ ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者は、 県又は市町が実施するネット・ゲーム依存症対策に協力し、ネット・ゲーム依存症の予防等(発症、進行及び再発の防止をいう。以下同じ。)に寄与するものとする。 | |||||
(国との連携等) 第8条 |
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県は、国と連携協力してネット ・ ゲーム依存症対策の推進を図るとともに、ネット・ゲーム依存症対策に関して必要があると認めるときは、国に対し、他の依存症対策と同様に、法整備や医療提供体制の充実などの必要な施策とともに、ネット・ゲーム依存症の危険要因を踏まえた適切な予防対策の策定及び実施を講ずるよう求める。 | |||||
ⅱ | 県は、国に対し、eスポーツの活性化が子どものネット・ゲーム依存症につながることのないよう慎重に取り組むとともに、必要な施策を講ずるよう求める。 | ||||
ⅲ | 県は、県民をネット・ゲーム依存症から守るため、国に対し、乳幼児期からの子どもと保護者との愛着の形成や安定した関係の大切さについて啓発するとともに、必要な支援その他必要な施策を講ずるよう求める。 | ||||
(県民の役割) 第9条 |
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県民は、ネット・ゲーム依存症に関する関心と理解を深め、その予防等に必要な注意を払うものとする。 | |||||
ⅱ | 県民は、社会全体で子どもの健やかな成長を支援することの重要性を認識し、県又は市町が実施する施策に協力するものとする。 | ||||
(市町の役割) 第10条 |
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市町は、県、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等と連携し、ネット・ゲーム依存症対策を推進するものとする。 | |||||
(事業者の役割) 第11条 |
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インターネットを利用して情報を閲覧 (視聴を含む。 ) に供する事業又はコンピュータゲームのソフトウェアの開発、製造、提供等の事業を行う者は、その事業活動を行うに当たっては、 県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮するとともに、県又は市町が実施する県民のネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする。 | |||||
ⅱ | 前項の事業者は、その事業活動を行うに当たって、著しく性的感情を刺激し 甚だしく粗暴性を助長し、又は射幸性が高いオンラインゲームの課金システム等により依存症を進行させる等子どもの福祉を阻害するおそれがあるものについて自主的な規制に努めること等により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。 | ||||
ⅲ | 特定電気通信役務提供者 (特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 (平成13年法律第137号) 第2条第3号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。)及び端末設備の販売又は貸付けを業とする者は、その事業活動を行うに当たって、フィルタリングソフトウェアの活用その他適切な方法により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。 | ||||
(正しい知識の普及啓発等) 第12条 |
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県は、県民がネット・ゲーム依存症に陥ることを未然に防ぐことができるよ う 、必要な情報を収集するとともに、 オンラインゲームの課金システムその他のネット・ゲームに関する正しい知識の普及啓発及び依存症教育を行う。 | |||||
(予防対策等の推進) 第13条 |
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県は、市町、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等と連携し、県民がネット・ゲーム依存症に対する理解及びネット・ゲーム依存症の予防等に関する知識を深めるために必要な施策を講ずる。 | |||||
(医療提供体制の整備) 第14条 |
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県は、 ネット ・ ゲーム依存症である者等がその状態に応じた適切な医療を受けることができるよう 、県民がネット ・ ゲーム依存症に対す医療提供体制の整備を図るために必要な必要な施策を講ずる。 | |||||
(相談支援等) 第15条 |
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県は、ネット・ゲーム依存症である者等及びその家族に対する相談支援等を推進するために必要な施策を講ずる。 | |||||
(人材育成の推進) 第16条 |
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県は、医療、保健、福祉、教育その他のネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者について、ネット・ゲーム依存症に関し十分な知識を有する人材の確保、養成及び資質の向上のために必要な施策を講ずる。 | |||||
(連携協力体制の整備) 第17条 |
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県は、第12条から前条までの施策の効果的な実施を図るため、市町、学校等、保護者、ネット ・ ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずる。 | |||||
(子どものスマートフォン使用等の家庭におけるルールづくり) 第18条 |
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保護者は、子どもにスマ一トフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。 | |||||
ⅱ | 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで (学校等の休業日にあっては、90分まで) の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用 (家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。) に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。 | ||||
ⅲ | 保護者は、子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険性があると感じた場合には、速やかに、 学校等又はネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し、子どもがネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない。 | ||||
(財政上の措置) 第19条 |
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県は、ネット・ゲーム依存症対策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努める。 | |||||
(実態調査) 第20条 |
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県は、子どものネット・ゲーム依存症対策を推進するため、この条例施行後3年間は毎年、その後は2年ごとに、本県におけるネット・ゲーム依存の実態に関する調査を行う。 | |||||
附則 | |||||
(施行期日) 1 |
この条例は、令和2年4月1日から施行する。 | ||||
(検討) 2 |
この条例の規定については、この条例の施行後2年を目途として、この条例の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。 |
何故こんな馬鹿な条例が制定されたのか?
この条例を策定した大山一郎香川県議会議長は、典型的な親学の信奉者ではないかといわれている。
その大山氏は、約10年ほど前当時小学生だった自身の娘が部屋で友人とゲームに夢中になっていた、という経験が元になり「ゲーム脳」を支持し始めたという事を北海道新聞にて語っている[ソース]。
これだけ聞くとただ子供が友達と遊んでいただけのように思えるのだが、そんな彼はよりによって2002年という20年前の仮説である「ゲーム脳」を研究し、条例の参考にしたとのことらしい。(ゲーム脳の詳細はそちら記事へ)
もう一点、条例化に際し推進の根拠として語られているのが、世界保健機関(WHO)のゲーム障害認定である。
ICD(国際疾病分類)とは、WHOが公表している疾病や死因などの国際的な統計収集の為のカテゴリーであるが、ゲーム障害は2022年に発効予定のICD-11の、精神障害の一種であるアルコール・薬物中毒、ギャンブル中毒と並ぶ群に2019年5月25日採用されている。
ICDの他に精神障害の国際的な分類として普及しているものにアメリカ精神医学会のDSMがあり、DSM-5にはインターネットゲーム障害が今後の研究課題として記載されているが、これは正式な障害認定にはあたらない。
ICD-10まではなかったゲーム依存症を精神障害であると認定させるに至る背景には、依存症などの研究機関でもある国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長の働きかけが大きいとされている。[ソース][ソース]
この件に関わったWHOの関係者は、樋口氏の口からも語られているものと思われる、アジア諸国の調査の文章をソースとしたと語っている。(現在この根拠とした文献の詳細をWHOは公にしていない)
しかし、ゲームと精神障害の関係に関しては以前より多くの研究者がエビテンス不足で慎重になっており、その根拠の不十分さや定義の曖昧さ、診断が乱用される危険性などが指摘されている。[ソース][ソース]
そもそも、学術的な医学用語ではない統計分類を根拠とすることに対する疑問も出ている(余談ではあるが、ICD-10までは性同一性障害も精神疾患に分類されており、今回のICD-11で疾病から状態を表す項目に分類される。実情を反映し改訂させるまで非常に長い年月を要している)。
ゲーム依存症はDSMに採用に至っていない経緯からも未だ研究途上であり、香川県では"正しい知識の普及啓発"を求めているが、そもそも正しい知識が何であるか、解明を求めているのが現在の段階なのではないだろうか。
樋口氏は四国新聞にも識者として積極的にインタビューに応じており、本条例の検討委員会にも招かれている事から香川のゲーム依存症観を形成する要員となっている。
ただ、条例の内容の経緯には不明な部分も多く[ソース]樋口氏の提言の趣旨には無い内容も盛り込まれた可能性は否定できない。
学校や地域でも子どもたちを見守っていけるよう行政が主導して条例などを設け、社会全体でゲームへのアクセスを制限する環境づくりが欠かせない。
「ゲーム依存」識者インタビュー 久里浜医療センター・樋口進委員長(64)「薬物より治療困難」LINE News 四国新聞電子版 2019年1月7日 09:00付配信 より
香川県ではゲーム条例以前から、午後9時にはスマホを取り上げる「さぬきっ子の約束」や、高松市ではこの令和の時代にメディア断食により温かい家庭を取り戻す「ノーメディア事業」を行っている。
このようにネットやゲームに関する指導を香川県は従来より行ってきており、ゲーム条例もその延長線上とも感じられる。一方、メディアリテラシーの指導に関しては重点を置いていないのかゲーム条例施行時点では目立った事業は見つけられなかった。
条例冒頭では「※愛着の安定」「愛情豊か」「親子の信頼関係」などのワードが使われていることから、客観的根拠より優先される一部の大人の理想とする家庭像なるものが原動力なのではないか?と疑われてならない。
(※頻出する「愛着」とは、近年注目される保護者と子供の間に形成される持続的な絆であり、ネット・ゲーム依存症の予防にもつながると考えられているものとのこと。[ソース] 推進派議員の口からはゲーム障害と「愛着障害」との関連性も語られているが、これらに関する研究データがありましたらソース貼って下さい。)
このゲーム条例以外に、「家庭教育支援(応援)条例」[ソース]といったものが今日にかけて全国自治体で制定される動きがあり、この条例の一部には「愛着」などのゲーム条例との類似の価値観が確認されている他、
愛情観や家庭観の押し付けなどが問題視され、岡山県で提案された際には岡山県議会では最多数のパブリックコメントが寄せられ、一部文章の見直しが行われ施行されている。
こうした動きから、ゲームに限らず家庭の教育方針に踏み込む地方条例の施行の動きは全国に広がっていると考えられる。
確かに、ゲームに没頭する子供をどうしつけるか、親にとって悩ましい所ではあるだろう。
しかし、ひきこもりや体力・学力の低下は本当にゲーム依存症が原因なのだろうか?
ネットやゲームを一日1時間とすることと親子の情に何の関係があるのだろうか?
令和の世に子供たちをただメディアから遠ざける事は、果たして本当に子を守る事になるのだろうか?
これらの疑問を他所にしながら、2020年4月、条例は施行された。
パブリックコメントの恣意的運用問題
この条例のもう一つの大きな問題に、あまりにも不透明なパブリックコメントの運用がある。
こちらのtogetterのまとめにも当時の一連の様子がまとめられている。
香川県議会では四国新聞のキャンペーンもあり、2019年3月にこの依存症対策を打出す為の議員連盟を結成、2020年1月10日に県議会に素案が提出された。
審議が開始され、全国注目度も高まるさ中の1月23日から県民の声を聴取するパブリックコメントが実施される。[ソース]
が、公募の募集期間は2月を目指す議会提出の直前、それも通常の原則の期間である1か月より大幅に短いの2週間で締め切りという、この時点で不安を覚えさせられる内容であった。
このパブリックコメントは事業者以外では県民に限定し、短い期間であったにも関わらず2686件(普段はせいぜい数十件)の意見が寄せられ、この84%が賛成であったことが報道される。(後に報道関係者はこの見出しを行った事を自省することになった)
その後、採決前日の3月17日にその概要版が公開されたのだが、
賛成が18項(1ページ)に対して反対が420項(76ページ)
という異様な数字が浮き彫りとなった。
大山議長はこれに「反対意見はほとんどが誤解によるもの」とコメントしたが、そもそもパブリックコメントは意見を送る目的のものであり賛否に振り分けることを前提としておらず、このような住民投票のように公開する事は想定されていない異例の事である。
この原本は一般公開はされないとされたが、黒塗りが間に合わないという理由で議員にも非公開[ソース]のまま採決の日を迎える。
賛成多数により条例は可決され、採決後ようやく原本の閲覧の機会が議員に与えられることとなったが、待ち構えていたのは「情報漏洩があった場合、閲覧者全員の連帯責任とする」という物々しい誓約書であった。
議員達は怒りに耐えかねながらもすごすごと退散する他無かったが、この時唯一署名をし閲覧をした竹本敏信議員のインタビューから、当時の異様な様子がうかがえる。
その後4月の施行を待つ形でようやく黒塗りが完了したのか、各所の情報公開請求が4月下旬に通り、各機関にパブリックコメント原本の検証が始まる。
その機関の一つであるねとらぼによって誰でも原本を閲覧する事が可能となり、概要版だけでは見えなかったさらなる異常な内容が詳らかになることとなった。(時間があればぜひ上記リンクから実際の内容のご一読を)
賛成する旨の総意見数2269件、賛成率84パーセントの内、いくつかのパターン化された文章(「子供達に与える影響様々」「判断の乏しい大人を」「明るい未来を期待」など)が大量に見受けられ、同じ誤字まで連投されている事が明らかとなった。
これだけでもアストロターフィングを疑うには十分すぎるのであるが、その中でもヘッダ情報の多くにプライベートIPアドレスである「192.168.7.21」を含む192.168.x.x帯が記載されていることが目を引き、これがTwitterでも話題となり[ソース]、多くの推測が飛び交った。
その後、これらの特定プライベートIPアドレスにて送信された内容は「香川県議会ホームページ内のご意見・お問い合わせフォーム」で投稿したものを印刷したために同様の内容になったと事務局から釈明がなされた。
しかし、そもそもこの「ご意見箱」による提出は募集要項には記載されておらず、3月17日には因果関係は一切不明だがパソコン端末が香川県庁より紛失したことが発覚し話題になるなど、どちらにせよ何かしらの疑惑は免れられない仕様となっている。
パブリックコメント締め切り直後には、ネットメディアであるねとらぼ編集部に名義貸しの告発と思われる匿名の投書が香川消印で届く事態が発生する。
その内容の真偽は結局現在不明ではあるが、観音寺市の合田隆胤市議がHPに載せた画像から、独自にパブリックコメントを収集していたことが発覚した。
合田市議が集めたものと思われる用紙のコメントのほとんど賛成意見であることも発覚するが、合田市議は収集は個人的な議員活動の一環であり、反対運動に繋がる取材は拒否するなどとHP内で強く反発した。[ソース]
その後の報道で、パブリックコメントに対する審議ではよせばいいのに「(パブコメは)賛成多数だから、もう採決してはどうか」などの発言があったことにより議論は20分で切り上げられ、この採決を促すかけ声を行ったのは氏家孝志議員であったのでないかとも言われている。[ソース]
当然の体で、これら検討委員会の議事録は残されておらず、県民が密室の中の真相を公式に知る手立ては無い。
パブリックコメント公開後、本条例の成立過程において「疑念」があるとして、県議会の自民党議員会・リベラル香川・共産党議員団の3つの会派が検証委員会の設置を議長に申し入れたが、大山一郎議長は香川県議会事務局を通して「議長としては、このことに関してコメントしないと申してますので…」と発表。[ソース]
4月30日の臨時議会にて検証委員会設置を求める議員団に対して要望を無視しつつ、「家庭や社会全体が一丸となり、未来を担う大切な子どもたちがネット社会とうまく共存し、健やかに成長できる仕組み作りの契機となりますことを心から念願をいたしております」[ソース映像]と述べ、
条例制定の目標を達成し、1年の任期を満了した形で退任した。
4月30日に新しく副議長に選任された十河直は検討委員会の委員も務めていたが、パブリックコメントを重視せず審議を行ったと発言。
同じく新しく議長に選任された西川昭吾は「副議長がおっしゃるのは、(パブリックコメントを)重視してなかったという今までの慣例に沿った中で、今回のパブコメについても住民投票のような形ではなかったので、重視して話し合った記憶がないという意味でおっしゃっておるんじゃないかと」と、香川県議会では県民の意見は重視せず毎回議論を行っているともとれる発言を行った[ソース]。
大山氏の後任である西川昭吾議長もまた、今回の事例に関しては「議論は必要ない」の一点張りの構えを示しており、前任から引き続き検証委設置を否定している。
これらの問題・疑念点について、香川県では議論をかわしつつ全て正当であるとしているが、パブリックコメント普及協会は「パブリックコメントの信頼を損ねる」と意見書を提出[ソース]。
パブコメが賛否を分けるものという誤解が広まる事や、全国で組織票が活発化することが危惧される。
その後の反応
この条例は全国でも注目を浴び、「ゲームよりうどん依存症をどうにかしろ(香川県は糖尿病ワースト3位)」「うどんには罪は無いので丸亀製麺食べて応援します」など、県の特産品を巻き込んで反響を呼んだ。
今までうどん県として良くも悪くもそれくらいしかイメージが定着していなかった香川県だが、そこに今回のこのニュースは全国のネット民に強い印象を与え、ゲームが一日一時間しかできない独裁的自治体というとんだ属性を植え付けることとなった。
これにはうどんに引っ掛けられてやってきたヤドン[ソース]も立つ瀬がない。
本件に関して香川県知事である浜田恵造知事の元にも、再議を求める署名などの意見が多数届けられた。
都道府県知事には条例案に対する拒否権、すなわち議会の議決に対して再議を求める権利を有している為である。
が、記者からの質問に対し知事は、議会のやり方に関しては口出しする事は差し控える、との考えを示し、条例が県のイメージダウンにつながるものではない[ソース]とコメント、最後の砦に縋る声も空しくかき消された。
条例の報道は香川県では高松に本社を置く四国新聞が中心となり報じられた。というのも、四国新聞はかねてより打ち出していた「キャンペーン 健康は子ども時代から~血液異常・ゲーム依存症対策への取り組み~」で2019年度の日本新聞協会賞を受賞しているのである。
報道だけでなくゲーム依存予防事業にも益々精力を注いでいるさ中であったが、
この条例にあたっては、四国新聞、知事、県議会が一丸となって制定を目指したともとれる発言を推進派議員がしている事から、[ソース]そうなればそもそも最初から県民の声が介在する余地などなかった可能性も考えられる。
一方で条例に疑問を呈したのは香川と岡山を放送対象とするKSB瀬戸内海放送である。
地方局という立場から最前線で取材をし発信し続ける貴重な報道機関となり、ジャーナリズムを懸けて本件を追及する姿勢を続けている。その結果、2021年には本条例の経緯をまとめた番組「検証 ゲーム条例」が民間放送連盟賞テレビ報道番組部門で優秀賞を受賞。
施行から1年以上が経過した後も条例に関する最新情報を発信し続けている為、現在の条例の動向を知りたい方はKSBサイトや報道記者のSNSなどを利用すると良いだろう。
多くの著名人もこの条例に反応を示す中、国会議員の山田太郎もこの条例を批判[ソース]。更には元総理大臣までマジレス[ソース]する事態に発展、ネット民を驚かせた。
おぎの稔大田区議会議員をはじめとする他県の議会議員も条例に反応を示しており、香川の条例に東京の区議会議員らが連名で意見を表明し、条例の全国関心度の高さを表した。
当然ながら当事者であるゲーム業界からも困惑を持って条例にリアクション、声明を発表している。
条例は必然的に全国区に影響する内容であり、罰則はないものの、検閲や表現規制など様々な懸念が指摘された。
特定電気通信役務提供者にあたると思われるTRPG大手ツール「どどんとふ」の公式サーバーでは、条例に対応する事は現実的に出来ないと判断し、施行日4月1日より香川県民の利用原則お断りを発表。事業者としての苦悩と条例への問題提起を露わにした。[ソース]
その他にも香川モードを実装するゲームが現れるなど、香川県民差別にならないかという懸念にも発展した。
条例内ではeスポーツにも容赦なく言及しており、ゲームイベントの誘致への影響も考えられる。
(皮肉にも隣の徳島では県がイベントを主催したり、eスポーツの教育効果や地方創生効果を模索するなど県の事業として注力しており、サブカルチャーに融和的な土壌を育てている。どうしてこうなった。)
条例施行時はコロナ禍真っ只中であり、香川においてもそれは例外ではなく、臨時休校とステイホームが求められていた。そんな中、ゲーム障害を認定した根拠の一つであったWHOは「#PlayApartTogether」、つまり家でゲームで遊ぶことを推奨するコメントを発表。
しかし、情勢にそぐはない条例ではないか、という意見も結局県に反映されることはなかった。
この条例に関しては事業者の負担だけでなく、様々な違憲性や子供の権利を侵害する可能性が指摘されており、香川県弁護士会は「この条例は、憲法が保障する自己決定権を侵害するおそれがある」などの旨で声明を発表した。[ソース]
都道府県の条例に対して弁護士会が声明を発表するのは極めてまれである。
この声明に対しても香川議会はそれまでと同様に意見を斥けたが、条例に関する重要な論点のひとつとなっている。
4月22日、条例に不満を持つ仙台市の大学生が大山一郎議員のホームページから殺害予告を送り、逮捕される事態が発生する。
5月14日、高松市在住の反対署名の提出を行った高校生(該当日当時)とその母親が香川県に対し、香川ゲーム条例を違憲とし、国家賠償請求訴訟を起こす考えを公表[ソース]訴訟費用を募るクラウドファンディングを12日間で達成する。
更にその裁判を追い、2021年10月18日には元高校教師をはじめとする県民5人が提訴。[ソース]上記原告の賠償請求額を上回る県の代理人弁護士への支出にも疑問を呈し、公金支出金返還を要求。
これより、1つの条例に2つの裁判が同時進行することとなる。
香川県民自ら動いたこの訴訟は2022年現在も続いている他、施行から1年以上が過ぎてもこの条例に関するシンポジウムや講演などが行われるなど、未だなお活発な議論を呼び起こしている。
しかし、条例内には「施行後2年を目途として検討を加える」とあるにも関わらず、これに伴い見直しの検討を求める市民の陳情が12月14日採決された際は、共産党議員団、自民党議員会、かがわ立憲みらいの議員16人を除く起立採決で不採択となった。
2022年8月30日、2年に及んだ憲法を争点とする賠償請求は「条例は憲法に反していない」と退けられる。原告は控訴しなかった為、判決は確定している。[1]
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関連項目
- 高橋名人…35年前に「ゲームは1日1時間」から始まる標語を作ったことで有名。本件の波及を受け、1時間という数字に根拠は無い事をコメント。
- ワイルドアームズ ザ フォースデトネイター…作中に「ゲームは1日(最低)1時間ッ!」と発言するキャラがいることで有名。
- 三好紗南…「アイドルマスターシンデレラガールズ」におけるゲーマーアイドルだが、あろうことか出身地が香川県だったために「故郷追放」などと話題に。条例施行当日にはデレステでそのことを皮肉る彼女主役のエイプリルフールイベントが開催された。
- 饂飩食(うどんくらい)…日本国語大辞典より、愚鈍の意の迂鈍をかけたあざけり言葉。うどん県の働きははたして先見の明か、はたまた饂飩食で終わるのか。
脚注
- *香川・ゲーム条例、合憲確定 敗訴の原告控訴せず 2022.11.1
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